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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一四九話 帝国軍人3

自分が動くより、相手に動いて貰ったほうが楽ですよね。

 調査依頼を断る理由が用意できなかったのか必要なかったのかは分からないが、アスター商会代表との話し合いは順当に終了。しっかりと契約書を用意し、前金として報酬全体の五割をその場で気前良く渡して、俺達は商会を後にする。


 少将達が泊まっているホテルに到着すると、真っ先にフランが出迎えてくれた。部屋で待っていてくれて良かったんだけど、わざわざロビーで。

 なお、俺とフランもこのホテルの一室を借りている。


「お疲れ様でした。話し合いは上手く行きましたか?」


 フランが特に心配もしていなさそうな顔で質問してきたので、俺はすぐに首肯した。


「もちろん。ついでに俺達への監視もしっかり付いたから、マーカーもセット済み。今はホテルの外で三人が──いや、一人は入ってきた。早く部屋に行った方が良さそうだ」


 商会からこのホテルまでの道中、監視についての話は一切していなかったためか、少尉がぎょっとして俺を見てくる。少将はそんな様子を見て、ため息を吐いた。


「あちらからの監視は当然、想定すべきことだっただろう。まあ良い、ともあれ移動する」


 流石、少将は落ち着いていらっしゃる。

 けれど、少尉という階級もそれなりに場数を踏んでいる人間がなるものだと思うんだけどな。今ひとつ、場慣れしてなさそうな感じだ。


 ともあれ俺達は先の言葉通り、部屋へと場所を移す。


 部屋には三日前に初めて会った小太りな男性と、その後に会ったやや小柄な女性が待っていた。

 男性はバルヒェット准尉、女性はリーデル准尉と言い、この二人は同じ階級だ。バルヒェット准尉は温厚だが無頓着・無神経なところがあり、リーデル准尉は生真面目で少し神経質な印象がある。なのでリーデル准尉からは、王国の冒険者である俺とフランが帝国軍の作戦に参加することに対し難色を示された。

 とはいえ少将の説得ですんなり引き下がり、参加が決まった後は遠慮無く仕事を割り振ってくれたけれども。つまり正当な理由があれば、ちゃんと納得してくれる人ということだ。


 備え付けの六人用テーブルがあるのでそれを六人で囲み、紅茶と茶請けを用意して、今後の動きについての話し合いの場が整えられた。

 ちなみに紅茶は俺が、茶請けはリーデル准尉が用意したものだ。


「保温・加熱機能のあるカップがこの街で売られていたので、今回はそれを使用してみました。底の中心部が熱を持つので、普通に飲んでいれば触れることも無いかと思いますが、念のため気を付けてください」


 そう、しっかり魔術都市クヴェレの観光もしている。喫茶店巡りだって、数軒は回った。

 元々は旅行で来てるんだよ、仕事にばかり時間を割いていられるか。隙あらば楽しんでやるとも。


「いつの間にこのような買い物を……。いえ、仕事はきちんとして頂いているので、不満がある訳ではありませんが」


 生真面目なリーデル准尉から、小言のなり損ないのような言葉が出てきた。そして彼女はカップを手に取り、紅茶を一口啜って小さく息を吐く。

 実に美味しそうに飲んでくれている。


「文字通り敵の動きが丸分かり、っていうのは助かり過ぎるくらい助かってるよな、実際」


 マイペースなバルヒェット准尉からは、エディターの恩恵についての感想が述べられた。ちなみに彼は、茶請けを紅茶で流し込むように食べている。

 少しくらいは味わって飲めよ。感謝の言葉を述べながらナチュラル無礼ムーブかましてんじゃねぇ。今度からアンタの分だけ出涸らしの紅茶にしてやろうか。


「そろそろ本題に入るとしよう」


 俺の不穏な感情を読み取った訳ではないだろうが、ベットリヒ少将が話を始める。


「まずはこちらの調査依頼についてだが、概ね想定通りに事が進んだ。アスター商会を疑っている素振りは見せなかったつもりだが、スギサキ君の魔法具では終始警戒判定だったようだな。つまりあちらから、疑われている(・・・・・・)疑い(・・)を持たれている。都合が良い(・・・・・)ことにな」


 本来であれば、警戒されているということはマイナスの要素となる。けれど今回のこの状況においては、むしろプラスの要素として働く。

 何故ならこちらがそれを把握していて、尚且つ敵に動きがあれば即座に分かる状況だから。


 ここで俺からも報告をしておこう。


「我々との話し合いが終わった直後、代表は副代表を部屋に呼んでいました。副代表が部屋を辞した後は部屋の中をうろうろと歩き回り、随分と落ち着かない様子を見せています。現在は一箇所に留まっているので少しは落ち着いたようですが、早ければ今夜にでも動きが見られるでしょう」


