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第二二五話 城塞都市防衛3

引き続きアレックスが頑張ります。

 土砂の大津波とでも言うべき危機が去って、周囲では再び魔物と人類との戦いが行われている。


 そんな中、僕を前衛にと指名した紅紫のエクスナーは、ワインレッドの双眸に一人の人間を映していた。

 いや、果たして人間と表現できる存在かは、疑問符を付けなければならないか。


「ああ、面倒な。どうして七つ星冒険者とばかり出会うのかな、ボクは」


 容姿に特筆すべきところはない。黒紫のボブカットに深緑色の目という特徴を持った、街中で見かけても印象には残らないだろう少年だ。

 けれど、続々と最前線へ疾走する魔物達の中に立っていて、平然とこちらを見てくる様は異常というほかない。現に僕は、迫り来る魔物達を矢継ぎ早に斬り伏せているところだというのに。

 つまり、魔物達にとってあの少年は敵ではないということ。


「アインバーグって、ちょっと過剰戦力なんじゃないかな? この量の魔物をぶつけてまだ持ちこたえてるって、異常だよ?」


 敵であるということを、隠す気も無かったようだけど。


「けどまあそれも、大火力を持つ七つ星冒険者が居ればこそだよね。だから──手早く死んでよ」


 突如として現れたのは、黒紫の球体。

 敵の少年の頭上にあるそれは、男爵位である僕の実家を丸々飲み込めそうなほどに巨大で。その規模から、先程の土砂の津波は彼の仕業だったのだろうと推測できた。


「アレックス・ケンドール。対処を」


 言葉少なに僕へと下された命令は、理解の容易さと反比例するように難易度が高そうだ。


「リク・スギサキが認めたその力、実戦でも示してみせなさい」


 紅紫のエクスナーが話をしている内に、黒紫の球体はこちらへと向かって来ていた。

 その速度は凄まじく、けれど【黒疾風】の攻撃を見慣れている僕にとって慌てる程ではない。


 ──紫電、溜撃、衝波。


 紫電により高速チャージした溜撃を、衝波で飛ばす。

 ただしそれは斬撃でも刺突でもなく、剣の腹を向けて壁のように。


 加速した思考の中、僕が放った飛ぶ障壁にぶつかる球体を観察する。


 衝突した個所から球体表面に波紋が広がり、僅かに移動速度が下がった。なるほど物理的な干渉は可能なものだと分かった。時間的猶予も十分。

 それなら今度は、きちんと(・・・・)溜めてから攻撃をしよう。再チャージはとうに始めているけれど。


 僕の剣に刻まれた風魔法が、形成する刃の形を変える。より鋭く、より長く。

 僕の光魔法もそれに従い、鋭く長く。


 そうして成った長大な光の剣を、天高く掲げる。


 ここから奇を(てら)う必要は無い。

 ただ基本に忠実な、それこそ僕が冒険者になる前から何千回、何万回と繰り返してきた振り下ろしをする。


 白く輝く刃は黒紫の球体に触れて、微かな抵抗を感じた後にするりと進む。

 更にその先に居る、敵の少年にまで届く──かと思われた。


 けれど事はそう上手く運ばず、刃が届く直前に現れた小さな障壁に阻まれる。

 少年はその隙に大きく横へ移動し、逃れてしまう。


「十分な働きですわ」


 敵に攻撃を避けられてしまった僕に、意外にもお褒めの言葉をくださった紅紫のエクスナーことクラリッサ様。

 背後に無数の赤い火球を従えており、それら一つひとつが膨大な熱量を内包しているのだろう。空気が揺らぎ、景色が歪んで見えた。

 火球は一斉に射出され、逃げる敵を迅速に追う。それも単純に真っ直ぐ向かうだけでなく、左右や上へと回り込みながら、包囲する。


 半球状の包囲網が完成したところで敵の動きが止まり、直後。半球が収縮するように包囲を狭め──紅蓮の閃光とけたたましい爆音が広がる。


