第一八話 調査クエスト2
今回、話が全然進みませんでした。
「んで、やっと本題に入る訳だけど。今日はもう遅いから、明日の朝にでもエルさんに話を通してみれば良いかな」
気を取り直して本題を進め始める。
「実は、エルケンバルトさんをこちらにお呼びしています。元々今夜、このお店をリクに紹介するつもりだったので」
もし俺から食事に誘わなくても、実はフランの方から誘われていたという事実発覚。
だったらあの衆人環視の中で食事に誘う必要は──否、逆だ。誘ってOKされるより、誘われる方が難易度が高いだろう。ベターな選択ができていたんだ俺は。
……危なかった。
「おお、抜かり無い。いつ頃到着かは分かる?」
まだ時間があるなら、ギルドマスターからの呼び出しで中断された相談をフランにしたいんだけど。
「そう長くは掛からないと念話がありました。恐らくあと五分も無いでしょう」
魔力による通話、それが念話というものだ。
魔力さえあるなら誰でも習得可能らしいけれど、届く距離は人によってかなりの差があるそうな。短い人は数m、長い人は何百kmと。通話相手との合算で通信距離が決まるとのことなので、一方の有効距離が長ければもう一方は短くても平気なのだとか。
俺も近い内に覚えた方が良さそうだな。
「変なタイミングで来られても困るし、雑談でもして時間を潰そうか」
ギルドマスターからの呼び出しで中断したフランへの相談をしたかったが、こうなると諦めた方が良いだろう。
「雑談、ですか」
少し難しそうな顔をしたフランが、考え込むような仕草を見せている。
いや雑談って、そんな頭を使いながらするもんじゃないから。
「言い出しっぺの俺から、とりあえずは自分の話でもしようか。この世界に来る前の俺は、大学生だったんだ。これといった得意分野は無かったけど、何でもそれなりにこなしてたから、顔は広い方だったと思うよ。広いといっても、同時に浅い付き合いだったけどね。でもまあ、そのお陰で自分の欠点も然程晒さずに、周囲からは無害な男として認識されてたんじゃないかな」
誰かが誰かと遊ぶとき、あともう一人くらい誘いたいと思って、俺を選択肢に入れるような。真っ先に選ばれる訳ではないけれど、居て不都合は無いといった感じで。
あるいは喧嘩の仲裁を頼まれたりだとか。意見の合わない二人のどちらにも特に肩入れせず、妥協点を見つけそれを示すことは何度かあった。
「……リクは、あまり人が好きではないのですか?」
普通思っても直接質問したりはしない内容なのに、容赦なく踏み込んでくるねこの子は。
おまけに、ただ不思議そうな顔で質問してるだけだし。
「ざっくりと人って括りで言うと、確かにそんなに好きじゃない。中には比喩表現抜きで話が通じない奴も居るし、それなりに深く関わるととんでもなく汚い部分を見せ付けてくる奴も居るからね」
開けてびっくり玉手箱。凄まじい勢いで老化して、こちらの生命力が削られるよ。
だから臭いものには蓋をしとかないとね。そして速やかにその場から離れるんだ。三十六計逃げるに如かず。
「そういう訳で、俺の人付き合いに対する基本スタンスは一定距離を置く。ここまでなら大丈夫そうだな、と判断した一歩手前まで近付く感じかな」
我ながらアレなことを言っている自覚はあるよ。
「なるほど。……それでは、私のことはそれなり以上に信頼してくれているのですね」
あまり大っぴらには話せない俺の思考をここまで聞かせてしまったのは、これで何人目だろうか。少なくとも、片手で数えて指が余るのは間違いない。
人との距離の取り方が絶望的に下手なフランを相手にして、なるほど俺の調子は見事に崩されていたのかと遅ればせながら気付いた。普段は違和感や不快感を覚えた瞬間に歩み寄りを止めるんだけどな。今回は特にそういった感覚が無かった。
「結果的にそうなってる感が拭えないけど、確かに俺はフランのことを結構信頼し始めてるよ。それを言葉にして、どれほどの信憑性があるかは分からないけど」
意識して予防線を張り始めた自分が居るのは認める。そしてそれが、恐らく本当は不要だということも。それから、
「素直さが欠如した言葉選びですね」
可笑しそうに笑うフランに、俺が不快感を覚えていないことも。