 マップから得た情報を元に、自身の推測も混ぜての報告。ついでにテーブルの上へマップを表示し、この場に居る全員が見られる設定にしておく。


「……貴方が敵でなくて、本当に良かったと感じています」


 リーデル准尉が、マップを見ながら酷く感情を込めて言った。


「褒め言葉として受け取っておきます」


 俺は勿論、涼しい顔で応じた。


 ここでマップを見てみると、代表が部屋を出ていた。向かう先は、地下か。


「ああ……、遅くとも今夜には動きが見られる、と訂正が必要ですね」


「……? 何かありましたか?」


 リーデル准尉に問い掛けられたので、俺はマップ上の代表を示すマーカーを指差した。


「先程荒らしておいた地下室に、代表が向かっています。帝国軍人が訪れた直後というタイミングなのであからさま過ぎますし、むしろ第三者の仕業である可能性もチラついてくれることでしょう」


「先に断っておくが、私が許可を出した。提案こそ彼自身からだったがね」


 驚愕の表情を浮かべ、二の句が継げない様子のリーデル准尉に対し、ベットリヒ少将が言った。

 正直助かる。


「帝国側が本当に調査中なのか、そう装いながら脅しつけるために接触してきているのか。相手が判断に迷う材料を増やしておくのは悪くない」


 敵にとっての不確定要素を増やすのって、楽しいよな。少なくとも俺はとても楽しかったよ。


「そもそも、いつそのようなことをする時間が!?」


 ああ、リーデル准尉が気になったのはそこか。


「会談中ですよ」


 さらりと言いつつ、俺はおもむろに小さな金属片を取り出す。大きさは小指の爪の半分程で、本当に小さい。


「これに風魔法を使い、マップに位置情報を表示。建物内の人にバレないよう注意しながら地下へと進み、ドアの隙間を抜けてゴソゴソと。まあそんな感じです」


 位置情報が確認できれば、あとは風の制御の問題だ。今の俺はMPが続く限り飛行を持続できるだけの制御能力を得ているので、同じ建物内での制御なら簡単だ。

 それでも位置情報だけは確認したかったので、金属片はそのための物。魔法の位置情報を直接参照することはできないからな。


「当人の能力と武器の能力の噛み合い方が、恐ろしいですね……」


「噛み合うよう能力を伸ばした結果かと」


「……なるほど」


 半ば呆れたようにも見えるリーデル准尉だが、納得もしてくれた様子だ。


「ところでこちらからの報告ですが、仲介をした複数名と接触しました。案の定、依頼元が何処なのかは知らない様子でした。入念に(・・・)訊いた上、証言が一致しているため、信憑性は高いかと」


 入念に、ね。

 深くは聞くまい。どうせ同情だってしやしないんだ。


「となると、わざわざ口封じに動く可能性は低いか……。不用意に動く危険性は、あちらも理解しているだろうからな」


 ベットリヒ少将がそう言っている間に、マップ上では代表が動いていた。既に地下室の状態を確認しており、大慌てで場所を移してから、今は副代表と話をしているようだ。

 なお、地下室には代表の秘書と思われる人物が入れ替わりで立ち入っており、内部の清掃をしているものと思われる。流石に商会の下っ端が魔寄せの香について知らされているとは考え難く、任せる訳にはいかないのだろう。

 とはいえ数袋を破ってぶちまけた程度だから、一人でも片付けられるはずだ。


「けど、それを全く警戒しない訳にもいかんでしょう。俺が備えておいて良いですか?」


 ここでバルヒェット准尉が名乗り出てきた。


「そうだな。ロンメル少尉、君も同じく備えておいて貰えるか」


「了解致しました」


 二人だけで備えるのか。まあ、人数的にそれが限界だとは思うけれど。

 折角だし、俺から少し手助けをするか。


「それならお二人とも、こちらをどうぞ」


 俺はアイテムボックスから金属プレートの付いた革紐のブレスレットを二つ取り出し、ロンメル少尉とバルヒェット准尉の二人にそれぞれ渡す。

 二人して頭上に疑問符を浮かべているので、きちんと説明しよう。


「魔法都市クヴェレのマップを表示できます。金属部分に指で触れるとオン・オフができますが、機能そのものは私の魔法具依存ですので、あくまでこの作戦中にしか使えません」


 同じ黒の神授兵装(アーティファクト)であるエミュレーターの機能を踏まえ、似たようなことができないか試行錯誤してみた結果の品、つまり試作品だ。

 これらは部分的な成功といえる。いわばオン・オフスイッチの付いた受信機なので、簡易なクラウドサービスのようなものといえば適切だろうか。


 俺からブレスレットを渡された二人は、金属部分に触れてマップを表示し機能を確認している。何処となく楽しそうだ。

 そしてそんな中、真剣な様子のベットリヒ少将が俺を見た。


「……その機能、永続的に使えるようには──」


しません(・・・・)。理由の説明は必要ですか?」


 少しばかり無礼かとは思いつつ、質問をしたベットリヒ少将に質問を返す。

 まあ、質問に直接質問を返した訳ではないけれど。


「──いや、失礼した。そうだな、君はしない(・・・)だろう。助力に感謝する」


 未練がましさを微塵も感じさせない調子で、ベットリヒ少将はすんなり引き下がってくれた。


 彼の内心がどうあれ、ご理解は頂けたようで何よりだ。額に浮かぶ汗は、見なかったことにしよう。

得意なことは説得(・・)です。

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