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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一八〇話 アレックス・ケンドールと光の剣2

引き続きアレックスのお話。

 僕ら四人がオークの群れを討伐する依頼を受け、山中にて運良く見付けたその拠点を片付けた後。少し周囲を捜索し、けれど何も見付からなかったために山を下り、町へと引き返していると。

 何やら、騒々しい音が聞こえてきた。夜と言える時間帯になっているのもあり、遠くの音でも聞き取れる。


「何だあ? やけに喧しいな」


 音に気付いたカルルが、訝しそうに呟いた。


「……胸騒ぎがする。急ごう」


 嫌な予感を覚えた僕がそう言うと、他三人も口々に同意してくれる。


 ここまで歩いて来た僕らは、走って町に戻ることにした。






 町に戻った僕らを待っていたのは、今まさに村が襲撃されている光景だった。


 半壊した家屋がある。散乱した物がある。怪我をしたのか、足を引き摺って何処かへ逃げる人が居る。

 僕らが最初にこの町へ到着したとき、そうしっかりと観察していた訳じゃない。けれど、この町はこうではなかった。こんな様では、決してなかった。


 オーク達が、この町を襲っているせいだ。


「──ッ、各個で人々の救助に当たる! 通常個体はできれば討伐を、強化個体は足止めに専念してくれ!」


 カルル達三人に早口でそれだけ言って、僕は手近な位置に居たソルジャーオークへと一直線に走る。


 ソルジャーオークは斧を振り下ろそうとしており、その先には小さな男の子を抱えた母親らしき女性が居た。


 僕の目の前で、死なせたりなどするものか。




 ──電光石火。




 僕が一息で詰められる間合いまで到達した次の瞬間、僕はその間合いを詰め終えて、更に武器を振り終えていた。


 斧が彼女らに当たらないようにと、オークを斬るのではなく吹き飛ばす為に、脇腹への峰打ち。その結果、オークは斧ごと真横に吹き飛び、そのまま地面を滑って動かなくなった。

 都合良く、今の一撃で仕留められたようだ。


「あぁ、ありがとうございます! ありがとうございます!」


 感極まってと言わんばかりに、感謝の言葉を女性は伝えてきた。


「いや……。本当なら、町が襲われないようにしなければならなかったんだ、僕らは。だから、すまない」


 あまり長く話し込んではいられない。まだオークは残っている。

 緊急の避難所になっているような場所はあるか質問をして、町長の家がそうだと聞いたので、親子を伴ってそちらへ向かう。

 僕が先行し、道中で数体のオークの首を刎ねつつ、人々を救助し同行者を増やしていった。


 到着した町長の家の周囲には、頑丈そうな高い壁が立ち上がっていた。非常時用の魔法具だろう。

 門の前ではそれなりに体格の良い数名が、簡素な武器を構えて辺りを警戒している。けれど、果たして彼らにオークの撃退が可能だろうか。

 そんな不安を抱きつつ、余計なことは言わずに避難民を連れて門をくぐった。


 忙しなく周囲の人間に指示を飛ばしている町長を発見したので、声を掛けることにする。


「町長、少し良いだろうか」


 素早くこちらに振り向いた町長は、随分と疲れた様子だった。


「おお、戻られたのですか。これは朗報だ」


 それでも僕の姿を認めて幾らか安堵した風なのは、言葉通りに受け取って良いのだろうか。


「偵察に出られたと聞いておりましたが、オークとは出会わなかったのですかな?」


「いや、拠点らしき場所を見付けて潰してきた。ただ、規模の大きさから言って精々五体くらいの群れだと思ったんだが……、その拠点で三体、この町で更に六体ほど仕留めているんだ。山に入ってすぐの場所の拠点だったことから言っても、今この町を襲っているオークと僕らが町の外で出会わなかったことは不自然でしかない。恐らく、二つ以上の群れが同時期にやって来たんだろう」


