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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第一章 冒険者としての始まり
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第三四話 怪しげな女3

直近数話分のサブタイトルを変更。内容には変化無しです。

「っていうか! ワタシのことはアーデって呼んでよー! やっと名前で呼んでくれたと思ったのに、ちゃんとアーデって呼んでくれてないー!」


 露骨に話題を変えた感が否めないものの、この話題はこの話題で本気度が高そうな印象を受ける。

 本当に何だこいつ。


「じゃあ、俺の武器も神授兵装(アーティファクト)じゃないですよ」


「呼び名の話題については無反応!?」


 話題の転換なんて無かったように振舞う俺に、大仰に反応するアデライーデ。正直に告白すれば、ちょっとだけ楽しくなってきた。


「知り合い未満の人を愛称で呼ぶのは……」


「いや知り合いにはなったよね! 何でそんなにもワタシと距離を取ることに積極的なの!?」


 アデライーデが必死に食い下がる中、俺達の頭上から影が落ちた。何事かと見上げれば、そこには沢山のワイバーン。明らかに群れを成し、一様に一つの方角──ボスコ方面に向かっていた。


「エミュレーターのコピーは破壊したはずじゃ……!」


 まさか俺達を騙していたのか、とアデライーデに視線を向ける。


「ああ、ゴメン、言って無かったよ! コピーを破壊したから、その影響がこれ以上広がることは無いけど、既に影響されたものはそのままだって!」


「わざとじゃないだろうな、それ!」


 形だけの敬語も忘れて悪態を吐きながら、俺は自身のAGIに極振り。並行してフランのAGIも調整し、アイコンタクト。飛び去ったワイバーンの群れを追いかける。


「だ、だって、木を切った斧を壊したって木は元に戻らないでしょー! それと同じだってば!」


 言い訳じみた言葉が背中から追いかけてきたが、無視する。あれに構ってる場合じゃない。


「思わずリクに付いてきてしまいましたが、アーデさんを放置しても大丈夫でしょうか?」


 俺に並走するフランが問い掛けてきたが、特に問題無いだろう。位置情報は既に掌握したし、妙な動きがあればすぐ分かる。


「コマンドワイバーンの群れを片付けるのが先決だよ。エルさんが相手をしてくれてるけど、敵の数が多すぎて流石にカバーし切れてない」


 それでもかなり押し留めていることがエディターのマップで分かるが、一部はエルさんを迂回して移動してる。これは俺達がどうにかするべきだ。

 フランにも状況が分かるようマップを見せると、眉間に皺を寄せた。


「……芳しくありませんね。少数を突破させるため、犠牲覚悟で足止めの戦力を使っているかのような」


 必然か偶然か、敵はこちらの動きに対応した戦力の展開をしてる。警戒もより強まるというもの。


「簡単な戦術を展開してる、と見て良いのかな。……アデライーデ以外の人間が居ないか調べても、他にそんなものを展開できる奴は居なかったんだけど。もしくはエミュレーターが遠隔操作できるのか、それとも時限式や条件分岐で事前に操作を仕込んでいたのか。とりあえずアデライーデは容疑者かな。黒ではないけどグレーだ」


 ついでに、ボスコの森で見た妙な表示の名前──「■デ■■■デ・ロ■■■■イ■」とも文字が一致する。少なくとも偶然ってことは無いだろう。ただ、オリジナルの所有者である以上は、アデライーデが言う悪者(・・)の偽装工作に利用されてるって可能性もあるんだけど。その場合、アデライーデは馬鹿正直な馬鹿ってことになる。理知的な見た目は詐欺だ。眼鏡を叩き割ってやりたい。


「だからあの眼鏡、いつか叩き割ってやる」


 敵なら遠慮無く、そうでなくとも遠慮せず。


「その結論は良く分かりませんが、その前までの話は私も概ね同意します。ただ……個人的には、白に近いグレーなのではないか、と。そう思うのです」


 静かに語るフランの瑠璃色の目は、とても澄んでいて。利己的な欲望に敏感なのだと語った彼女の言葉であるだけに、無下に否定するのは躊躇われた。


「あ……、いえ、疑いが晴れてはいない以上、まだ信用はできないと思います。そこはリクと同じスタンスですよ」


 言葉を返せないでいた俺をどう思ったか、付け足された言葉には随分と遠慮の感情が入っていたように感じる。


「いや、そこは役割分担しても良いんじゃないかな。俺としては黒に近いグレーくらいで現状考えてる訳だけど、フランが信じられると思ったならその時点で信じれば良いし。具体的に言うなら、敵である確証が得られたなら即座にフランに伝えるけど、逆にそうでない確証が得られたなら俺に伝えて欲しい」


