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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一四八話 帝国軍人2

商会に乗り込めー。

「失礼した。話をはぐらかす意図は無かったのだが、思いのほか美味かったものでね」


 少将が放った言葉に、フランが笑みを深めた。

 俺が褒められたことで上機嫌になっている、というのはまあ、悪い気分ではないけれど。


「他の手段だったな。君達とここで会う前は最終手段として考えていたものだが、今となってはむしろ確実性の高い手がある」


 そんな前置きの後に提示された手段は、なるほど最終手段として考えられていたのも頷ける強硬手段だった。


 表向きは、魔寄せの香の行方を捜す協力要請。しかしてその目的は、敵の動揺を誘うブラフ。

 それにより圧力をかけ、商品(・・)の出荷または移動を、言い逃れの不可能な量で行われる現場を押さえる。

 単純な強硬手段だ。


 ただ、少将達はつい先程まで二つの商会を疑っていたそうで、候補を絞りきれていなかったらしい。

 先に片方へ接触すればもう片方に察知される危険が大きく、もし後者が当たり(・・・)だった場合には目も当てられない。かといって両方へ同時に接触すれば、大っぴらに行動できないため少数で動いている少将達では単純に頭数が足りなくなる。

 故に、確証が得られるまで調べ尽くしてから行動する方針だったとのこと。


 まあ、将官が動く程の案件でありながら少数で動くという矛盾を孕んだ状況に物申したくなる気持ちはあるけれど、どうやら俺が王都で捕縛したディノイア准将の置き土産が暴発した状態であるらしく。リッヒレーベン王国とヴァナルガンド帝国の戦争の引き金を引かれてしまう可能性がある以上、やむを得ない状況ではあるようだ。

 帝国で大量生産された魔寄せの香が王国内でばら撒かれた、という話が広まれば、どうなるかは馬鹿でも分かる。くれぐれも、と念押しされて黙っておくよう少将から頼まれた。






 ベットリヒ少将らと話し合いをした日から、三日後の昼過ぎ。俺は帝国軍人の皆さん……の内の二人と共に、件の建物を訪れている。

 建物の外観は、黒い屋根に白い壁という至ってシンプルなもの。形もさほど複雑ではない。乱暴な説明をするなら、横並びになった三本の四角柱にそれぞれ三角屋根を取り付け、側面をぶち抜き丸ごと一つに繋げたような感じか。

 ここが問題の商会、アスター商会の本拠地だ。


 内装は外観の壁と同じく白で統一され、清潔感がある。踏み心地の良い絨毯や、さり気なく置かれた調度品など、金をかけるべき所に金をかけている印象。

 貧乏そうな印象を与える商会なんて、誰も信用しないからな。もっとも、禁制品を輸入していることを承知しているこちらとしては、それ以前の問題として信用などできない訳だが。


 如何にも商人然とした、仕立ての良い服を着た人々とすれ違いながら。アンティーク調の丸縁眼鏡をかけた若い使用人の女性に案内されて、事前に約束を取り付けておいた人物が待つという部屋へ向かっている最中。

 マップを表示して諸々の確認をしている俺は、何かあればベットリヒ少将にそれとなく合図を送る役割を担っている。最初から少将にもマップが見えるよう設定することも可能だが、自分の視界内にマップ表示が存在する状態に慣れていないため不審な動きになってしまう可能性があり、それを避けた形だ。


 そうこうしている内に、目的の部屋へ到着。部屋の中に目的の人物が居ることをマップでも確認し、案内を終えて去っていく女性を見送ってから、少将を先頭に中へと入る。


 執務室らしきその部屋の奥。デスクの上に書類の山があり、その向こう側にはほんのり疲れを滲ませた初老の男性が居た。若い頃は精悍な顔つきだったことが窺える、渋い雰囲気を纏っている。

 名をオスヴァルト・アスター。アスター商会の五代目代表だ。


 彼の斜め後ろには秘書らしき妙齢の女性が静かに佇んでおり、こちらに向けて軽く会釈をする。


「お忙しいところ、貴重な時間を割いて頂き感謝する。私はコルネール・ベットリヒ、帝国軍所属の少将だ」


「クルト・ロンメルです」


「ランド・クリプトミリアです」


 (ランド)(クリプトミリア)だ。崎は知らん。無理に入れると語呂が悪いだろう。

 念のための偽名である。不本意ながら、【黒疾風】の名はそれなりに広まっているからな。


 さて。先ほど帝国軍所属であることを明かした少将だが、今は名乗った通り軍服に身を包んでいる。それは少尉も同様で──もちろん、俺もだ。

 そういう訳で俺は今現在、ベットリヒ少将の部下を装っている。


「アスター商会代表、オスヴァルト・アスターです。何でも、緊急のご用件がおありだとか。まずはそちらへお掛けください」


 そう言って代表が手で示したのは、部屋の中央付近にあるテーブルとソファー。

 俺達三人がそれぞれソファーに腰を下ろすと、対面には代表が座る。そして各人の前に、秘書らしき人が湯気を立てるカップを置いた。


「いやはやしかし、こうして軍人の方々と対面すると、些か緊張してしまいますな」


 ははは、と乾いたような笑い声を出した代表だが、カップを口元へ運ぶ動きに淀みは無い。紅茶を一口含んで舌を湿らせた後、非常に大人しい音を立ててカップをテーブルの上に戻した。


