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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一八二話 服飾店にて

別に、デートのつもりで書き始めた訳ではないんですが。

◆◆◆◆◆


 俺──リク・スギサキは今、自宅のリビングにあるソファーに右手を除き沈み込んで、同化している。

 唯一ソファーとの同化を免れている右手には一枚の紙が握られており、それはとても上等な材質かつ精緻な字が書かれている。何を隠そう、王室からの書状だ。


 今朝のことだった。王室からの使者として我が家を訪ねてきた身なりの良い三十代後半と見られる男性が、この書状を持ってきたのは。


 色々と複雑な言い回しが多用されている文面を短くまとめると、一か月後に王都で神授兵装(アーティファクト)所有者として俺が大々的に公表される、というもの。

 昼過ぎに民衆へ向けて俺の顔見せがあり、夕方から夜にかけてパーティーがあるそうだ。

 王室とギルドが共同で開催するとのことで、どうやら盛大なものになるらしい。チクショウ。


「そんな様子のリクは、久しぶりに見る気がしますね」


 困ったものだ、と言わんばかりの曖昧な笑みを浮かべて。フランはソファーと同化している俺を見下ろしている。


「使者の方がいらっしゃった時点で、こうなることは予想していましたが」


 その予想を見事的中させたフランは、当然のような顔をして俺の隣に座ってくる。


「ところで、パーティーにはパートナーを連れてくるように、とのことですね」


 フランが顔を近づけ、分かり易く期待の目で俺を見てくるものだから、こちらも対応がやり易くて助かる。


「はてさて、誰か俺とパーティーに出てくれる人は居るだろうか」


「……リク?」


「冗談だよ。……私に、貴女のエスコートをする栄誉を頂けますか?」


 フランが一瞬でジト目になったので、こちらもすぐに言葉を出した。

 勿論、だらけた姿勢のままではない。ソファーから降りて、フランの前で片膝をついて。ついでに手も差し出して。


「はい。喜んで」


 華やぐ素敵な笑顔で、フランは俺の手を取ってくれた。


 そうして精神も回復したところで、俺は改めてソファーに……今度は普通の姿勢で座った。


「とはいえ、まだ一か月先の話だけど。まあ、服の用意はそろそろしておくべきか」


 冒険者でありながら良家のお嬢様でもあるフランは問題無いだろうけど、俺は王室主催のパーティーに参加できるような服を持たない。

 フォーマルスーツはあれど、現状持つ品では些かグレードが不足している。


「腕利きの職人に依頼したいですね」


「俺よりフランの方が百倍楽しそう」


「折角ですし、何着か作ってしまいませんか?」


「そして指摘されても温度が下がらない」


 俺に関することで楽しそうにしている訳なので、悪い気はしないけれど。


「あー、でも、確かに何着か作った方が良いかもな。不本意ながら」


 神授兵装(アーティファクト)所有者であることを公表する以上、今後も身分の高い人物と関わる機会はあるだろうし。実に不本意ながら。


「リク、善は急げと言います。早速ですが今から行きましょう」


「別に善行ではないけれど」


 そんな風に反論を試みた訳だけれど、結論を言うと無駄だった。あれよあれよと話は進み──気付けば、王都(・・)の服飾店の目の前へとやって来たのが今現在。

 ゲイルの移動速度が更に上がっていて、ますます気軽に遠出ができるようになってしまった。


 移動時間に一時間もかかってないんだけど。普通の馬車なら三日半かかる距離なんだけど。


 ともあれ。

 わざわざ王都(ゲゼルシャフト)の服飾店に来た理由は、手に入る品が城塞都市(アインバーグ)のそれとは全く異なるからだ。


 城塞都市の方も高価なスーツくらい取り扱っているものの、如何せん実用性重視というか。質実剛健という言葉がぴったりな、重厚感はあるものの華さやかに欠ける物となっている。

