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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一九〇話 御前試合2

本格的に試合開始。

◆◆◆◆◆


 僕──エルケンバルト・ラインハルトは今、王都の闘技場にて先程開始した御前試合の解説役を務めている。

 当初の予定では僕も試合に出ることになっていたけれど、どうやら導師の思惑によって対戦カードの変更が行われたものだから。


 この円形闘技場(フラウィウス)で、現在戦闘を行っているのは二人。


 一人は僕も良く知る王国所属の冒険者、【黒疾風】の二つ名を持つリク・スギサキ君。

 高い攻撃力と機動性を併せ持つ上、風魔法の精密操作によって単独飛行をも可能とする魔法剣士だ。


 もう一人は帝国所属の冒険者、【煌拳】の二つ名を持つアクセル・ゲーベンバウアー君。

 つい昨日、彼の祖父から赤の神授兵装(マハト)を受け取った拳闘士だ。


「初手で互いの魔法を真正面からぶつけ、大爆発! その爆炎の中をアクセル選手は突撃し、けれどリク選手もまた冷静に待ち受ける! 開始早々、激しい攻防です!」


「リク君は基本的に速度と威力を重視した戦闘スタイルだけど、どうやら今回は初見の相手というのもあって様子見から始めるつもりらしい。対するアクセル君はといえば、どうやら祖父のジーグルト殿と似たような戦闘スタイル──最短距離で間合いを詰めて、強引に力勝負へと持ち込むようだ」


 解説役ということで、幾らか私見を語ってみた。

 そして語っている内にも戦闘は続いており、風と炎がぶつかり合って激しい光と音がこちらにも伝わってくる。戦闘を行っている二人には、そこに加えて熱と衝撃もあるだろう。


「アクセル選手の烈火の如き猛攻に対し、リク選手は現在防戦一方にも見えますが、果たしてこれは様子見を続けているからなのでしょうか?」


 実況のシュミットソンさんが言うように、現在フィールド上に居るリク君は押され気味に見える。唸りを上げて繰り出される紅蓮の拳を、黒い大太刀で受けつつも後ろに下がっているからだ。

 とはいえ。


「リク君は攻撃を受ける度に押されているように見えるかもしれないけど、フィールドの端に追いやられる前に立ち位置を変えてそれを避けている。何より、着実に有効打を避けている。少なくとも、このまま押し切られてしまうことは無いだろうね」


「確かに、こちらから窺えるリク選手の表情に焦りは見られません! しかし、押し切れずにいるアクセル選手もまた、不敵に笑みを浮かべています! この勝負、果たしてどう転がっていくのでしょうか!?」


 大太刀というのはその名の通り大きな部類の武器だから、決して細やかな動きには向いていない。けれどリク君は自身の身体の延長のように、自在に扱ってみせている。怒涛のように繰り出される拳を丁寧に受け流し、一撃たりとも正面からは当てさせない。

 当然だろう。何せ彼は普段から、あれほどの速度を御しているのだから。それでいて本人は技量が低いつもりでいるのだから、全くどうしたものだろう。


 とはいえこのままでは、御前試合として見栄えがしないのも事実。そんなことをリク君も思ったのかは知らないけれど、動きが見られた。

 ──否、姿が消えて見えなくなった。


 赤く燃え盛る拳が、一瞬前までリク君の頭があった空間を通り過ぎる。

 虚空に伸ばされた自身の拳を素早く引き戻したアクセル君は、険しい表情で周囲を見渡して。けれどリク君の姿は見付けられずにいるらしい。


 高い位置にある客席から俯瞰している観客もまた、リク君の姿を見失ってどよめいていた。まさか、離れた位置で見ている状態で選手を見失うとは思わなかったのだろう。


「おおっと、これは!? リク選手の姿が見えません! 一体何処へ消えたのでしょう!?」


 その答えを僕は知っているけれど、今すぐ言ってしまうのは少し無粋だろうか。


「シュミットソンさんには、そして観客の皆にも、リク君の二つ名を思い出して欲しいな」


 だから、ヒントを出していこう。


「二つ名を……。それは勿論、【黒疾風】ですよね?」


 きょとんとした顔で僕を見たシュミットソンさんは、やや戸惑い気味に確認してくる。


「そうだね。そして、風というのは果たして地上だけで吹くものかい?」


 ヒントというか、ほとんど答えに近いものになってしまったけれど。少し引き延ばしたお陰でリク君の準備は完了しているようだから、大丈夫だろう。


 アクセル君も、シュミットソンさんも、観客も、そして僕も。闘技場の上空へと視線を上げる。


 ──無数の剣が、そこにはあった。


 形も大きさも様々。子どもでも振り回せる小さなナイフから、大の大人でも持ち上げられる者が限られるであろう大剣まで。

 全ては空中で微動だにせず静止し、さながら命令を待つ兵士の如く。


 無数の剣の中心にて佇むのは、一人の魔法剣士。風を制御し剣を従え、ただそこに──空に在る。


「なるほど。リク君のこの戦い方は、僕も初めて見るよ。彼は大容量のアイテムボックスを持っている上、魔法具の作成も得意としているから、こういったことも可能だろうね」


 大量の魔法具による、物量作戦。

 武器の一つ一つが風を纏い、そして──落下を開始する。


「全く、なんという光景でしょうか! 一人の人間により生み出されている状況とは思えません! まるで剣自体が意思を以って敵を倒そうとしているかのように、次々にアクセル選手へと襲い掛かっていきます!」


