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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一九四話 優良物件

家屋のことではないです。

ただし、家のことは関係しますが。

◆◆◆◆◆


 御前試合を終えて、夜。

 俺──リク・スギサキは二夜続けてのパーティーに出席していた。


 会場は昨日と同じく王城のダンスホール。落ち着いたメロディーを奏でる楽団は、顔ぶれが昨日と異なっているようだ。


 そしてやはりと言うか、当然と言うか、俺の周囲には多くの人が集まってくる。口々に先刻の御前試合の話題を出して、吟遊詩人もかくやという美辞麗句を並べ立てた。


 悪い気はしない、という感想を抱くのが普通なのだろうけれど。如何せん、赤の他人かつ戦えない人間に褒められても、然程嬉しくないな。ただの社交辞令だろうから。

 自分の顔に笑顔を貼り付けるのは、忘れていないけれど。


 さてそんな中、少々見知った顔が現れた。

 会ったのは一度だけで、けれど強く印象に残ったその人の名は。


「お久しぶりですわね、スギサキ様。セレスティーナ・ロハスです。わたくしの事は、覚えておいででしょうか?」


 セレスティーナ・ロハス伯爵令嬢。

 以前会った場所は今日と同じく王都の、迎賓館だった。帝国軍人のベットリヒ少将を護衛していた時だな。

 小柄な上に顔立ちも可愛らしく、さぞや男受けが良いだろう、と第一印象を抱いた人物だ。今夜は比較的シンプルなデザインの、薄紫のドレスに身を包んでいる。


「勿論です。王都の迎賓館でお会いして以来ですか。ところで、お隣にいらっしゃる男性は……?」


 ロハス伯爵令嬢の隣には、仕立ての良い服に身を包む壮年の男性が居た。マップ上の表記はフェルナンド・ロハス。恐らくは彼女のお父上だろう。


「初めまして、次代の英雄リク・スギサキ殿。私はフェルナンド・ロハス、ロハス伯爵家の当主だ」


 甘いマスクの優男が、そのまま上手に歳を重ねればこうなるだろう、といった印象の男性。何処か甘やかな声色は、娘にしっかり引き継がれていたようだ、といったところ。


 傲慢ではなく、下手に出る訳でもなく。けれど確かな敬意を払うその様は、この二日間で俺が出会った貴族の面々の中で最も俺という人間を直視しているように思われた。


「もっとも、スギサキ殿の神授兵装(アーティファクト)があれば私の名など既知のものだろうがね」


「ええ。ですが、それを承知の上で丁寧な自己紹介をして頂けるのは、とても嬉しいものです」


 中には自己紹介を端折って、いきなり話をしてくる輩も居たからな。当然、こちらからの印象は悪いものになる。


「やはり、スギサキ殿は礼節というものを重視しているようだ。これは娘に聞いた通りか」


「ご息女から、ですか」


 交流らしい交流はろくにしていない筈だけれど。


「まあ、そのように他人行儀な呼び方はわたくし嫌ですわ。ですので是非、セレスティーナと……いいえ、セレスとお呼びください」


 セレスティーナ・ロハス伯爵令嬢がガンガンに攻めてくる。


「お戯れを、ロハス伯爵令嬢。平民に過ぎない私には、あまりに畏れ多いことでございます」


 俺はその分、ガンガンに逃げるけどな。


「わたくしの名を、呼んではくださらないのですか……?」


 そしたら滅茶苦茶悲しそうな顔をしてガンガンに責めて(・・・)きた。


 予想していなかったと言えば嘘になるけれど、マジでやりやがったよこのご令嬢。

 周囲で事の推移を見守っていた貴族のお歴々が、彼女に対して同情的な視線を向けている。


「……それでは、セレスティーナ様とお呼びすることを、お許し頂ければ」


「セレス、ですわ。リク(・・)様」


 どさくさに紛れてスギサキ(・・・・)からリク(・・)へと呼び名を変えてきやがった。


 しかし、先程から妥協点を探り続けている俺の隣に救いの神が──女神がやって来る。


「お久しぶりです、セレスティーナ様」


 とても穏やかな笑みを浮かべたその女神──フランセット・シャリエは隣にやってくるなり俺の左腕を取り、自身の腕を軽く絡ませた。


 おっと、これは様子がおかしいな?


