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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一五九話 ズュートケーゲル調査5

今回はエルケンバルト視点です。

◆◆◆◆◆


 僕──エルケンバルト・ラインハルトは七つ星冒険者だ。

 ギルドマスターからの依頼により、定期的に四大霊峰の調査を行っている。


 今回ズュートケーゲルに来たのはその一環で、予定としては調査能力に優れる魔法具を持つリク君一人を連れて行くつもりだったけれど。リク君に付いて来る形でフランセットさんが、そして僕に付いて来る形でマリアが同行したため、四人になってしまった。

 けれど結果的に大正解だったのだろう。何せ、四大霊峰が噴火してしまったのだから。


 土地そのものが高い密度の魔力を持つ場合、その地で起こる自然現象は特に深刻なものとなる。

 それは災害規模が大きいというだけでなく、その地に住まう魔物の凶暴化を招くからだ。


 空に吹き上げられた噴石が上昇する勢いを失い、落下してくる。

 高熱を帯びている上に質量もあるそれらは、多くは山肌に転がるばかりだけれど。時折運の悪い魔物がその餌食となり、悲鳴を上げていた。

 そして、僕らも他人事ではない。


 長大な得物である輝煌を振るい、こちらに当たりそうな噴石を逐一打ち払う。

 慣れない得物ではあれど、不思議と振るっていて違和感は少ない。製作者である導師の腕が、余程優れているのだろう。


 そんなことを考えていると、僕らの隣を凄まじい速度の風が抜けて行った。


「先に行きます」


 辛うじて聞き取れたのはリク君の声で、その姿は既に前方で小さく見えるばかり。


「……驚いたわ。世界最速を名乗っても良いんじゃないかしら?」


 後ろから聞こえたマリアの言葉は、呆れたような響きを伴っていた。


「恐らく事実だろうからね。頼もしい限りだよ」


 戦力としても期待できることだし。

 ただ、頂上に集まっている魔物の数が尋常じゃない。生成されている魔石を破壊しようにも、そう上手くは運ばないだろう。かなりの障害となるはずだ。


「エクエス。すまないが、無理をさせる……!」


 手綱を握る手に力を込めて、騎獣(エクエス)を急かす。


 エクエスは短めに(いなな)いて、これまで以上に力強く羽ばたいた。






 僕らが頂上に到着すると、そこは火の粉が飛び交う火炎地獄の様相を呈していた。


 黒い山肌を、赤黒く輝くマグマが舐める。

 夥しい数のフレイムエレメンタルが、この場に充満する火属性の魔力によって活性化。通常の数倍に膨れ上がった体躯は筋骨隆々の大男を彷彿とさせるフォルムで、炎の魔神と呼称すべきかもしれない。


 ここまで来るのに無理をさせてしまったエクエスは、消耗が激しい。ここから戦闘を行うのは、些か以上に厳しいものがある。

 だから、僕とマリアはエクエスから降りて、エクエスには少し離れた場所で待機するよう指示した。


 地上に降りた僕らは焼けるように熱い地面──ではなく、氷点下にまで下がった冷たい地面を踏みしめている。


「ある程度調整はしてるけど、冷え過ぎちゃったわね。流石にズュートケーゲルの噴火と張り合うとなると、私もあまり加減ができないわ」


 今聞いた通り、それは僕の隣で涼しい顔を維持しているマリアのお陰だ。彼女は火口付近の一帯に水属性最上級魔法をぶつけ、冷気を持続させてくれている。

 それでも少しずつ氷が融かされ、僕の膝くらいの高さでは白い靄が発生してしまっているけれど。


「いや、助かるよ」


 言いつつ、接近してきた二体のフレイムエレメンタルを手早く切り伏せる。

 フレイムエレメンタルは割れた魔石を残し、空気に溶けるように跡形も無く消えた。


 ……輝煌は良い武器だけれど、やはり使い慣れた物の方が良さそうだ。

 輝煌をアイテムボックスに収納し、代わりに白の神授兵装(シュトラール)を取り出す。


 視線を上げれば、縦横無尽に空を飛び回るグリフォンの姿がある。その背に乗るリク君とフランセットさんが、それぞれ風魔法と水魔法を使用しフレイムエレメンタルを攻撃していた。

 彼らに向けられる攻撃はことごとくが的外れに見えて、ここが四大霊峰の頂上であることを考えれば異常であると言えた。少なくとも機動性において、彼らの実力は七つ星級だという証明に他ならないからだ。


