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第二三五話 導師の苦戦

戦闘力が関係ない部分のお話。

 武術都市オルデン。

 リッヒレーベン王国の四大都市と呼ばれる大都市の一つであり、多くの冒険者を擁する街でもある。


 そんなオルデンにおいて、最も力を持つ一族──アサミヤ家。更にその中でも高い地位にある導師サギリ・アサミヤが住まう五重塔にて、俺達は話し合いの場を設けていた。

 なお、畳に対して馴染みの薄い面子が多いためか、ご丁寧にもフローリングの床にテーブルと椅子が用意されている。


 正面には導師サギリ・アサミヤその人、向かって左に弟子のクズハ・アサミヤさん、向かって右に剣術師範のスミレ・アサミヤさん。

 対するこちらは白のラインハルト(エルさん)青のシャリエ(マリアベルさん)紅紫のエクスナー(クラリッサ様)、【大瀑布(フラン)】、【煌拳(アクセル)】、そして【黒疾風(おれ)】。


 この場にスミレさんが居ることには少々驚きがあったものの、実力・人格共に信用に値する人であることは付き合いの浅い俺でも分かる程だ。特に問題は無いだろう。


 互いの挨拶もそこそこに、早速本題に入る。


「先日の、城塞都市襲撃。そこで敵の首魁と間接的に遭遇した、という話だったね」


 口火を切ったのは、意外にも導師だった。

 やはり仮面で表情は伺えないが、声色からして緊張は感じられない。


「ええ。といっても、僕達が聞いたのは神という自称でしたが」


 応じたのはエルさん。会話においても戦闘スタイルと同じく真正面から斬り込むことを得意とするタイプなので、この場においてメインで喋る役を任されている。

 恐らく導師相手にはそちらの方が効率が良い、という俺とクラリッサ様の意見からだ。


「実にふざけた態度だったのだろうね。それこそ、私以上に」


 自覚がある分、導師が悪質であることに変わりは無いな。


「導師は、敵の首魁との間に因縁があると聞いています。差し支えなければ、これを機に詳しく話を伺いたいのですが」


 予定通り、寄り道せずに斬り込んでいくエルさん。真っ直ぐ進みたい時は本当に頼りになるな。

 なお、嘘・誇張・ミスリード等が必要な場合は別である。


「いや、それは私個人の怨恨でしかないからね。わざわざ語って聞かせるものではないよ」


 話の筋が通らない訳ではないけれど、状況的に納得しがたい導師の返答が来た。

 これは長期戦を覚悟すべきか──と思ったのだけれど。


「とはいえ、首魁についての情報は提供しよう。そもそも、アレに遭遇する前に情報を提供しても、信じて貰えるか怪しかったというのが実情でね」


 意外にも、これから情報を開示してくれるという。

 ただし嫌な予感のする言葉を付けられた上で、だが。


「まず、敵首魁の神という自称。これの信憑性はそこそこに高い。というのも、どうやら黒の神授兵装(アーティファクト)エミュレーターは奴が作った可能性がある」


 その言葉に、一番ぎょっとしたのは俺だろう。何せ俺も別物ではあれど黒の神授兵装を、エディターを所有しているのだから。


「存在が持つ固有の波長とでもいうべきものが、奴とエミュレーターとで非常に近いんだ。これはステータスシステムの深部にアクセスできなければ分からないモノだから、私から根拠を明示することは難しい。ただ、リク君がエディターを更に使いこなすようになれば、リク君には分かって貰えるだろうがね。……という訳で、早くエディターの扱いに習熟してくれたまえリク君。私の言葉の信憑性を高めるためにも」


 何処かのタイミングで俺に関わる話が出る可能性は考慮していたものの、これは予想外だ。

 そして、随分とやる気を起こさせないエールを送られた。必要なことだと頭で理解はしているものの、それが導師の為になると言われればやらない理由を探したくなってくる。


「リク・スギサキが持つエディターも、敵首魁が作った可能性が高いのかしら?」


 おっと今度はクラリッサ様が会話に参戦した。

 何なら俺が一番疑問に思ったであろう内容に、やはりクラリッサ様と俺は思考が近いのだと実感する。


「それは違うかと。無論、断言まではできませんが、先程申し上げた波長(・・)があまりにも異なりますので。付け加えて、リク君が奴の傘下に居ない現状がその推測を後押ししています。……奴は欲しいものを一度掴めば、決して手放そうとはしないものですから」


