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第二〇八話 色欲2

今回は短めです。この先の展開的に、一旦区切らないと不格好になり過ぎるもので。

 話の区切りだったためかルクスリアは一呼吸置いてから、また口を開く。


「今の話の中で、うちが一番嫌やったこと。リクはんは、なんやと思う?」


「……自分に愛を囁いた男ですら、物扱い──結局は下に見ていたことか?」


「──あはっ」


 口元を袖で隠すルクスリアだが、隠す直前に見えた口の形はぞっとするほど美しい弧を描いていた。


「そうなんよ。うちを攫ってでも手に入れようとした男ですら、うちのことを見下しとったんよ。そんなん、許されへんやろ?」


 まあ、分かる。


「うちの事を嫌う輩から向けられる感情なんて、ほんまはどうでもええんよ。せやけど、好いてくれとるはずやのに、うちを低く見とったこと。これはどういうことやろなって」


 確かに、どういうことだろうか。


「うちの自由意思は認めてくれへんし、家の外に出るなんてもっての外。みんなに愛されへんから、自分だけが愛してやるっちゅう傲慢さ。ああ、ちなみにベッドの上でもそんな感じやったから、まあ下手糞やったねぇ」


 クスクスと笑って、散々こき下ろしている。一見すると、むしろ楽しそうにも見えるが。


「──本当は、自分が殺したかったのか?」


 どうにも剣呑なものを感じたものだから、俺は確認してみる。


「あは。理解してくれて、ほんまに嬉しいわぁ。リクはんとは、初めて()うた気がせぇへんね」


 喜色もあらわに、燻ぶらせ続けている殺意を白状された。


「男と話して、こないに楽しい気持ちにさせられたんは初めてかもしれんわ。どうやろ、このままうちと一緒に()ぉへん? 誰に憚ることも無く自由に振舞うんは、気持ちええよ?」


 ルクスリアの白魚のような手が、俺に向けて伸ばされる。


 罠のつもりか、本気か。それは分からないけれど。

 俺の答えは決まり切っている。


「お断りだ」


 そう言い切った直後に、巨大オークの四肢が右足を除いて(・・・・・・)付け根から破裂する。


 突然の出来事にルクスリアが驚愕の表情を浮かべながら落下していき、俺に対して伸ばしていた手が空を掴むように動く。

 そのまま落下するかと思ったが、巨大オークの胴体が蠢いてルクスリアの身体をキャッチし、事無きを得た。残念なことに。


 巨大オークの喪失した四肢の付け根部分、三か所から。黒い蝶がひらひらと舞う。

 その正体は、俺が導師から新たに受け取った魔法具──烏揚羽(からすあげは)だ。

 烏揚羽、つまり蝶とは言ってもその造形は単純で、正三角形二つの頂点を繋げただけのもの。機能の一つ(・・)として、今しがた行った攻撃のように風魔法の行使が可能だ。


「未だに俺へ敵意を示さないこと、そして今回の襲撃で死者は一人も出していないこと。この二つを以って、今回だけは見逃してやる。ただし、これから街でヒュドラの毒腺をぶちまけでもすれば──その時は、生まれてきたことを後悔することになる。くれぐれも、判断を誤ってくれるなよ」


「……あは、存外甘いところもあるんやねぇ」


 しばし呆然としていたルクスリアだったが、まだまだ余裕があったらしい。そんなふざけた言葉を寄越してきた。

 とはいえ俺が無反応を貫いていると、諦めたように首を横に振り、エミュレーター・コピーを取り出す。

 巨大オークが恐らくはエミュレーター・コピーの中に収納されて見えなくなり、そして──ルクスリアの腰の辺りから巨大なコウモリの羽が生えた。

 パタパタと羽を動かし、ゆっくりと浮かんでくる。


「実は、うちも飛べるんよ。お揃いやね」


「見逃してやると言われて尚もこの場に留まろうとするというのは、俺に殺されても良いという意思表示か?」


 突然だが、エディターのマップ表示は色によって人や魔物を区別する。前者は青、後者は赤で。

 なら、目の前にある()の表示は、やはりそういうことだったのだろう。


 人と魔物の融合体。それが、今以てマップ上に名前が(・・・)表示されない(・・・・・・)原因と見て良いだろう。


「長話に付き合うてくれたリクはんに、心ばかりのお礼をしよう(おも)て」


 俺の脅しはまるで効果が無かったらしく、ルクスリアは平然と話を続ける。


「うちらのボスなんやけど──神様、らしいんよ」


 何だその、新興宗教の教祖が調子に乗り過ぎた結果のような話は。


「いやぁ、うちも半信半疑なんやけどね。しかも初対面でいきなり言われたもんやから、驚いたわぁ」


 俺が胡乱な目で見ているからだろうか、言い訳のような言葉が出てきた。


「ただ、神様っちゅうもんをうちはよう知らんし──簡単に一蹴してしまえへんだけの()を、見せてもろたから」


 力、ねぇ。


「具体的には何を見せられた?」


「そこまでは、言えへんよ。心ばかりのお礼言うたんやから、その範疇には収めとかな」


 まあ、良いか。具体的な話をされたとして、それを信じるかどうかは別の話になる。むしろ具体的であればあるほど疑う必要が出てくる。

 それならば、比較的嘘の割合が低いであろうこの辺りまでで打ち切るのは、判断として妥当なはずだ。


 ともあれ……神を名乗る者が、敵の首魁らしい。

 これが嘘である可能性は低いだろう。勿論、本当に神である可能性は更に低いだろうが。


 俺が知る神というのは、俺がこの世界へ転生する際に会った女神だけ。

 自身を最高神であると言い、そうと納得させるだけのオーラがあった。そもそも異世界間で魂を移動させ、肉体を再構築し、精神の転写(・・・・・)によって武装を与えるなどと、神の御業としか言えないだろう。


「ほな、お暇させて貰います。またな、リクはん」


「ああ、できれば二度と会わないことを願う」


 ルクスリアの友達のような気軽さに対して、俺はあくまで塩対応。どうせ会うことにはなるんだろうけどな。


 苦笑いくらいはさせられるかと思ったが、ルクスリアは笑顔。

 お前の精神構造、おかしいよ。


 フレンドリーに手まで振ってから、ようやく背を向けて俺から離れていった。

選んだルート次第で裏切りそうなキャラになりましたね。

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