第二二三話 城塞都市防衛1
とっても久々のロロさん視点です。
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私の名前はロレーヌ・ローラン。レイピア使いの四つ星冒険者。
活動拠点は城塞都市アインバーグで、ここにはリッヒレーベン王国の冒険者ギルド本部があるからか、有力な冒険者も多い。
世界的にも有名な白のラインハルト、青のシャリエ、紅紫のエクスナー。二つ名持ちで言えば【鋼刃】、【黒疾風】、【大瀑布】、期間限定っぽいけど【煌拳】、そして最近有名になってきた【閃光】。まあ大体こんなところだと思う。
つまり私が何を言いたいかと言えば、この街に戦力が多くて良かったってこと。
四大霊峰が南ズュートケーゲルから魔物の大侵攻が来てて、それに備えて軍も冒険者ギルドも総力を挙げて対策して、だけど予想を大幅に超えて早く魔物の襲撃を受けてる今。何とか戦線を維持して街を守れているのは、不幸中の幸いだと思う。
ただ、今挙げた戦力の半分は街の外に出ちゃってるらしいけど。それでも半分はこの街に居てくれてるから。
ここは城塞都市の南側。
外壁の外には軍の大型兵器がずらりと並んで、規則正しく砲撃を行ってる。砲弾が放物線を描いて魔物の群れの中に吸い込まれて、派手に爆発。多くの魔物を葬る。
だけど魔物の群れは多種多様で、その強さも下級から上級まで幅広い。砲撃の餌食になってるのは下級や中級の魔物が大半で、上級の魔物は精々が多少の傷を負う程度。しかも一定以上の接近を許せば味方を巻き込むことになるから、そうなってくると使えない。
軍が砲撃できない位置にまで接近してきた魔物は、主に私達冒険者が動いて対処してる。
名のある冒険者が大物を相手取って、その周囲で名も無い冒険者が露払いをする形。そんな形が複数できあがって、即席の大型パーティーが沢山存在してる。
上級の魔物が沢山出てきているこの状況では、四つ星冒険者でもそう簡単には活躍できない。だから私も、大人しく名も無い冒険者の一人として戦ってる。
そしてこの即席パーティーの中心に居る人は今──無双してる。
「ちょっと待って、初っ端から飛ばし過ぎだよ!? 長期戦になるかもしれないんだから、少しは抑えないと!」
無双してるのは、さっき私が挙げた有力な冒険者の一人。
【閃光】、アレックス・ケンドール君その人だった。
手に持つ片刃の両手剣は刃を白く輝かせ、縮地や紫電といった加速の特殊運用を常に使い続けるような高速戦闘を展開してる。彼が通った後には魔物の死体が転がるばかりで、何なら通るまでもなく遠くの魔物の首を落としたりもしてる。
まるで、視界内全てが彼の間合いみたいだった。
何なのアレ。一人で何人分の働きをしてるのかな?
