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第二三二話 黒塊3

成長度合いを気持ち悪がられるアレックス。

 順調にヒュドラ・ゴーレムの首を落としていく俺とアクセル。ただし、敵も大人しくやられるのを待つばかりではない。


 やはり自身にはヒュドラの毒が効かないらしく、ヒュドラ・ゴーレムはブレスを吐く首の幾つかを俺達に向けてきた。当たりはせずとも空気中に毒が散布され、それへの対処も必要になる。

 吸えば肺腑を焼く毒を、俺は風で飛ばし、アクセルは炎で焼く。対策と言っても、やることは実に単純だ。


 毒への対策をしつつも首の数を減らし、残す数は三本となったところで。

 敵が、爆発した。


「……ふざけんなよ、このスクラップが!」


 俺もアクセルも、異常を察知して即座に距離を取ったため負傷は軽微。

 ただし、首三本に残っていたヒュドラの毒が爆発によって拡散された。


 負傷した左ふくらはぎから傷以上の痛みが走ったため、恐らく毒も少し食らったのだろう。俺はアイテムボックスから解毒薬を取り出し、傷口に振りかけておく。


 さて。

 ヒュドラ・ゴーレムのブレスを防いでいた魔法は御役御免のため、今しがた破棄した。

 毒が広がっていく場所から見て、城塞都市(アインバーグ)は風下にある。

 故に、毒の放置は選択肢の外。


「アクセル、毒を燃やすのはとりあえず待ってくれ」


 両拳に火属性魔法を準備していたアクセルへ声をかけると、俺が何をするつもりなのか察したらしく後方に下がって静観の構えを取った。


 大太刀形態のエディターを変形、長杖形態に。


 ステータス編集、INT極振り。


▼▼▼▼▼

Name:リク・スギサキ

Lv.207

EXP:213210

HP:12035/13280

MP:6774/11074

STR:1(-4506)

VIT:1(-5770)

DEX:1(-5142)

AGI:1(-3866)

INT:24430(19284)

▲▲▲▲▲


 今必要なのは、威力よりも規模の大きさ。故に、使用する魔法は普段と異なる。

 とはいえ、極振りしたINTは俺がレベル五〇四になってようやく到達する値になってしまったが。本職魔法使いであるフランですら、レベルが三五五ほど必要になる。


テトラ(・・・)・ウィンド』


 荒れ狂う風の最上級魔法。大気が雄叫びのような轟音を立て、巨大な螺旋を描く。

 広がっていた毒は瞬く間に巻き込まれ、特大の竜巻は鮮やかな紫色を纏った。


「精々、毒を有効活用させて貰おうか」


 ステータスをデフォルトに戻し、竜巻を動かす。向かう先には当然、魔物の軍勢がある。


 急に出現した毒の竜巻を前に、魔物達は逃げる素振りを見せた。けれど速度が全く足りない。

 必然的に竜巻の中へと巻き込まれていく大量の魔物達がヒュドラの毒に侵され絶命していくのを、マップ上で確認できた。


「転んでもタダじゃ起きねぇ、ってか。それにしても、いつの間に最上級魔法なんて使えるようになってたんだ?」


「つい最近だよ。そういうアクセルこそ、実はもう使えたりしてな」


「ん、まあ発動だけならな。制御が微妙に(あめ)ぇから、実戦で使うのはもう少し先にするけどよ」


 なるほど。アクセルはアクセルで、やはり実力を伸ばしているらしい。

 今また俺とアクセルが試合をすれば、勝敗はどうなるか分からないな。何せ前回も、僅差で運良く俺が勝っただけだ。


 アクセルと会話を続けながらも竜巻を動かし、敵を雑に薙ぎ払っていく。ただ、流石に味方冒険者が居る場所付近には動かせないため、縦横無尽にとはいかない。なおかつ毒を外に漏らさないようにしているため、巻き込んだ敵もまた増える一方。必然的に、許容量というものがあった。


 一気に敵を仕留められはしたものの、やはり極振りしたINTによって膨大な出力を持つに至った風を操り続けるのは負担が大きい。敵がもたらした毒を利用するのは、ここまでにしておこう。


