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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一五二話 憧れの冒険者

主人公が遊びます。

 アスター商会の三人と諸々の話し合いを終えてから、夜が明けた。別に夜通し話をしていた訳ではなく、普通にホテルに戻って睡眠もとっている。

 なお商会に対する罰は、孤児院への寄付という形での罰金にした。違法行為で儲けた金が寄付に含まれる訳だが、そんな事情は犬の餌にでもしてしまえ。大事なのは結果だ。


 とりあえず午前中は薬師を探し、何とか確保。現地ではなくこの街で調薬して欲しいという内容に、何の意味があるのかと訝しがられたがまあ良い。普通に考えれば、劣化して使い物にならない素材を使え、と言われているようなものだからな。正常な反応だ。


 さておき、今は昼。アスター商会に雇われていた冒険者、ゼルマ・デューラーの取調べをする。

 場所は指定していたホテル内のレストラン。俺とフランがホテルの出入り口で待っていて、指定時間より数分早くゼルマがやって来たのでそのままレストランへ移動した。


 俺とフランが着席しても立ったまま緊張した面持ちのゼルマに席を勧め、三人とも着席したところですぐ料理が運ばれてきた。

 先付けとしてクレーシャ──平たいパンの一種──とほうれん草、ソーセージ、チーズだ。勿論、元の世界で言うところの、という但し書きが一部の品目に必要だが。


「支払いはこちらで既に済ませているから、遠慮無く食べると良い。後から料金を請求したりもしない」


 まずはそれだけ言って、食事を始める。


 ゼルマは少しの間こちらの様子を伺っていたが、何も言われないためか、若干のぎこちなさを残しつつも食事を始めた。


「……あ、美味しいっす」


 ぽつりと、そんな感想を述べたゼルマ。少しは緊張も解れたか。


「それは良かった」


 何の敵意も込めずに言うと、ゼルマは目を丸くしてこちらを見てきた。


 そんな具合で多少の会話も交えつつ食事を進めていき、前菜の魚やナッツ、パスタ等を食べ、メインのステーキが来たところで話を切り出す。

 風魔法による防音も、忘れずに。周囲には俺達以外の客も居る。


「さて、そろそろここに来て貰った目的である、例の件の話をしようか」


「味が分かる内にステーキを食べ始めちゃ駄目っすか?」


「料理の味が分からなくなるほど深刻な話にはならないはずだから、安心して良い。別に食べながらでも構わないが」


 涎を垂らしそうな勢いで料理を楽しんでいるゼルマに、呆れながらも普通の返答をしてしまった。

 ともあれ、確認してみるとしよう。


「手短に質問する。アスター商会がリッヒレーベン王国のとある貴族の殺害に加担していたことは、本当に知らなかったんだな?」


「知らなかったっすよ今この瞬間まで!? めちゃくちゃ深刻な話じゃないっすか! だいたい何でわざわざアタシに教えたんすか!」


 とても演技とは思えない見事なリアクションで、両手にそれぞれ持ったナイフとフォークを落としそうになっていた。


 これなら十中八九大丈夫だとは思いつつ、念には念をとフランの方を見る。


「フラン、今の言葉に検知スキルは?」


「反応ありませんでした」


 やはり大丈夫だったか。


「なるほど、腹芸ができるタイプではない、と。ああ、ちなみにさっきの話はデタラメだ。実際の内容とは掠りもしないから、安心すると良い」


 こちらがあっさりネタばらしをすると、ゼルマは絶句しながら信じられないような目で俺を見てきた。

 実に良いリアクションだ。満点をあげよう。


「……ステーキ、アンタの分まで食い散らかしても良いっすか?」


「やれるものなら、やってみると良い」


 涼しげな顔で、しかし十分な威圧を込めて俺が言ってやると、気勢を削がれたのかゼルマは大人しく自分の分のステーキを食べ始めた。


「緊張は解れたようで何よりです」


「……そうっすね」


 文字にすると嫌味のようにも見える言葉を全く嫌味無く言うフランに、ゼルマは更に何かを削がれた様子を見せる。


「ところでそろそろアタシの処遇がどうなるのか、教えて欲しいっす。不意打ちで首を狙った訳っすからね。ある程度の覚悟はあるっすよ」


 まだ不安に思っているようだ。その覚悟は無用だというのに。


