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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第二章 それでも駆け出し冒険者と言い張る
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第三七話 密会1

デートに見えなくもないですね。

 ギルド本部を後にしたのは、それから一時間程後のこと。フランはギルド職員としての仕事があり、エルさんは何か用事があるとのことで、既に別行動をしている。

 ちなみに、ギルド登録後に貰って今も手元にあるギルドカードは一つ星だが、後日新しいカードを発行すると言われた。「四つ星ですよね? 四つ星のカードなんですよね?」としつこく確認を取っていたが、ギルドマスターは微笑を浮かべるだけで、何も言葉を返してくれなかった。


「死んだような目してるけど、大丈夫ー?」


 多くの人が行き交う大通りに面したギルド本部の入り口を出てすぐ。アンダーリムの眼鏡の奥から赤茶色の目を向けてくる少女を見付けた。


「やっほう、リッ君。そろそろかと思って待ってたよ」


 子犬を髣髴とさせる軽快な足取りで俺に駆け寄ってくる彼女の名は、アデライーデ。エミュレーターという不可思議な武器を持つ、現在のところ謎の多い人物だ。何故か俺達に付いてここ、アインバーグまで来ている。活動拠点にするとまで言っていた。

 愛称はアーデ。アルジェント山脈からアインガングに戻るとき、試しにアデライーデさんと呼び名を戻してみたところ、無言のまま涙目になったのでその後はずっとアーデと呼んでいる。


「それで、その表情からするとー、何か上手くいかなかったのかな?」


 アーデは俺の顔を無遠慮に覗き込んでくる。


予定通り(・・・・)上手くいかなかっただけだから、大丈夫。ところで俺はこれから昼食を済ませにいくところだけど、アーデも来る?」


 そう、予定通りだ。アーデの話を意図的に伏せた代償に、俺のエディターに関する話をそれなりに(・・・・・)詳しく話し、その結果として俺の評価が不本意に上がった。実際、アーデの協力を一切除いたとしても、少なくとも今回に限っては同じ結果が得られていたのも確かだったし。


「わ、一緒に行って良いの? 勿論行くよ! 色々話したいこともあるしねー」


 犬耳と尻尾が見えるような喜び方で、アーデはリアクションする。この街に戻ってくるまでの一週間程度で観察し分かったことは、アーデの性格が犬のそれと非常に似ているということだった。敵意・害意・殺意が無いことはエディターのマーカーが極めて正確に教えてくれるので、とりあえず現段階において無害な人間という評価をしている。

 ただし、初対面でエルさん──というより白の神授兵装(アーティファクト)に怯えたような反応を示していたことから、まだ要観察とは思っている。そもそも、俺は未だに初対面のあの日から、アーデに込み入った質問をしていなかった。


「そう言うだろうとは思ってた。じゃ、行くか」


 俺としても質問すべきことが幾つかあったので、またアーデの様子を見るに俺一人になら話せることもあるだろうと、今こうして機会を設けた訳だ。


「お店はもう決まってるのかな?」


 歩き出した俺に並ぶようにして、アーデが付いて来る。


「とまり木亭ってところ。メニューが豊富で選択肢が多いし、何より味が良い。まあ、アーデが他に行きたいところがあるっていうなら、変えても良いけど」


 外に漏らしたくない話をするのに丁度良いから、というのも大きな理由の一つだったが、強引なのも警戒心を煽ってしまうかもしれない。……まるで飼い犬のように俺に懐いているアーデが、今更警戒してくるかという疑問はあるけれど。


「ワタシ、アインバーグに来るのは初めてだから、良いお店は知らないし。リッ君のお勧めがあるっていうならそこにするよー」


 涼しい表情の裏であれこれ考えを巡らせる俺に対し、アーデの反応はこんなもの。全く警戒心が足りていない。






 大通りを外れた路地裏、辺りもやや薄暗くなる状況にあって、俺を疑う素振りも無く。そんなアーデを連れて到着した、とまり木亭。木造の穏やかな雰囲気はいつも通り。


 店内に入ると、物静かな店員に案内されて個室に入った。いや、この店には個室しか無いが。


「わ、わ、何だか隠れ家っぽくて、良い雰囲気のお店だね!」


 テーブルを挟んだ向こう側で、無邪気にそう喜ぶ姿を見ていると、何だか──


「三秒以内に落ち着かないと、その眼鏡を俺の指紋だらけのベッタベタにしてやる」


 俺の嗜虐思考が目覚めてくる。


「やめてよ!?」


「で、何を頼む? 俺はミックスグリル」


 メニューを手渡しながら、俺は既に決めていることを伝えておく。


「もう決まってる!? それじゃあ何にしようかー、って一緒に選ぶくらいのことは期待してたのに!」


「指紋」


「さぁー、ワタシは何を頼もっかなー?」


 ゆーっくりと人差し指を眼鏡に向けて近付けてやると、大人しく何を注文するか選び始めた。

 俺は指を引っ込める。


「あ、これ美味しそう。十三穀米の野菜リゾットっていうの。これにするよー」


 存外早く決まったので、俺は店員を呼ぶ為のボタンを押した。

 やってきた店員が俺達から注文を受け、すぐに下がる。


「ところで一つ言っておくことがある」


 アーデの方を見ながら俺が口を開くと、アーデが妙に真剣な面持ちになり姿勢を正した。


「いや、まだそこまで真面目な話をするつもりは無いから。肩に入った力を抜いて良いから」


 誤解がありそうだったので、とりあえず解いておこう。


「あ、そうなの? こう、あからさまに『部外者には聞かせたくない話をするぞー』って雰囲気のお店だったから、てっきり今がそのタイミングかと思ったよ」


「そういった話は一つじゃ済まない」


 呆れ顔で言うと、アーデは曖昧な笑みを返した。


「それもそうだねー。じゃあ、そんなに真面目じゃない話っていうのは?」


「このとまり木亭は認識阻害の魔法がかけられていて、店を知っている人間からの紹介がないと来ることもできない。そういう話をしようとしてただけだよ」


 念のため言っておいた方が良いだろう、という程度の話だ。ワンクッションの役割を果たすにはこのくらいが丁度良い。


「ほほー。つまり、隠れた名店ならぬ、隠した名店という訳だね?」


「そういうことになるか」


 ドヤ顔で言ってる辺りに少し言いたいことが出てくるが、その内容自体には同意する。


「密会とかに使えそうなお店ってことかな。今度も利用する機会はありそうだね」


「俺は密会でなくとも利用するけど。単純にこの店を気に入ってるし」


 密会としても都合が良かったから今日この店を選んだのであって、別の店ならそれはそれで、親睦を深める素振り(・・・)を見せる目的は果たせたというか。

 ……我ながらクソみたいなことを考えてる自覚はあるよ。


「割と辛口評価ばっかりな印象のリッ君が、こうも高く評価するとは……。これはお料理にも期待できますなー」


 アーデは妙な口調になりながら、にこにこと笑顔を浮かべている。

主人公にその気が全く無いことを除けば。

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