 伝えた状況を飲み込んでいる様子だったので、少し間を置いてから。僕は再び口を開く。


「僕はこれから、町に残っているオークを討伐してくる」


「しかし、間も無く日も沈みます。流石に危険では……」


「僕は光属性の魔法剣士だから大丈夫さ。光源ならあるし、何なら僕に注目を集められて都合が良いくらいだ」


 それに恐らく、避難できていない住民も残っているだろう。僕が静かにそう言うと、町長は反論できずに口を閉ざした。

 ここの壁も、中級の魔物であるオークを相手に何処まで耐えられるのか分からない。避難してきたからといって安全確保が十分とは言い難い状況だ。できれば冒険者が居ることで、住民を安心させてやりたいのだろう。

 だからといって、避難が遅れている住民を簡単に見捨てられるほど非情にもなりきれないらしい。


「俺がここに残りゃ良いだろ」


 僕自身もそれが絶対の正解だとは思えないまま決断しようとしたところで、聞き慣れた声が届いた。

 声の方向へ顔を向ければ、そこに居たのはカルル。ハンマーを肩に担いで不敵な笑みを浮かべている。


 何てタイミングが良いんだ。


「ここの壁なら、オーク共の攻撃も幾らか耐えられそうだ。邪魔する人間(・・・・・・)が居りゃあ、それなり以上に持たせられるだろうよ」


 僕の、そして恐らく町長の懸念を払拭してくれる言葉。


 だから僕から返す言葉は、決まっている。


「この場は任せた」


「おう」


 僕が抱く最も大きな(・・・・・)懸念は口に出さず、ここを出よう。






 再び町中に出て、薄暗い周囲を見渡す。

 まだ星が数えられる程度にしか見えない、夜に差し掛かった頃といったところか。


『ジ・ライト』


 僕は自身の剣に光を纏わせ、周囲を照らす。

 魔法具としての機能を使わないのは、この光を目立たせる為だ。


 僕は、駆け出した。


 先程口に出さなかった懸念というのは、オークの数に起因する。端的に言って、多すぎるんだ。

 既に九体のオークを討伐して、まだ町を襲っているオークが存在する。つまり、頭数は二桁に上ることになる。

 コマンドオークが居るならその数も有り得ない話ではないけれど、ソルジャーオークをこの村で既に三体発見し討伐していた。コマンドオークを群れのボスだとすると、それは過剰な戦力なんだ。はっきり言って、コマンドオークに纏められる群れではない。

 となれば、考えられる可能性は──。


「っと、またソルジャーオークか」


 考え事をしながら行動、というのはあまり宜しくないなと思いつつ。その考え事を肯定するような発見をしてしまったことに、苦い笑みを浮かべてしまう。


 獲物を探すような動きを見せていたソルジャーオークは、光り輝く剣を持つ僕に気付いて吠えた。戦意は高いらしい。

 けれど。


「ゆっくり相手をしてやる暇は無い」




 ──電光石火。




 一瞬で踏み込み、ソルジャーオークの心臓を貫いた。


 僕を見る敵意に満ちた目から光が失われたのを確認して、剣を引き抜く。


「つくづく、恐ろしい技法だよ。全く」


 さて、次だ。あとどれだけの数が残っているかは、分からないが。






 僕はその調子でオークを討伐していき、そんな中でマラットと出会った。

 マラットはソルジャーオークと相対しているタイミングで、背後にはおじいさんが民家の塀を背にしてしゃがみこんでいる。おじいさんはどうやら足を負傷しているらしく、一人で逃げて貰うのは無理そうだ。


