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第二三一話 黒塊2

主人公とアクセルの共闘です。

 魔物の軍勢と戦っている主戦力は、やはり冒険者。

 城塞都市の名に恥じぬ冒険者の数が揃っており、特にここ最近は訓練所を中心に特殊運用が広まったお陰で練度も上がっている。近接職は当然として、弓使いなどの遠距離職も。

 中でも際立って活躍している冒険者は誰かと言えば、やはり赤の神授兵装(マハト)の所有者アクセル・ゲーベンバウアーだろう。


 好き勝手に暴れているように見えて、その実味方への被害が無いよう上手に立ち回っているアクセル。彼の近くに風魔法の砲弾を撃ち込み、そこに居た魔物を蹴散らして強引に空間を作る。

 そしてその空間へ、ゲイルから降りた俺だけが着地。


「やあ、アクセル。調子はどうかな?」


「おお、リクか。見ての通り、絶好調だぜ!」


 アクセルは俺の突然の登場にも一切驚かず、実に威勢の良い返事をくれた。話をしつつも紅蓮を纏う両拳を振るい、魔物を次々と粉砕、焼却していく。


 俺もまた、アクセルに負けぬようエディターを振るって周囲の魔物を斬り伏せていく。


「ただ、やっぱり敵の魔法具(・・・・・)があんまり壊せてなくてな。二、三個やった辺りから、どうも俺の近くには来ねぇようにしてるっぽいんだわ」


 周りには他の冒険者も大勢居るためか、エミュレーター・コピーの名は出さずに状況を説明してくれた。


 コピーとはいえ神授兵装。それを破壊できる存在は限られる訳で。

 量産に成功していようとも、そう次々に破壊されては敵も都合が悪いらしい。


「……アクセルが敵陣に深く攻め入るとなると、ここの戦線は瓦解するか」


「ま、流石に上級レベルの魔物がうじゃうじゃ出てきたんじゃな」


 シンプルに上級の魔物であるオーガなどが出てきているし、見た目は中級の通常オークが上級レベルの膂力と耐久力を備えていたりする。これではアクセルも、迂闊に場を離れられない。


「フランが今、敵の魔法具(・・・・・)を壊しに行ってくれてるから、ここからは少し楽になると思うけど」


 そう、フランにはゲイルに乗ったまま、移動砲台と化して貰っている。


 俺は状況の確認がてらこうしてアクセルに接触したが、そろそろ俺もエミュレーター・コピーの破壊に向かって良いだろうか。できればアクセルにも動いて貰いたかったが、ここはそのままにしておいた方が良さそうだし。


 ……などと考えていたら、敵に動きがあった。

 敵軍勢の後方部分、まだまだ魔物が密集している場所に、突然巨大な何かが現れたのだ。


 黒い塊、その二。

 主にエルさん達七つ星冒険者が相手取っているその一(・・・)と比べれば一回りも二回りも小さいが、比較対象が巨大に過ぎるだけだ。こちらも十分に巨大と言って良い。

 また、大きさだけでなく形も違っていた。ぱっと見は同じように思えたが、塊その一がゴーレムの寄せ集めだったのに対し、塊その二はヒュドラを模した(・・・・・・・・)ゴーレムの寄せ集めといったところ。

 マップ上の色は赤なので、一応魔物の分類らしい。


 本家のヒュドラと違って九本どころではない大量の頭部が一斉に、こちらに向けて口を開く。

 それが何を意味するのか、俺やアクセルに分からない筈は無かった。


「俺が堰き止める!」


「俺が焼き尽くす!」


 俺とアクセルが叫んだのは、ほぼ同時。事前の相談は無用で、即座に役割分担が出来上がった。


 空からの──フランの水魔法によって幾らかの頭部が氷漬けにされたが、割合にして一割程か。残る九割の頭部がそのまま毒々しい紫色のブレスをこちらに向けて、自軍の魔物が射線上に居るのも構わず放ってきた。