「大丈夫──ちゃんと──流す程度に──抑えて──戦っているよ!」
私が目の前のジェネラルオーク──中級最上位の魔物一体を頑張って倒してる間に、アレックス君は上級の魔物であるオーガ三体を含む、沢山の魔物を倒してた。ついでに彼の声が聞こえてくる方角があっちこっちに行ってる。
一瞬で魔物を仕留めては次のターゲットに向かってるからだけど、そもそもそれがおかしい。
本当に何なの。これで流す程度に抑えてるって、じゃあ本気出したらどうなっちゃうの。
リク君から少しは話を聞いてたけど、本当に物凄く強くなってる。
ステータスシステム運用の理想論欲張りセットだとか、手本としては最高だけど目標としては絶対に辿り着けないから最低に近いだとか。
ほんの少し前までは私と実力が近かったのに、いつの間にここまで差が広がったの。
味方としては、すっごく心強いんだけどね。戦い方もリク君と似てるし、一緒に戦ってて安心感が凄い。
安心感と言えば、エリック達もそう。
パーティーメンバーのジャック、アンヌ、ステラさんの三人と一緒に見事なチームワークを発揮して、中級どころか上級の魔物相手でも一歩も引かず戦う魔法使いの姿は、周囲の注目を集めてしまってるけど。
エリックのパーティーって皆それぞれ優秀だけど、その中でもやっぱりエリックは別格なんだよね。
今も、リク君から貰った風の魔法具で魔物を集めて、振るう一瞬だけ異常な程大きく伸ばした炎の刃でまとめて輪切りにしちゃってるし。刃を伸ばした分だけ炎の威力は落ちてるはずだから、あれって多分重撃も使ってるよね。そうじゃなきゃ、あの威力は出せないはずだし。
うん、私も先輩冒険者として負けてられない。
一応、私にだって先輩としての矜持があるから。
私の武器はレイピア。刺突を主な攻撃手段とする剣だ。
今使っているのは、ジェネラルアーマーの素材を使ったオーダーメイドの一点物。【黒疾風】が風魔法を刻んでくれた魔法具。
レイピアに刻まれた風魔法を起動すると、剣身を高密度の風が覆う。
即座に構えを取ってから。
──溜撃。
刺突を放つ。
切っ先から放たれた風は十数発分の物理攻撃力を込められて。十分以上の威力を容赦無く発揮し、敵の群れに文字通り風穴を開けた。
ただし、風魔法の威力は最小で撃ってる。魔力は節約しないといけないから、しょうがないよね。
という訳で──溜撃、溜撃、また溜撃。数秒の間隔を置いて、敵の数が多いのをいいことに風の砲弾を乱射する。
アレックス君が多くの敵を引き付けてくれるから、私は今とっても助かってる。溜撃を使うには、敵との距離が必要だから。
私が溜撃を覚えたのは割と最近。
何とか実用レベルに習熟したけど、もっと練度上げていきたいなぁ。これに他の技法を重ねるとか、そんな高等技術はまだ使えないし。紫電との併用ができれば、一気に使い勝手が良くなるのに。それこそアレックス君くらい自在に……は、高望みが過ぎるとしても。
いやー、私もまだまだ鍛錬が足りませんなー、ってね。
そもそも先輩としての矜持とか言いつつ、魔法具の力を思いっ切り借りてるのは気にしない。
今この場で活躍できるなら、何だって利用して良いよね。だって私は、この城塞都市が大好きだから。
絶対に、何としてでも守ってみせるんだ。
私が決意を新たにしながら戦い続けていると、突然状況が変化した。
ここまで際限無く湧いてくる魔物の群れと戦っていたのに、急速に数が減っていった。
これだけ言うと終わりが近付いてきたように思えるかもしれないけど、実際には全然違う。
減った量に反比例するように、質が上がったからだ。
例えば見た目は普通のオークなのに、ジェネラルオーク並の膂力と耐久力を備えていたりするようになってきた。飛行型の魔物も姿を見せ始めて、上からの攻撃に対処しないといけない場面も出てきた。
どっちも厄介だけど、特に後者はなんとかしないと拙い。
私を含めて対空手段がある人間は隙を見て空に攻撃を放ってるし、軍の大型兵器による攻撃も見えるけど。敵の数は多くない上、距離も遠くて素早い。だからほとんど攻撃が当たらない。
焦燥感がこの戦場に蔓延していく、そんなタイミングで。
──全天が、紅蓮に染まった。
飛ぶ敵の数が少ないだとか、距離が遠いだとか、素早いだとか。全て関係が無かった。
空の全てを炎で満たせば、空にあるモノは燃える。そういう、至極単純な話。
こんな出鱈目な規模と威力の火属性魔法、当然だけど使える者は限られる。
つまるところ。
七つ星の魔法使い、紅紫のエクスナーが参戦した。
真打登場。