 光と音が収まった後に残っていたのは、赤熱しドロドロに融けた大地のみ。


 これで終わったのか、と僕が半信半疑で考えているところに聞こえたのは、地響き。微かな大地の揺れを感じたかと思えば、すぐに大きく揺れ始めて。

 けれど、立っているのも難しいほどの揺れは、存外すぐに無くなった。


 ──大地が弾け、揺れという表現が相応しくなくなることによって。


 突如として空中に投げ出された僕は、周囲を見渡す。

 紅紫のエクスナーもまた空中を彷徨い、幾らかの魔物も巻き込まれていた。幸いにして、僕ら以外の冒険者は巻き込まれなかったようだけれど。


 下へと視線を落とせば、爆心地のように抉れた大地の中心に敵が見えた。

 黒を基調とし赤い線が走った長杖を持っている。あれはエミュレーター・コピーか。


 エミュレーター・コピーらしきその長杖を気だるげに構えると、敵の周囲から土が盛り上がる。

 円錐形が幾つも幾つも出来上がり、まるで針山のように。ただし、その大きさは人ひとりを刺し貫くのに十分なもの。


 空中に投げ出された僕らを、そのまま串刺しにでもする気か。


 僕の予想は的中し、土で出来た円錐は一斉に射出される。

 狙いは荒く、けれど数が尋常ではない。


 僕はメイン武器である両手剣を右手のみで持ち、左手に新たな魔法具(・・・・・・)を取った。


 これもまた、僕がリク・スギサキから受け取った代物だ。物体としては短い棒。魔法具としての能力は、風の刃の形成。


 両手剣を持つ右腕の、STRの適用割合を調整。

 手から剣へと伝わる割合を増加させ、剣からのそれは減少させる。これで片手でも十全に振り回せる。


 手ごろな位置にある土塊に足をかけ、前に──正確には下に進む。


 紫電を併用した衝波による遠距離攻撃、それを二振りの刃から矢継ぎ早に放つ。紫電により加速した思考の中で冷静に狙いを定め、迎撃すべきもののみを切り裂いていく。

 敵との距離が近付くごとに攻撃は苛烈さを増し、ならばと僕も攻撃の密度を上げる。


 そうして敵に肉薄し、刃を直接届かせようとしたその時。


 敵の姿が、その足元ごと深く沈んだ。


 一瞬にして出来上がった奈落へと、僕の身体は呑み込まれていく。底が見えないほど深いようで、先には暗闇しかない。

 更には壁が狭まってきているものだから、このままでは生きたまま土葬されてしまう。


 如何にレベルを上げてステータスシステムによる頑強さを手に入れたとしても、人は呼吸できなければ死ぬものだ。

 とはいえ僕は空を飛ぶ術を持たない。つまるところ、現状を打開する術を持ち合わせていない。

 ならば諦めるしかないのか。




 ──否、断じて否だ!




 【黒疾風】の魔法具を複数(・・)持つ僕だが、生憎その中に飛行用の魔法具は──長距離移動用の魔力効率重視な代物のみ。閉じていく穴から脱出するには速度が不十分。

 となれば別の手段が、新たな特殊運用が必要か。


 この穴に落ちる前、空中で土塊を蹴って移動したのは良いヒントになった。

 足場さえあれば、それで良いのだと。


 まず使うのは衝波の設置。それを足場としよう。

 問題は力の向きが、僕から離れる方向になってしまうことだが。なに、力を溜めたり止めたり、散々好き勝手に操作してきた。向きを変える程度、軽くやってみせるさ。

 何せ僕はステータスシステム運用について、どうせ一発で(・・・・・・)成功する(・・・・)らしいのだから。


 頭から落ちている姿勢を、剣を振ることで反転。足を下に。

 続いて足の裏から極短距離の衝波・設置。そしてSTRの適用方向を反転。

 足にグッと力を込めて、跳ぶ。


 ほら、できた。

 あとはこれを連続で行えば良い。

思い付きで新しい特殊運用を生み出す化け物。

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