 会話の相手がクラリッサ様に変わったためか、敬語を使い始めた導師。

 キャラ的に慇懃無礼な印象を受けそうな気もしたが、案外馴染んでいる。腐っても礼節を大事にするアサミヤ家の一員ということか。


「それも含めて敵の策略で、ここぞというタイミングで敵の罠が発動する、というような可能性は?」


「無いと言い切る根拠はありませんが、それなら私が全ての黒幕である可能性の方が高いとお考えでは? こうして七つ星冒険者が三人も揃って話し合いの場に出たのは、それも考慮してのことかと邪推しているのですが」


 一触即発の空気にでもしたかったのか、導師は平然と爆弾発言をした。ただ、これについては実のところ予想の範疇でもある。


「いや、僕達は──」


「サギリ様」


 邪推と述べた導師の話を否定すべく、エルさんが口を開いていたのだけれど。それを遮る形で、ここまで大人しかったスミレさんが声を発した。


 決して大きくはない、その声。けれど妙に通り、耳に残る。

 そう感じた理由は、元々凛とした良く通る声質であることだけでなく、ありありと分かる怒り(・・)が内包されていたからだろう。


「近頃は特にこそこそと動き回っていると思って問い詰めてみれば、大変な事態が起こっていると発覚して。今回強引に話し合いの場へと参加してみれば予想通り、貴方が偽悪的に振舞う様を見せられる。アサミヤの身内に対してであればサギリ様の人となりを少なからず理解していますから、まだしも良いとして。外部の方にまでそのように振舞うのは、如何なものかと私は思います。ええ、常々、思っていました」


 わぁ。


 何というかその、うん。

 スミレさん、結構な鬱憤が導師に対して溜まっていたようだ。それも愛情とかそういうプラスの感情を根幹に据えたもののようだから、より一層強烈な奴が。


 実に滑らかに舌を動かして導師へ言葉を突き付けたスミレさんは、居住まいを正して俺達に向き直る。


「このように、サギリには偽悪的な振る舞いをする癖が染みついておりまして、皆様には不快な思いをさせてしまったかと存じます。本人に代わり、私の方からお詫び申し上げます。ですが、決して人道に(もと)る行為をする人間ではありません。どうか、信じて頂けないでしょうか」


 そしてわざわざ椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。


「スミレさん、今のは私が悪かったから、もうその辺にしておいてくれないだろうか。ちゃんと自分で頭を下げるから」


 仮面で表情が見えない導師ではあるが、今は分かる。苦虫を噛み潰したような表情だ。間違いない。


 あと、一体何を見せられているんだ俺達は。夫婦漫才のなりそこないか何かか?


 自身の代わりに頭を下げるスミレさんをなんとか宥めすかし、導師は心なしか疲れた様子でこちらに頭を下げた。


 なお弟子のクズハさんも、スミレさんが頭を下げた直後に立ち上がって軽く頭を下げている。その表情はとても微妙なものだったと言っておこう。


「サギリにも弱点があったということですわね」


 実に楽し気に仰いますね、クラリッサ様。


 比較的導師との付き合いが長い方だろうし、こちらも鬱憤が溜まっていたのか。もっとも、今しがたある程度まで解消されたようだが。


「……お見苦しいところをお見せしたこと、また不要な言葉を使い皆様を不快にさせたこと、伏してお詫び申し上げます」


 立ち上がりテーブルを迂回した導師が、神妙な様子で膝をつき手をつき、深々と頭を下げた。


 想定の三倍くらい重めの謝罪が来たな。


 それを見たエルさんが何かを言おうとし、更にそれをクラリッサ様が紅紫の神授兵装(エアインネルング)を出してまで制止する。


「謝罪は受け取りましょう。それで、ワタクシ(・・・・)の懸念は邪推に過ぎないと、この場で明言して頂けるのかしら?」


 ワタクシ()、ではなく。クラリッサ様は自身に限定した言葉を用いた。


 まあ確かに、白のラインハルト(エルさん)は当事者意識から導師と直接の対談を望んだだけだし、青のシャリエ(マリアベルさん)はそんなエルさんをサポートするために来ただけだ。フランだって俺の為に同行してくれただけで、アクセルも特段に疑うつもりは無いだろう。

 ただ、俺は邪推している。黒幕の可能性としてはかなり低く見ているものの、それはそれとして別の思惑は隠しているだろうと。


「──エミュレーターの複製をし、多くの魔物を操って混乱を撒き散らす存在は、私の敵です。その存在の討伐の為、私はこれまで動いてきました。無論、これからもそうです」


 顔を上げた導師が、珍しく曲解のしようが無い言葉で返した。

 やはり、睨みを利かせているスミレさんの存在は大きいのだろうか。なんていうのは俺の希望的観測かな。

素直に謝罪した方が丸く収まることを知っている男の動きです。

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