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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一七〇話 晩酌と次の日

アルコールがいらんことするだけの話。

 いやぁ……、やらかした。この世界に来て、五本の指に入るくらいのやらかしをした。


 今は夜。日付はとうに変わり、あと三時間も経たず日の光が顔を出すだろう時間帯。

 場所は自宅のリビング。テーブルの上には酒瓶とグラス、そしてちょっとした料理の食べかけが何皿か。


「リク、リク」


 俺はソファーに座っているが、同時に座られて(・・・・)もいる。具体的に述べると、俺の膝の上にフランが乗っている。つまり至近距離であり、互いの身体の向きが九十度ほど傾いているため、俺の視界の三割程度がフランの顔で占められていた。


「はいはい、どうしたフラン?」


 俺にしては大変珍しく、フランに対しておざなりな反応だ。まあ、先の状況説明で理由は大体分かるかと思われる。


はい(・・)は一回ですよリク? 呼んでみただけです。呼びたくなってしまいました。リク、リク。ふふふっ」


 ざっとこんな具合だ。


 いつもの知的な雰囲気を彼方へと吹き飛ばし、ふにゃりとした笑みを浮かべているのは、フランセット・シャリエ。俺の恋人であり、冒険者としてのパートナーでもある。


 いっそ俺も理性を消し飛ばして応対してしまおうかと、そう考えたのはこれで何度目か。とはいえこの事態が発生したのは、俺が素面のフランで遊んだ故のこと。

 ……まさか、いきなりフランが酒瓶を持ち出してラッパ飲みするとは思わなかった。俺が止める時間も無かった。


「そもそも、私がリクの事をどれほど好きかというのは、リクも分かっていて然るべきです。だからこうして物理的に距離を縮めて、それを表しているのです」


 素面のフラン、戻ってこないかな速やかに。今度は遊ばないからさ。

 いや今のフランも可愛いのは可愛いけれども。ストレートに好意を伝えてくる非常に可愛い彼女だけれども。ただ、ストレートはストレートでも右ストレート(・・・・・・)って感じの奴なんだよ。こちらのノックダウンを狙ってくるボクシング的な感じなんだよ。


 言っていることそのものは一定の筋が通っているので、酔っているフランも知性が失われている訳ではないと分かる。言ってみれば理路整然と惚気てきている状況なので、並の酔っぱらいの厄介さを軽く凌駕するだろう。

 いっそ知性も吹っ飛ばしてくれていれば、まだ対応も楽だっただろうに。


「リク、口を開けてください。ほら、あーん」


 フランの手にはチーズを乗せたクラッカーがあり、それを俺の口元へと運んでいる。


 抵抗は無意味だ。

 そうであると俺が理解しているのは、これが既に何度も繰り返された状況だから。


 大人しく口を開けると、間を置かずクラッカーが俺の口に入れられた。


 あまり癖の無い、柔らかな口当たりのチーズ。さくさくとしたクラッカーの食感。

 甘味料の類は特に入っていない筈だが、何故こうも甘いのだろうね? 分かってんよ俺にも何でなのかは!


「ふふっ、もう全く抵抗しなくなりましたね」


 わあ嬉しそう。実に華やいだ笑顔だ。


 俺だって、そりゃあ最初は抵抗したさ。けど、そうするとフランが目を潤ませるんだ。

 恋人らしいことをしてみたかったのですが、駄目でしょうか。悲しそうな表情を浮かべてそんな言葉をぶつけてきたんだ。


「抵抗する気力を根こそぎ奪われれば、そりゃあ抵抗なんてする訳が。あと俺もそれなりに酒が入ってるし」


 入れた、とも言う。こちらだけ素面のままこの状態のフランを相手しようだなんて、全く思えなかった。

 何ならもっと入れてしまえば良いか……?