『トリ・ウィンド──三重結合起動トリプルユニオンキャスト!』


『トリ・フレイム──三重結合起動トリプルユニオンキャスト!』


 俺はエディターに、アクセルはマハトに。それぞれが所有する神授兵装(アーティファクト)に風と火の魔法を纏わせる。


 紫電、溜撃、衝波の三つを併用。衝波は設置型。STR適用形状をわずかに拡散させる。

 横薙ぎの一撃を、長い風の障壁に。


 アクセルが俺の隣で紅蓮の拳を振り抜き、煌々と輝く焔の奔流が風の障壁と混ざり合った。


 出来上がる紅蓮の暴風壁。


 紫色のブレスがそこへ到達し、衝撃が大地を揺るがす。けれど風に阻まれ、炎に焼かれて無毒化されていく。

 その様子を、俺とアクセルは上から(・・・)確認した。


「ブレスをどんだけの時間吐き続けられるか分かったもんじゃねぇ!」


「ジリ貧になる前に、元を断つ!」


 上級魔法を三つ分発動している俺は、初級魔法を連続使用することで空へ。

 同じく上級魔法を三つ分発動しているアクセルは、導師と俺の合作魔法具──天靴(てんか)を起動することでやはり空へ。


 天靴(てんか)(くつ)と名付けられているものの、魔法具としてはアンクレットの形を持つ。魔法効果は、俺が普段から使っている全身に風を纏うのに加えて、即席の足場を生成するというもの。

 前者の効果のみでも十分に飛行が可能ではあるが、風の操作に不慣れなアクセルが即座に使いこなせるようにと後者の効果が追加されている。


 閑話休題。


 アクセルがその場に留まることで維持されていた戦線は今、塊その二──ヒュドラ・ゴーレムと呼称しよう──が今なお継続して放っている魔物を巻き込むブレスと、俺とアクセルで展開した障壁で持っている。

 ただし衰える様子の無いブレスに対して、俺達の障壁は徐々にその力を削られているのが分かる。

 当然の話だ。片や力の供給を継続している攻撃、片や制御を維持しているだけの防御。タイムリミットは、そう長くない。


 ブレスを吐き続けている首の内の数本が、空から接近してくる俺達を狙う。


 薙ぎ払うように放たれる紫色のブレスを俺達は大きく回避しながら、それでも接近するのをやめない。

 ただ流石に、初級魔法の連続使用で飛んでいる俺に余裕は無かった。


 俺はアイテムボックスからとある魔法具を二つ取り出す。手のひらサイズの黒い札──烏揚羽(からすあげは)だ。

 それらを即座に起動し、三角形二つを組み合わせただけの簡単な蝶が二匹、俺の踵の後ろに止まる。

 これで、空を駆け抜けられる。


 ぐっと安定性を増した俺の空中機動はブレスの回避を容易にし、つまりは接近速度も上げた。


 ヒュドラ・ゴーレムに肉薄した俺は、ブレスを吐いている首の一つに向けてエディターを振る。


 ──電光石火、溜撃。


 振り抜きながら、その場に留まることなく駆け抜ける。


 手応えは非常に重く、首を半ばまで断ったがそれだけ。切り落とすつもりで武器を振ったにしては今一つな結果だ。

 アクセルもまた己が拳で敵の顎を打ち抜いていたが、首は千切れかけたところで止まっている。


 どちらも、数秒で元通り修復されてしまった。

 となれば。


「アクセル!」


「リク!」


 俺達は互いの名を呼び、視線を交差させる。

 どうやら考えることは同じらしい。俺自身もだが、アクセルの口が緩い弧を描くのを見た。


 先んじて動いたのはアクセル。俺とアクセルの丁度中間(・・)辺りにある首に急接近していく。

 一瞬遅れて俺もその首に向かい、タイミングを合わせるべく加速する。


 そうして俺達二人が同時に、かつ反対側から、一つの首を攻撃した。


 漆黒の刃が首に食い込み、それより僅かに低い場所を紅蓮の拳が打つ。


 斬撃と打撃を逆方向から同時に受けた首は、実にあっさりと切断されてくれた。


 攻撃の成功を喜ぶ暇も無く、フランによって氷漬けにされていた首の一つがハンマーのように俺達に向けて振り下ろされる。

 俺もアクセルもここで油断するほど迂闊ではないため、問題無く避けられたが。ついでに俺は、切断した首をアイテムボックスに収納している。敵に再利用されては面倒だからな。


「障壁を維持しながらってのは中々きついんじゃねぇかと思ってたが、俺らが力を合わせりゃどうとでもなりそうだな」


「とはいえ悠長にしていられる状況でもない」


「なら、とっとと片付けちまおうぜ」


 打てば響くようなやり取り。

 アクセルとの共闘は初めてだというのに、不思議な程に不安が無い。


「標的はアクセルが決めてくれ。俺が合わせる」


「良し来た。頼むぜ、相棒!」


 空を蹴り、次なる標的へと向かっていくアクセル。

 俺は速やかに、それに追従する。

風と火、相性は抜群です。

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