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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一四五話 結合起動の副次的効果

旅行は移動も含めて楽しみたいものです。

 快晴の下、眼下で後方へと流れる大地を眺めながら。俺達は空を飛んでいる。


 グリフォン(ゲイル)が大きく立派な翼を広げ、その背に乗った俺が風魔法を発動し加速。同じく背に乗ったフランは、俺の腰に腕を回して身を預けている。


 行き先は魔法都市クヴェレ。いよいよ喫茶店巡りの旅行という訳だ。


「しかしまあ、本当に長かったな。思い付いてから実行に移すまでが」


「相も変わらず、色々と起こりましたからね。そう感じるのも無理は無いかと」


 不意に零した個人的感想は、フランによって全面的に肯定された。いっそ否定されるくらいの状況が好ましいのだけれど、実情がそれを許してくれなかった。


 さて。俺達はリッヒレーベン王国の南側にある城塞都市アインバーグから、同王国の西側にある魔法都市クヴェレに向かっている。

 既に当たり前のように使用している風属性中級攻撃魔法の三重結合起動トリプルユニオンキャストと、日々着実に飛行技術を上げていくゲイルとの併せ技で、とんでもない移動速度だ。


 程なくしてアインバーグとクヴェレを隔てる広大な湿地帯──ラウネン湿地へと入り、辺りの空気が湿気を孕んだものに変わった。

 地面全体を水が薄く覆い、低木が日陰を作っている。ところどころに池があり、そこでワニのような魔物やカエルのような魔物が確認できた。エディターのマップ表示を見ると、虫も多く存在するようだ。


「地上を行く場合には、面倒そうな地形だな」


「かなり遠回りになりますが、ここを迂回していく人は多いようですね。中級の魔物が多く生息している場所でもありますから」


「迂回しない人も居るみたいだけど。俺達以外に、今」


 平均レベルが五〇弱の三人パーティー。恐らくは三つ星冒険者だろう。

 そしてそんな彼らを取り囲む、ワニ型の魔物。その数、七体。

 分が悪いどころではなく、絶体絶命のピンチだ。


「見殺しにするのも寝覚めが悪いし、行くかね」


 ゲイルに突撃を指示し、まさに今冒険者と思しき剣士に大口を開けて襲いかかろうとしている個体を狙う。

 ゲイルは前肢である鋭利な爪を備えた鳥の足で首と胴を掴み、垂直に急上昇。ある程度の高度に到達するや否や一八〇度転換し、急降下。別個体の魔物に対し、掴んでいた魔物を叩きつけた。

 ぐしゃりと嫌な音を立てて、二体の魔物が動かなくなる。


 ゲイルの咆哮。大気を揺らす大音声(だいおんじょう)は深く轟き、この場の空気を完全に支配した。


 それから一分と経たず、ゲイルの獅子奮迅の活躍によりワニ型の魔物は全て動かなくなる。


 俺が風魔法を解除し、ゲイルが無音で着地する。辺りには静寂が訪れており、冒険者の三人は武器を持ったままこちらをじっと見ている。少なくない緊張が伺えた。


「突然の横槍、大変失礼しました。私はフランセット・シャリエ。彼はリク・スギサキで、このグリフォンは彼の騎獣です」


 フランが簡潔にこちらの自己紹介をすると、目に見えてあちらの緊張感が薄れたのが分かる。


「まさかの【大瀑布】と【黒疾風】か……。騎獣まで凄まじいんだな。ああ、いや、助かった。本当にありがとう」


 どうやらまともな感性の持ち主らしい。驚きが先行していたようだが、きちんと感謝の言葉を述べてくれた。


 こちらがゲイルの背から降りたところであちらも自己紹介をして、互いの身元がはっきりする。

 いや、実のところ名前ならマップ表示に出ていたけれど。それを言って警戒させる必要も無い。


 剣士一人、槍使い一人、魔法使い一人という、中々にバランスが取れたパーティー。全員が男性だ。

 歳は大体俺と同じか、少し上くらいだろうか。剣士が多少怪我を負っているが、軽傷のようだ。


 曰く、彼らもアインバーグからクヴェレに向かっている途中らしい。迂回ルートではなくこちらを進んでいるのは、自分たちの実力なら問題無いと判断したためだそうだ。実に言いづらそうに、けれど素直に白状した。

