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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一六三話 ズュートケーゲル調査報告

事後処理は大事ですね。

◆◆◆◆◆


 私──フランセット・シャリエは今、城塞都市アインバーグの自宅のリビングにあるソファーに座っています。

 この場に居るのは私だけではなく。右隣にはリクが、テーブルを挟んで向かい側のソファーには姉のマリアベル、そしてエルケンバルトさんも座っています。


 四大霊峰が南ズュートケーゲルにて発生した強大な魔物、溶岩竜(ラーヴァドラッヘ)を協力して討伐したメンバーです。


 リクが酷くあっさりと溶岩竜にトドメを刺したあの後、発生していた大量のフレイムエレメンタルを全員で片付けてから。山を下りた私達は、蓄積した疲労に抗わずエルケンバルトさんが展開した()で一泊しました。

 特に疲労が酷かったリクはぐったりしながらもエディターを操作してマップを確認し経過観察を始めましたが、私が強奪して作業を引き継ぎました。これは余談でしょうか。


 帰路では特筆すべきことも無く、無事に帰ることができています。






 さて、こうしてリクと私の家に四人で集まった理由ですが。姉のマリアベルが、ギルドマスターへの報告前に話があると言い出したことが挙げられます。

 話す内容として考えられることは、幾つかありますね。


「まずは改めて、お疲れ様。今回の一件、君達の協力が無ければこれ程の早期解決は困難だった。本当にありがとう」


 口火を切ったのはエルケンバルトさんでした。とても穏やかな表情で、本心からの発言であることが分かります。


「足を引っ張らずに済んだなら良かったです。まあ、エルさんが当たり前のように竜の息吹(ドラゴンブレス)を切り裂いていたあの光景を見た後では、どちらにせよ早期解決はできていたように思いますが」


 苦笑しながらの、リクの返答でした。早期解決についての話は、私も同意見です。


「ははは。でも流石に熱かったよ」


「普通なら確実に焼け死ぬ攻撃だったのよ?」


 朗らかに笑うエルケンバルトさんでしたが、姉が冷静な指摘をしました。そこには一切の遠慮がありません。


「そうは言っても、エクエスの機動力ではブレスの回避は厳しかったからね。リク君の騎獣ならともかく」


「方法論について話しているつもりは無かったんだけど。……まあ良いわ。そこを掘り下げても仕方がないもの」


 姉はそこで言葉を区切って、リクに鋭い視線を向け始めました。


「ドタバタしていたり、全員疲れが溜まっていたりで後回しにしてたけど。リク君、貴方のあの力、一体どういうことなのかしら?」


 あの力、というのは溶岩竜にトドメを刺した際のことでしょうか?

 然程威力が高い訳でもない初級の風魔法で、不自然なほどのダメージを与えていたのですから。


「大量のフレイムエレメンタルを倒して貴方のレベルが一気に上がったのは分かるけど、それでも溶岩竜の首を斬り付けたあの異常な速度は説明が付かない。その直後にただの初級風魔法でトドメを刺したのも、異常としか言いようが無かった。……実力としては、少なくとも七つ星に指をかける程度にはあるのでしょうね」


 半分だけ正解でしたか。

 ……速度については、私はもう感覚が麻痺していておかしいと思えなくなっていました。見慣れていますからね。


「ああ、それは俺の剣の能力と、アサミヤ家で学んだ技法によるものです」


 姉はあっさりと返答したリクの平然とした顔を見て、それから私とエルケンバルトさんの同じくらい平然とした顔を見ました。


「……もしかしなくても、知らなかったのって私だけよね?」


 その言葉には、溢れんばかりの不満が込められていました。


「アサミヤ家で学んだ技法、というのは僕は知らないよ? リク君の魔法剣が特殊な能力を複数持っているのは、知っていたけどね」


「リク本人を差し置いて言いふらすようなことではありませんから」


 いくら実の姉とはいえ、リクの特殊性を本人の許可無く伝えるというのはあり得ません。


「今お話ししますから、そんな顔をしないでください、マリアベルさん」


 眉間に皺を寄せ不機嫌そうにしている姉に対し、リクは(なだ)めるようにそう告げました。






 リクがクスキ流戦闘術とエディターのステータス編集能力について説明すると、姉は盛大にため息を吐きます。


「ステータスシステムの特殊運用はまだしも……、新たな神授兵装(アーティファクト)がこの世界に現れてた、ってことよね? それほどの力を持つ魔法具が神授兵装じゃないなんて、有り得ないもの。どうして今まで黙って……いえ、それは当然か。実力も後ろ盾も無い状態で強力な武装を持っていると知れたら、どれだけ厄介なことになるか分かったものじゃないし」


