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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一六一話 ズュートケーゲル調査7

レベリングは早々に終了します。

 上で、エルさん達と溶岩竜(ラーヴァドラッヘ)が空中戦を繰り広げている。


 赤く輝く熱線が白い光の刃に切り裂かれ、その際に拡散したほんの一部が下にある雲を盛大に消し飛ばす。

 巨大な(あぎと)を開き敵を飲み込まんとする溶岩竜のその口に、これまた巨大な氷塊が押し込まれ、噛み砕かれる。

 赤黒く輝く長大な尾が大気を切り裂きながら振るわれれば、氷の壁がその軌道を大きく逸らし回避を容易にする。


 地上の、と言っても雲の上に突き出た高い高度の山頂での話だが、そこの戦闘が少しは落ち着いてきたから確認できたことだ。

 神話の戦いと言われても多くの納得を得られるであろうその中に、この後飛び込まなければならない俺の今の気持ちを十五字以内で簡潔に述べよ。まあ冗談だけど。


 ひとまず三五体。エルさん達に溶岩竜の相手を任せてから、俺達で片付けたフレイムエレメンタルの数だった。

 残るは丁度一〇体。こちらのレベルが上がっていることもあり、今は消化試合の様相を呈している。


 とりあえず今の俺のレベルが一二二、フランが一一九、そしてゲイルが一一八。

 俺やフランは同種族に上が居るけれど、ゲイルはどう考えても世界最強のグリフォンだろう。たとえ問題の溶岩竜が五体ほど同時に現れたとしても、攻撃を回避するだけならば余裕を以ってこなしてくれるという信頼がある。


 そんなことを考えながら手綱を握り大薙刀を振るっていたら、フレイムエレメンタルは先ほどの半数、つまり五体にまで減っていた。

 フランが次なる標的目掛けて水魔法を展開していたが、常にマップを確認し続けていた俺は手綱を操りゲイルに後退させる。


 次の瞬間、直前まで俺達が居た場所の頭上に分厚い氷の障壁が展開されて。更に次の瞬間、白い蒸気を発生させながら盛大に砕かれた。

 氷の障壁を砕いたのは赤黒く輝く長大な鞭──溶岩竜の尾だった。


 溶岩竜の尾はそのまま山肌を舐めるように振り抜かれ、赤熱する大きな溝を掘る。


「無事かしら!?」


「すまない、そちらへの攻撃を許してしまった!」


 マリアさんとエルさんがそれぞれこちらに声を掛けてきた。


「大丈夫ですよ!」


「問題ありません!」


 俺とフランもそれぞれ返事をして、ついでにゲイルも鳴き声を返していた。


 しかし、急にこちらへ攻撃してくるとは何事だろうか。今の今まで視線すら向けてはこなかったというのに。


 そんな疑問は、眼前にて繰り広げられた光景によりすぐに解消された。


「……食べ、た?」


 食べていた。


 何がか。

 溶岩竜が。


 何をか。

 フレイムエレメンタルを。


 山肌ごとかぶり付き、二体のフレイムエレメンタルが溶岩竜の口の中へと消えて行った。


 視界の端に配置しているマップ表示上にて、数字が動いたのを見た。二五〇という数字が、二五六という数字になったのを。

 溶岩竜のレベルが、一瞬にして六つも上がった。


「──ゲイル!」


 俺達を包む風を操り、AGI極振りに加えて縮地も使い、残るフレイムエレメンタルのもとへ移動。大薙刀を真一文字に振るって刃が当たる瞬間限定でSTR極振りをし、魔石を叩き割る。

 それを三連続。残っていた三体全てを片付けた。


 ……ひとまずこれで良し。

 今ならまだ誤差の範囲。レベルが一気に六つも上がったとはいえ、二五〇と二五六なら大差は無い。


 けど、ああクソ。まさか溶岩竜まで俺達と同じく戦闘中のレベリングをするなんて思わなかった。しかも何て効率の高さだ。一体で三もレベルが上がるなんて、ふざけるのも大概にしろよ。


