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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一四六話 博愛精神に満ちた人格者

いや誰だよそれ。

 ラウネン湿地を抜けた俺達は、そのまま先にある村に到着した。

 湿地帯を抜けるまでの同行ということになってはいたけれど、労力はさほど変わらない。


 到着したのが丁度昼飯時だったため、そこで一緒に食事をすることに。酒場のような店しかなかったのでそこに入り、昼から酒を飲むという事態になったのは予想外だった。

 この場は奢らせてくれ、と言われたので会計を任せ、丁度良いのでそれを相応の礼(・・・・)ということにしようとした。けれどあちらは礼として全く不足だとし、少々話し合いになった。


 こちらとしては一方的にお節介を焼いただけであり、特段苦労するものでもなかった。これが依頼を受けてやったことなら相応の報酬を受け取るが、気まぐれにやったことでがめつく何かを受け取るつもりは無い。……といったことを俺の口から話し、それでもいまいち納得しない様子だったので、【黒疾風】は当たり前に人助けをする博愛精神に満ちた人格者だという噂でも流してくれ、と言ってみた。無論、思い切り冗談めかして。

 事実を言うだけになるが良いのだろうか、と真顔で返された。いやいやいや、おかしいだろう。


 俺が異論を唱えるより先に、フランがそれで良いと答えてしまって。何故か話はそれで終了し、解散してしまった。


「いやおかしい。あまりにもおかしいって今のは。誰だよ、博愛精神に満ちた人格者って」


 冗談じゃない。いや冗談を言った結果がこれだけれども。


 店を出た先で、去っていく三人組冒険者の背中を見送る。だが彼らに対し、既にできることは何も無いように思われた。

 仕方なく、俺達も別の方向に歩き始める。空き地に待機させているゲイルと合流しなければ。


「リクが冗談で言っていたことは彼らも理解しているでしょうから、問題無いのでは?」


「彼らが真顔で言っていたのを俺は見ていたから、問題あるんじゃないかな? アレは本気で実行する人間の目だった」


 珍しく暴論を吐くフランに、俺は戸惑いつつも反論した。


 しかしながらフランは微笑を浮かべ、静かな目で俺を見る。


「随分と収まってはきましたが、まだリクには不当な悪評がありますし、不当な好評があっても良いと思いませんか?」


「暴論が過ぎる! というかフランも、俺がそんな人格者じゃないってちゃんと分かってる訳だな!?」


 不当な好評(・・・・・)って言ったしな!? 本当に今日は暴論を吐くな!?