「それじゃあ、行ってくる」


 とはいえ、この場における攻撃力としては少々物足りなさがある。フレイムエレメンタルの数は、中々減らせていない。


「ええ。私はちょっと動けないから、頼むわね」


 涼しげな表情自体は維持できているものの、額から一筋の汗が流れるのは仕方ないことだったか。

 ともあれ僕はマリアから返事を貰って、駆け出す。


 まずはマリアの負担をこれ以上増やさないよう、周囲の掃討から。


 不自然に肥大化し、外見が凶悪になっているフレイムエレメンタルが複数接近してきている。

 最も近かった個体に真っ直ぐ向かっていくと、あちらは僕に両の掌を向けてきて、直径五メートル程の火球を放ってきた。


 こちらの斬撃は二度。十字に斬り、形を保てなくなって消えゆくそれの隙間を抜けて、本体へ肉薄。今度は素早く突きを放って魔石を砕き、この個体は終了。


 偶然か狙ってか、僕を挟撃しようとする二体が居る。

 やはり先ほどの個体と同じく火球を放ってきたので、それらは回転斬りでまとめて対処。あえて僅かに刃を傾かせ、風を乱すことで無力化した。

 フレイムエレメンタルが動揺を滲ませた隙に、一方の個体との距離を詰める。真一文字に剣を走らせ、魔石を斬った。


 周囲のフレイムエレメンタルは、僕を一番の脅威と見たのか。空を飛ぶリク君達に攻撃の手を向けていた多くの個体が、僕に標的を移したらしい。

 僕から見た山の輪郭が、数多の火球でほとんど見えなくなるような半包囲の状況になった。


 回避は容易だけど、それだとマリアに向かってしまう火球が出てくる。だから全て斬り伏せよう。


 一斉に放たれた火球が、僕を焼き尽くさんと迫る。僕はそれらを、一つずつ斬っていく。


 魔法というものは、概ね四分割してしまえば形を維持できなくなり即座に霧散する。先ほどの回転斬りのようにやり方を工夫すれば、二分割でも問題無く。


 一歩踏み込み、正面の火球に振り下ろし。火球一つが霧散する。

 左足を軸にして右回りの回転斬り。左右に並んでいた火球二つが霧散する。

 半歩左に移動して、剣身に捻りを加えた突き。火球二つが霧散する。


 火球が霧散する。

 また火球が霧散する。

 更に火球が霧散する。


 ワンアクションで最低一つの火球を無力化し続け、向かってくる攻撃が止んだ瞬間に敵の只中へ踏み込む。


 さあ、敵の頭数を減らしていこうか。


 すれ違い様に一体ずつ、一太刀で斬り伏せる。それを可能な限り迅速に行う。

 こちらに向かってくる火球はやはり斬り伏せ、振るわれる剛腕は回避し懐に飛び込む。


 そうして、五十体ほど片付けた時だった。ビシリと嫌な音を立て、山肌に大きく罅が入ったのは。


 僕は咄嗟に上を向き、問いかける。


「魔石は今、何処にある!?」


 いきなりの質問ではあったけれど、僕に問いかけられたリク君の行動は早かった。

 今しがた取り出した片手剣に風を纏わせ、敵の居ない場所に勢い良く突き立ててくれた。


 僕はその場所に向かって走り、シュトラールを逆手に持って魔法名を宣言する。


『トリ・ライト!』


 純白の剣身全体が眩く輝き、そして切っ先へと集中する。

 その瞬間、僕は山肌にシュトラールを突き立てた。


 シュトラールを突き立てた山肌に、蜘蛛の巣状の罅が広がっていく。光の形を取った破壊が、地下へと突き進む。


 その間、僕に向かって火球が飛んでくるが、構っていられない。そう思ったけれど、そもそも無用な心配だった。

 火球が僕に届く前に、氷の壁が立ちはだかってそれを防いでくれたから。


 チラリと視線を横にやれば、マリアが額に薄っすら汗を浮かべつつも不敵な笑みを向けてきた。


 柄を握る手に、より一層の力を込める。


 手ごたえがあった。


 確信する。魔石に届いたのだと。


「つ、ら、ぬ、けええええ!」


 ──ピシリと、音が聞こえたような気がした。

やったか!?

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