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第二一五話 翼を持つ者1

敵の本格始動です。

◆◆◆◆◆


 俺──リク・スギサキはリッヒレーベン王国にある城塞都市アインバーグの冒険者だ。

 【黒疾風】の二つ名で呼ばれ、黒の神授兵装(アーティファクト)エディターの所有者としても知られている。そんな民衆の記憶を消し去りたい。手段さえあれば今すぐにでも。


 それはそれとして。

 ここ数か月は国中を飛び回り、魔物を操るもう一つの黒の神授兵装エミュレーター、そのコピーの対処に当たっていた。

 国の各地で散発的に起こる騒動に対し、機動力を持つ俺が動員されたのは当然のことだっただろう。


 さて、俺はこの話を過去形で語っている。それは何故か。


 騒動が終結したから? 否。

 俺が戦える状態ではなくなったから? 否。


 いよいよ敵が本格的に動き始めから、だ。






 王国の南側にある城塞都市(アインバーグ)から更に大きく南下すると、四大霊峰の一つズュートケーゲルが見えてくる。

 麓であっても五つ星級、中腹になれば六つ星級、山頂ともなると七つ星級の実力が無ければ立ち入ることすら困難な、世界最大級の山の一つだ。


 そんな場所に、数百本のエミュレーター・コピーがばら撒かれた。

 つまるところ、最低五つ星以上の魔物で構成された軍勢が、瞬く間に出来上がってしまった訳だ。


 俺が持つエディターのマップ機能は極めて優秀であり、けれどエミュレーター・コピーに搭載されている収納機能に対しては無力。

 それ故、仮に大量のエミュレーター・コピーを収納した一本のエミュレーター・コピーが存在したとして、マップ上では単に一本のエミュレーター・コピーとして表示される。

 特に今は国中にエミュレーター・コピーが点在しているため、稼働中の物以外は放置せざるを得ない状況──というのは言い訳か。


 ともあれ、この世界(エクサフィス)にとって実に三百年ぶりの災厄が訪れようとしている。

 何せ魔物の軍勢は真っ直ぐ北上し、城塞都市へと向かっているのだから。


 事態を把握した俺は、関係各所に連絡。

 冒険者ギルドは薄々何かを察していたらしきギルドマスターが速やかに動き、城塞都市より南にて冒険者による防衛線を構築した。

 王国としても軍を派遣し、この防衛線を強化。数多の兵士たちや移動砲台などの兵器がずらりと並ぶ様は、中々に壮観だ。


 なお、ギルドマスターには俺がここ最近ずっと王国中を飛び回っていたことを知られていたため、それと今回の一件との関連性を追及された。

 半ば予想していたことではあった。だから俺は、紅紫のエクスナーと白のラインハルトと青のシャリエと導師は把握している旨を伝えておいた。

 導師は別として、他三名はギルドが誇る七つ星冒険者だ。その三名が事情を把握していながら、ギルドマスターに何も話をしていなかった。その事実は重かったらしい。

 俺は如何にも不思議そうな表情を作って「ご存知ではなかったのですか?」と言って差し上げた。その結果はまあ、ギルドマスターの面白い表情を見ることができた、とだけ言っておこう。


 話が横に逸れたけれど、とにかく城塞都市はその呼び名に相応しく迎撃態勢を整えている。

 そして当然、待っているだけでもない。


 ズュートケーゲルにばら撒かれたエミュレーター・コピーは数百本だが、操られた魔物の頭数はその何十倍にもなり、種族も多岐に渡る。

 統率こそされてはいるが、本来ならば団体行動など望むべくもない異種の魔物同士。必然的に移動速度も違ってくる。

 つまるところ、例えばハルピュイアやリントヴルム、フレスヴェルグ、グリフォンなどの飛行可能な魔物が大きく先行していた。


「……まあ、グリフォンの群れ一つを前もって退避させられていたのは、不幸中の幸いか。参戦までしてくれるとは思ってなかったけど」


 自身の騎獣であるゲイルの背に乗って空を飛びながら、俺はしみじみと呟いた。


 周囲にはゲイル以外のグリフォン達──元々ゲイルが居たらしい群れの仲間──も飛んでいる。ゲイルも合わせれば二十一頭のグリフォンがフォーメーションを組んで空を飛んでいるため、それなりに壮観だろう。