「勿論です。リクは身内や本当に困っている人に対しては甘々ですが、それ以外の人にはそうでもありません。中には例外もあるようですが」


「……うん?」


 さらりと言われた内容は博愛主義者ではない評価だったと思うものの、それに近似する何かのような言われ方ではあった。


「ところでリク。ゲイルが村の子ども達の遊具になっています」


 釈然としない気持ちになりつつ到着した空き地では、フランが先程述べた通りの状況が広がっていた。

 ざっと十人ほどの子どもが、座っている状態のゲイルの背中に乗っていたり、嘴に触ろうとジャンプしていたり、少し距離を取って眺めていたりしている。


 保護者らしき人物は周囲に見当たらないので、どうやら子どもだけで行動している集団のようだ。


「ゲイルに怒った様子は無いな」


「好きにさせている、といった感じですね」


 グリフォンという種族は一般的に気位が高い傾向のある魔物だが、やはりゲイルはゲイルだったようだ。

 そんなゲイルが接近する俺達の姿に気付き、視線をこちらへ向けてきた。


 子ども達もその視線に気付いたようで、俺とフランは一斉に注目されることに。


 特に問題がある訳でもないので、そのままゲイルの傍まで歩いていく。

 すると、この集団における年長者と思われる少女が前に出てきた。もっとも年長者だとして、十代前半といったところだろうが。


「あの、このグリフォンって、お兄さん達のですよね? 勝手なことしてごめんなさい」


 簡素ながらも清潔そうな水色のワンピースに身を包んだこの少女は、ゲイルを少し離れたところから見ていた一人だ。慌てた様子で、勢い良く頭を下げてくる。

 敬語を使えることといい、子ども達の中で一人だけ少し身なりが良いことといい、この村の有力者の娘かもしれない。


「構わないよ。見ての通り、グリフォンも全然怒ってなんかないからね」


 腰を落として目線の高さを少女に合わせ、穏やかな口調を心がけてみた。

 そもそも身体の大きなゲイルの背中に子どもが乗れている時点で、ゲイルが乗せてあげたことは間違いない。


 顔を上げた少女は俺の顔色を伺い、フランの顔色を伺ってから、ゲイルの方を見る。


 空気の読めるゲイルは、少女を真っ直ぐ見ながら一度小さく鳴いた。それは微塵も敵意を感じさせない、柔らかな鳴き声だった。


 それに安堵した様子の少女──サラというらしい──から話を聞いてみると、元々この空き地で遊ぶ約束をしていたのだと。現地集合で少女がここに来たときにはもう、先に来ていた数人がゲイルを遊具にしていたようだ。少女はそれを止めようとしたものの、好奇心に背中を押された子どもの行動は大人でも止めることが難しい。更には後から来た子どももそれに参加し、半ば諦めて見守ることにしたそうな。

 俺とフランがやって来たのは、そういうタイミングだった訳だ。


 サラの話が終わったところで俺とフランは顔を見合わせ、そしてゲイルを見た。


 ゲイルは再び小さく鳴くと、背に乗った子ども達を乗せたまま立ち上がった。


「……乗せたまま飛んでやるつもりか?」


 もしやと思い、ゲイルに確認してみる。


 翼をバサバサと動かしてみせられた。つまりはそういうことだろう。


 背中に乗っている子ども達は、俺とゲイルのやり取りを見て最高にテンションが上がっている。それ以外の子ども達も、最高にテンションが上がっている。

 サラだけは比較的冷静に見えるが、それでも目を輝かせてゲイルを見ているので内心は似たようなものだろう。


 既に乗るスペースが厳しいゲイルの背中に乗ろうとする子ども達を、フランと協力して引き離す。するとゲイルがタイミングを見計らって翼を動かし、空へと飛び上がった。


 子ども達を乗せたゲイルは自力で風魔法を発動させ、それを加速ではなく子ども達が落ちないよう保護するために纏う。

 穏やかな加速でこの場を離れ、大きく弧を描いて村の上を飛ぶ。一定の高度を保って数分間の飛行をしてから、この空き地へと戻ってきた。

 子ども達にとって、実に安全な飛行だった。もっともアクロバット飛行をしたとして、子ども達を落とすような下手は打たないだろうが。


 そんなことを複数回繰り返し、サラを含めた全員が飛行体験を終えたタイミングで。三十代半ばと思われる、そこそこ身なりの整った男性がこちらに駆け寄ってくるのを確認した。

 サラが慌てた様子を見せていることから、一体誰なのか多少の予想はできる。






 果たしてその男性は、サラの父親だった。

 遠巻きにこちらを見てくる大人は既に十名近く居たけれど、彼はこの村の村長の息子さんだそうで。グリフォンが村の上空を飛んだり離着陸を繰り返している状況を、立場上いつまでも放置はできなかったようだ。


「お騒がせしてしまったようで申し訳ありません」


 まずはこちらから、低姿勢で臨んだ。


「いえいえ。子ども達の相手をしてくださったようで、こちらこそご迷惑ではありませんでしたか?」


 あちらも低姿勢で返してきた。

 ますます慌てた様子を見せているサラには、助け舟を出そう。


「迷惑などとんでもない。特にサラさんは、他の子達をまとめてくれていましたし。お陰で問題も起こらず、随分と助かりました」


 これは本当のことだ。

 俺達が来る前こそ事態を静観というか諦観していたサラだが、来てからはゲイルに乗る順番を決めてそれを守らせるなど、まとめ役をしてくれた。


 そのまま軽く雑談をして、流れで村長の家に泊まることに。

 聞けばこの村に宿屋は無いらしく、近隣にある村も同様だそうで。それらの前置きがあってあちらから提案されたため、乗った形だ。


 実のところ、野宿でも並みの屋内より快適に過ごせるだけの用意がある上、ちゃんとした宿屋がある街までささっと飛ぶこともできるのだけれど。サラが期待するような目で、俺とフランを見てきたものだから。

