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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一七四話 冒険者養成学校9

生徒達の試合が始まります。

 試合開始は、もう間も無く。


 連結されたことで平時よりも広くなった結界内で、真剣な表情を浮かべた六名の生徒達が二手に分かれて向かい合っていた。

 片やここ一週間ほど俺が関わったCクラスの生徒三名、片や俺に突っかかってきた(バイエル)おっさん(先生)が受け持っているAクラスの生徒三名。


 結界の周囲をぐるりと囲むのは、選出されなかった両クラスの生徒達。それぞれのクラスの選手に向けて、応援の声を掛けている。


 選手達が待つ結界の中へ校長先生が入っていき、非常に短く挨拶をしてから──開始の合図を出した。


 まず動いたのはAクラスの選手の一人。

 鋭い穂先を備えた槍を前方に構えて突撃し、文字通りの一番槍。向かう先はやはり、パウル君の方だった。


 対するパウル君はその場から動かず、三日月斧(バルディッシュ)を真上に振り上げる。


 両者の得物の間合いが重なった瞬間、三日月斧が裂帛(れっぱく)の気合と共に振り下ろされる。


 紫電は使用せず。けれど通常運用の精度を上げた彼の攻撃は、相手の回避を許さぬ速度で。

 槍の穂先に三日月斧の刃が叩き付けられると──穂先が爆ぜるように砕け散った。


 砕け散った穂先の破片が床に当たって更に砕け散り、宙を舞う。


 それを呆然と見つめてしまった槍使いの選手は、縮地を使用して背後へと回ったシアさんの一閃により首を刎ねられ即座に退場。


 なお、訓練所とは違ってここの結界は痛覚にマイナスの補正が掛かっており、使用者に優しい設定だ。


「あら、早くも数的有利が生まれてしまったわ?」


 わざとらしいくらいに意外そうな声を作った(・・・)シアさんが、ゆっくりと振り返る。

 そんな彼女の視線の先には、残り二人になったAクラスの選手達を相手に一人で悠々と剣を振るうマックス君が居た。


 ステータスシステムの通常運用の精度向上により底上げされた動きの良さで、相手の二人を圧倒する。そこに時折単発の紫電や縮地を織り交ぜて、もはや手が付けられない。


 相手から感じる動きの悪さも、その状況の原因にあるか。彼らの仲間の一番槍が一撃で粉砕されたことは、少なからず響いているのだろう。


「……ひとまず、こんなところか」


 マックス君はそう呟いて、大振りの横一閃。自身はその場を動かず、相手に距離を取らせた。


 一人に対して二人がかりで圧倒され、今は肩で息をしているAクラスの選手達。その目は驚愕に彩られている。


 観客の生徒達はといえば、クラス別に対照的な反応を見せていた。

 優勢という言葉が生温いこの状況を半ば予想していたが故に、笑みを浮かべて呑気に声援を送るCクラス。

 劣勢という言葉が生温いこの状況を全く予想していなかったが故に、絶句し呆然と見つめるだけのAクラス……と、その担任であるバイエル先生。


 まあそうなるよな。大体分かってたさ。


 結界内に視線を戻すと、マックス君が後ろに下がって片手半剣を鞘に納めていた。


「もう良いのかしら?」


「俺はな。不安なら手伝うが、必要か?」


「まさか」


 わあ、マックス君は一足早く休憩に入るらしいぞ。余裕だな。


 ……とはいえ、そうでもしないとAクラスの選手達は本当に何もできず終わるか。

 何せ、マックス君がつい先ほど残る二人を単独で圧倒していたのは否定しようもない事実だ。そこにシアさんとパウル君の二人が参戦すれば、結果は先に述べた通りとなるだろう。


