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第二三〇話 黒塊1

久々の主人公視点です。

◆◆◆◆◆


 俺の名はリク・スギサキ。リッヒレーベン王国の六つ星冒険者だ。

 エミュレーター・コピーという厄介極まる神授兵装(アーティファクト)の模造品の対処を、それなりの期間をかけて行っていて、今現在もまさにそう。

 特に今は、俺自身が活動拠点にしている城塞都市アインバーグが襲われており、迎撃のために街を出た俺達を出し抜いた敵もそれに参加している、という大変遺憾な状況。


 エミュレーター・コピーはそれ自体がアイテムボックスのような機能を持ち、なおかつ生物であっても魔物かそれの混ざり物であれば収納可能で、更にはコピー同士で収納物のやり取りができるという。

 つまり現在のように王国中にコピーがばら撒かれている場合、ネットワーク上を行き来するデータのような手軽さで、実際の移動ができる訳だ。


 強欲(アワリティア)怠惰(アケディア)と続けて敵の主力を相手取り、結局逃げられてしまったのはそれのせい。

 最近では世界最速(・・・・)などと世間から言われているらしい俺からでも、問題無く逃げられる仕組みな訳だ。


 だからまず、仕組みの方を壊す必要がある。






 現在俺は、騎獣であるゲイルの背に乗って大空を飛行中。金色に輝く翼を広げ、全身に黄緑色の風を纏わせて、ゲイルは音速を超えている。


「こっちは別に、俺一人でも良かったと思うんだけど」


「駄目です。私がほんの少しでも目を離すと、リクは平気で無茶をしてしまうのですから」


 俺のすぐ後ろには、当然といった態度でゲイルの背に乗ってきた人物──フランセット・シャリエが居た。可愛い、優しい、賢いと三拍子そろった素敵な俺の恋人だが、如何せん俺に対して過保護な部分がある。今のように。


「相手は所詮、エミュレーター・コピーを持っただけの魔物なんだから、そうまで警戒する必要は無いと思うけどなぁ……」


リクの神授兵装(エディター)でも、敵の神授兵装(エミュレーター)の中に潜む敵は察知できませんから。また新たな敵主力が現れる、という可能性は考慮しておくべきです。……無論、リクがその可能性をあえて口に出さなかったのは分かっていますよ?」


 分かられていた。

 そもそも怠惰(アケディア)が実際そのパターンで出てきた訳だし、そりゃあそうだろうけれども。ちょっとだけ希望的観測をしたかったんだ。


城塞都市(アインバーグ)の防衛戦力を増やしたい意図があって、お姉様達と一緒に私を街に戻らせたがったのも分かっていますが」


 更に分かられていた。


 そして今しがたフランが言ったように、白のラインハルト(エルさん)青のシャリエ(マリアベルさん)の二人は騎獣であるペガサス(エクエス)に乗って、アインバーグに向かっている。

 何だかんだ言ってアインバーグには戦力が残っているものの、色々と常識が通じない敵を相手に楽観は危険だからな。

 それはさておき。


「とはいえ、もしリクに何かあれば、黒の神授兵装(エディター)の所有者が戦線を離脱することになるのですよ? 単純な戦力としても六つ星最上位であり、極めて高い機動力があり、マップ機能による状況把握は唯一無二の価値があるリクの、離脱です。それに……」


 とうとう説教され始めた。


「それに?」


「もう、私が知らないところでリクが傷つくのは嫌です。やむを得ず怪我を負うにしても、私の回復魔法が届く範囲にしてください」


 理屈と感情の両面で制圧されると、こっちは何もできないんですけど。導師にボロカスにやられた実績のある俺が悪いんだけどさ。

 いや、この場合悪いのは導師では……?