 無難に、余計なことは言わないでおいた。別に急ぎの旅路でもない。


 村長の家に向かって歩いている途中、フランから穏やかな笑顔を向けられていたのは忘れておこう。






 さて。

 村長さんの家の庭にゲイルを待機させて、中に入った俺とフランはその村長さんと対面。なんでも村長さん、昔は冒険者として各地を巡っていたこともあるそうで。当然ながら現役を離れて久しいはずだが、真っ直ぐな背筋としっかりとした体躯を見るに、今でも戦う力は有していそうだった。

 ところで先代の村長の次男だった彼は比較的のびのびと育てられ、そういう冒険者をやる自由もあったとのことだけれど。跡を継ぐ予定だった長男が、ある日村を訪れた行商人の娘さんに一目惚れして。猛アタックの末に婿入りという形でゴールインしてしまったと。繰り上がり的に、次男だった現村長が跡を継ぐことになったのだそうだ。

 そこにどれほどの苦労があったのかは、嫌に軽快に進んだ話し方のせいでよく分からなかった。分かりたい訳でもなかった。


 村長の孫娘であるサラにせがまれ、俺とフランは冒険者としての様々な話をした。特に俺の波乱万丈な、できることなら誰かと代わって欲しかった数々のトラブルは好評だった。

 まあ俺も、当事者でさえなければ聞いていて楽しい話だったと思うよ。当事者でさえなければ。


 そうやって村長の家でゆっくりと過ごし、サラのお母さん──つまり村長の義理の娘──が夕食を作ってくれたのでありがたく頂き、一晩過ごした翌朝。

 慌しい足音と話し声が聞こえて目が覚めた。


 なお、フランとは同室だったがベッドは二つある。


 どうやらフランも物音に気付いて目が覚めたようで、ベッドから上体を起こしている。そして真っ先に俺を見るのか。


「とりあえず身支度をして、行ってみようか」


 俺もフランも寝間着だ。このまま人前に出るのは避けたい。


 という訳で、アイテムボックスに入れてある着替えと衝立を取り出す。


 朝っぱらから布の擦れる音を衝立越しに聞きつつ、自身も着替える。理性の耐久実験とまでは言わないが、無心を心がける必要はあった。


 手早く身なりを整えた俺とフランは揃って部屋を出て、話し声が聞こえて来る玄関へと向かった。

 そこでは若い男性──といっても俺と同世代くらいか──が、汗だくの状態で村長と話をしていた。見れば右肘と右太ももが土で汚れていて、特に右肘の方は血が滲んでいる。


「どうされたのですか?」


 質問を発したのはフラン。男性の尋常ではない様子から、何かしら手助けを買って出るつもりだろう。


「あなた方は、一体……?」


 村長の家の中に、村で見かけない人間が二人も居れば。そりゃあ反応もそうなるよな。


 俺達は手早く自己紹介をして、事情説明を求めた。

 その結果分かったことは、至極単純。村の外れにある畑で、五体のオークが暴れているらしい。


 即座にマップを確認すると、一体のソルジャーオークと四体の通常オークが居た。そのソルジャーオークも先程変異したという訳ではないらしく、付近でエミュレーター・コピーの存在も確認できないことから、俺の最悪の想定は杞憂に終わった。

 久々だな、杞憂に終わってくれたのは。ただし最悪(・・)の想定についての話だが。

 一体何だよ、マップに表示されてる魔寄せの香(・・・・・)ってのは。完全に人災じゃないか。


 過去ログを確認して、経緯を確認しよう。

 なるほど、香を仕掛けたのは今日の明け方頃か。仕掛け人は現在畑と反対側の西に居て、武装している。周囲には同じく武装した人間が複数名。となれば、こいつらがやる事は一つか。