 結界の端の方に立って観戦を決め込んだマックス君に視線を送ってから、シアさんはパウル君に声を掛ける。


「貴方は好きに動きなさい。私が合わせてあげるわ」


「……うん! まだまだ、ぶちかますよ!」


 ちらりと一瞬、パウル君の視線がこちらに向けられた。

 俺は頷くことで応じる。


 パウル君は笑みを浮かべ、改めて相手選手達を見据える。


 さてその相手選手達だが、何とか呼吸を整えシアさんとパウル君を警戒していた。

 そう、きちんと二人ともを。


 ただ……君達の担任には、俺も散々警告をしていたのだけれど。それでなくともCクラスの授業中、訓練用の武器が次々に折られていく様は自分たちの目で見ていたはずで。

 だからその警戒は、遅すぎるとも言える。


 一度止まった試合の流れを再び動かしたのは、パウル君。真っ直ぐ相手二人に向かって前進し、両手で掴んだ三日月斧を全力で薙ぎ払う。


「止めるぞ!」


「お、おう!」


 相手選手二人が見事に息を合わせて、ほぼ同時に三日月斧を受け止めた。


 受け止めて、しまった。




 ──重撃。




 岩盤を爆薬で粉砕したかのような轟音。


 受け止められた三日月斧はほんの僅かに抵抗を受けたものの、ほとんど素振りのようにあっさりと振り抜かれた。


 馬鹿正直にその攻撃力を受け止めてしまった二人は、ひたすら理不尽な威力に吹き飛ばされて。結界の壁に衝突する寸前で、結界外へと強制退去させられた。

 今は、何が起こったのか分からない様子で周囲を見渡している。


「……何で一撃で終わらせちゃうのよ!? 結局私、ほとんど何もしてないじゃない!」


 いや仰る通りで。

 けれどシアさんは最初の一人を華麗に仕留めており、本当に何もしていないのはAクラスの選手達だ。


「試合終了! 勝者、Cクラス!」


 不満を噴出させたシアさんの声が虚しく響いた後、校長先生が試合終了を宣言した。


「再戦よ、再戦! 今度は私だけで戦うわ!」


 不満なのは分かったけど、やめたげて。それはあまりにもAクラスの選手達が可哀想だから。






 ところで、豪快に勝利をもぎ取っていったパウル君の話をしようか。


 先に述べていた通り、彼はSTRについて素晴らしい適性を持っていた。それは通常運用の精度が高いお陰で、一見軽そうな一撃であってもかなりの威力を込められる……という程度では収まらず。限定的ではあるが重撃を使用可能な程で。


 重撃の難しさを何かに例えるなら、サッカーのリフティングや縄跳びの二重跳び辺りが適切だろうか。

 ボールを一度だけ蹴り上げる。二重跳びを一度だけ跳ぶ。どちらも大抵の人間にできることだろう。まあ、重撃の難易度はそれらの比では無いが、それは横に置いておく。

 そしてどちらも、できるだけ連続してやろうとすると途端に難易度が上がる。リフティングならボールが明後日の方向に飛んだり、縄跳びなら縄が足に引っかかったり。そういったミスが回数を重ねるごとに非常に起こりやすくなる。


 ならば、最初から継続を目指さなければどうか。つまり、最初から決まった回数だけ行うならば、どうか。

 その答えが、パウル君の使用した重撃だ。


 彼が重撃の継続を行うなら数秒が限界な上、秒間二回程度の回転数しか出せない。

 けれど、最初から回数を決めて行うなら。彼は瞬き程の時間で四回、攻撃を重ねることができるようになった。


 だからこそ、マックス君とシアさん以上の初見殺し。二回目以降ですら、正面からの打ち合いは全力で避けなければならないハンデが相手に付く。少なくとも、その相手が明確な格上でない限りは。