「ゲイルが群れの長の子だったというのは少々驚きました。もっとも群れからすれば、突然失踪した長の子がこれまた突然人間を背に乗せて戻ってきて、更に圧倒的な飛行能力を見せ付けて長の座を勝ち取ってしまったのですから。その驚きは私達の比では無いとも思いますが」


 俺の後ろに居るフランが、声の感じからして恐らく苦笑しながら事の経緯を振り返っている。


 するとゲイルが短く低く鳴いた。実に不服そうだ。


「長になった覚えは無い、だそうだよ」


 意訳して俺がゲイルの代弁をすると、フランは再び口を開く。


「ですが、群れからは長として認められてしまったのでしょう? 現にこうして、先頭を飛行していますし。群れが追従していますし」


 そう、俺達はフォーメーションの先頭に居る。

 それは単純に、ゲイルと俺の風魔法の影響を後方にまで与え、集団全体の飛行速度を上げる目的があってのことではあるけれど。そもそも複数のグリフォンの同時飛行で先頭を担うのは、集団の中で最も地位が高い個体であるらしい。つまり、この場合のゲイルだ。


 グリフォンの群れは、最も空を自在に飛べる個体を長とする。

 ならば、ただでさえ全身の羽根一枚一枚が【黒疾風(おれ)】の魔法具と化している上、縮地をはじめとした特殊運用を習得し、素の飛行技術も今なお磨き上げ続けているゲイルがその座に収まるのは、当然の帰結だった。


「このままズュートケーゲルに居ると自由意思を奪われ操られてしまう危険性があるから、住処を移せ。……なんて、すんなり通せる要求じゃなかったしな。俺には今のゲイルの気持ちが良く分かる」


 ゲイルの目的は、あくまで群れの移住。決して群れの長になることではなかった。

 即断即決で群れを飛び出したくらいには自由な性格をしており、けれどその群れに危害が加えられる可能性が十分以上にある状況を見過ごすほど冷淡でもない。

 もし俺がゲイルの立場に居たとすれば、きっと似たような行動を起こしていただろう。


「リクとゲイルは良く似ていますからね」


 フランにそんな指摘をされ、まるで思考を読まれていたかのようだと思った。


「初対面で共闘したくらいだから、波長は合ってると思うよ」


「ええ、そうですね。波長も(・・・)合っています」


 わざと少しだけ的を外した返答をするも、フランには軽く受け止められてしまった。


「やっぱり一生勝てる気がしないな」


「……? それほどの強敵が、この先に待ち構えているのですか?」


「いやそうじゃなくて」


 思わず口走った俺もアレだけれど。久々にフランの天然っぷりを見た。


「ああ、けど、ちょうど敵は見えてきた。総数は千にも届きそうだ」


 遠くの空にて、小さな点が無数に浮かぶ。時間を追うごとに点は大きさを増し、その輪郭を露わにする。


 ヒトの女性と鳥を混ぜたような、ハルピュイア。

 四肢と翼を持つ竜、リントヴルム。

 巨大な怪鳥、フレスヴェルグ。

 巨大な鷲に獅子の下半身を繋げた、グリフォン。


「数だけ揃えてわらわらと。……墜とすぞ、ゲイル。この大空が誰の領域か、教えてやれ」


 俺達に追従する群れを牽引するため拡散させていた風を、こちらに引き戻して収束させる。ゲイルの翼に沿うように、何よりゲイルの意に沿うように。


 次の瞬間、ゲイルは羽ばたき──音を置き去りにした。

戦闘の開始まで行けませんでした。

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