第二話 受付嬢2
目の前の受付嬢が、すっと立ち上がる。そしてデスクの向こう側から回り込み、俺の傍までやって来る。
「場所を変える必要性が出てきました。奥の部屋まで来て頂けますか?」
え、何この展開。俺ってば何かやらかした?
地味に危機感を抱く俺に対し、受付嬢は終始冷静な表情のまま。
ま、大丈夫か。これで異世界人の立ち位置が大体把握出来るはずだし。……でも何で、神様はその辺り教えてくれなかったかなー。
受付嬢の後に続いて建物の奥へと向かい、廊下を歩く俺。職員さんが俺の姿を見て、何事かと驚いた表情を浮かべてらっしゃる。
明らかに関係者以外立ち入り禁止されてそうなエリアへの侵入に、ドキドキが止まりません。このドキドキはきっとそういうポジティブなものだから大丈夫。俺、大丈夫。
心の中でそんな小芝居をした末に到着したのは、やや手狭な部屋。人が三人も入れば、少し圧迫感を覚えるだろう。部屋の中央に四角いテーブルが置かれ、それを挟むように二人掛けソファーが二つ設置してある。
「どうぞ、お掛けください」
受付嬢が俺に座るよう促すので、素直に従っておくことにする。
「早速ですが、杉崎陸さん。少々込み入ったお話を聞かせて頂きます」
俺の隣に座った受付嬢が、単調直入に本題へと入った。
「……その前にまず、俺から聞きたい事があったりするんですが」
普通こういうのは対面する位置に座るんじゃないですか、とかそういう質問が俺の中で元気良く主張してるんだ。
引き攣り気味の俺の顔に何を見たのか、受付嬢は思案顔になったすぐ後に納得顔をする。
「申し遅れました。私の名前はフランセット・シャリエです。どうぞお好きなようにお呼びください」
予想の斜め上を突き進まれた。
「なら、フランさんと。俺の事はリクと呼び捨てで良いです」
なので俺もその方向に進んでみる。
「分かりました。ですがそれなら、私に対しても敬称は不要ですよ、リク。敬語も同じく不要です。それでは、今度こそ本題に入りましょう」
やべぇ、親しげにファーストネームで呼び合うことになった上、普通に話が進みそう。ツッコミ不在の恐怖。
「お言葉に甘えて敬称も敬語も取っ払わせてもらうけど、フランにはあと少しだけ待って欲しい。座る場所おかしくない?」
こんな狭い部屋で初対面の男女が二人きり、隣同士になって座ってるこの異常空間。出遅れた感が尋常じゃないけど、なんとかそこへツッコミを入れることに成功した。
「……男女が二人きりで内密な話をする際には、物理的に距離を詰めるものだと聞いたことがあったのですが。私は何かを間違えているのでしょうか?」
そしてボケへの布石になっただけというオチ。
この子天然か。ガチの天然なのか。狙ってこれだったらヤバイな。
「それ、男女の仲である二人が内密な話をする場合の位置取りだと思うんだ、俺は」
努めて冷静に切り返すと、フランは今度こそ理解してくれたらしく俺の対面へと座る場所を変えた。
「一つ勉強になりました。ありがとうございます」
それから俺に向かって一礼する。
この子大丈夫? かなり天然入ってる真面目美少女キャラとか少し属性盛り過ぎて──いや違う、変な男に捕まったりしない?
「いやまあそれは良いんだけどさ。で、本題って何かな。結果的に散々引き伸ばした俺から切り出すのも何だけど」
異世界からの転生者がどういう扱いなのか、それが話の根幹になるのはほぼ間違い無いかな。
「私が聞きたいのは、リクがどのような能力を神から授かったのかです。勿論、これはリクの生命線になる部分の話でしょうから、無理には聞き出しません。ですが私はギルドの職員として、お話し頂いた内容について一切他言しないと誓います」
ふむ、能力ときたか。
俺以外にも──数はそう多くないけど──転生者が普通に存在しているのは知ってる。能力はそれぞれ神様に与えられた固有のものってのも知ってる。
ただし、それだけしか知らない。
具体的にどんなことが出来る能力なのかとか、そういう詳しい情報は全く教えられてない。その理由はフランがさっき言った。
転生者にとっての生命線を、後から転生してきた人間に知られていく状況。そんなのはあまりにもフェアじゃない。
「転生者が貰った能力って、種類はともかく規模的には同程度だと勝手に思ってたんだけど。フランのその質問から察するに、そうでもないのか」
俺が言った規模という言葉は、周囲への影響力と言い換えても良い。それが俺の推察通り、転生者ごとにてんでバラバラだと言うのなら。転生者という存在は俺が思っていたよりずっと、この世界にとってイレギュラーだ。
「……はい、リクが仰る通りです」
若干の間を置いて、目を細めたフランが答えた。
警戒されたかな?
「そういうことなら、ひとまず俺の能力については黙秘させて貰おうかな」
警戒されているとするなら、今はそういう風に振舞った方がやりやすい。相手の想定から外れすぎると、こちらが読めなくなる。
「そうですか。それは残念です」
それなりに感情がこもった声色で、フランは俺の言葉を受け取った。
「では、ここからはより建設的なお話を致しましょう」
そして話題の転換を図る、と。
「リクはこの世界に来たばかりとのことですから、まだまだ不慣れなことも多いでしょう。更に冒険者となるなら、避けては通れないのが魔物との戦闘です。今まで多くのルーキー達の心を折ってきたその関門を無理なく突破できるよう、数回のクエストをギルド側からの協力者と共にクリアして頂きます」
あー、確かに怖かったもんなぁ、魔物との戦闘。しかも俺を餌としか見てなかったのか、口の端から涎だらっだら流して、鼻息もめっちゃ荒くて。幸いにして直線的な動きが多かったから、カウンターを狙って何とか倒したけど。
「それは助かる。この街に来るときに一匹襲ってきたから倒したけど、また一人で相手をするのはもう少し先にしたいし」
そう言いつつ、念のため倒した証拠としてイノシシ的な相手から入手した、手のひらに握りこめるサイズの魔石をテーブルの上に出す。見た目より重さを感じる、赤く透き通った石だ。
「これは……」
フランは俺が取り出した魔石を見て、目を見開いた。
「コマンドブルの魔石……ということは、リクは既に冒険者の登竜門を通過しているのですね」
え?
「とはいえ、ルーキーに対してギルドから協力者を付けるのは規則で決まっていることです。私の想定よりかなり高い実力をお持ちのようですので、リクと同じ前衛職の者を付けるよりは、バランスを考えて後衛職の者を付けた方が良さそうですね」
いや俺、最初は薬草採取とかそういうクエストやりたいんだけど。何か戦闘を前提とした話が展開されてるんだけど。しかも普通に俺が前衛やる感じなんだけど。
そりゃ使用武器種に剣って書いたけどさ。
「明日、日を改めて当ギルドへお越しください。それまでに適切な人員を手配致しますので」
フランの中では話が決着してるみたいなんだけど!