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第二二〇話 翼を持つ者6

やはり主人公視点が一番書いてて落ち着きますね。

という訳で今回は主人公視点です。

◆◆◆◆◆


 俺──リク・スギサキはリッヒレーベン王国の冒険者だ。【黒疾風】の二つ名で呼ばれている他、最近では黒のスギサキだの、世界最速だのと呼ばれているらしい。

 特に世界最速などと呼ばれている所為か、このリッヒレーベン王国を襲う魔物の大軍勢に対する一番槍を担うことになり、今まさに対処している真っ最中だ。


 この場に居る王国側の戦力は俺と、俺のパートナーであるフランと、騎獣のグリフォン(ゲイル)。それから白のラインハルトと、青のシャリエと、騎獣のペガサス(エクエス)


 なお、グリフォンの群れについては退避して貰った。

 飛行能力を持つ魔物で構成された敵の一番槍は既に壊滅させ、しかしその中に潜んでいた敵主力の強欲(アワリティア)と交戦を開始している今現在。生半可な戦力ではかえって足手まといになる上、敵が持つエミュレーター・コピーの能力を考えれば当然の判断だろう。


 強欲(アワリティア)は魔物を武装化する能力を持つらしく、シンプルに強い。その上、武装化された魔物も独立して動くことが可能なようで、一筋縄ではいかないようだ。


 俺は最初の様子見を除き、積極的には攻撃に参加していない。エルさん達へのサポートメインで行動している。

 理由としては、敵主力が一人紛れていた以上は二人目以降の存在も警戒すべきだからだ。


 敵の黒の神授兵装(エミュレーター)の収納機能は、俺の黒の神授兵装(エディター)のマップ機能に掛からない。けれど敵が出現さえしてしまえば、その瞬間に察知ができる。

 決定打はエルさんさえ居れば十二分にあることだし、やはり俺達はサポートに徹した方が色々と安定するだろう。


「それにしても凄いな、七つ星魔法使い(マリアベルさん)は」


 俺が渡した飛行用魔法具を使いこなし、戦闘用ではないそれで敵のミニドラゴン四体──四肢から変化したもの──のブレスを見事に回避。要所で障壁を張っていて、防御力も十分。

 お節介かと思いつつ、一機の烏揚羽(からすあげは)を飛ばして飛行の補助を入れてはみたが、不要だったかもしれない。何せ今、翼を使って空を飛ぶ強欲(アワリティア)本体の相手をしているエルさんに、適宜氷の足場を提供して援護まで行っているのだから。

 そうこうしている内に、敵ミニドラゴンに対する反撃も始まった。氷の砲弾がガトリング砲の如く撃ち出され、撃破にこそ至らないものの、敵の攻撃頻度は明らかに下がっている。