「完全に対応されておいて、不意打ちと表現できるその神経の太さは驚嘆に値するな」


「アタシは不意打ちのつもりだったっすよ悪いんすか!?」


 ゼルマの名前がしっかりマップ表示に出ていて、俺からすれば不意打ちも何も無かったからな。


「言い方こそ悪かったですが、今のは気に病む必要は無いという意味ですよ」


 隣のフランから勝手に意訳された。そういった意味は無きにしも非ずだけれど。


「……え、ホントに? ホントっすか? 今の言葉にはそんな優しさが入ってたんすか?」


「入っていた可能性が無きにしも非ず」


「入っていたので安心してください、ゼルマさん」


 真顔でいい加減なことを言う俺と、微笑みながら優しい言葉をかけるフラン。


 どっちを信じれば良いんすか、という疑問文がゼルマの顔に書かれている。


 さて、そろそろ俺も真面目モードに切り替えるか。


「処遇については、これも安心して良い。こちらからどうこうする気は全く無い。フランが言った通り気に病む必要は無いし、今回の一件の拙い部分は何も知らないと分かったからな」


「あ、そうっすか……。それなら良いんすけど、随分あっさりしてるっすね」


 急な俺の態度の変化について行けない様子のゼルマだが、それでも少なからず安堵したようでもある。


「執拗に、ねちっこく尋問して欲しいならそうするが」


「できる限り遠慮したいっす」


 素直で大変よろしい。俺も実は面倒だ。


「けどホント、アタシとしては腕の一本くらい覚悟してたんすよ。せめて利き腕は残して貰えるとありがたいなー、って感じで」


 そこまで深刻に考えていたのか。昨晩あれだけあっさり帰されたというのに。


「奴らが護衛を雇って近くに潜ませているのは、最初から分かっていたしな。俺が殺される可能性でもあったならともかく、あのくらいなら今のように少しからかって遊んで、それで水に流すさ」


 ゼルマがあの場で即座に降参してきたものある。

 もし往生際悪く抵抗を続け、かつ今なお反省の色が微塵も見られないようなら、それこそ腕の一本程度じゃ済まさなかったが。


「曲がりなりにも、闇夜に紛れての奇襲っすよ……。いや一応は寸止めするつもりだったっすけど、反応できたのはそっちの能力が高かったってだけじゃないっすか。まー、許して貰えるってんなら、願ってもないんすけどね」


 ゼルマが小さく息を吐いて、手元にあるグラスを取った。中に注がれているのは、赤ワインをジンジャーエールで割ったキティと言われるカクテルだ。

 結構飲み易い。


「そういえば疑問だったんだが。四つ星冒険者が何でまた深夜の護衛、しかも場所は街中なんていう怪しい依頼を受けたんだ? 金に困っている風な印象は無いが。ああ、これはあくまで興味本位の質問だから、答えにくいなら答えなくても構わないぞ」


 俺からの質問を受け、ゼルマが固まった。

 別に妙な質問をした覚えは無いけれど、予防線のつもりで言った答えにくいなら(・・・・・・・)というのが当たってしまったのか。


「あー……、ちょっと、急にお金が入用になったんすよね。欲しいものがあったんで」


 若干言いにくそうにしつつも、ゼルマはそのまま話を続けた。

 何でも、元々武器を新調するためこの魔法都市クヴェレにやって来たとのことで、けれど気に入った品物が想定していた予算を大幅に超えていたそうな。そんなタイミングでアスター商会から声を掛けられ、怪しい内容だが金額的には美味しい依頼を受けたとのこと。


「この街へ探しに来たということは、恐らくは魔法が付与された武器なのですよね? 一体どのような武器だったのですか?」


「……風属性の、ナイフっす」


 今度はフランが質問を投げたが、これまたゼルマの歯切れが悪い。


 何故歯切れが悪いのか分からないんだが。そして何故俺の方をチラ見してくる。


 ゼルマのそんな様子を見て、突然フランが何かに気付いたような顔をした。


「もしや、ゼルマさんは──」


「あー! あー! あー! ちょっと待って欲しいっす! バレること自体は良いとして、せめて自分の口で言うっすから!」


 一瞬で、全力疾走をした直後のように疲弊したゼルマ。数回深呼吸をして息を整え、意を決したように俺を見据える。


「アタシは、【黒疾風】に憧れてるんす!」


 そして、そんなことを言ってきた。


 ……え、俺に?






