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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一四四話 事後報告

久々に奴が登場。

 オルデンからアインバーグに帰ってきてから五日後の朝。今は、気分が乗らず後回しにしていた案件を片付けている真っ最中だ。


「だから、何で、ワタシが居ないところで、問題を解決させていくのかな!?」


 場所は、密会やら普通の食事やらで俺がしばしば利用している店、とまり木亭。個室に入っているのは俺とフランと、先の言葉の発言者であるアーデ──黒の神授兵装(エミュレーター)の所有者。

 そのアーデに、武術都市オルデンで起こった出来事の説明を今しがた終えたところだった。

 なお、食事自体は既に終えている。テーブルの上にあるのは空になった皿と、中身の入ったティーカップだ。


「叫ぶなよ鬱陶しい」


 吐き捨てるように言ってから、俺はティーカップに口を付ける。


「ストレートな罵声……!」


 今度はボリュームを抑えた言葉が来た。


「大体、俺とフランがオルデンに行ったのは呼ばれたからで。俺達がそこで何もしなかったとしたら、こうやって事後報告すらできずに終わってたんだぞ」


 結果的には行って良かったけれども、当初は行きたくもなかったし。エミュレーター・コピーを破壊したのは俺だけれども、別に俺が居なくとも破壊はできていたようだし。


「そうだけど、いやそうだけど……! もう! ああもう!」


 アーデが大いに荒れている。


「何でワタシが居ないところで!」


「それはさっきも聞いた」


 短時間で同じ話をするとは、酔っ払いか。


「……ところでその導師って呼ばれてる人、一体何者なの?」


 冷めた目で俺に見られていたからか、アーデはフランの方を見ながら質問をした。


「私達にもよく分からないのです。規格外の実力者であり、多くを知る謎の人物、としか。底が見えません」


 その実力の割に、フランですら知らなかったのも謎なんだよな。

 本人があまり目立つことが好きではない様子だったから、何らかの情報統制のようなものがあった可能性もあるか。


「一応、話を聞く限りはエミュレーター・コピーの対処をしてくれてるみたいだし、ワタシ達の味方と言えなくもないけど。ちょっと不気味だなぁ……」


 テーブルの上に上半身を投げ出して弱音のようなものを吐くアーデ。

 それを見た俺は、内心でガッツポーズ。狙い通りの印象を与えられた。


 コイツを下手に会わせてボロが出る、なんて事態は全力で避けたい。本当に下手をすると、導師と紅紫のエクスナーの二人が敵になる可能性があるからな。

 ……恐ろしすぎる。


「最悪のパターンとしては、その導師が黒幕っていうのがあるけど。リッ君はどう思う?」


 アーデもその可能性は考えたか。


「完全に否定する要素は無いにしろ、可能性としてはかなり低いと見てる。搦め手も得意そうな印象ではあったけど、必要も無く使うようには見えない。正面突破が可能なら、そのまま正面突破をしそうだ」


 とはいえ俺としては、今述べた通りの印象。各地で魔物を変異させて人を襲わせる手口も、弟子として育てられたクズハさんの素直さを見ているとあまりにも人物像が重ならない。

 育てた当人が首を傾げる程の素直さだったというのは、横に置いておこう。


「そっか。じゃあ、大丈夫かなぁ」


「あくまで俺の印象だぞ」


「だからだよ」


 だって敵に対して凄く敏感そうだもん、と事も無げに言ってのけたアーデ。その謎の信頼は何だ。


「ところでアーデさんはこのところ如何ですか?」


 一通りこちらからの話が終わったためか、フランが話題を変えた。


「ワタシ? そうだねぇ、フォルストオイレ( ジェイド )シャッテンカッツェ( スピネル )の育成を頑張ってるよ。二体とも素直に言うことを聞いてくれるし、息ぴったりなんだから!」