「はい、自慢の姉です」


 フランが言葉通り自慢げに言いつつ、四連結した柊花(しゅうか)を二セット用意して砲撃を行っている。

 狙う先にはミニドラゴンが居て、マリアベルさんの魔法と合わせて凄まじい攻撃密度だ。


 おっと、地上からブレスを吐いているだけだったミニドラゴン達が翼を広げた。今にも飛び立ちそうに見える。


 一か所からの遠距離攻撃と様々な方向からの遠距離攻撃では、当然ながら攻略難易度が全く違ってしまう。それは避けるべき事態だ。


「少し手を出そうか。頼めるかな?」


 俺は俺を背中に乗せてくれているエクエス(・・・・)に向かって、声を掛けた。


 返事は短い嘶きと、翼を広げる動作。問題は無いらしい。


「じゃあ行ってくるよ。ゲイル、フランを頼んだ」


 散歩にでも行くような軽さでフランに声を掛け、フランを乗せているゲイルに念押しをしておく。


 返事を聞くこともなく、俺は風魔法を発動。風が俺とエクエスを丸ごと包み、矢の如く迅速に空中を進ませる。


 四体のミニドラゴン、その一体の真上に。


 高く掲げたエクエスの前脚二本の蹄には、高密度に圧縮された空気がある。


 ──踏み付け。


 内包する破壊力を一気に解放した空気が光を歪ませ、ミニドラゴンを地面にめり込ませ、更に押し潰す。

 地面が大きく陥没し、その余波で他三体が吹き飛んでいく。


 標的だったミニドラゴンは踏み潰された昆虫のような有様となり、もはや原型が分からないほど。


 さて、散らかしてしまったけれど残り三体も片付けを──と思った瞬間。背筋を走る悪寒に突き動かされて、反射的に全力でその場を離脱せんとする。


 縮地まで使って一気に大きく距離を取り、即座に反転。そして見えたのは、やはり一瞬前まで俺達が居た場所が──巨大な竜の爪によって大地ごと抉られる様だった。


 形はともかく大きさはヒトのそれから逸脱していなかったはずの強欲(アワリティア)。その右腕が、不自然という言葉では全く足りないほどに巨大化し、大地を抉っていた。

 かつて相対した溶岩竜(ラーヴァドラッヘ)と比較してもなお、一回り大きいドラゴンの右前肢だ。


「オレっちから奪う奴は、全員殺してきた。例外は、無ぇ」


 まるで幻でも見ていたかのように、次の瞬間には元の大きさに戻っていた強欲(アワリティア)の右腕。けれど大きく抉れた大地が、幻などではなかったのだと雄弁に語る。


「今度はオレっちが奪う番だ」


 加えて、俺が奴の逆鱗に触れたことも語る。


 強欲(ごうよく)を名乗る者の逆鱗なら、そうと予想しているべきだっただろうか。






 完全に標的を俺、またはエクエスに変えた強欲(アワリティア)の行動は単純だ。

 最短距離で俺に接近し、攻撃をする。それだけ。


 新たな赤の神授兵装(マハト)所有者であるアクセルの戦い方に近いものはあるが、俺個人の印象としては全くの別物。

 何せ、自身に向けられた攻撃を避けるどころか防御すらせず、暴力的なまでのステータスでゴリ押して突破してくるのだから。おおよそヒトの戦い方ではない。


 地上では大地を爆ぜさせながら走り回り、空中では翼を二対に増やして機動力を確保してくる。陸空共に十分な移動速度は、けれど幸いにして俺とエクエスのそれには及ばない。

 とはいえこちらは逃げ回る一方であり、距離を離し過ぎても相手の行動が読めなくなるため迂闊なことはしたくない。


 大地が上げる悲鳴を背後から聞かされ続けながら、さてどうしたものかと思案している。


 ……まあ、出し惜しみせずに手札を切るか。敵に知られたところで対策がクソほど面倒で、こちらのデメリットが少ない奴を。


 そんな訳で、俺はアイテムボックスから烏揚羽(からすあげは)を四機取り出し、後方へとやる。


 またしても大地が抉れる音を背中に受けながら、烏揚羽(からすあげは)を操作。エディターのマップ機能と併用し、四機全てから風の弾丸を──少々の小細工を入れつつ──敵へと撃ち込む。やはりというか何というか、敵は気にも留めずに風の弾丸を受け、俺の追跡を止めない。


「今更こんなもん、オレっちに効くかってんだよ!」


 馬鹿にされているとでも思ったか、聞こえてきた言葉には怒りの感情が滲んでいた。


「与えられた力で強がるの、聞いてて恥ずかしいから止めてくれないか? 貰った武器で魔物を武装に変えて、それを装備してるだけだろうに。お前じゃなくても同じことができるぞ」


 なので、もっと怒りの感情を抱いて貰おうと思う。

 なお、俺自身が黒の神授兵装(エディター)の恩恵を受けまくっていることは棚に上げておく。


「……分かり易い挑発だなあ!」


 低空飛行をしている俺達の上から、影が落ちてきた。巨大な竜の爪の影だ。


 右にスライドするように飛んで回避した直後、大地が引き裂かれていくのを確認した。それと同時に、右から襲い掛かってくる新たな爪も確認した。

 反射的に高度を上げると、エクエスの蹄を掠めるようにして巨大な爪が空を切る。


 更に高度を上げつつ、エディターのディスプレイを確認。流石にまだ(・・)か。


 こちらが高度を上げたためか、強欲(アワリティア)も追従するように高度を上げて接近してくる。


 烏揚羽(からすあげは)四機を突撃させ、圧縮した風を顔面に向けて至近距離で破裂させる。当然、先程と同様の小細工(・・・)をした上で。


 強欲(アワリティア)の移動速度が僅かに低下し、咳き込む(・・・・)音が僅かに聞こえたことから、目論見は成功したようだ。


 などと安堵していたらブレスが飛んできたので、急いで回避行動に移る。

 いやちょっと待て何で二本目のブレスが──って三本目来たが!?


 エクエスに回避を頑張って貰いながら強欲(アワリティア)の方を確認してみると、本来の頭だけでなく両腕まで竜の頭部に変化していた。

 文字通り口径が小さいため、放たれるブレスの直径も大したことはないけれど。小回りが利く分で十分お釣りが来る。


 エクエスは良い騎獣だ。本来の主ではない俺の指示にも良く従い、とても素直な性格をしている。しかしながら、俺の騎獣(ゲイル)と比べてしまうと飛行能力は落ちる。

 つまり、現状は中々に危機的状況だ。

 そこへ更に、切り落とされてそのままだった強欲(アワリティア)の翼がコウモリのような姿となって襲い掛かってくるのだから、やってられない。

なお、もしゲイルに乗っていたならば余裕だった模様。

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