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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第一章 冒険者としての始まり
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第三話 受付嬢3

 もう流されちゃえ、と流木のようにあるがままの流れを受け入れる決心をした俺は、協力者云々の話をフランに全てお任せして安宿の場所を教えて貰い、ギルドをあとにした。

 今は、教えて貰った安宿の前に来ている。


 冒険者ギルドから徒歩で五分の、やはり石材で出来た建造物だ。下げられた木製の看板にはデフォルメされた下手糞なベッドの絵が描かれており、絵を描くことの難しさを俺に教えてくれる。いっそちゃんとした絵師に頼めよ。


 扉を開けて中に入ると、受付に居た恰幅の良いおばさんが迎えてくれた。


「アンタがリク・スギサキって子かい? ギルドからルーキーがウチに泊まりに来るって知らせが、ついさっきあったんだけどね」


 どうやら話は既に通っているらしい。俺が肯定すると、宿屋のおばさんはすぐに部屋へと案内してくれた。


 狭い部屋を見渡せば、ベッドの他に四角いテーブルが一つ、ぼろい椅子が二つある。それ以外には何も無い。

 寝泊りするだけなら、これで十分ということか。


「聞いてるとは思うけど、一日一食付きの一泊で三〇〇〇コルトだよ。安いだけあって、食事には期待しないでおくれ」


 がっはっは、と豪快に笑いながら受付へと戻っていった宿屋のおばさん。

 コルト(・・・)というのがこの世界(エクサフィス)における共通通貨単位であり、一コルトが一円とほぼ等価と思って良い。


 ちなみに今の俺の所持金が先程支払いを済ませた上で二七〇〇〇コルト。今日を含めてあと十日間なら宿泊可能だが、そうなるとその時点で無一文。

 明日になったらフランに言われた通り、ギルドに行って仕事をしよう。じゃないと最低限の人間的な生活すら送れない。






 異世界生活二日目の朝。

 本日は窓から入る朝日が眩しく、絶好の冒険日和だ。硬いベッドで痛めた身体を無視すれば、全く非の打ち所が無い。

 ……もっと快適なベッドで寝たい。


 共用の水道で顔を洗い、硬いパンで朝食を済ませてから、俺の足は冒険者ギルドへと向かう。


 ギルドに到着し受付の方を見ると、やはり三人の受付嬢が居た。しかし、その内の一人の顔が昨日と違う。よりによってフランが居ないのだから、俺としては少々面倒だ。

 仕方が無いので、昨日フランに助け舟を出していたベテラン風受付嬢に声を掛けることにした。


「すみません、昨日冒険者登録を済ませたリク・スギサキですが」


 自分の姓と名を順序入れ替えて名乗るのには、まだ若干の違和感があるな。


「ああ、昨日の。フランセットを呼んでくるから、ちょっと待っといておくれ」


 話は通じたらしいが、何故かフランがここに居るようなことを言われた。受付業務以外の仕事をしているのだろうか。書類整理とか得意そうな感じはする。


 ところが俺の想定は、どうも大きく外れていたらしい。ベテラン風受付嬢が連れてきたフランの格好が、昨日と大きく異なっていたからだ。


 昨日は見た目にも受付嬢とすぐ分かる服装で、元の世界の事務職OLでもイメージすれば大体正解するものだった。ところが今の服装は、元の世界でやればコスプレにしか見えないだろう。何せ紺色のローブを羽織り、手には五〇センチメートルほどのシンプルな杖を持っている。

 とりっく おあ とりーと。


「お待たせしました、リク。早速ですが目的地に向かいましょう」


 ……協力者って、フラン自身かよ!