「アレックス!」


 目立つようにと武器に光を纏わせていた僕に、マラットはすぐ気が付いた。


 マラットの声と視線に反応し、ソルジャーオークも僕の方を一瞥する。けれどまだ距離があると思った(・・・・)か、そのままマラットに視線を戻した。




 ──縮地、三連。




 ソルジャーオークの横顔が目の前にある。

 気配を感じたようで、首がこちらに回り始める。

 だが遅い。


 横一閃。白い残光を引きつつ、首を刎ねた。


 ソルジャーオークの首が落ち、残された身体がゆっくりと倒れる様を見届けて。マラットの方に向き直る。


「マラット、無事かい?」


 見たところ、少々の怪我はあるようだが。


「お陰さんでな。マジで助かった。普通のオーク二体を一人で頑張って倒してからのソルジャーオークは、シャレになんねえ」


 災難だったと言わんばかりの様子だが、その割にはしっかりと住民を背後に守っていた。

 とはいえ、どうやら疲労は無視できそうもない。マラットにも、避難所になっている町長の家に居て貰った方が良いだろう。


 僕とマラットはおじいさんを連れて、町長の家に向かうことにした。

 マラットがおじいさんに肩を貸し、ゆっくりと歩く。僕は周囲を警戒し、けれど会敵することもなく。


 そして遠目に見えたのは、壁に開いた穴だった。

 町長の家の壁に、穴が開いていた。


「は……?」


 壁の外には三体ほどのオークが死体となって転がっており、そこに居るはずのカルルがただしてやられた訳では無いのが分かる。


 分かるが、それがどうした。壁に穴が開いているんだぞ。

 住民が避難した場所の、外敵の侵入を防ぐ為の壁に。


 マラットもおじいさんも、呆然とその穴を見ている。足も止まっていた。


「──ッ、呆けている場合じゃない! マラット、おじいさんの事は任せた! 僕はあの中へ行く!」


 僕自身も呆けていたことは棚に上げ、自分に喝を入れる意味も込めて声を出した。

 今はとにかく、動かなければ。


 飛び込むように穴の中へ入ると、そこには壁を背にしている人々が居た。皆一様に顔を真っ青にして、この場所の中央に視線を向けている。


 オーク種の魔物が二体、暴れまわっていた。

 それを相手取るのは、僕の仲間であるカルルとセルゲイ。セルゲイもここに来ていたのは、不幸中の幸いか。

 とはいえ二人とも、遠目に見ても分かるほど疲弊している。身体のあちこちが赤く染まっていて、少なくない怪我を負っているらしい。状況は悪そうだ。

 何より悪いのは、オーク種二体の内訳だろうが。


 一体は、大きな斧を持ったソルジャーオーク。

 そしてもう一体は──ハルバードを持ち、立派な鎧を身に纏っている。ああ……、僕の懸念通り、ジェネラルオークだ。


 相手の得物のリーチと、魔物故の高いステータス。それが単純な暴力として猛威を振るっている。

 ソルジャーオークはまだしも、ジェネラルオークは上級一歩手前の脅威度だ。必然的にその一撃は重く、丸太のような腕でハルバードが振り抜かれる度に、轟音を立てた。


 カルルもセルゲイも、ソルジャーオークに後れを取るような冒険者ではない。けれどそれは余裕で相手ができるという意味ではなく、それがジェネラルオークとなればまた話が変わってくるのは当然のこと。

 先に述べた単純な暴力が理不尽に叩き付けられ、二人とも明らかな苦戦を強いられていた。

 それでも諦めた様子が微塵も無いのは、一体何故だろうか。




 ──電光石火。




 ソルジャーオークの意識の外から一瞬で距離を詰めて、首を刎ねた。

 ジェネラルオークとどちらを狙うか少しだけ迷ったが、強固な鎧を着込んだそちらを狙うよりはまず数を減らしたかったんだ。


「「アレックス!」」


 カルルとセルゲイが二人して僕の名を呼んだが、僕はジェネラルオークに視線を固定して動かさない。

 急に現れて仲間を仕留めた僕を、奴は警戒の目で見ている。けれど興奮した様子が無いことから、やはり僕の接近には気付いていたのだろう。


「遅くなってすまない」


 素早くカルル達の近くへ寄って、短く謝罪した。


「へっ、マジで遅えんだよ」


「いっそもうちょい遅く来ても良かったんじゃねえか? そしたら俺らが全部片づけてたからよ」


「血まみれでゼーハー言いながらその軽口を叩けるなら、大したものだよ」


 心は全く折れていないようだ。相手の強大さを考えれば、本当に大したものだ(・・・・・・)