 この素直さは評価したい。


「今から引き返すには、奥に進み過ぎか。お節介でなければ湿地帯を抜けるまで同行しようと思うけど、どうかな?」


 彼らを心配そうに見詰めるフランが、このまま彼らを放っておこうとするとは思えない。だったら俺からこう提案するのが、一番手っ取り早いだろう。


「是非、お願いしたい! 相応の礼はさせてもらう!」


 食い気味に言われた。

 あちらにとっては死活問題だろうしな。






 さて。移動を再開した俺達だが、移動速度の低下以外に変わることはほとんど無い。

 というのも、導師から受け取った移動用の魔法具、勁鷲(けいじゅう)二機を彼らに貸与し空を飛んでいるからだ。

 勁鷲が二人乗り可能で良かった。でなければ俺はフランを抱えて飛び、ゲイルの背中を空ける必要があっただろう。


 えっちらおっちら地面の上を歩いてなんぞいられるか。自分を犠牲にするレベルで人助けをするつもりは無い。だから飛ぶ。

 結果的に相手も時間短縮の上に安全確保までできるのだから、悪いことではないはずだ。


「この魔法具は、一体どれほど高価な代物なんだろうか……」


 風属性中級攻撃魔法の二重起動──結合起動(ユニオンキャスト)ではない──で、二機の勁鷲の速度をそれぞれ底上げしている。

 その勁鷲に乗った件の三人は、人生で初めて空を飛んでいるらしい。落ち着かない様子で地上を見下ろしたり、勁鷲をまじまじと見たりしている。


「武術都市で仕事をしたときに報酬として受け取ったものだから、ちょっと分からないな」


 嘘を吐く必要も無いので、正直に答えた。

 まあ多分、べらぼうに高価だろう。けれどそれはあくまで推測だ。


「武術都市……? 今向かっている魔法都市ではなく?」


「武術都市の名家であるアサミヤ家に、とんでもない魔法具技師が居るようでね」


 少しとぼけた発言をした。その魔法具技師と知り合いになってしまったことは伏せておく。


「なるほど、アサミヤ家か。相当な力を持つ家だと聞いたことはあったが、技術力もその一つという訳だ」


 たった一人でアサミヤ家全体の戦力を爆上げしてる存在があるからな。

 納得する様子を見せる剣士から視線を外し、浮かんだ言葉を飲み込む。


 言葉を飲み込んだのは余計なことを言わないためであったし──、魔物の接近を確認したからでもあった。

 俺は二機の勁鷲に掛けた風魔法を解除する。


「……? 何か──ッ!」


 急に減速を始めたためだろう、疑問の声を上げた彼だったけれど、進行方向にある複数の影に気が付き言葉を途切れさせた。


 くの字の折れ曲がった部分をこちらに向けるように、計五つの反応がマップ上に表示されている。


「五羽のヴァッサーフォーゲルですか。ここは私が対応しても?」


 風の刃を放って終了させる気満々だった俺に、真後ろに居るフランからそんな声が届いた。


「じゃあ、お任せしようかな」


「ありがとうございます。では、いきますね」


 何の気負いも無く事態を引き受けたフランは、長杖を取り出し片手で構える。そして数秒後。


『テトラ・アクア』


 水属性最上級(・・・)攻撃魔法を発動させた。


 それは、さながら流星群のようで。ヒトの頭部よりも大きい氷の塊が、俺達の前方へ無数に降り注ぐ。

 たった五羽の水鳥(ヴァッサーフォーゲル)は断末魔の叫びすら満足に発することができず、叩き付けられた幾つもの氷塊と共に地上へと落とされた。


「……オーバーキル」


 俺は思わずそう呟いた。


「ところで最上級魔法を使えるとは知らなかった。一体いつ使えるように?」


 あまりの光景に言葉を失っている人間が三名ほど居るのをあえて無視して、フランに質問を投げた。


「昨日です。結合起動(ユニオンキャスト)は制御すべき威力の上昇が著しいので、より上位の魔法の習得にも役立つようですよ」


「思った以上に最近だった。となると俺も、そろそろ上級魔法の習得に挑戦すべきかな」


 特殊な技法を急に複数覚えてしまったものだから、そちらにばかり目が行きがちだったけれども。それを利用して基礎力の向上ができるなら利用しない手は無い。


 まあそれは横に置いて。一度地上に降りた俺達は、討伐した魔物の素材を回収する。


「……羽根、くらいは使えるかな。魔石も幾つかは」


 ゲイルから降りて、目的のものを片っ端からアイテムボックスに放り込みながら。忌憚無き意見を述べた。

 詳しい説明は控えるが、一言で言えば粗挽きだった。当たり所が悪かったのか、魔石は二つが砕け散り、二つがヒビ入り。残る一つが奇跡的に無傷という状況だ。まあ、砕けていても魔力ポーションの材料にはできる。


「実戦でも使用しておくべきだと思っての行動でしたが、流石にやり過ぎでした……」


 ゲイルの背に乗ったままのフランが、微妙な表情を浮かべている。


「一応、加減はしてみたのですが……」


 そうやって付け足された言葉に、俺以外で声を聞いていた三名程の冒険者が震え上がった。


 まあね、フランだからね。

 加減せず最上級魔法を使用したなら、羽根の一枚一枚すら元の形を判別できないほど破壊されていたはずだ。


「これが、【大瀑布】たる所以なのか……」


 慄くような声が聞こえたけれど、聞かなかったことにしよう。そうしよう。

ヒロインも十分に強いです。再確認です。

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