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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第一章 冒険者としての始まり
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第一九話 調査クエスト3

 それから程なくして、俺とフランが居る個室の前まで足音が近付いて来る。


「遅くなってすまない。待たせてしまったね」


 姿を現したのは言葉通りすまなそうに表情を曇らせた、エルケンバルト・ラインハルトさんだった。


「いえ。急なお呼び出しにも拘らず来てくださって、感謝しています」


 そうフランが礼を述べたので、それに続いて俺も感謝の言葉を述べておく。


 するとエルさんは、それは気にしなくて良いよ、とあっさり返した。

 そしてすぐ、向かい合って座る俺とフランを交互に見た後、一言断ってから俺の隣に座る。


「コマンドブルの群れが近隣の村に侵入してきた原因の調査と聞いているけれど、現段階ではどの程度の情報があるのかな」


 早速本題に入り始めたエルさんだけど、彼の前にだけ皿が無いというのは如何なものか。


「その前に、エルさん。夕食は済ませたんですか?」


 済ませてるんだったら別に良いけど。いやそれでも、何か軽くつまめる程度のものは欲しいか。


 そんな俺の思考を他所に、エルさんは今気付いた(・・・・・)と言った表情で一瞬固まった。


「そういえばまだだったよ」


 ははは、と乾いた笑いをするエルさんに、俺はそっとメニューを差し出した。






 肉厚のステーキが、鉄板の上で食欲を掻き立てるジューシーな音を立てる。エルさんが注文したものだ。


「気を取り直して、本題に戻ろうか」


 料理が来るまでの時間をちょっとした自己紹介と雑談で消化していた俺達。

 その中でエルさんの人となりを確認していったが、現段階ではとにかく良い人(・・・)だ。柔和な態度を崩さず、それでいて芯のブレが無い。今はほんの少しだけ隙があるように見えるのも、特に計算された感じは無さそうだった。

 そしてラインハルト家もまた、シャリエ家やエクスナー家と同様に神授兵装(アーティファクト)を保有しているそうで。その神授兵装は今、当然の如くエルさんが所有しているそうな。周囲のパワーインフレが最初からフルスロットルとか、勘弁して欲しい。


「現状では、幾らかの推測ができる程度の情報しかありません。アインバーグから北方面でブル種が生息する場所は複数ありますから。ただ、突発的な魔物被害が現在はブル種によるものしか報告されていないのが気になります」


「外敵に追い立てられたにしては、ブル種の群れに目立った外傷も無かった。……というのも俺は気になってます。何か不自然な気がして」


 戦う前から逃げ出す程の強敵に追い立てられたってんなら分かるけど、だったらフランが言う通りブル種だけしか出てきてないってのが不自然になる。或いはもっと沢山の群れが動いていればまだしも。


「比較的小規模な話だから、真相は些細なことかも知れないけれど。頭の片隅には置いておいた方が良さそうだね。魔物が自分達のテリトリーを出るだけの理由があったのは、間違いない訳だから」


 断定的な言葉は使わないものの、エルさんも多少の違和感を覚えているようだ。これで本当に些細な話で終わったら、酒の肴として処理しよう。ちょっと財布の余裕ができてるから、飲みたい。


「明日は少し用事があるから参加できないけど、明後日には合流させて貰うよ。合流場所は先に決めておいた方が良いかな?」


 七つ星冒険者の用事とは何だろうかと気になったものの、余計な詮索をして面倒な事態に巻き込まれたくはない。明後日から合流できるというのであれば、それはそれで明日は俺も自重をする必要が無いということになるし。


「明日の状況次第ですから、必要なときに念話をしましょう。予定としては、ボスコの宿に泊まるつもりですが」


 ボスコとは、アインバーグの北に位置する町らしい。人口は二千人程度。野生動物も多く棲息する森が近くにあるそうで、その地に居る人達の狩場になっているとのこと。ただし魔物も生息しており、奥まで進むのは他所者か無謀な町の若者くらいなものだそうで。

 その森にはブル種も生息しているので、調査対象の一つだ。


「じゃあ、何事も無ければそこで落ち合うことにしようか」


 それにしても、とエルさんが続ける。


「まさかこんなにも早く、同じクエストで協力することになるとは思わなかったよ」


 実に楽しげなその言い方は、文面だけなら皮肉にも取れるけれど。全く嫌味な感じのしない笑みと共に言われた俺からすると、その可能性は皆無に思われた。


「周囲からどう思われるか、それが結構な不安材料ですけどね」


 苦笑しながら言った俺の言葉に、エルさんも似たような表情を浮かべた。


「まあ、そう……だね。けれどそれは多分、一時的なものになるんじゃないかな」


 意味深なことを言われた。今度は不敵な笑みを浮かべ始めたエルさんに。


「フランセットさんも同じように思ったからこそ、こうして僕をパーティーに誘ったんだろうしね」


 フランとエルさんの目が合う。お互いに頷いている。

 え、何このアウェー感。俺の話題なのに、俺だけ置いてけぼりにされてんだけど。


「あの、それは一体どういう……?」


 困惑しつつも質問してみることにした俺。だがしかし。


「私が思うに、内容を話したところでリクは納得してくれないでしょう。ですので無駄な労力は省くべきだと思います」


「フランからの扱いがこんなにも雑に……!」


 いや考えられる内容はある程度絞れてるけれども。そしてその内容は確かに、俺には納得しかねるけれども!

 だってフランからの評価が既にそこそこ高くなってるのは把握してるし! 絶対お世辞言うタイプじゃないのも分かってるし!

 でもその割にこの扱いとか、本当に解せないんだけど!?


「はは、二人とも仲が良いね。まるで幼馴染みたいだ」


 そしてどうやらエルさんは傍観者の立場だし。朗らかに笑みを浮かべてるだけだし。


「世の中の幼馴染がどの程度の割合で仲が良いのかは知りませんが、俺とフランは出会って数日ですよ」


 全く幼くからは馴染んでないんだけど。


「そもそも雑な扱われ方を見て、それで『仲が良い』って……。──なるほど、意外と尻に敷かれるタイプですか、エルさんは」


 半分は推測、半分はただの勘で。ただ、自分の中ですとんと腑に落ちたその言葉はエルさんに突き刺さったらしい。


「そ……っ、そんなことは、無いんじゃない、かなぁ……」


「目を逸らしながら言われても、全力で肯定されてるようにしか見えませんよ」


 エルさんはがっくりと項垂れた。

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