 とはいえ、体力は限界に近いだろう。かく言う僕も、ここまでの戦闘でかなり消耗している。

 ここは一つ、趨勢を決する一撃でもお見舞いしてやるべきか。


「いきなりだが二人とも、奴の隙を作って貰えないか。そこへ強烈な一撃を叩き込んでみせる」


 僕が提案すると、二人は一瞬だけ僕を見てからジェネラルオークに視線を戻した。


「豚共の相手も飽きてきたとこだ」


「じゃあ、やるか」


 これをあっさり承諾してくれるのか。

 僕が繰り出す一撃が、勝敗を決めるものであると信じてくれるのか。


 ──ならば、僕は僕にできる最強の一撃を。


 両手で持った【黒疾風】の魔法剣に魔力を込めると、剣身が薄く風を纏う。


『ジ・ライト──二重結合起動ダブルユニオンキャスト


 剣身全体が光り輝いた後、その光が刃に集中していく。


「……グルアアアアアアアァ!」


 剣に込められた威力に気が付いたのか、単に異変と見たのか。ジェネラルオークが咆哮を轟かせながらこちらへ向かってくる。


「おいおい、まずは俺らと遊ぼうぜぇ!?」


 カルルがジェネラルオークとの距離を詰め、ハンマーを振るって右側頭部を狙う。


 ジェネラルオークは苛立たしげにハルバードを薙ごうとするが、その勢いが乗るより早く割って入ったセルゲイのナックルが唸りを上げる。

 勢いを乗せ損ねたハルバードはカルルに避けられ、逆にカルルのハンマーは狙い通りジェネラルオークの右側頭部に叩き付けられた。

 しかし。


 ジェネラルオークは僅かに首を傾け、低い唸り声を上げるのみ。特に体勢を崩すことも無く、ハルバードから手を放して拳を握った。


 拙い。そう思った時にはカルルが殴り飛ばされ、セルゲイが蹴り飛ばされていた。

 それぞれが数メートル地面を転がり、悪態を吐く。

 案外元気そうだった。どうやら攻撃を受ける前に、自分から後ろに飛んでいたらしい。


 ジェネラルオークが僕を見る。

 これは、自分自身で迎撃する必要があるだろうか──などと、冗談を思い浮かべた。


「くたばれやオラァ!」


 お世辞にも品があるとは言えない言葉を放ち、モーニングスター(・・・・・・・・)をジェネラルオークの後頭部に振り下ろした男──マラット(・・・・)が居る。

 完全な不意打ちとなったその一撃は僅かながらもジェネラルオークをよろめかせ、カルルとセルゲイの次なる攻撃へと繋がった。


 地面の上に転がされていた二人は再び距離を詰め、マラットを含め三方から攻撃する。


 一人が狙われれば残る二人がダメージ度外視の嫌がらせのような攻撃を繰り出し、また攻撃を受けても素直に吹き飛ばされて威力を殺す。実に泥臭く──格上相手に粘るための戦い方だ。


 徐々に、ジェネラルオークの意識から僕が消えていくのが分かる。

 故に僕は、静かに時を待つ。






 ──今だ。


 カルルがジェネラルオークの顔面に泥を投げ付け、その目を封じていた。

 視界を奪われたジェネラルオークが得物を振り回していた。

 マラットとセルゲイが背後に回り、ジェネラルオークの背中へ同時に打撃を与えていた。


 よろめき、ハルバードを杖のようにして身体を支えるジェネラルオーク。


 僕は前進し、敵との距離を詰める。


 こちらの足音に反応したと思しきジェネラルオークがハルバードを防御の為に構えるが、もはや関係無い。


「切り裂く!」


 紫電、そして重撃。


 僅かな抵抗を感じたと思えば、既にハルバードが断たれており。先ほどよりももう少しだけ強い抵抗を感じたと思えば、既にジェネラルオークが左脇腹から右肩にかけて斜めに断たれていた。


 軌跡に白い残光を描いて、僕の攻撃は僕が思っていたよりずっと呆気無く終わった。


 剣を振り抜いた姿勢のまま、(しば)し呆然とする。


 少々、言い訳をさせて欲しい。何せジェネラルオークは、かつて僕がその姿を見ただけで何もできなくなってしまった魔物なのだから。

 それを、こうも容易く倒せてしまったのだから。

とても強くなったアレックスです。

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