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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第一章 冒険者としての始まり
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第一五話 ギルド本部3

 私の明確な拒否の言葉を受けて、ギルドマスターはむしろ機嫌良さげに喉を鳴らします。


「フランセットがここまで買うとは、中々稀有な人材であるらしいな」


 しかし、すぐに表情は引き締められ、猛禽類の如く鋭い眼光が私を貫きました。それと同時に、威圧スキルの発動も。


 自身の心拍数が上がったことを、落ち着いて受け止めます。緊張感で汗ばむ手に、なるべく力を入れないよう心掛けます。


「どうしても、話す気は無いかね?」


 先程言った私の言葉を丸ごと無視したような、ギルドマスターの言葉。果たしてそこにはどのような意図があるのでしょうか。


「私とて、ギルド員の情報を無為に外部へ漏らすような真似はしない。長である私がギルドへの信頼を地に落とすような真似を、するはずも無いだろう?」


 それは確かにその通りです。部外秘の情報を簡単に外へ漏らしてしまうような組織に、一体誰が信頼を寄せるでしょう。ましてや長らくその長を務めてきたギルドマスターともなれば、言わずもがなです。

 とはいえ。


「私はリクに、一切他言しないことを誓いました。話す対象が組織の長であっても、それはリクに対する裏切り行為に他なりません。ですから……報告書にある以外の情報を、私の口から話す訳には、いきません」


 ギルド職員である前に、私は一人の人間です。私を信用して話してくれた内容を、許可も無く誰かへ話すというのは……、次第に増していく威圧を前にしても、許されることではありません。


 私の発言が終わると、嫌な沈黙が訪れます。発動している威圧スキルは時間を追うごとにその鋭さを増し、身構えないようにと善処している私を嘲笑うかのようです。




 経過した時間は数十秒か、あるいは数分でしょうか。


「承知した。スギサキ君について詮索するのは取り止める」


 上級の魔物と対峙するよりも余程緊張感のある時間が、唐突に終わりを告げました。

 私はいつの間にか固く握っていた手から、力を抜きます。


「しかし、君が知り合って間も無い者と敬称無しのファーストネームで呼び合うとは。ギルドの長としてではなく、私個人として興味を引かれてしまうな」


 油断したタイミングで、一度話しても良さそうな話題に転換する作戦でしょうか? だとすると流石はギルドマスター、こちらも気を引き締め直しましょう。


「待ちたまえ、今の質問は本当にただの興味本位だよ。事実として、君が他のギルド職員やギルド員を敬称無しで呼んでいるところなど、私は見たことが無い」


 私の警戒心を察知したらしく、若干ながら慌てた様子で弁明するギルドマスター。そこに悪意は──私のスキルである検知(・・)を以ってしても──感じられませんでした。


「友人に対してなら、私も敬称を付けません。それにギルド員はともかく、ギルド職員の方々は私にとって目上の方ばかりですので」


 そう、ギルド員はともかく。五つ星冒険者──上級冒険者である私は、それなりに名が売れているのです。姉が七つ星冒険者である事実も加味すれば、私が望む望まざるに関わらず一目置かれてしまいます。


「……ふむ、友人かね」


 やや納得いかなそうな表情を浮かべられていますが、一体何でしょうか。


 異性の友人という存在を信じない人は一定数居ると聞きますが、私から見てリクは友人であると断言できます。フロランタン先輩から紹介して頂いた方々からは、徹頭徹尾私を女性として扱おうという意識が見られたのですが。

 ……いえ、リクが私を女性扱いしなかったという事ではありません。むしろ異性として、交際している訳では無い男女としての距離感を保とうとしていたらしいのですから。紳士的、という表現が適切でしょうか。











◆◆◆◆◆


「フランに男ってもんを知って貰うのに、アンタは丁度良さそうなんだけどねぇ」


 休憩室にて休憩中だというフロランタンさんを発見し、唯一の出入り口である扉を死守しながら話し合いにまで持ち込んで、まだたった数十秒。

 顔じゃなくてボディになら大丈夫かな? 峰打ちだったら大丈夫かな?

 俺ことリク・スギサキは、そんな物騒なことを考えていた。


「荒療治のつもりでフランに男を紹介したってのは理解しましたけど、少なくとも一人、脈無しなのに気付いてか気付かずか知りませんが定期的に食事に誘ってくるのが居るそうじゃないですか。後腐れあるようなのを紹介したのはフロランタンさん、明らかなミスでしょう」


 とりあえず先の発言をまるっと無視して、話を進めてみる。


「いや、そこはアンタが防波堤になってくれるんじゃないかって期待してるんだけどね?」


「自分の失敗の尻拭いをさらっと人任せにしようとしてくるゲスい受付嬢が居るギルドとかやだなー。何より、俺が今言った人物より性質の悪い男だったらどう責任取るつもりなんだろうなー。フロランタンさんとは俺、合算してもまだ数分しか喋ってないんだけどなー」


 独り言の体裁を取って、言葉のナイフを突き刺す。


「更に言えば、俺のメリットって何だろうなー。俺みたいな新人ギルド員がいきなり若い受付嬢と急接近して、周囲との軋轢が生まれないとでも思ってるのかなー。デメリットばかりが目立つなー」


 刺した言葉のナイフで傷口を抉る。


「……尻拭いさせようとしたのはアタシが悪かったよ。けどさ、アンタは早くもフランとそれなりに仲が良くなってるみたいだし、こうしてフランを心配してアタシに怒ってる訳じゃないのさ。そこからある程度信用するってのは、そうおかしなことじゃないだろう?」


「ある程度信用したくらいで後輩を任せようとするのは、果たしておかしくないことでしょうか?」


 この人アレだ。ダメ男と沢山付き合ってきたタイプだよ、間違いない。


「……そうおかしなことじゃないだろう?」


 心底不思議そうに言いやがった。


「ハァー……、そうですか。じゃあもう良いです。けどこれ以上、フランに知り合いの男性を紹介するのは止めてくださいね。明らかに対処で困ってる部分が出てますから」


 部屋の隅に溜まった埃でも見るような目でフロランタンさんを見ると、流石に拙いと感じたのか素直に頷いた。


「何で俺、人様の人間関係についてあれこれ口出ししてるんだろう……」


 ふと我に返ると、何だか非常に空しくなった。

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