「分かりましたか、リク?」


「……善処します」


 フランに対して誠実でありたい気持ちが、何とか俺の口から絞り出した言葉だった。


「約束が難しい内容であることは、私も理解しています。ですので、今はそれで納得しておきましょう」


 いっそここで理不尽なことを言ってくるなら、こっちも反論の余地ができるんだけどな。ま、フランがそんなことを言わないのは、多分俺が一番良く分かってる。


「ところで、一つ目の標的がそろそろ私の射程内です。狙いがブレないよう、飛行の方向と速度を一定に保っておいて頂けますか?」


 そう言いながら、フランは自身のアイテムボックスから八枚の白い札を取り出す。導師謹製の魔法具、柊花(しゅうか)の未使用時の形態だ。

 手から零れるように自由落下を開始した札は、すぐに白い花の蕾に変わる。四機ずつ二組になって連結し、二つの砲門が出来上がった。

 二つの砲門はゲイルの翼の下に位置を定め、その先端を地上に向けて傾けている。


「速度を落とす必要は?」


「ありません。このまま狙い撃ちます」


 現在俺はエディターでマップを表示しており、当然フランにも見える設定にしているが、それはあくまで二次元表示。フランは俺がプレゼントしたフラン用の魔法具を使い、新たに三次元のマップを表示した。


 標的との直線距離が、丁度五〇〇〇メートルになった瞬間。

 二つの砲門から、水色の砲弾が静かに、けれど驚異的な初速で発射された。


 発射から数秒後、マップ上にあった敵の表示が消える。

 前方の地面が大きく抉れたのを、目視でも確認できた。


「お見事。流石はフラン」


「ふふ、ありがとうございます。どうですかリク、私を連れてきて良かったと思いませんか?」


 声色から判断するに、恐らくドヤ顔をしているであろうフランだが、叩き出した結果は確かに凄まじい。

 元の世界の狙撃銃による最長記録で、三五〇〇メートルだかその程度の数字だったはず。色々な条件が違い過ぎるので単純比較できるものでもないが、狙撃能力の高さを理解するための指標にはなるだろう。


「反論の余地は、何処にも無いかな。標的一つ一つを迅速に強襲して、それでも場合によっては戦闘になる可能性を考えてたけど。これならその可能性を排除できるし」


 戦闘にすらならないのであれば、僅かなタイムロスも発生しないということ。最速で移動を続けたまま、全ての標的を片付けることも可能だろう。


 エミュレーター・コピー同士の接続がどの程度の距離まで可能なのか不明だが、ひとまずアインバーグ周辺は一掃する。その後は俺達もアインバーグに戻り、敵が残っていれば対処に参加する予定だ。


「……精々、途中で強敵が出てこないことを祈るかね」











 我ながらフラグを立ててしまったような気がしていたのだけれど、幸いにも気のせいだったらしく。順調過ぎるほど順調に、アインバーグの周囲三〇キロメートル圏内の掃除を終えた。

 遠距離からの高威力な狙撃に対し、敵が何らかの防御策を講じてくるかと思いきやそんなことは無かったという。何とも肩透かしな状況だ。

 かえって不気味な程に。


 敵が振るう力の強大さの割に、その使い方には杜撰さが見えるというか。もちろん、ある程度してやられている部分はある訳だが、もっと上手いやり方はあったはずなんだ。

 例えば魔物及びその混ざり物を遠方に運ぶ手段があるのなら、何の前触れも無く実行すればその被害は甚大なものにできる。今回のように予兆を見せる必要は、無い。

 ヒュドラの毒腺など、ぶちまけるだけで簡単に被害を及ぼせるものを使うのも良いだろう。色欲(ルクスリア)などは俺への牽制目的で使ってきたし、発想が出てこなかったということも無いはずだ。


「こちらの戦力を図るための、小手調べということでしょうか?」


 ゲイルに乗ったまま、アインバーグに向かって飛んでいる最中。俺が先に述べた疑問をフランに聞いて貰った後の返答だった。


「強い敵が出てきたからそれが主力だろうと思ったけど、ただの勘違いだった可能性か……。ただそうなると、こちらに本気を出させる規模でもあるから、戦力把握の目的にしては大仰に過ぎると思うんだよ。軍や騎士団みたいな集団よりも個人の実力が突出している以上、わざわざ街ごと襲う理由としては弱い」