 ただの魔物使いになってやしないか。それに今の話の流れだと、エミュレーター関連の話をしないか普通は。

 単にその話題の持ち合わせが無かった可能性もあるだろうけれど。


 と、ここで手乗りサイズの二体が唐突に出現した。アーデの肩にそれぞれ乗っている


「……魔物の収納能力、やっぱりあったのか」


 雑に新事実が発覚した。

 まあ、概ね確信に近いところまで来ていた話なので、今更感はある。


「あれ、言ってなかったっけ。そうだよー。便利でしょ?」


 気楽な様子で言ってきたアーデを一発ぶっ叩いてやりたくなる。


「そうだな。その能力のせいで、無尽蔵かと思うような魔物の群れと戦う羽目になった」


「あはは……。お疲れ様」


 少なからず皮肉を込めたつもりだが、果たしてこの反応は伝わったのか。苦笑いを浮かべているが、微妙なところだ。


「それはともかく、食事処で魔物を出すな。戻せ」


 俺がそう言うと、ジェイドとスピネルの二体が姿を消す。


「……お父さん」


 ぼそり、呟きが聞こえた。


「誰がお父さんだ」


 こんな娘は断固として拒否する。


「それで、エミュレーター・コピー関連でアーデから何か話は無いのか?」


 無いんだろうなと思いつつ、念のための確認をしておく。


「あ、一個壊したよ」


「そっちを先に言えよ」


 嘘だろコイツ。


 否応無しに、アーデを見る目も冷たくなる。


「そんな目で見ないでよ!? だってワタシ一人でも簡単に対処できる程度の規模だったんだもん!」


 だとしても、武術都市での一件について不満を漏らした人間がやることではない。


「まあ良いか。それで、何処にあったんだ?」


 不発である可能性を考えて遠出を嫌がっていたことだし、アインバーグ(ここ)から近い場所ではあったんだろう。


「居住区画だよ」


「全然良くなかったわ。ぶっ飛ばすぞお前」


 近いどころではなかった。規模がどうとか、そんな話は完全に無視して重大な事件だ。


「街の近郊ならまだしも、街の中となると今までと事情が違いすぎる。何処にあった。案内しろ。今すぐに」


 ここからエディターを使って調べることも可能ではあるが、何せ過去の情報だ。現在の情報であれば相当な精度で調べられるが、この場合は現地に行った方が良い。


 俺は立ち上がって高くなった目線で、アーデを見下ろす(見下す)


「……ぁ、はぃ」


 蚊の鳴くような声で、アーデは辛うじて返事をした。






 店を出てアーデの先導で辿り着いたのは、居住区画の中でも外壁に近い場所だった。

 ちょっとした広場というか、公園というか。ともあれそんな表現が似合う、一見すると平和的な普通の場所。中央に小さな噴水が設置され、端の方に砂場がある。

 今は小さな子どもが数名、無邪気な笑顔を浮かべて遊んでいる。


 俺は手早く調べてしまおうと、両手剣形態のエディターを取り出し地面に軽く突き立てる。


 期間は俺とフランが武術都市に向かい始めてから、ここに戻ってくるまで。対象はエミュレーター・コピー。

 ──ヒット。


 俺とフランが出発した次の日、になった瞬間。つまり深夜零時。

 そこで唐突にコピーが出現し、その三十分後にアーデが破壊したらしい。


 コピーはマッドラットという下級の中でも弱い部類の魔物を数体出現させ、けれど大して暴れさせることも無くそれを討伐されている。

 なるほど、規模が小さかったのは確かなようだ。


 となると、後はどうやってここに出現させたか。それが問題だな。


 コピーの出現タイミングから少し遡って調べる。


 ■■■■■■・■■■■■■■、とすぐに出てきた。情報量がほぼゼロだ。

 直接的にか間接的にかは不明だが、間違いなく犯人に繋がる情報なのは分かる。何せこの表示はエミュレーター関連でしか見たことがないし、それ以外に原因があるとも思えない。

 けれど、繰り返すが、情報量がほぼゼロだ。


 敵の目的は何だ?

 この場所に何かあるのか? いや、エディターでこうして調べてみても、エミュレーター・コピーのことを除けば何もおかしなことは無い場所だ。

 だったら街中であることに意味が? 確かにその一点で、警戒に値する事態ではある。


 ようやく少しは情報が手に入ると思ったが、全然だ。何で一文字も情報が得られないんだよ。エミュレーターが魔物を変異・融合させるときの表示と同じな訳だが。


「あまり芳しくなかったようですね」


 あえて俺一人にウィンドウが見える設定で調べ、黙っていたからか。フランが俺の表情を読んでそう言った。

 実のところフランには見せても良いかと思っていたけれど、臨機応変に対応したかったからな。まあ、結果論としては、フランだけでなくアーデに見せても問題は無かった。無駄な用心だったな。


「ろくな情報が出てこなかったよ。エミュレーター・コピーの影響下にある何者かがここに現れて、入れ替わるようにエミュレーター・コピーそのものが出現した。分かったのはそれだけ。その何者かの名前は不明で、何処に消えたのかも分からず」


 お手上げだ、とばかりに肩を(すく)めた。


「結局のところ、妨害を続けて敵が痺れを切らすのを待つしか無いのかね」


 サギリさんとクラリッサ様の二人がそうしているように。フランにはその意図まで伝わったことだろう。


「ワタシも調べてみてそう思ったから、重要度が低い話かなって思ったんだけどー……」


 何故かジト目で俺を睨んでくるアーデだが、どうやら一丁前に正論を吐いているつもりらしい。


「調査能力においてエディターの劣化版でしかないエミュレーターで調べたから、何だって?」


「……何でもないです」


「今回結果的にはエディターで調べても何も出なかったが、今後エミュレーターで調べたことはもうエディターで調べなくて良いんだな?」


「ワタシが間違ってましたごめんなさい!」


 残念だ。今後の活動で手を抜けるかと期待したのに。

 まあ嘘だが。


「すぐ謝るくらいなら、反論しなけりゃ良いだろうに」


「すぐ謝らないといけない状況に追い込まれるとは思ってなかったんだもん」


 いじけた様子のアーデ。このくらいがテンション低めで楽だな。


「これ以上は何もできそうにないし、この場は解散か」


「そうですね。ここに留まる理由はもう無さそうです」


 そういう訳で、解散。

 俺は訓練所に行ってくるけど。

相変わらずのポンコツ具合。

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