 閑話休題。






 試合は終了した訳だが、俺の仕事はむしろここから。

 ここまでは予定調和でしかなかったから、当たり前か。


 とはいえ、まずは圧倒的勝利を収めた我らがCクラスの選手達に声を掛けよう。


「あ、スギサキ先生! 僕やりました! 言われた通り、ぶちかましてきました!」


 意気揚々と三日月斧を掲げ、誇らしそうに俺へ伝えてくるパウル君。

 良くやったと、素直に褒める。


「スギサキ先生、再戦の手配をお願いします! 今の試合、私は何もしていません!」


 不満を爆発させて、俺に詰め寄るシアさん。

 すまん、それは諦めてくれ。


「スギサキ講師。シアは俺が(なだ)めておくから、他にやるべき事を優先してくれ」


 マックス君、君には後で相応の報酬を渡そう。


「頼んだ」


 思考時間ゼロでシアさんの対処をマックス君にお任せし、Aクラスの面々が集まっている方へ向けて歩き出す。

 後ろからシアさんの声が追いかけてくるが、ひとまず置き去りに。本当に頼んだぞマックス君。


 さてさて。

 Aクラスの担任であるバイエル先生のもとには既に校長先生が居て、何やら話をしている。

 バイエル先生は非常に顔色が悪そうで、試合前の意趣返しでもしてやろうかと一瞬だけ考えた。校長先生が居るのでやめておく。

 なお、その校長先生はすこぶる機嫌が良さそうだ。


「おや、スギサキ先生。今回はお疲れさまでした」


 近付いて来る俺に気付いた校長先生が、そう声を掛けてきた。


「お疲れ様です、校長先生。Cクラスの生徒達の成長度合いは、いかがでしたか?」


 挨拶もそこそこに本題へ。


「お見事というほかありません。ステータスシステムの特殊運用である種々の技法の有用性もさることながら、通常運用の精度向上による能力の底上げが、非常に安定した立ち回りを実現させていました。特にマックス君、彼は元々優秀な生徒ではありましたが、目を見張る程の成長です」


 嫌に褒めてくれるもんだ……と、そう思ったのだけれど。


「しかし、一点だけ」


 人差し指をピンと立て、鋭い視線で俺を射貫く校長先生。口元だけは笑みを浮かべて。


「スギサキ先生以外の教員、講師では、教えられないやり方を採用されましたね?」


 はっはっはー。

 ……やり過ぎだったか。


「……技法に技法を乗せるやり方で、こちらから生徒に紫電を使用させました」


 素直に白状する。

 ひょっとするとブラフだった可能性もあるが、そんな僅かな可能性に賭けるだけのメリットを感じない。


「技法に、技法を……? 何か不正をしていたということですか!?」


 (ちげ)ぇよ黙ってろオッサン。


 急に興奮し始めたバイエル先生を見て、あくまで内心ではあるが暴言を吐いてしまった。


「スギサキ先生は卑怯な程に高度かつ効果的な教え方をされただけで、試合としては純粋な生徒達の実力勝負でしたよ、バイエル先生」


 校長先生の顔がバイエル先生に真っ直ぐ向けられた瞬間、俺の顔もそちらに向けてみる。嘲り(・・)の顔を。


「そ、そうで──何ですか、その顔は!?」


 おお、ちゃんと気付いたな。偉いぞ。


 まあ、こちらはすぐ表情を変える訳だが。

 チョイスは悲しそうなそれだ。声もちゃんと作って、と。


「こうも立て続けに疑われては……こんな表情にもなりますよ」


 校長先生も俺の悲しそうな顔を確認して、首を横に振った。

 そして再び、バイエル先生を見る。


「バイエル先生……」


「違います! 違います校長! 先程のスギサキ先生は悲しげな表情などではありませんでした! 私を嘲る表情をしていて!」


「仮にそれが事実だとして、先に侮辱をしたのはどちらだったかを考えて頂きましょうか」


「~~~ッ!」


 はい、終了。

 どっちにしろ詰んでたな。


 んで、生徒達の前でここまで醜態を晒してしまった教員は、この後どうするつもりだろうね?

二つの意味で試合終了です。

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