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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一七七話 魔法具のプレゼント

魔法具が沢山。

 三つ星──中級冒険者への昇格祝いに、上級の魔物素材を使用した魔法具をプレゼントとして渡す。

 自重という概念を路傍に捨て去る行為なのは、自覚があった。


「ところでジェネラルアーマーが上級の魔物だって、良く知ってたな。名前から言ってリビングアーマーの上位種なのは、まあ予想できただろうけど」


 先程述べた通り、彼らはあくまで中級に昇格したばかりだ。つまりこれから(・・・・)中級の魔物を相手取ることになる訳で、更に上である上級の魔物の名前を把握している必要はまだ無い。


「僕らもそれの素材で魔法具を作ったからね」


 答えたのはエリック。口角を僅かに上げて、何やら随分と楽しそうだ。

 アイテムボックスから取り出したのか、その手には唐突に現れた一つの箱がある。


「リク君、武具屋を利用するときに素材を多めに渡したりしてるでしょ? その余剰素材がまだ残ってたみたいで」


 何故かロロさんが続きを話したので、何となく事情は飲み込めてきたように思う。これがもし俺の思い違いだったら、悲しい感じになるけれど。


「僕らのパーティと、ロロさんから。いつも何かと助けてくれるリク君への、お返しだよ」


 エリックが手に持つ箱を、俺の方へと差し出してくる。周りを見れば、揃って俺に笑みを向けていた。


 悲しい感じにはならずに済んだらしい。


「皆、ありがとう。今夜は完全に祝う側のつもりでしかなかったから、正直驚いてる」


 素直に箱を受け取り、改めてそれを見る。


 細長い箱であり、長さとしては十数センチメートルといったところ。全員の視線が俺の手元にある箱に集まっており、どう考えてもここで開ける空気だ。


 念のため一言断って、箱を開ける。中に入っていたのは、グリップだった。


 ……グリップ?


 握りやすいようにか、金属で構成された本体に細く黒い皮がテープのように巻き付けられている。握ると上に来るであろう部分を見ると、コイン投入口のような穴が見えた。

 いや、これは入れる為の穴ではなく、むしろ……。


「火魔法の剣、か?」


 炎を噴き出し、刃を形成するのではなかろうか。


「うん。僕が魔法具にしてスギサキ君の役に立つような機能ってなると、それくらいしかないからね」


 苦笑しつつ語るエリックだけれど、熱線も使えると思うぞ。自分の魔法の練度がどれだけ高いか、まだ分かってないのか。


「強く指向性を持たせてあるから、魔法具本体に伝わる熱はほとんど無い。それと、刃渡りは普通の片手剣からナイフくらいにまで調整できる。ジ・フレイムの三重結合起動トリプルユニオンキャストが元の魔法だから、火力もそれなりにあるはずだよ」


「待った、中級の三重結合起動? それを刃の形に圧縮する訳だろ? ……どんな火力だよ。圧縮率がとんでもないな」


 何がそれなり(・・・・)だ。恐ろしい代物を渡しやがる。


「……僕としては、攻撃魔法を非殺傷にできるスギサキ君の方がとんでもないと思うけど」


 俺とエリックの視線が交差する。どうやら、似たような目で互いを見ているらしい。


「あの……、どっちもどっちだと思います……」


 そんな中、俺とエリックを除けば唯一自力で魔法を使えるステラさんが、控えめな様子ながらそう指摘した。


 俺とエリックの両方がステラさんの方を一度見て、また互いの視線を交差させる。それからほぼ同時に、首を横に振った。


「三人とも、だな」


「三人とも、だね」


「ひょっとしてそれ、私も混ぜられましたか!?」


 ステラさんがぎょっとした目で俺とエリックを交互に見るが、それ以外に何があるというのか。


「綺麗にオチも付いたところで、今日のところはお開きで良いかな?」


 一連のやり取りを楽しげに眺めていたロロさんから、そんな言葉が出てきた。


 無事俺とエリックの同類にカテゴライズされたステラさんが何やら不満を訴えていたが、頃合いと見た他の全員は解散する空気だ。テーブル上に僅かながら残っていた料理や飲み物を各々ささっと口に放り込み、席を立つ。