 溶岩竜は、自身が狙っていたフレイムエレメンタルを片付けてしまった俺達を睨んでいる。黄金色の輝きを放つ双眸からは、溢れんばかりの怒りが見て取れた。

 食事を邪魔されて、随分とご立腹らしい。


 その溶岩竜が、不意に上を向いた。空に居るエルさん達の方を向いたのかと思ったが、どうも角度が違う。

 禍々しい翼を広げ、口を大きく開いて──大音量の咆哮。


 叩き付けるような衝撃が俺達の全身を襲い、鼓膜が破れるかと思う程。


 俺は何の指示も出していなかったが、ゲイルが翼を動かし飛び上がる。その数秒後、腹の底まで響くような重苦しく不穏な音が鳴ると共に、山が震えた。


 何が起こったのか事態を把握するより早く、溶岩竜がこちらに接近し前肢の爪を振り下ろしてくる。


 内心で舌打ちをしながら、手綱を引いて大きく後退。問題無く回避に成功する。


『ジ・アクア』


 後退と同時にフランが水魔法を放ち、氷塊が溶岩竜の顔面に激突した。

 不快そうに首を横に振ったくらいで、ダメージは軽微か。


「リク、下に……!」


 フランの声に従い下を見れば、再び噴出するマグマと、新たに(・・・)出現した(・・・・)フレイムエレメンタルが百体ほど確認できた。


 なお、現在のフレイムエレメンタル達の平均レベルは一五〇程だが、緩やかに上昇中である。


 溶岩竜が魔物の発生を、そしてレベル上昇を誘発したとしか思えない状況だった。

 不幸中の幸いと言うべきか、溶岩竜自身のレベル上昇は確認できない。


『テトラ・アクア!』


 凛とした響きを持つ魔法名の宣言。それは、俺の後ろに居るフランからのものではなかった。


 さながら滝のように、上から下へ叩き付ける猛吹雪。溶岩竜もフレイムエレメンタルもズュートケーゲルも、区別無く全てを白く染め上げる圧倒的な規模と威力だ。


 体表を白く凍らせ幾らか動きを鈍らせた溶岩竜だが、手近なフレイムエレメンタルを見付けてそれを食らわんと口を開く。


 させるか。


 縮地で接近。溶岩竜の頭上に来て、ゲイルと攻撃を合わせる。


『トリ・ウィンド』


 俺は並列起動(マルチキャスト)の三枠目を使用し、風属性上級攻撃魔法を発動。

 ゲイルもまた自身の両翼を振り下ろし、風の砲弾を放つ。


 風による上からの殴打を受けた溶岩竜は強制的に口を閉ざされ、フレイムエレメンタルを食べられず。黄金色の眼が苛立たしげにこちらを睨むが──こちらに意識を向けてしまって良いのかな?


 ──そして閃く白。


 過たず溶岩竜の右目を貫いたそれは、ペガサス(エクエス)に乗るエルさんが振るう輝煌。

 白く眩い光を纏う輝煌は深々と突き刺さり、一層強い輝きを以って内部を更に破壊した。


 濁点塗れの大絶叫が響き渡る。


 溶岩竜は痛みを誤魔化す為か無秩序に暴れ、周囲に破壊を撒き散らす。

 それにより、近くに居たフレイムエレメンタルが何体か、擦り潰されて消えていく。


 なお、俺達もエルさん達も早々に距離を取っており、被害は受けていない。


「あのドラゴン──溶岩竜(ラーヴァドラッヘ)が二体のフレイムエレメンタルを食べてから、僅かに威圧感が増した。レベルが上がっていると見たけれど、間違いないかい?」


「ええ、二五〇から二五六になっています。まさか魔物が戦闘中のレベリングなんてし始めるとは思いませんでしたよ」


「いや、まったくだね」


 エルさんと二人、疲れた表情での会話を繰り広げた。


「同感ではあるけれど、貴方達がそれを言うのは納得できないわね!?」


 おお、マリアベルさんからのツッコミが入った。俺がボケに回れるのはそれなりに機会が限られるので、こんな時だが少し楽しい。


 そして楽しませて貰ったからには、俺も今よりもう少し頑張らないとな。


 という訳で、俺は手綱をフランに渡してゲイルの背から降りる。その際、ゲイルごと俺達を覆っていた風魔法は解除し、改めて俺一人を対象とした形で風を纏った。

 八咫烏をアイテムボックスに片付け、エディターを大太刀形態に変形させる。

 なお、以前の大太刀形態とは細部が異なっていた。具体的には、可能な限り八咫烏と同じ形状にしている。


「くれぐれも、無理はしないでください」


 心配そうにこちらを見るフランから、そんな言葉を貰ってしまった。思わず苦笑する。


「安全第一で、何とか頑張ってみるよ」


 敵は災害級の脅威だけれど、やってやれないことは無いはずだ。


 そうとも。そう何度もフランを泣かせてたまるか。


 だから溶岩竜、可及的速やかにくたばれ。

次回、チートツールの本領発揮。

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