 何だか懐かしい気がしますね。まだリクがそれほど強くなかった頃、そんな話をしていました。

 懐かしいと言っても、ここ二年以内の話ではありますが。


「それにしても、ステータスを自由に弄れるだなんて。誰にでも勝てる可能性があるじゃない」


「いえ、少なくともエルさんには現状全く勝てる気がしませんが。ステータスを編集するにも、攻撃を複数回当てないといけないんですよ。本当に可能性があると思いますか?」


 リクが真顔でした。


「……大体誰にでも、と言い直しておくわね」


 姉が発言を訂正しました。

 テーブルの上ではリクが淹れた紅茶が湯気を立てていて、その内の自身の前にあるカップを取って口元に運びます。

 仕切り直したいようですね。


 ところでエルケンバルトさんが何か言いたげな顔をしましたが、黙っていることにしたようで。僅かに開いた口を不本意そうに閉じました。


「ちなみに、ギルドマスターはこのことを知っているの?」


「索敵能力については、以前にお伝えしています。ステータス編集能力については伏せましたから、リクの持つそれが神授兵装であるという認識は持っていないかと」


「索敵能力だけでも大したものではあるけど、神授兵装だとすると弱すぎるものね。……まあ、黙っておくでしょう」


 私の返答に、質問をした姉は納得しつつもリクの方へ意味深な視線を送ります。


「人として信用できないもので」


「あえて口に出さなかったのに」


 リクの一刀両断でした。意訳すると口に(・・)出さなかった(・・・・・・)だけ(・・)と言ったため、姉も同意見だったようです。

 もっとも、私も人のことは言えませんが。


「それじゃあ、今回の件の報告でもギルドマスターには黙っておくのかしら?」


「いえ、もう話してしまおうかと。隠しておきたい理由もほとんど無くなりましたし」


 それに、と物騒な笑みを浮かべたリクが続けます。


「ギルドマスターに対して、そろそろ強気に出た方が良いかと思っているんです」


「……変に情報を伏せなくて良いなら、報告もスムーズに進みそうね」


 姉はこれ以上の言及を避けたようです。











 場所は変わって、ギルド本部です。


 青のシャリエ、白のラインハルト、【黒疾風】、【大瀑布】というメンバーが揃ってこの場に来たというのは、中々に周囲からの視線を集めました。

 それなりに多くの人がギルド内には居たのですが、私達が歩く先は自然と人が避けていくため、道が出来上がってしまいました。


 何事かと声を掛けてくる方も数名居ましたが、主にエルケンバルトさんが応対して無難に捌いていきます。

 流石に手慣れていますね。


 私達はそのまま建物の奥へと入っていき、ギルドマスターの部屋へ向かいます。


 エルさんがドアをノックすると、中からギルドマスターの応答がありました。リクがマップ表示を出していたので、中に居るのは既に分かっていましたが。


 私達が入室すると、デスクに居るギルドマスターが姉と私の姿を見て一瞬だけ目を見開きました。リクが居ることには驚いた様子が無いので、そこはやはり予定通りだったのでしょう。


 そのまま更に奥にある部屋に案内されて、全員がソファーに腰を下ろし。秘書の方がテーブルの上に五人分のコーヒーを用意して、退室してから。

 ギルドマスターが普段より目付きを鋭くしながら、エルケンバルトさんを見て口を開きます。


「私が思っていたよりも大事(おおごと)になったようだが、まずは結論から聞かせて貰おうか」


 さて、どのような反応が返ってくるのでしょうか。






「あまりにも情報量が多すぎる……」


 ギルドマスターが額に手を当てて考え込んでいます。


 四大霊峰が南ズュートケーゲルでの一件について、一通りの報告を終えて。珍しくも動揺を隠さないギルドマスターが居ます。


「大昔に大国を単独で滅ぼした災厄級の魔物が新たに出現し、それを黒の神授兵装(アーティファクト)を持つ者が討ち果たしたと。簡潔にまとめればこうなるが、しかしだな……」


 流石に、急に受け入れるには衝撃的過ぎたようです。


「俺は美味しいところを持って行っただけですよ」


 ややうんざりしたようなリクの指摘が入りましたが、その言葉が与える印象よりずっと大きな働きだったというのは、リク以外のメンバー全員が共通で持っている認識でしょう。


「自身が美味しくした(・・・・・・)ところを持って行っただけに思えたがね」


 ギルドマスターは一度首を横に振り、幾らか落ち着きを取り戻した様子で今度はエルケンバルトさんを見ました。


「ともあれご苦労だった。事が事だけに、王室への報告も必要だろう。ひとまずそれは私から行っておくが、場合によって当事者が呼び出される可能性もあることを念頭に置いておくように」


 報告というのは、溶岩竜についてのみでしょうか。それとも。


「ちなみに、呼ばれる可能性はどの程度だとお考えですか?」


 乾いた笑みを浮かべているリクが、ギルドマスターに問い掛けました。何をどう考えているのか、悲しいほどに伝わってきますね。


「黒の神授兵装についてお伝えすれば、まず間違いなく呼ばれることになるだろうな」


 この返答を聞いたリクは数秒間だけ沈黙し、了承する旨の言葉を不本意そうに返しました。


「……ところで、俺は最初から王都へ同行した方が話が早いのでは?」


 そして、より一層不本意そうにしながらそんな言葉を続けました。


 基本的に面倒事は避けたがる性格のリクではありますが、避けられない面倒事は嫌そうな顔をしつつも片付けますからね。


「ふむ。……いや、まずは私だけで報告を終えてしまおう。陛下のお人柄を考えれば、報告だけで事が終わるとも思えん。準備期間(・・・・)を設けることになるだろう」


「それは、何の準備でしょうか?」


「それが分からない君ではないだろう?」


 リクの質問に、皮肉気な笑みを浮かべたギルドマスターが即座に答えました。


 大々的なお披露目会、といったところでしょうか。


分かりたくない(・・・・・・・)俺ではあるんですよ」


 リクは盛大なため息を吐きました。

事後処理のはずなのに、次のイベント発生のフラグだったという。

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