第二二九話 城塞都市防衛7
アレックスが本当の主人公を差し置いて、主人公ムーブしてる……。
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僕──アレックス・ケンドールは今、巨大ゴーレムと化した敵と戦闘を行っている。
ゴーレムの身体は通常の攻撃では傷一つ付けられない圧倒的な強度を誇り、溜撃も短時間のチャージでは少々の罅割れを発生させる程度。STRの適用形状を収束させればそれなりに斬ることもできるようだが、それも斬り飛ばすところまでいかなければ即座に修復されてしまう。
となれば、逆にSTRの適用形状を拡散させて打撃を与えた方が、敵の体勢を崩せて良いか。
ゴーレムの足元に飛び込み、左つま先に一撃。面白いように跳ね上げられた左足を横目に、次の一手へ。
──溜撃、衝波、流転。
狙うは右足。STRの適用方向は上方。
大質量を誇るであろう巨体を浮かせることこそ叶わなかったが、軸足で踏ん張らせないことは成功した。
ゴーレムは巨体の割に機敏に動き、それがかえってバランスを崩すことに繋がり、足を滑らせ仰向けに転倒。直後、放物線を描いて飛来した無数の火球に襲われる。
クラリッサ様の火魔法だ。
黒い身体のあちらこちらが赤熱し、融け始める。
慌てたようにゴーレムの右腕が突き出され、その手のひらから黒い球体が生み出された。更にその球体は形状を変化させ、ラウンドシールドのように広がってゴーレムの巨体全体を守り、火球を遮る。
──溜撃、衝波、流転。
狙うは当然右腕。そして今度のSTR適用方向は、突き出された腕のその方向。
ゴーレムの右手が、自ら発生させた黒いラウンドシールドに飲み込まれる。すると僕の狙い通り、その右手はぐしゃりと潰れた。
右手を飲み込んだラウンドシールドは急速に規模を縮小させつつ、更に右腕を引き込もうとしている。これは望外の結果だった。
なるほど。黒紫の場合はそれほどでもないが、やはり黒の場合は相当な密度で組まれた魔法なのだろう。
ここからは、敵の攻撃を積極的に利用すべきか。
問題は、エミュレーター・コピーが今何処にあるのか。順当に頭部や胸部などにあれば良いが、そもそも身体の中で移動させられても不思議ではない。
……末端から輪切りにしていって、候補を絞るべきだろうか。
うん、そうだな。
黒の神授兵装があれば即座に位置が分かるのだろうけれど、残念ながら僕はその所有者ではないのだから。それならできることを、着実にやっていこうじゃないか。幸いにも、敵は良い具合に加熱されて柔らかくなっていることだし。
……というよりも、僕の攻撃が通りやすいようにしてくださっているのではないだろうか。クラリッサ様の火魔法がもっと威力を出せることは、良く分かっていることだ。これなら、輪切りではなくもっと大胆にやってみても良いだろうか。
ゴーレムが再び黒い球体を、今度は自身から少し離れた位置に出現させてからラウンドシールドを形成した。
幾らかの火球がそこに飲み込まれていったが、即座に軌道を修正。シールドを迂回して、ゴーレム本体に殺到する。
既に黒いゴーレムなどではなく、赤いゴーレムになっている。しっかりと加熱され、さぞや斬り易いことだろう。
それでも原型を保てているのは、敵ながら頑張っているのではないだろうか。
僕は左手に持つ片手剣を仕舞い、両手剣が纏う風と光の魔法を再起動しつつ両手に持ち直す。今度の刃は長く、鋭く。
溜撃のチャージをしつつ、空中へと跳躍する。
連続で空を蹴って高度を上げて、今なお火球の群れによって地面に縫い留められているゴーレムを見下ろす。
まずは手っ取り早く、半分に切り分けよう。
──紫電。
白く輝く長大な刃が、赤熱したゴーレムを大地ごと左右に分かつ。
──紫電、溜撃、流転。
今度は捻りを加えた刺突を、胴体の中心部へ。綺麗に閉じた回転ではなく、外向きに弾けるような回転に。
ゴーレムの右半身と左半身がそれぞれ逆方向へと弾かれ、左半身の断面からのみ黒い靄が現れたのを確認。
先程の工程を、今度は上下に切り分ける形で再度行う。
左上半身から黒い靄が現れた。
さあ、どんどん行こう。
間髪いれずにゴーレムを切り分け続けて、残ったのは左胸部の一部分。とはいえ成人男性がすっぽり一人収まる程度の大きさはある。
黒い靄が全体から滲み出すように現れているが、様子見でもしているかのように大人しい。
なお、切り分けた他の大部分についてはクラリッサ様が逐次焼却してくださっている。
敵を十分に小さくできたと判断した僕は、魔法の刃を常識的なサイズに縮小させつつ地上に降り立った。そして、まだ赤熱しているゴーレムの欠片の近くへと歩く。
ここで油断をする訳にはいかない。
巨大ゴーレムとして復活してくる可能性もあるし、実は本体が別の場所に移動して奇襲を仕掛けてくる可能性だってある。
……などと僕は思っていたのだけれど。一周回って意外なことに、ゴーレムの欠片が変形し、素直にヒトの姿を取った。
間違いなく、今まで戦っていた少年の姿だ。手には長杖型のエミュレーター・コピーがしっかりと握られている。
随分と消耗した様子で、顔色が悪そうに見える。呼吸も荒い。
演技だろうか。まあ恐らくそうだろう。そもそも観察している暇があれば、一撃でも多く攻撃を叩き込んだ方が良い気がした。
「ふざ、け──」
何かを言おうとしているが、聞く価値は無さそうなので無視する。
──電光石火、溜撃。
まずエミュレーター・コピーを握っている敵の右腕を、肩ごと切り落とす。
剣を引き、紫電と衝波と流転と重撃を併用しながら敵の胴体に刺突。
流転の方向は上。重撃によって連続で上に浮かせ続ける。
自身から完全に離れた位置で特殊運用を維持する負荷は中々だが、一瞬にして空へと舞い上げられた間抜けな敵の姿は見物だった。
地属性魔法は実際の地面を使うことで規模を大きくし易いものだから、逆に地面から離してしまえば脅威度は下げられるんだ。
さて。
僕の近くに残っているのはエミュレーター・コピーと、それを握っていた右腕だけ。
地面に転がっているそれらを見下ろしながら、剣を振り上げる。
──紫電、溜撃。
手早く数百発分の物理攻撃力をチャージした一撃を、長杖に対して振り下ろす。
主人公を出したかったんですが、次回あたりに持ち越しとなりました。