 中級の魔物であれば一撃で仕留められるであろう威力を持つ攻撃が、豪雨のような大盤振る舞いでフィールドへ突き刺さる。


 フィールドに突き立つ無数の剣は、さながら墓標のようで。けれどそんな中でも、アクセル君は複雑なステップを踏んで着実に回避していく。


 圧倒的物量で勇者を潰そうとする魔王。僕の心情としてはリク君の味方のつもりだけど、この光景を客観的に述べればそんな具合だ。

 最初に射出された剣は狙いに少し荒さが見えたものの、時間経過と共に精度が増している……というのも、その印象を高める要素だろう。魔法具作成が趣味だという彼なので、恐らく作成した順に剣を放っているためそうなっているのだと思われる。

 結果として徐々に精度が上がり、あたかも本気を出していっているように見える訳だ。


 彼の場合、そう見えることも演出の一環として狙っていそうだけど。


 そのままリク君の攻勢は続き、空に浮かぶ剣の数も残り数十本になった頃。

 唐突に、リク君自身が降下した。


 目で追うのもやっとの速度で、恐らく視認できた人は片手で数えられる程度だろう。

 彼はアクセル君の正面に立ち、既に大太刀を振りかぶっている。


 甲高い金属音と、舞い散る火花。


 アクセル君は驚異的な反応速度でガードを差し込み、けれど勢いを殺しきることはできずに後方へと吹き飛ばされた。


 リク君は冷静に追撃し、まだ空にあった数十本の剣が全て射出される。


 壁際に追い込まれたアクセル君の姿は、彼を追撃してきた剣によって立てられた土煙により見えなくなった。


「リク選手、容赦の無い追撃です! これは勝敗が決してしまったのでしょうか!?」


「いや、数打ちの攻撃で終わる程度の実力ではないよ。それはリク君も分かっているだろう」


 僕が言った直後、土煙から飛び出してきた影がある。右腕に赤い焔を宿したアクセル君だ。


 多少の出血こそ見られるものの、動きに支障を来す負傷は無いらしい。一直線にリク君の方へと向かい、拳を繰り出す。


 相手の状態を把握できるエディターを持つ以上、何ならそれでなくとも性格上、リク君も油断していた訳ではないはずだ。けれどここに至って真正面からの攻撃というのは、逆に意表を突かれたのか。

 攻撃の受け流しが不完全に終わり、僅かながらも体勢が崩れた。


 そこへ、アクセル君の蹴りが入る。


 上から叩き付けるように放たれた蹴りは、リク君を地上に押し留めて。ほんの一瞬、動きを封じた。


 その一瞬があれば十分だったのだろう。

 アクセル君の右腕がより一層強く煌いたと思えば、次の瞬間。赤い軌跡を残して振り抜かれた拳と、そのずっと先にある壁に大きな罅が入ったのが見えた。


「……今のは直撃したと、僕も思ったんだけどね」


 そう、思った(・・・)。けれどそうはならなかった。

 だからこそ放たれた拳の威力はそのまま直進し、遠くの壁を大破させた。


「かっ……、完全にリク選手と捉えたと思われた一撃ですが、またしてもリク選手の姿が消えました! そして、離れた位置の壁が割られています! あれはアクセル選手の攻撃によるものなのでしょうか!?」


「壁を破壊したのは、魔法ではなかった。別の手段による遠距離攻撃だったね。彼の祖父であるジーグルト・ゲーベンバウアー殿が似たような芸当を見せていたけど、仕組みはちょっと知らないな」


 恐らくステータスシステムの特殊運用だろう。造詣の深いリク君ならば、或いは同じことができるか、仕組みくらいは把握しただろうか。


「それとリク君の姿が見えないのは、二度目だね。けど今度は空にも姿は見えない。となれば……光の反射や屈折を利用して見えなくしている可能性が高そうだ。何せ彼は、光魔法をすら収束させられる風魔法を組むらしいからね。ただの光であれば、もっと容易だろう」


 さて、リク君は今何処に居るかな……。

 割れた壁の右側が少し歪んで見える気がするから、あそこだろうか。


「……暗殺とか、リク選手って得意そうですね?」


「敵対者の配置を常に把握し、自身は風によって移動と消音を行えるから、それはそうだ。正面からの戦闘もここまで見せてくれた通り行えるから、最悪見付かってもそこまで困らないだろうね。とはいえ性格上、よほど必要に迫られない限りそういった手段は取らないだろうけど」


 フィールド上では、アクセル君が勢いを衰えさせた右腕の炎を破棄して再び纏っていた。

 試合開始前にやってみせた炎を握り込む動作は、特に必要では無かったらしい。


 ──そして、前触れも無く自身の足元に拳を打ち付けた。


 閃光、爆音、爆ぜる地面。

 爆炎は彼を中心に、瞬く間に広がっていく。


 半球状に拡大した炎はフィールドと客席とを隔てる障壁に阻まれるものの、逆を言えばフィールド全てを炎で満たした。


 数秒後、炎が消えて確認できたフィールドは、当然の如く焦土と化していた。


 リク君が居るのではないかと睨んでいた位置に視線を戻すと、一度大きく揺らいで見えて、やはりリク君が姿を現す。その表情は呆れ気味だった。

 ダメージこそ受けていない様子だけど、光を操って姿を消せる状況は崩されたか。何せ空気が熱されて、非常に不安定になってしまった。


 ここで怒りや緊張が窺えないのは、とても彼らしいと思う。

どちらも単一属性ですが、基礎がしっかりしているので対応力は高いです。

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