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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第一章 冒険者としての始まり
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第二三話 調査クエスト7

 どうしてこうなったー?


「冒険者登録したばっかでもう調査クエストやらされるなんざ、どんな貧乏籤引いてんだよ!」


 俺の背中をバシバシ叩きながら、大層面白そうに笑う伊達男が居る。

 濃い茶色のカウボーイハットを被り、赤いラインが印象的な細かいチェック柄のシャツを着て、群青色のジーンズを穿いている。こげ茶色のブーツは先が尖っており、これで蹴られればかなり痛そうだ。

 腰の左右には計二挺のリボルバーをホルスターに入れて吊るしており、後ろには予備の武器なのかナイフも納まっている。


 そんなカウボーイ風の特徴を持つ男など、そう多く居るはずは無く。何を隠そう彼こそがフェデリコ・ロレンツィという名の冒険者だ。

 今もカウンター席で左からフラン、俺と座っている状況だが、彼は俺の右隣に座っている。最初からフランに接近すると警戒されると踏んで、俺に近付いてきているに違いない。


「けどまあ、そのお陰で美人なフランセットちゃんと一緒に仕事できるってんだから、あながち貧乏籤でもねぇのかもなぁ」


 羨ましいぜこのこのー、などと言って俺を弄りながらフランを褒めているのだから、きっと遠く外れている訳ではないだろう。そもそも近付いてくる前にフランをガン見していた人だ。


 事の経緯としては単純明快。

 食事を済ませて酒が少し回ってきているタイミングで席を立ち、酒の入ったグラスを片手に同業者へ挨拶をしよう、と行動しているように見せかけるつもりだった俺を強引に席に戻しながらこの男が話しかけてきた。

 まさかこんなにも物理的に事を進めてくるとは思っていなかったので、後手に回ってしまっている現状である。


「そうは言ってもあくまで仕事ですからね。そういう訳で情報収集をしたいんですが、ロレンツィさんはこの近辺で何か変わったことを知りませんか? 例えば、出現する魔物の種類や頻度がいつもと違うとか」


 仕方が無いのでもう完全に仕事の話を始めてしまう。

 雑談めいた状況説明は既に終えている。


「あん? そうだな……、特にねぇわ!」


 仕事の話も終えた。


「そうですか。では俺達は引き続き情報収集に勤しむので、これで失礼します」


 顎に手を当て思案する様子を見せた次の瞬間、情報量ゼロの言葉を吐き出しやがった役立たず(ロレンツィ)

 そんな奴を相手にする時間は無い。俺は椅子から立ち上がる。


「いや待て待て! ちょっと待て、思い付──思い出すから! な!?」


 これでもかと慌てた様子で俺を引き留める役立たず(ロレンツィ)だが──「思い付く」って言おうとしてただろ、今。

 そして腕力にものを言わせ俺を再度座らせて、どんだけ強引だコラ。


「そう、あれは……そのぉ……、そうあれは! 忘れもしねぇ、出来事だった!」


 自分の数秒前の台詞との整合性が、早速崩壊してんじゃねぇか。


「二、三日前だ、小雨の降る夜中の森へ狩りに出掛けた俺は、木々の間の向こうに、ローブを纏って目深にフードを被った人影を見たんだよ」


 いつのことかも微妙に曖昧じゃねぇか。事実だったとしても記憶ぼやけてんじゃねぇか。


「当たり前だが、夜の森ってのは日中より断然危険度が増す。まあオレは上級冒険者目前の実力者だから、あえて獲物が活性化してそっちの方からやって来てくれる夜の時間帯に出掛けた訳なんだが……、この町にそんな余裕をぶちかませる冒険者なんざ、オレくらいしか居ねぇ筈なんだ」


 自慢かよ。しかも正真正銘の上級冒険者であるフランを前に。


「だから最初、そいつは森に迷い込んじまった旅人か何かかと思った。紳士たる心優しいオレは、危険地帯に足を踏み入れる一般人に手を差し伸べてやろうと、草を掻き分け近付いていった」


 上から目線と恩着せがましさのコンボ。

 特定人物の声だけミュートにできる機能とか、エディターに付いてない? ……え、マーカー選択して個別詳細設定を開いたらそんな項目があったんだけど。冗談で思ったことだったんだけど。


「だがな、そいつとの距離が十数メートルにまで縮まったとき、唐突に姿が消えたんだ」


 すげぇ、姿を消す項目もある。あくまでエディター操作中のユーザーに対してだけ声が聞こえなくなったり姿が見えなくなったりするだけみたいだけど、これ便利そうだな。リアルブロック機能とか、何で実装したのか知らないけど。


「つまり、凄腕ガンマンであるオレの間合いに入っていながら、そいつはオレから姿を眩ませたって訳よ」


 自分で凄腕とか言っちゃう辺り、色々とお察しだ。

 ああ、さっきからちゃんと聞いてたよ。話半分に。


「その場所までオレが案内してやっても良いぜ? 何なら今からでも」


 ドヤ顔で白い歯を輝かせながらそんな申し出をしてくる、自称凄腕ガンマン。俺の肩越しに、フランへ視線を送るのを忘れない。


「お願いしてみませんか、リク」


 オブラートに包んだ暴言と共に丁重なお断りの言葉を申し上げる心積もりだった俺の耳に、フランからそんな予想外の言葉が届いた。


「どうしようかな……」


 少し時間稼ぎをしつつ、俺とフランにしか見えないエディターのコンソールにメモ帳を表示させ文字を打ち込む。


≪それ本気で言ってる?≫


≪信憑性は低そうですが、ひとまず他に情報も無いことですし≫


 あ、そこそこ辛辣な返答だった。


 渋る様子の俺を見て何を思ったか、先程より明るい表情で自称凄腕ガンマンは口を動かす。


「迷ってるくらいなら、スギサキがここで情報収集してる間に、オレがフランセットちゃんを案内するってのはどうだ? これなら問題無ぇな、名案だ」


 フランがここで情報収集する方の選択肢を出さない辺り、問題しか無い。


「……いえ、調査を行うにあたって、人数は多い方が発見もあるでしょうから。俺も同行させて貰いますよ」


「おう、そうか。じゃあ三人で、夜の森林浴と洒落込むか」


 一瞬がっかりした表情を浮かべたの、俺は見逃さなかったからな。

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