 フランと共にギルドから出て、街中を歩く。

 擦れ違う人の中にはこちらを──正確にはフランを見る人もそこそこ居て、やはり美少女は人目を集めるのだろうかと思う。その隣を歩く俺の方にも視線は向かってきたが、フランに向かうそれと比べれば少数だ。


「それにしても、魔法使いだったのか」


 ぽつり、独り言のように呟いた。けれどそんなものにも律儀に反応するのが、隣を歩くフランという少女らしい。


「はい。コマンドブルを単独で討伐可能な実力を持つ前衛職に付ける協力者となると、弓使い(アーチャー)魔法使い(マジシャン)などの後衛職が候補として挙がったのですが。万が一戦闘に支障をきたす程の負傷をしてしまった場合の保険の意味で、回復魔法を使える私が適任だと判断しました」


 魔法と言うのは百人に一人程度がその才を持ち、更にその内の百人に一人程度が冒険者として使い物になるくらいの貴重な存在らしい。名の売れた冒険者クラスとなると、その割合は更に下がるのだと。

 となればフランは、最低でも一万人に一人の才能を持っていることになる。


「自薦か」


「自薦です」


 平然と返された。


「私では問題があるのなら、それはそれで別の者を見付けるための判断材料に出来ます。ですので、ひとまずの選択としてはかなり妥当なところではないかと自負しています」


 そして理路整然と述べられた。


 なるほど、協力者がフランで固定されている訳ではないのか。受付業務もあるだろうしな。


「元々不満があった訳でも無いけど、その辺りのことは納得した。でも、俺が言ったのはフランが(・・・・)魔法使いだったことについてだったんだよ。何せ普通の受付嬢だと思ってたからさ」


 少しびっくりしたよ。


「なるほど。そういう意味での言葉だったのですか。少々思い違いをしていました」


 些細な誤解が解消されたようでなにより。


「ところで、今日の目的地って何処なのかな。クエストの内容も全然聞かずに向かっちゃってる訳だけど」


 初心者の付き添いで受注したクエストな訳だから、そう厄介な内容ではないだろうけど。


「近隣の村に被害を出している、コマンドブル三頭の討伐です。リクは既に単独で撃破している相手ですから、気負うような相手では無いかと」


 いや相手戦力が三倍になってるんだけど。確かにこちらにも、フランという魔法使いの味方が付いてはいるけれども。


「おや、フランセットさんじゃないか」


 これは少しお話し合いが必要だと思って口を動かそうとした俺より先に、第三者の声が割って入ってきた。


 声の主を探して視線を彷徨わせると、前方やや右寄りにこちらへと歩いてくる人物を見つけた。


 緩くウェーブが掛かった淡い金髪に、落ち着いた青緑色の目。端正な顔立ちだが中性的でもあり、美形という表現がすんなり馴染む。鈍色のブレストプレートとガントレット、そしてレギンスを装備し、腰には白い鞘に納められた長剣を差している。

 纏う雰囲気は柔らかく、それでいて隙がある訳でもなさそうだ。


「おはよう。こんな場所で会うなんて珍しいね」


 微笑を浮かべて挨拶する様は非常に彼に似合っていて、好青年な印象を受ける。


「おはようございます、エルケンバルトさん。今日は彼の付き添いで、クエストに行くことになっておりまして」


 話に俺のことが出てきたので、自己紹介でもしておくべきだろうか。


「はじめまして。昨日冒険者登録を終えたばかりの、リク・スギサキと言う者です。どうぞリクでもスギサキでも、お好きなように呼んでください」


 どうやらギルドの先輩らしいし、ともあれ愛想良くしておこう。第一印象は大事だ。


「ご丁寧にどうもありがとう。僕の名前はエルケンバルト・ラインハルト。気軽にエルと呼んで欲しい。これからよろしく頼むよ、リク君」


 それならエルさんと呼ばせて貰おう、と心に決めながら、差し出された右手を見る。どう考えても握手を求められている。


「はい。よろしくお願いします、エルさん」


 これで痛いくらいに強く手を握られたりすれば、腹黒認定でもしていたところだけど。幸いにして、全くそんなことは無く。

 お互い必要十分な握力で、平和的に握手をした。

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