 対して王都の方は国王陛下のお膝元であるためか、装飾の方にも力を入れた物が多くある。らしい。


 お洒落な服をスタイリッシュなポーズで着こなすマネキン複数がショーウィンドウに立ち並ぶ店の中へと入り、全開の営業スマイルを浮かべてこちらへやって来る店員と挨拶を交わして。

 傍目には落ち着いているように見えて内心はテンションが上がっているフランが、口数を普段の二割増しにして店員にあれこれ話を振り、俺のスーツについて色々と決め始めた。本人は置いてけぼりである。


「リクはどう思いますか?」


 おおっと、油断してたら話を振られた。


「動きやすくて皺になりにくいのは良いと思う」


 とはいえ一応、話は聞いていたので問題は無い。素材の話だ。

 なお、スーツを着て派手に動き回る予定は無いけれど、備えあれば憂い無しとも言う。


 ……そんな備えをしている時点で、既に十分憂いている訳だけどな。

 けれど仕方が無い。嫌な実績があるから。備えなければもっと酷いことになる可能性があるから。


「冒険者の方はやはり、その辺りを気にされる方が多いですね。では素材はこれで良いとして、デザインの方は……こちらをご覧ください」


 店員が俺の方を見て話し始めた。大人しく話に参加するとしよう。

 そもそも俺の服の話だしな。


「何着か注文させて頂くつもりですが、ひとまず一着はこのオーソドックスなデザインが良いです。ところで何故、俺が冒険者だと?」


 店員が何処からか取り出してきた、複数のデザイン画が描かれた紙を見せられたので、とりあえずの返答をしつつ。少々疑問を感じたので質問をしてみた。


 何せ俺がこの店に来たのは、今回が初めてのことだ。フランはここを知っていたようだが、そのフランが連れてきたからといって、俺が冒険者であると確定できるものでも無いだろう。


「……? 【黒疾風】リク・スギサキ様ですよね? 王都でもすっかり有名ですよ」


 うわあ知りたくなかったその事実。


「【大瀑布】フランセット・シャリエ様とご一緒のご来店で、黒髪黒目の男性となれば、これはもう間違いないだろうと」


「……仰る通りで」


 アサミヤ家の人達以外だと、黒髪黒目ってそこそこ珍しいみたいだしな。ここが王都じゃなくて武術都市だったら、話は変わっただろうけど。


 しかしまあ、俺もよくよくフランとペアで認識されてるもんだ。


「そういえば近々、王室とギルドが共同で何か大きなイベントを開催する、という噂を耳にしたのですが。それに合わせて、服を新調しようとされているのでしょうか?」


 純粋な疑問として話題を振った様子の店員に、危うく無言の肯定を返しそうになった。内心で若干の焦りを覚えつつ、俺は努めて冷静に口を開く。


「ええ、それもあります。ただ俺の場合、急に星の数が増えてしまったものですから。漠然と、礼服が必要な場面も増えるだろうと思っての行動ですよ」


 あながち嘘でもない、けれど誤解を生むであろう言葉で茶を濁しておく。

 実はそのイベントの主役です、とは言えるはずもない。言いたくもない。


 そんな具合に店員と幾らか言葉を交わしつつ、注文自体は無事終了。計三着のスーツを頼んだ。


 ちなみにフランは服を新調しないのかと俺が尋ねると、否定の言葉が返ってきた。ので、俺からプレゼントしようということにした(・・)

 割と楽に来られるとはいえ、折角王都にやって来たんだ。日頃からちょっとしたプレゼントはしているものの、公式な場に使えるようなドレスのプレゼントはしたことが無いし。……まあ普通の服ならあるけれど、それはそれ。


 彼氏らしいことをさせて欲しい、という言葉でごり押してみた。

 店員の前で恥ずかしげも無くそんな言動をしたためか、フランからは恨めしそうな恥ずかしそうな、そんな目で見られたことをここに明記しておく。

気付いたら主人公が彼氏ムーブかましてました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでて話の筋等で突っ込み所が出てこない所。 ステータスを自然に落とし込めている所。 主人公が油断しない所。イキらないとも言う。 [気になる点] 話の展開等から伏せているだけかもしれないが…
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