「あ、そうだ。スギサキ君、明日って時間ある?」


 エリックが俺からのプレゼントである杖を持って、謎の確認をしてきた。


「明日はひたすら訓練所で鍛錬に勤しむ予定だけど」


「じゃあ、ちょっとだけ時間をくれないかな。僕らが貰った魔法具の使用感を確かめるには、スギサキ君に相手をして貰うのが一番良いと思うんだ」


 その言葉に、エリックのパーティメンバー達がはっとした様子になった。


 これ、断れる感じじゃないな? 断りたい訳でもなかったから、別に構わないけれど。


「分かった。俺で良ければ相手をしよう。こっちも貰った魔法具の使用感を確かめたいし」


 折角なので、武器はそれだけを使うというのも有りだろうか。


「ありがとう。それじゃあ、また明日ね。ロロさん、今夜は本当にありがとうございました」


 三つ星──中級に上がったのだから、少しくらい調子に乗っても良さそうなものだけれど。本当にストイックだ。


 一足先に店を出て行くエリック達の背中を見送りながら、そんな感想を抱く。


「あの子達は全員優秀だけど、中でもエリックは別格だよね。私は近い内に追い越されちゃいそうだよ」


 何だかくたびれたような表情を浮かべて、ロロさんが溢した。


「魔法具でも作りましょうか? あ、レベリングや普通の訓練も付き合いますよ?」


「リク君って私に対して驚くほど甘いよね?」


 そうだろうか? ……そうかも知れない。


「世話焼きな人の世話を焼くのが楽しくてつい」


「リク君って変なところがややこしいね?」


 かも知れない。


 ロロさんが変な笑みを浮かべている。

 苦みが混ざっている訳ではなさそうなので、問題は無いだろう。


「でも、リク君の魔法具かぁ……。それは確かに欲しいかな。勿論、お金は払うよ」


「……はい」


「今の妙な間は何かな?」


 無料(タダ)で渡そうかと思っていたもので。











 明けて翌朝。

 しっかりと睡眠をとった俺は、昨晩エリックに言った通り訓練所に来ていた。


 そしてエリック達が既に居た。


「やる気が凄いな」


 思わず溢した言葉だった。


 俺も朝食を取ってからすぐここに来たので、それなりに早い時間のはずなんだが。他の人間もあまり居ないし。


「おはよう、スギサキ君。僕もだけど、皆貰った魔法具を試したくてうずうずしてたんだ」


 それはまた、随分と喜んでくれたようで。


 ジャックもアンヌもステラさんも、それぞれ魔法具を持って準備は万端らしい。


「じゃあ、早速始めようか」


 俺も昨晩貰った魔法具を取り出して、不敵な笑みを浮かべた。






 さて、毎度おなじみ結界内。

 俺は一人。対するはエリック達四人。


「俺はステータスシステムの特殊運用をせず、武器もこれ(・・)一本で行こう。ステータス差によるゴリ押しも当然無しで」


 片手武器を使うのは久々だ。そんなことを思いながら、右手に持った魔法具に魔力を込めて、刻み込まれた魔法を起動する。


 ──轟音。


 ガスバーナーの音を暴力的なまでに大きくできれば、こんな風になるだろうか。聞いただけで耳を焼かれてしまいそうな気さえする音だ。

 起動後は多少大人しい音になったが、中級攻撃魔法の三重結合起動トリプルユニオンキャストを非常識なまでに圧縮した炎が確固たる形を当然のように維持している様は、恐ろしさすら覚える。


 なお、形状としては直刀に近いようだ。真っ直ぐに伸びた、片刃の刀剣となっている。


「……俺、この模擬戦でこの魔法具を使っても大丈夫か?」


 三つ星冒険者の四人パーティが相手をするには、火力が高すぎる。魔法具製作者がその中に居るが。


「圧縮が足りなかったかな?」


「逆だよアホか」


 首を傾げながら恐ろしさの追加投入を行う製作者(エリック)に、脊髄反射でツッコミを入れてしまった。


「まあ、そういう返しが来るなら良いのか」


 他三名が何か言いたげではあるものの、しっかり武器を構えているし。


「それじゃあ、いつも通りコインが床に落ちたら開始で」


 左手にコインを持って、親指で上に弾く。


 くるくると回転しながら放物線を描いて、コインはそのまま床に落ちた。


 前方、炎の刃の切っ先をこちらに向けたエリック。

 左前方、風の盾を構えたジャック。

 右前方、アンヌが投擲した三本の投げナイフ。

 後方、ステラさんが生成した風の障壁。

 追加で上方、滝の如く叩き付ける風。これはエリックに渡した魔法具によるものか。


 逃げ場を潰した同時攻撃。昨晩俺が渡したばかりの魔法具を組み込んでの連携だが、粗は見えない。


 俺の選択は右前方の突破。風を纏って回転するナイフを、炎の直刀でまとめて薙ぎ払う。

 赤い残光に火の粉が舞って、実に鮮やかだ。


 投げナイフを落とされたアンヌは追加で投擲してくるが、それより早くこちらに届く攻撃が別にある。


 エリックの縦一閃。

 こちらは身を翻して避けるが──間髪いれず、紫電を用いた横一閃が(はし)る。保険として構えていた炎の直刀に衝突し、熱した鉄を鎚で打ったように火花が散った。


 散った火花が消えぬ内に、今度はジャックの剣が俺の左脇腹へと迫る。


『ジ・ウィンド──三重結合起動トリプルユニオンキャスト


 魔法を発動。俺の腕を、足を、身体全体を、風が駆け巡る。

 その風に身を任せて、素早く最小限──ではなく、大きく後退しての回避運動。


 直後、バックラーによる衝撃を推進力(・・・)としたジャックの剣撃と、先程アンヌが投げたナイフが俺の目の前を通り過ぎた。


 そして僅かに遅れて、俺が最初に叩き(・・・・・)落とした(・・・・)投げナイフが床の上から弾かれたように宙を舞い、同じく俺の目の前を通り過ぎる。


「……ははっ。昨晩俺が言った真っ当な(・・・・)魔法具の使い方なんて、誰もしやしない」


 ステラさんに渡した杖は、こちらの逃げ道を潰すために。エリックに渡した杖は、こちらの動きを鈍らせるために。ジャックに渡したバックラーは、自身の推進力に。アンヌに渡した投げナイフは、設置型の罠に。

 ああ。魔法具の製作者である俺も、そういう使い方は想定していたさ。昨晩はあえて言わなかっただけ。


「だって、もっと色んな使い方ができるはずなのに、わざとらしいくらい普通の使い方しか言われなかったからね。自分達で(・・・・)考えてみろ(・・・・・・)って意味だと、僕らは受け取ったよ」


 エリックは実に楽しげに、全身から戦意を滾らせつつ語った。


「それにしたって、一晩明けた翌朝にいきなり百点満点を出してくるとは思ってなかったけどな」


 お陰でいきなり、風魔法を使わされている。本当はもう少し後になってからの予定だったのに。


「採点はまだ早いってば。どうせなら、百二十点を目指したいし」


「この欲張りめ」


 穏やかに会話をしつつも、互いの得物が互いに狙いを定めている。


 さて、ここからが本番か。

こいつら三つ星冒険者の戦い方じゃねぇ……。

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