「ええ、お久しぶりですわ、フランセット様。ところでわたくし、リク様と(・・・・)お話をしているところだったのですけれど」


「はい。とても楽しそうなお声が耳に届いてきたものですから、リクの(・・・)パートナー(・・・・・)である私もお話に参加させて頂きたく思いまして」


 こっわ。女の子こっわ。

 両者の間でバチバチに散る火花を幻視した。


 俺はフランの視界内で女性から言い寄られた経験が無かったので、フランのこういった反応を見るのは初めてのこと。そして、少々フランの顔が赤い。

 これは、かなりの量のアルコールを摂取しているのでは……?


 昨夜のパーティーでは終始フランに隣に居て貰ったけれど、今夜は違う。この先俺一人で貴族の相手をしなければならない場面もあるだろうと、半ば訓練として一人になっていた。

 だからフランは、エルさんやマリアベルさんと一緒に居たはずなのだけど。何故、一定以上の飲酒を許されてしまったんだ。あの二人なら、フランが飲み過ぎると暴走するきらいがあるのは知っているだろうに。


 そこまで考えてマップを確認し、件の二人が居る方へ視線だけを遣る。

 エルさんは苦笑し、マリアベルさんは清々しい笑みを浮かべて楽しそうに手まで振ってきた。七つ星冒険者の常識人枠だと思っていたマリアベルさんからの、まさかの裏切りである。

 ついでに、エルさんはこういう場面において戦力にならないという事実が発覚した。それで良いのか人類最強。……大体分かってたけどさぁ!


 ともあれ、この場は俺がどうにか動く必要があるのは分かった。幸い、利用できるファクターはある。


 俺は空いている右手で、セレスティーナ様との間に火花を散らすフランの頬に触れて顔をこちらへ向けさせる。それから顔を近付けた。


「リ、リク……ッ!? あの、突然何を……!?」


 赤くなったフランの顔色を良く観察している、というポーズを周囲に見せる目的だったけれど。予期せぬ効果として、フランの顔が更に赤く染まった。

 よろしい、好都合だ。


ああ(・・)やっぱり(・・・・)


 俺は直前に決めた台詞回しをそのまま続け、フランから視線を外してセレスティーナ様に向き直る。


「どうやら彼女は少しばかり飲み過ぎてしまったようです。私は彼女を介抱して参りますので、ここで一度失礼致します」


 この場を辞するための建前ではあるが、事実でもある。この状態のフランを放置する選択肢は無い。


「パーティーの主役が一時的にとはいえ、退室なさいますの?」


 ご尤もな意見ではある。しかしながら、それに対する反論は既に用意があった。


「あまり褒められたことではないのでしょうが、問題とまでは言えないかと。幸い、今宵の主役は私一人では(・・・・・)ありませんので(・・・・・・・)


 ここで俺はゆるりと優雅に右手を動かし、その先に居るもう一人の主役を示す。

 それは当然、新たな赤の神授兵装所有者となったアクセル・ゲーベンバウアーその人だ。


 急に周囲の視線が自身に集まったことに気が付いたらしきアクセルが、更に俺に気付いた。


 こちらが笑みを貼り付けてアクセルからの視線を受け止めると、アクセルは状況を何となく察してくれたようで。しょうがねぇな、とでも副音声が聞こえてきそうなため息を一つ吐いてから、軽く手を振ってくれた。


 あいつ本気で良い奴だな。後で絶対にお礼をしよう。


「それでは中座の程、失礼致します。ロハス伯爵、セレスティーナ様(・・・・・・・・)


 ファーストネームで呼ぶことは避けられなかったけれど、話の流れを中断させられればそれで良い。愛称で呼ぶことは避けた。これを後から蒸し返すのも妙な話になるし、最悪蒸し返されてもあくまで終わった話として対応すれば良いことだ。

 そういう思惑のもと、俺は未だに顔が赤いフランを連れてダンスホールを去る。











◆◆◆◆◆


 黒の神授兵装(エディター)の所有者にして【黒疾風】の二つ名を持つ、王国有数の冒険者となられたリク・スギサキ様。遠ざかっていく彼の背中を見送りながら、わたくし──セレスティーナ・ロハスは内心でため息を吐きます。