「アクセル、毒の焼却頼む」


 アイテムボックスから魔力ポーションを二本取り出し、内一本をアクセルに差し出す。残る一本は自分用だ。


「おうよ」


 アクセルは軽く返事を返しつつ、俺から受け取った魔力ポーションを一気に呷る。

 そして、


『トリ・フレイム──三重結合起動トリプルユニオンキャスト


 右の手のひらを竜巻に向けて構え、左手を右腕に添える。

 右手の前方に直径三メートル程の、煌々と燃える火球が現れた。


 熱で膨張した空気が光を歪ませることで軌跡を残しながら、一瞬にして火球が紫色の竜巻へと到達。一拍の後、紫色の竜巻は全てを紅蓮に染め上げられた。


「おーおー、景気良く燃えやがる」


「軍勢の中のエミュレーター・コピーはフランが片付けてくれたし、状況は一つ進められたかな」


「そう思いてぇな」


 この戦場におけるエミュレーター・コピーは、今や残り一つ。巨大な黒い塊と化した怠惰(アケディア)が持つそれのみ。


 俺達と同じくこれを一区切りと見たらしいフランが、ゲイルに乗ってこちらへ飛んできた。


「敵軍勢の方はもう、他の冒険者や軍の方々に任せて良いかと思います。私達はあの黒い塊の対処に加わりましょう」


 フランの言葉に俺もアクセルもすぐさま同意し、黒い塊その一がある方へと向かうことに。






 黒い塊その一は、俺が初めて目にした時からそれほど変わらぬ様子で健在だった。

 細部を比べれば多くの差異があるのだろうが、白のラインハルト(エルさん)に斬り飛ばされた腕の代わりに別の新しい腕が生えている様子がリアルタイムで観測できるため、この表現は概ね正しいだろう。


 ひとまず対処に動いている中で一番余裕がありそうな、紅紫のエクスナー(クラリッサ様)のもとへ行く。


 高威力の火球複数を敵の足元に向け、流れ作業のように連打し続けているクラリッサ様。敵からはそれらに負けず劣らずの数で金属光沢を持つ円錐形が放たれているが、全て前衛(アレックス)の手により防がれている。

 アレックスの覚醒度合いが気持ち悪い。


「クラリッサ様、現在はどういう状況ですか?」


 ともかく、情報が必要だ。俺はクラリッサ様に対し質問を投げた。


 七つ星冒険者三人に加え、誰がどう見ても六つ星の領域に深く踏み込んでいるアレックス。そんな四人が攻撃を仕掛けていながら仕留め切れずにいる敵というのは、厄介という言葉だけでは言い表せない。


「マリアとエルケンバルトが来る少し前、あと一手でアレックス・ケンドールがエミュレーター・コピーの破壊を実行するという段階で、敵に現れた変化がご覧の有様ですわ」


 俺達の方を一瞥し、すぐに敵へと視線を戻したクラリッサ様だが、質問には答えてくださった。


 何でも、エミュレーター・コピーを持つ敵の右腕をアレックスが切り落とし、敵本体を空高くへ打ち上げて、あとはエミュレーター・コピーを破壊するのみとなっていたそうだ。

 そうしたタイミングで、恐らく敵本体の意識が切り落とされた右腕に移り、そこから一気にリソースを解放して大質量のゴーレムを生み出したのだろう、と。


「核となっているエミュレーター・コピーの位置が、ゴーレム内部で動き回っているようなのだけれど。貴方の神授兵装(エディター)でもなければ正確な現在位置は分かりませんもの。かといって、高威力の攻撃を無駄撃ち覚悟で何度も放つ程の余裕は、幾らワタクシとてありませんわ」


「……大変遅くなり、申し訳ございませんでした」


 対処してるメンツ的に、猶予はあると判断してたんです……。


「ただ、悪いことばかりでも無いのだけれど。ええ、アレックス・ケンドールは、実に良い掘り出し物でしたわ。彼を紹介してくれた貴方には、これでも感謝していますわよ?」


 凄いなアレックス。いつの間にやらクラリッサ様のお気に入りになっているじゃないか。

 貴族なだけあって礼儀作法はしっかりしているし、実力については現在進行形で見せ付けている真っ最中だしな。


 ところで、アクセルがいつの間にやらアレックスと肩を並べて前衛の仕事をしている。

 だいぶ改善されたとはいえ、クラリッサ様との相性は良くないしな。会話に混ざるよりは、と考えたのだろう。


 さておき、エミュレーター・コピーの位置を明示しよう。

 X軸、Y軸、Z軸を描画。原点は当然、エミュレーター・コピー。


 青いラインが三本、巨大ゴーレムを貫いた。二本あれば位置の特定はできるが、一応三本あった方が分かり易いだろうとの配慮だ。


「まあ、随分と分かり易くなりましたわね」


 まだ俺は何の説明もしていないが、クラリッサ様は即座に青いラインの意味を読み取り、


『テトラ・フレイム──二重結合起動ダブルユニオンキャスト


 最上級魔法の二重結合起動を、拳大の火球に高密度圧縮して放った。

紅紫のエクスナーは、即断即決タイプです。

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