第一九五話 衝波1
強くなることに余念が無い系主人公。
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俺ことリク・スギサキは、城塞都市アインバーグを活動拠点とする冒険者だ。
最近はその活動拠点を大きく離れて活動することも増えているので、果たして拠点と言えるのか分からなくなってきているけれども。自宅があるのできっと拠点だ。
さておき。
王都にて、俺が新たな神授兵装所有者として大々的に公表されたのは、一週間ほど前の事。民衆に向けたオープンなトークイベントに、御前試合、それから二夜に渡って開かれたパーティー。一つの予定外な出来事を除けば順調に進んだそれは、少し距離を置いたこの城塞都市にも影響を及ぼしていて。
「良い武器だとは思ってたが、それがまさか神授兵装だったとはなぁ……」
今現在、訓練所にて訓練に勤しもうとしている俺に話しかける人間が、多数居る。大抵は追い払っているものの、顔見知りについてはそれも憚られたので応対している。
今のトビアス・シュレーダー……四つ星の槍使いのように。
トビアスの視線は真っ直ぐ、俺の手にある大太刀形態のエディターへと注がれていた。
「驚いたか?」
「それが、納得の方が大きいんだよ」
一週間前のアクセルとエルさんのような反応だ。ところで、アクセルについてだけれど。
「んで、そっちの強そうな兄ちゃんは誰なんだ?」
「アクセル・ゲーベンバウアーだ。しばらく王国に身を寄せることになってな。ま、よろしく頼むぜ」
今、俺の隣に居る。
「……赤のゲーベンバウアー」
トビアスの表情が固まった。無理も無い。
「その呼び名は俺にゃまだ早ぇよ。そいつは七つ星まで行って初めて相応しくなるモンだ」
俺がギルドと王室に大々的に宣伝されたのと同様、アクセルもまた赤の神授兵装を継承した者として名を広められた。今しがたトビアスが言ったように、アクセルは新たな赤のゲーベンバウアー、俺もまた黒のスギサキなどと一部で呼ばれ始めているようである。
勘弁しろ。
「お、おう、そうか……。ああそうだ、俺はトビアス・シュレーダー。しがない冒険者だが、名前だけでも覚えといてくれよ」
人好きする笑みを浮かべ、トビアスは自己紹介を返した。
「しがない冒険者なんて言ってるけど、御前試合で俺が使った技法の幾つかを習得してるし、それなり以上にやるぞ」
俺はそこに情報を追加しておく。
「やめてくれよ! アンタに褒められるとマジで強いと勘違いされちまうだろうが!」
慌てた様子を見せるトビアスだけれど、何処となく嬉しそうにも見えるのは俺の気のせいだろうか。
「ハハッ、やっぱリクはそういう扱いだよな」
「おいどういう意味だアクセル」
悪意無く害を撒き散らす、とまでは言わないにしろ。それに近い何かにはなっていそうな感じだ。
「別に悪い意味じゃねぇよ。ただ、強ぇ奴に──強ぇと認めてる奴からあんな素直に褒められたら、さっきみてぇな反応も頷けるって話で」
俺だってお前から褒められたら嬉しいぜ、なんて言葉をアクセルは付け足してくる。
「ところで、これはそういうことで良いのか?」
ここで話題が変わった。
訓練所に来た理由についての話だ。
城塞都市に来た理由とはまた異なるけれど。
アクセルが導師と話をするための場を整えるまで時間が必要だったので、アクセルは一時的に俺とフランの家に宿泊している。何せ導師は武術都市にて最も力を持つアサミヤ家の中でも、更に高い地位に居る。加えて、王国各地を転々としているのだから。
なお、既に紅紫のエクスナーことクラリッサ様とは話し合いの場を設けて、アクセルの祖父であるジーグルトとは違い会話が成立する人間であることを理解して貰ったりもした。筋金入りの嫌悪感だったけれど、何とか理解して貰った。俺もアクセルも、本当に頑張った。
閑話休題。
訓練所に来た理由だが、俺ともう一人に、アクセルが使う衝波──攻撃の衝撃を遠方に飛ばす技法を教えて貰う為だ。
俺はマップに表示された訓練所の入り口を通るそのもう一人の名を見ながら、口を動かす。
「いや、トビアスは違う。タイミング良く、今ここに入ってきた奴だよ」
それから実際の入り口の方を向いて、当該人物──アレックス・ケンドールを見た。
不本意ながら一躍時の人となってしまった俺とアクセルが、揃って視線を注ぐ人物。そんな状態であれば視線を注がれたアレックスも、やはり周囲から更なる視線を集めて。
「……僕に何の用だろうか?」
原因は明らかだと言わんばかりに真っ直ぐこちらへ歩いてきたアレックスは、開口一番に疑問をぶつけてきた。その顔に引き攣った笑みを浮かべつつ。
「そんな顔をするなよ。ここ最近の俺からの影響は、お前に益のあることばかりだっただろうに」
「……いや、長い目で見れば最初から益のあることしかなかったけれど。それはそれとして、今回は何の用だい?」
おや、意外な評価だ。とはいえこれはお互い様かもしれない。けれど、重要な話ではない。
さっさと本題に移ろう。
「こちら、衝波というステータスシステムの特殊運用を俺達に教えてくれる、アクセル・ゲーベンバウアー先生だ」
手でアクセルの方を示しながら、確定事項として知らせた。
「僕の意思が一切そこに介在していないようだが???」
「内容を知ればどうせ覚えたくなる」
「それはそうだろうけれども! 何せ君が覚えようとするくらいだからね!」
おお、実に力強い反応だ。とりあえず流すが。
「アクセル、彼はアレックス・ケンドール。今は四つ星の魔法剣士でレベルもそれ相応だけど、俺が御前試合で見せた技法を全て習得済みな上、練度も俺と大差が無い。順当にいけば最低でも五つ星、上手くいけば六つ星にも上がれる才能がある癖に、少し前まで三つ星でもたついていた過去を持つ男だよ」
「褒めるか貶すか、どちらかにしてくれないか!?」
端的に事実を述べた結果、上げて落とすような内容になってしまった。
これは仕方がないな。だからそう声を荒げるなよ、アレックス。
「で、衝波が何を可能とする技法なのかだけど」
「せめて会話をしてくれ頼むから!」
「近接攻撃を、魔法を使わず遠距離攻撃にできる」
アレックスの訴えを無視して話を進めてみたら、黙った。
流石に怒ったのか、或いは。
「……それは、例えば重撃と組み合わせると恐ろしいことになるんじゃないか?」
或いは、拡張性に気付いたか、と。
やっぱりこいつ、ステータスシステムの運用については本当に優秀なんだよな。
才能に気付くのが遅かっただけで、実はポテンシャルお化けだったアレックス。