 何でもゼルマは、冒険者としての活動開始から短期間で五つ星──上級冒険者にまで駆け上がった俺の存在を知り、憧憬を抱いていたらしい。

 急に上級冒険者になった以上、周囲からの嫉妬はあったはずだ。それを跳ね除け自身の意思を貫き、着実に実績を重ねて地位を確立した。有名な冒険者を含む多くの人々と交流を持ち、仲間想いな一面も見せる。そして堅実に訓練を積む努力家でもある。

 ……と、そんな褒め言葉を貰った。


「あっはっは! 何だそれあっはっは!」


「今のアタシの言葉の何処に笑うとこがあったんすか!?」


 いきなり笑い出した俺を見て、ゼルマは不満をぶちまけた。


「いやいや、お前が俺に憧れるのは勝手だし、否定はしないさ。美化しすぎだとは思うけどな」


 俺は好き勝手にやってるだけだしな。不必要に迷惑をばら撒いているつもりこそ無いけれど。


「ただまあ、要するに俺を連想させる魔法具が欲しくて、手持ちが足りず怪しい護衛依頼に手を出して、まさかその俺にやられたってそれ面白すぎるだろ」


「お楽しみ頂けたようで何よりっすよクソォ!」


 ゼルマがステーキにフォークを突き立て口元に運び、猫獣人らしく尖った牙で豪快に食い千切る。

 やけ食いのようだ。


「そう腐るなよ。風属性の魔法具が欲しいっていうなら、俺から渡しても良い。ま、今の流れで俺に失望していなければの話──」


「ホントっすか! 【黒疾風】から貰う魔法具、めっちゃ嬉しいっす!」


 唐突な俺からの提案に、ゼルマは思いの外食い付いてきた。どうやら、特に失望はしていないらしい。

 両の目をキラキラさせて、テーブルに両手をつき、物理的にも精神的にも前のめりに返答した。


「ですがリク、ひとまずアスター商会の一件を片付けてからになりますから、少し時間が掛かるのでは?」


 フランから冷静に指摘が入った。内容は至極ごもっとも。


「ああ、そりゃ大商会が絡む話が、昨日の今日で終わってる訳は無いっすよね」


「西の四大霊峰ヴェストケーゲルに、ちょっと素材を採りに行かないといけなくなってな」


「それ移動だけで何ヶ月掛かるんすか!?」


 一瞬前まで納得するような顔だったゼルマが、今は半ば睨むような目をこちらに向けている。


「俺と俺の騎獣が本気を出せば、往復でも四日あれば行けるはず。現地でやることはたった一つだけ。長めに見積もっても、一週間あれば魔法具を用意できるな」


「一体どんな本気っすか!?」


 どんなと言われれば、中級風属性攻撃魔法の三重結合起動トリプルユニオンキャストで騎獣ごと風を纏って、後は空を飛ぶだけだな。まだその風の制御は完全ではないから、道中で更に加速することを期待できる。


 とまあ、そんな説明をゼルマに行った。しかし。


結合起動(ユニオンキャスト)とか知らない単語出てきたんすけど。アタシが無知なだけっすか? 色んな意味で頭が追い付かないっすよぉ……」


 虐める意図もからかう意図も今の内容には無かったが、ゼルマが目を回してしまった。


「遅くとも一週間以内には魔法具を用意できる。それまで魔法都市(ここ)で待って貰っても良いし、別の場所に行って貰っても良い。オーケー?」


「……お、オーケーっす。一週間くらいなら、この街で待ってるっす」


 話は纏まったから、もうこれで良いな。

これで解決!

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