「この紅茶は武術都市オルデンから先日仕入れたばかりの商品なのですが、中々の味と香りでして。皆様にも是非、ご賞味頂きたい」


 ここ数日で、俺が帝国軍人の皆さんに提供していた紅茶の一つと同じ種類のものだった。毒の類は入れられていない。

 味方側だけに見えるよう設定したディスプレイに、問題の無い飲み物であることを表示しておく。


 そのまま少し雑談を交わし、場も暖まってきたところであちらから切り出してきた。


「それで、本日はどういったご用件でこちらへ? 帝国の少将殿が直接動かれている上、事前には内容を話せない程です。余程の事があったのでしょう」


 さも自分には心当たりが無いような振る舞いを見せ、そこに不自然さが無いのは流石といえる。けれど残念、マップ表示は俺達がこの部屋に来る前からずっと警戒状態になっている。


 対する少将も中々の演技派で、眉間に皺を寄せて今なお話すべきか悩んでいるような素振りを見せた後、渋々と重苦しく口を開く。


「我が国、ヴァナルガンド帝国の恥を晒すことになるが──、魔寄せの香をこの国へ輸出したことが、確かな調べにより分かっている」


 これに対する代表の反応は、目を見開いて少将を見ることだった。


「なんと……。禁制品の、密輸が行われたということですか」


 声に若干の震えまで作り、まさに今、衝撃の事実を知ったかのよう。

 何なら劇団員でも食っていけたんじゃないだろうか、この人は。


「この事が明るみになれば、比較的安定している帝国と王国の関係に影響があることは、想像に難くない」


「そうですな……。単に禁制品というだけならばまだしも、よりにもよって魔寄せの香となれば……使い方次第で小規模な街ならば壊滅させることすら可能な、大変危険な代物です。一気に戦争状態へ突入、とまでは言わないにしろ、それも時間の問題とはなりましょう」


 動揺を押し殺すような演技を続けつつ、代表は目を細めて言葉を続ける。


「しかし、我がアスター商会も手広く商いをさせて頂いておりますが、そのように危険な品が国内で出回っていることは把握しておりませんでした」


 これまた残念。この建物の地下には大量の魔寄せの香が保管されている上、その部屋に代表がそれなりの頻度で立ち入っていることも、エディターで調査済みだ。


「帝国側としても機密情報だったのでしょう。それを他国の商会に対し、明かしてしまってよろしかったのでしょうか? 無論、調査の協力要請などの目的あってのことではあるのだろうと思っておりますが」


 事実を知っている俺としては、あまりの白々しさにその横顔を殴り飛ばしたくなってくる。事態が混乱してしまうので、自重するが。


「良いか悪いかの話をするならば、当然ながら良くは無い。しかし事態は一刻を争う。……幸運にも、かなりの量の香を使用前に回収してはいるのだがね」


 少将が一歩、攻め入った。俺とフランがゲイルを乗り回して回収した分の話だ。

 果たしてあちらはどう返すかな?


「それは、売人を捕らえたと……?」


 そう考えるのが自然ではある。まさかならず者共の手に渡っている分を、高速の移動手段と上級冒険者の暴力で強奪もとい回収して回った結果だとは思うまい。


「いや、ならず者共を捕らえて押収した。売人については情報不足で、その特定にも至ってはいない」


 売人に関する証言にはブレがあったしな。当たり前ではある。まさかたった一人で売り歩いている訳も無い。

 というか、複数人で売っていたことを知っている。名前だけは前述のならず者共を調べて間接的に確認。その後マップ上から直接調べ、マーカーもセットしている。エディター万歳。

 人物や魔物などを直接調べる場合はともかく、マップの過去データを参照して間接的に調べたものにはマーカーが付けられないからな。そこが難点と言えば難点だが、流石に贅沢というものか。


「となると、相当な数の人員を投入されたのでは……」


 あからさまに困惑した様子を見せる代表。


 いやまあ、うん。

 俺がゲイルに乗って、エディターのマップ表示で虱潰しに探し回ったからこそ得られた成果だから、普通はそうだよな。

 そして今回の一件、そんな大規模に展開したとすれば本末転倒な訳で。


「まさか。そのようなことをしてしまえば、どう立ち回っても噂が広まってしまう。一応、押収した品をここに出すことは可能だが」


 ここで少将から俺に視線が投げられた。

 出せってことか。


 俺はソファーから立ち上がり、テーブルの横へアイテムボックスから魔寄せの香を取り出す。

 ドサドサと音を立てて床の上に落ちた沢山の袋が、小さな山を作った。


 代表は演技なのか素なのか分からない驚きの表情を浮かべ、その山へと近づく。


「……中身を、確認させて頂いても、宜しいでしょうか?」


 まずは俺に、続けて少将に視線を向けた代表が、許可を求めた。


 少将が頷くと、代表は袋の一つを手に取り紐を解いて中を確認する。


「……なるほど。私も過去に現物を見たことがありますが、見た目も香りもそれと良く似ています。本物なのでしょう。しかしそうなると、一体どのようにして回収されたのか」


 不思議に思うよな。俺も、何も知らなければ同じような言葉を発していた自信があるよ。


「申し訳ないが、それは機密として黙秘させて頂こう。我々は魔寄せの香の流通経路を調べて貰いたいのであって、所有者の捕縛を任せたい訳ではない」


 あちらとしては、敵の手札を少しでも知りたかったんだろう。

 けれど先ほど少将が言った通り、捕縛を任せると言っている訳ではない。依頼内容と直接関係がある部分ではない以上、回答を拒否することに不自然さは無い。


「依頼内容の詳細についてだが──」


 そこからは本格的に流通経路調査の為の話し合いが行われ、その間俺は大人しく置物と化していた。

これが、俺達(チート)の力だ!

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