 テーブルの上のグラスに手を伸ばすも、届かない。ほんの少し前傾姿勢になれば届く距離だけれど、今は膝の上にフランが乗っているのでそのままでは無理だ。


「ちょっと失礼」


 なので、フランの肩を抱いて落ちないようにしつつ、前傾姿勢に。グラスに手が届いた。

 グラスの中の酒を飲もうとしたけれど、その前に視線に気付く。


「キスでもされるのかと思いました」


 じっと俺の顔を見ながら、フランがそんなことを言ってきた。


「キスでも、されるのかと思いました」


 繰り返された!?


「この流れでするのは、何か違うんじゃないかな?」


 無言でじっと見続けてくる。心なしか責めるような雰囲気がある。


 俺はひとまず、手に取ったグラスを口元へ。半分ほど入っていた酒を一気に飲み干し、少しだけ理性を溶かす。


 面倒になったので空のグラスをアイテムボックスに収納した。


「……で、寝てるのか」


 くたっと身体の力を抜いて、フランが目を閉じ静かに寝息を立てている。


 俺が理性を溶かした意味。


「俺も寝るかー……」


 いや何だこれ。











 明けて翌朝。

 少しだけ嘘を吐いた。翌日の昼前だ。


 如何せん寝たのが遅く、必然的に起きる時間も遅くなってしまった。


 あの後フランを彼女の部屋のベッドに寝かせてから、俺も自身の部屋のベッドで寝た。断じて一緒に寝た訳ではない。

 そういう訳で俺は一人で起床し、軽くシャワーを浴びてから、遅めの朝食……というか昼食も兼ねているのでブランチだろうか? ともかく食事を用意して黙々と食べる。


 ちょっとこう、変な気力の削り方をしたので、今日は回復に努めたい。そんな理由でだらだらとした時間をリビングのソファーの上で過ごしていると、フランも起きてきた。


「おはようございます……リク」


 きちんと着替えは終えているが、どうやら本調子ではなさそうだ。


「おはよう、フラン。ちょっと聞きたいんだけど、寝る前のことは覚えてるかな?」


 これに対する返答次第で、俺は言葉を変えようと思っている。


 フランはやや覚束ない足取りでこちらにやって来て、俺の隣に座る。


「寝る前、ですか……。とても楽しかったことは覚えています」


 ああ、楽しかったのか。それなら良かった。俺が精神的に疲弊した意味もあったというもの。


「ただ、何となく最後にやり残したことがあったような……気、が……して……」


 あからさまに不自然な声の途切れ方をしたので、まじまじとフランの顔を見てしまう。


 いやー、見事に固まってるね。これは、ひょっとすると面白いことになっているのかも?


「とても、楽しかったことは、覚えています……よ?」


 これはなってんね、面白いことに。フランが変な汗をかいて、少し前の発言を繰り返してるし。


「そっか。ちなみに俺は記憶が少しあやふやで。具体的にはどんなことが起こったっけ?」


 満面の笑みで、問い掛けてみる。


「お、覚えているでしょう、その反応は確実に!」


「いやいや、俺も酒はそれなりに飲んだし。記憶にあやふやな部分があるのは事実だよ」


 ほぼ完全に覚えてるけど、部分的にぼやけた記憶はある。だから嘘ではないさ。


「フランこそ何か覚えているから、その慌てようなんじゃないのかな?」


 俺の膝の上に乗ってくるわ、手ずから俺に食べ物を食べさせるわ、キスを強請ってくるわ。


「覚えていません……いません、でした……!」


「そっかそっか。覚えていなかった(・・・・・)んだ」


 最初は本当に覚えていなかったんだろう。下手に思い出そうとして、実際に思い出してしまった訳だ。


「……忘れてください」


 ふらりと揺れるような動きで俺の両肩を掴むフラン。


「私は忘れますから、リクも忘れてください!」


 一生懸命俺の身体を揺らそうとしてくるが、悲しいかなステータスの違いがありすぎてほとんど揺れない。


「大丈夫、大丈夫。可愛かったから」


 俺はフランの背中に腕を回して、軽く抱きしめる。


 すると声にならない叫びが、フランの口から洩れた。


 俺の彼女は可愛いなあ。

無限ループではないです。

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