「あるいは、合理性に基づいた行動ではないのかもしれませんね」


「下手すると最悪のパターンだなそれ……」






 そんな具合にフランと敵に関する考察をしていると、間も無くアインバーグ付近の戦場に到着する頃合いになった。


 戦場では数多くの兵士と冒険者が、それ以上に多い魔物の軍勢と交戦している。

 俺達より先に戻っていた白のラインハルト(エルさん)青のシャリエ(マリアベルさん)も既に交戦に入っており、けれどその相手は──


「何だあの塊……」


 ──塊、と抽象的な表現しか咄嗟には出てこない何かだった。


 黒い金属の山、とでも言えば良いだろうか。あるいは超巨大ゴーレムの失敗作か。

 大小様々──といっても全て十分に大きいが──なゴーレムのパーツを、とにかくかき集めて一纏めにしたような歪な姿。頭部は数えられる程だが腕は無数に生えており、生物的な見た目をしていないのは視覚的に大変助かる状況だ。そうでなくとも十分に気持ち悪い外見なのだから。


 一応、怠惰(アケディア)に付けておいたマーカーが当該マップ上に表示されている。だからアレがそうなのだろう。

 色欲(ルクスリア)も腰の辺りから蝙蝠の羽を出していたので、魔物の特徴を自身の身体に表出させられることは知っていた。とはいえ目の前のアレは、そういう次元の話ではない。


 空を飛ぶペガサス(エクエス)に乗ったエルさんが輝煌(きこう)──導師謹製の長物の魔法具──に光の刃を纏わせて、襲い来るゴーレムの腕を切断している。

 後ろに乗っているマリアベルさんは無数の氷柱を宙に浮かべては射出し、着弾と共に冷気を解放して部分的な氷漬けにしている。

 地上、後方からは紅紫のエクスナー(クラリッサ様)が、塊の下部に向けて火球を連続で放ち続けている。塊の下部を良く見ると夥しい数の足が生えており、ゆっくりとだが街に向かって進もうとしているのが見て取れた。クラリッサ様はそれを阻んでくださっているらしい。


 そしてアレックス。何だあいつ。

 クラリッサ様の前衛を務めているのだろう立ち位置で、剣を振るっているのは別に良い。問題は、戦い方だ。


 塊から、クラリッサ様に向けて射出されている黒い円錐形がある。

 数は秒間四発程度か。底面の直径が二メートル程、長さは五メートル程と、中々に大きい。

 一つ残らず、アレックスが斬り伏せている。


 アレックスは空中に足場でもあるかのように自在に空を駆け抜け、魔法によって延長された刃を持つ剣を振るっている。紫電や溜撃を多用しているらしく、その処理速度に一切の不足は無い。STR適用形状を操作しているのか、斬撃と打撃の使い分けまで行っている。

 何より、動きの起こり(・・・)が非常に分かり辛かった。


 物理的な動きを、極力穏やかにしているのだろう。そこに最大割合でAGIを適用し、縮地や紫電といった加速の特殊運用を使用している。

 その結果として予備動作が極限まで削られ、先に述べた通り起こり(・・・)が分かり辛くなっている訳だ。

 純粋な剣技はともかく、ステータスシステム運用込みでのそれは、白のラインハルトにすら迫るかもしれない。


 まあ、それはそれとして。

 あの塊の相手は十分以上にできている様子なので、俺達が今すぐ加わる必要性はあまり無いだろう。無視できない不気味さはあれど、より優先順位の高い仕事が俺達にはある。

 魔物の軍勢の方に点在する、大量のエミュレーター・コピーの破壊だ。何せ黒の神授兵装(エディター)のお陰で、この乱戦模様であっても全く問題無く場所が分かる。


「とりあえず俺達は、軍勢の対処の方を手伝おうか」


「はい。お姉様達への加勢は、その後にしましょう」


 フランからも異論は無いようなので、サクサク行こう。

敵の異常な変化よりも、味方の異常な成長に着目する主人公。

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