 オーク達が暴れている場所はあくまで畑であり、オークの姿を直接確認した人間、というかその男性もここにこうして引き上げているため、人的被害は今のところ特に無いそうだ。ただし作物が荒らされるというのは、村にとって死活問題となる。そうでなくとも村の近くで五体もの中級の魔物が確認されているというのは、危機感を煽るのに十分だ。

 俺の怒りを煽るのにも、十分だ。特に人災だしな。


 オフなんだよ、今。彼女と旅行中なんだよ、今。

 よりにもよってどうして、このタイミングで荒事が発生するかね。


「冒険者のお二人! どうか、力をお貸し頂けませんか!?」


 男性が必死な様子で、俺とフランに訴える。


 けれど、そう必死になる必要性は皆無だ。


「この村の西側に、畑で魔寄せの香を使用した馬鹿が潜んでいるようです。村の畑は反対の東側ですし、その西側には先程述べた馬鹿を含めて一四名の武装した人間が居るので、今は集団で村を襲うための陽動を仕掛けられているらしいですね。──奴らは全員生け捕りにして、報奨金になって貰いましょうか。畑の損害を差し引いても、きっとお釣りが来ますよ」


 きっと今の俺の額には、青筋が浮かんでいる。表情だけは笑顔のつもりだ。


「……え?」


 戸惑いと驚きを隠せない男性。そして何も言わないが、村長も似たような様子だ。


「ご安心ください。私も彼も、上級冒険者です。すぐに終わらせてきますね」


 フランが相手を安心させるように、笑顔で言った。こちらは勿論青筋など浮かんでいないので、色々な意味で大丈夫だろう。






 俺とフランは現在、村の西側に居る。謎の武装集団──まあ盗賊団だろうが、その捕縛の為だ。

 ちなみに東側の畑については、ゲイルに丸投げした。中級の魔物が五体程度出たところで、あいつの敵ではない。

 それを言うなら推定盗賊団など、更に戦力が必要無い訳だが。まあ、嫌がらせだ。奴らには絶望を叩き付けてやらねばならない。


 そういう訳で、窪地になっていて隠れるのに丁度良い地形にその通り隠れている推定盗賊団の前へ、俺達は真正面から姿を現す。


 窪地に居るのは一二(・・)名。どいつもこいつも無精髭を生やし、薄汚れた装備を身に付けている。

 そいつらの前に、簀巻きにした二名(・・・・・・・・)を突き飛ばして転がした。見張りをしていた人間だ。


「やあ、報奨金共。臨時収入になってくれて、どうもありがとう」


 最早、人扱いすらしない。挑発の意味は勿論あるが。


「舐めやがって!」


「ぶっ殺すぞ!」


「生きて帰れると思うなよ!」


 奴らから返ってきたのは罵詈雑言の嵐。低い語彙力で必死にこちらを罵倒するその様は、実に滑稽だ。


 ──縮地。一番装備がマシで、レベルも高い人間の目の前に立つ。


「安物の剣だな」


 構えられていた剣の刃に指先で触れ、重撃を使用。剣は砕け散り、持ち主の胸部に破片が突き刺さる。


 仰向けに倒れてうめき声を上げる男を見て、周囲に動揺が広がった。判断の早い者は、既に踵を返して逃走を開始している。

 けれど、もう遅い。


『テトラ・アクア』


 巨大なドーム状の氷が生成され、窪地にぴたりと蓋をする。唯一の逃げ道は、魔法を発動させたフランが立っている窪地の縁。


『ジ・ウィンド──二重結合起動ダブルユニオンキャスト


 風を、上から下へ。押し潰すように叩き付けた風は俺の目論見通り、盗賊共を地面に這い蹲らせた。


「魔寄せの香というのは禁制品で、入手が難しいらしいな。どうしてそんな代物をお前達ごときが入手できたのか、これからじっくり話してもらおうか」


 魔法都市クヴェレからやって来た商人らしき人物から購入した、というのは分かっているけれども。あくまでステータスシステムで確認できる情報しか得ていないからな。


 盗賊共は揃って顔色を青くして、実に仲が良いようだ。

旅行とは言ったが、平和とは言っていない。

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