 なので、遠慮は不要であると伝えてみた。俺にその手の遠慮は本当に不要なので、このくらいの言葉が妥当な落としどころになるだろう。

 そんな風に俺は思っていたんだけど、今度はフランが黙ってしまった。その上、不思議そうな目で俺を見てくる。

 一体何でしょうか、フランさんや。


「……やはり、リクは不思議な人ですね」


 十秒弱の沈黙の後、ふわりと微笑みながらそんなことを言ってくるものだから、俺としてはどう返せば良いやら。


「俺、自分では凄く平凡な性格してると思ってるんだけどなぁ」


 平凡というか、ニュートラルというか。そんな感じで。


「面白い冗談です」


「別に冗談のつもりじゃなかったんだけど」


 反射的に答えると、フランが堪えきれずと言った様子で笑い始めた。ひでぇ。






 何となく終始押されている気分になる会話をフランと繰り広げていると、前方の空に数多くのワイバーンが確認できた。

 その数は三桁に突入しており、地上からの攻撃を回避しやすくするためか高度が高い。俺のモノ・ウィンドでは、二、三回は連続して使う必要がありそうな高さだ。MP切れが不安要素か。着地にも途中の減速を入れる必要が出てくるな。

 まあ、MPは現状で一三一二あるし、レベルアップ時の回復もまだ見込めるし、いざとなったらHPをMPに変換できるけど。打てる手全部打つこと前提で事を運ぶと、俺の場合はリスクヘッジが致命的にできないんだよね。リソースの絶対量は自前の分だけだから。特に今回は不確定要素が目に見えてある訳だし、余力はある程度残していきたい。


「ま、打ち合わせ通り、端の方から攻めていくかね」


「はい。反対側はお願いしますね」


 エルさんの手が回っていない、群れの両端部分。俺とフランは片方ずつ請け負うということにしていた。

 ところで、前衛なのにフランの盾役をほぼやってない俺って、何だろう。アタッカーとしては今回かなりやってるとも思うんだけど。急速なレベルアップが度重なってるからね。


 とにもかくにも、仕事だ。

 先の予想通り、立て続けに三度もモノ・ウィンドを使ってワイバーンが飛び交う空へと躍り出る。ぎょろっとした沢山の大きな目が俺を睨み、縦に割れた瞳孔は威圧感たっぷりだ。──その内の一対が既にエディターの刃に切られ、胴体から離れた首に備えられたものであっても。


 俺の戦法は先手必勝。場を掻き乱し、混乱の内に敵を仕留める。物理的に包囲でもされない限り、INTとAGIへの連続極振りによる高速移動は有効だ。体感的に、今なら少なくともワイバーンの五倍速はあると思う。直線的な動きが多くなる関係上、運動性としてはむしろこちらが劣るだろうけど。それでも彼我の隔絶した速度差があり、エディターによる三次元マップ表示があれば、その欠点はどうとでもなる。


「自分が高所恐怖症じゃなくて良かった」


 ひとりごちながら、一時たりとも同じ場所に留まること無く空を駆ける。ワイバーン同士の相対位置──特に高低差を計算に入れ、効率的な討伐順序を模索し、節約できるMPは節約して。

 ワイバーンの真下から腹を裂き、真上から背中を貫き、背後から片翼を斬り落とし、正面から頭部を両断する。噎せ返るような血の匂いが周囲に充満し、流石に気分が悪くなり始めた辺りで、


「……こっちは片付けたし、後は任せよう」


 俺が相手取っていたワイバーンの群れは、残らず俺の経験値と化した。またしても急速に上がったレベルに内心で驚愕しつつ、新たに増やした討伐数が二桁にのぼることを考えれば当然かと納得もする。


 自由落下に任せて地上に向かい、途中で二度の減速を挟んでから着地。今回は攻撃自体を受けなかったためにHPの減少は無いが、疲労は誤魔化しきれないのでゆっくりと歩く。向かう先は、俺と同じく一区切り付けたフランのところだ。

 俺とフランで両翼をカバーしたため余裕が出たエルさんは、大変な勢いで敵の数を減らしている。きっとあと二十秒もすれば、残っている十頭未満のワイバーンも全て片付けられるだろう。そんな勢いだ。






「お疲れさまー。やー、すっごいね、リッ君って。中級の魔物をバッサバッサ切り裂いていっちゃってさー。実は名の有る上級冒険者だったり?」


 フランのところへ向かう途中で、木を背凭れにしたアデライーデが俺を待ち構えていた。今現在エミュレーターは構えていないが、コピー発見時の様子を見るに、俺と同じでアイテムボックス持ちだろう。取り出すのにほとんど時間は掛からないはずだ。


「まさかとは思いますが、そのリッ君(・・・)というのは俺のことを示しているんでしょうか?」


 元の世界でそういう呼び名を使う友人は居たが、あくまで友人だ。知り合い未満の人間からそう呼ばれることには、非常に大きな抵抗がある。


「他に誰が居るのさ? ……そんな嫌そうな顔しないでよー。ワタシとしては、歩み寄りの努力の一環なのに」


 不満そうに口を尖らせて語るアデライーデだが、自分の不審人物っぷりを省みてから口を開いて欲しい。もっと言うなら口を開かないで欲しい。


「というかそもそも、その敬語! フランちゃんに対して使ってなかったところを見るに、別に誰にでもそうって訳じゃないんでしょ? ワタシにも敬語とか要らないから!」


 聞いてたのか。面倒な。


「親しき仲にも礼儀ありと言うのに、親しくもない仲で礼儀を忘れてしまっては……」


「親しくないって言うより優しくないよ! ワタシそろそろ泣いて良いかな!?」


 何だかんだで元気そうだけどな。


 さて現状、特に襲い掛かってくるような素振りは無い。仲間との合流前に俺と接触してきたから、警戒してるんだけど。

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