「些か強引だったのではないか、セレス?」


 わたくしを(たしな)めるように、お父様が言いました。ただし周囲の喧騒に紛れてしまう程度の、わたくし以外には聞き取れない声量で。


「隙が全く無いという訳ではなさそうだが、平民であることが信じられない程には場慣れ(・・・)している印象を受けた。何より、強引に隙を突こうとすれば手痛い反撃が来るように思える」


「わたくしもそれは心得ておりますわ。ですのでこうして、王室主催(・・・・)のパーティーで攻め込んでみたのではありませんか」


 このパーティーで騒動を起こしたとなれば、それは王室に対して泥を塗る行為に他なりません。それほどのリスクを負ってまで騒動を起こすか、という判断基準でこちらの行動を決めるならば、安全確保も十分と言えるでしょう。


「とはいえ、遅きに失した感は否めませんわね。今更ですが初対面の時、もう少し踏み込んでおくべきでした」


 他の王国貴族も、このお披露目でリク様の存在を認識してしまったのですから。


「それで敵として認識されては、元も子もないと思うが」


「まあ、お父様はわたくしがそのような無様を晒すとお思いですの?」


 心外だと言わんばかりに大げさに嘆いてみせると、お父様は首を横に振りました。


「お前のそういうところが、彼からの警戒を強めているように思える」


「……悪印象を好印象へと反転させる、というのはそれなりに実例がある事柄ですわ」


「警戒されている自覚はあったようで何よりだ」


 痛いところを突かれ、反論の言葉を見付けられなくなってしまいました。


 そも、わたくし容姿には自信がございますし、殿方の好みやすい表情や仕草というものも心得ているつもりです。だというのに、いえむしろだからこそ、リク様からは警戒されているようなのですから、世の理不尽を嘆かずにはいられません。

 欲しいものを手に入れるために努力をしてきた結果、本当に欲しいものからはかえって遠ざかるなどと。


「神授兵装所有者ともなれば、並の貴族よりも優遇される立場となる。それこそ現に、王室とギルドが共同でその名を広めようとする程に」


 わたくしが自己嫌悪にも近い感情に浸っていると、お父様が現状を整理するように話を始めました。


「故に貴族と同様、複数の妻を娶るということも、過去に認められたことがあったそうだ」


「……存じております」


 実のところ、わたくしはお父様に自身の狙いを正確には伝えていません。ですがこれは、確実に見抜かれていますわね。


「青の神授兵装を有するシャリエ家の、次女。競争相手として、地位だけで見れば伯爵家の長女の方が優位だろうが……。肝心の彼は、随分と彼女を大切にしているように見受けられる」


 ここで一度言葉を区切り、お父様は手に持ったグラスを傾けて舌を湿らせました。


「伯爵家の長女が、相手は神授兵装所有者とはいえ側室のようなものに収まるというのは、中々に認めがたい」


 そして改めてわたくしを真っ直ぐに見て、選択を迫ります。正室か、さもなくば諦めろ、と。

 ですが。


「お父様が素敵な殿方を見付けてくださらないから、こうしてわたくし自身が動いているのですけれど」


「侯爵家の次男との婚約ですら蹴ったお前のお眼鏡に適う男を見付けるというのは、無謀という言葉すら相応しいように思うのだが?」


「地位よりも能力に比重を置いた、堅実な判断を下しているのです」


 その点、リク様はご本人が神授兵装所有者であり地位も十分。能力は、次々に挨拶をしに来る貴族を問題無く捌いていらっしゃいましたので十分です。武勇に優れていることは以前からの噂に加え、今回行われた御前試合で大々的に広まりました。また、最近では冒険者の後進の育成にも手を出し成功されているとか。

 民衆からの支持を得やすい素材があるというのは、明確な強みです。


 問題は、どうやらリク様がフランセット様をとても大切になさっていること、そしてわたくしと同じ狙いを持つ貴族令嬢の存在、ですわね。

 ええ、競争率が高いのです。

まあ、ハーレムにはならないんですけど。

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[一言] フランの機嫌を損ねた時点で半分くらい敵認定されてそう
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