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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第五章 本格的に力を付けよう
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第一四二話 アサミヤ家で得たもの4

アレックスがまだ頑張ります。

 ここは訓練所の結界内。俺ともう一人が相対し、それぞれ黒い(・・)武器を構えている。


「まさか僕が、この剣を振るうことになるとはね」


 妙な笑い顔をしているのは、俺に剣を向けているアレックス・ケンドール。自前の白い長剣ではなく、両手剣形態のエディター(・・・・・)の柄を握っている。


「結界の機能で元に戻るとはいえ、武器が壊れて一々仕切り直すのも面倒だしな」


 威力を抑えた上で、俺が重撃を使用する。アレックスにはそれを、直に体験して貰おうという訳だ。

 威力を抑えると言っても重撃を使われて、通常の武器ではそう何度も受け切れない。だから今だけ、壊れない武器(エディター)を貸与している。


「理由は分かるけれど、僕はさっきから変な震えが止まらないよ。怯えと、武者震いと、どちらの比率が高いのやらさっぱりだ」


 けれど、とアレックスは続ける。


「この模擬戦で、得られるものは全て得てみせよう」


 今度は不敵な笑みを浮かべ、戦意は十分か。


 元々、燻っていてなお(・・・・・・・)足を止めはしなかった男だ。確定的な死を前にしてさえ、己が拳を振り上げてみせた男だ。

 ああ、嫌いじゃないよ。それに、きっとまだまだ強くなる。


「始めるぞ」


「いつでもどうぞ」


 初手、縮地。一瞬にして間合いを詰め終え、八咫烏を袈裟に振るう。


 アレックスはこれを辛うじて弾き、即座に後退。重撃を警戒してのことか。


 縮地、二連続。間合いを詰めた直後に、そこから一歩後退。フェイントをかける。


 アレックスはそれに引っかかり、エディターを横に薙ぎ払った。


 目の前を通り過ぎる切っ先をしっかりと見送り、踏み込みながら上段からの振り下ろし。通常であれば防御が間に合わないタイミング。


 けれどアレックスは紫電を使用し、エディターの剣身を割り込ませる。勢いに押されて半歩程度後退するも、防いでみせた。とはいえ状況は鍔迫り合いに。


 重撃を使用。秒間五回程度の速度に留める。


 秒を追うごとにアレックスの体勢が崩れていき、手放しはしなかったものの、エディターが大きく弾かれた。


 俺の選択は突き。狙うは心臓。

 これもやはり通常であれば、必殺の一撃となるはずのもの。


 しかし。


「……なるほど、これが縮地というものなんだね。初速の高さもさることながら、移動の完了を以って停止してくれるというのも、実にありがたい」


 土壇場で縮地を成功させたアレックスは俺から距離を取り、冷や汗こそ流しているが負傷は一切無く健在だ。


「もっとも君のように連続で使用するには、まだまだ鍛錬が必要そうだけれど」


「なら、この状況は丁度良いな」


「ああ、全くその通りだとも!」


 あちらの戦意は衰えるどころか、ますます滾っていくばかりのようだ。


 それならこちらも、応じなければ。


『ジ・ウィンド』


『ジ・ライト』


 俺は八咫烏の刀身に風を。


 アレックスはエディターの剣身に光を。


 さあ、ギアを一つ上げようか。どこまで食らいつくかな?











 アレックス・ケンドールが、結界の外で大の字になって寝転んでいる。その理由は勿論、結界内で俺に切り伏せられたからだ。

 しかしながらその表情は、負けたというのに実に晴れやかで。俺も、その表情には納得するものがあるけれど。


「今日ほど、自身の成長を実感できた日は無いよ……。重撃は、まだ流石に習得できていないけれど。イメージはしっかりとできた。近い内に、必ずモノにしてみせよう」


 改めて、初対面の時とは別人のようだと思う。

 というかここまでステータスシステムについての適性を持っていながら、何で三つ星で長く燻っていたんだコイツは。どれだけ非効率的な訓練を続けてきたのやら。

 まあその分、土台についてはしっかりしているのも、今となっては分かっているけれども。


 俺は仰向けになったままのアレックスに向けて右手を差し出す。

 アレックスが驚いたような表情を浮かべた後、恐る恐るといった様子で俺の手を取ったので、そのまま引き起こす。


「ありがとう。色々と、本当に。この恩は必ず返すよ」


「丁度良い訓練相手を増やしたかっただけだから、別に気にしなくて良い」


 本心からの言葉だった。ドミニクさんを焚き付けられれば、それだけでも十分だったのだから。


 それにしても、どうやら気付いていないようだ。自身に集まっている周囲からの視線に。

 俺が加減していたことは分かっているだろうが、それでも随分と長く打ち合っていたんだ。実力を増していることは、明白と言える。


「ははっ、君はやっぱりそういう男なんだね。良いさ、僕が勝手に恩を感じているだけなんだ。だから勝手に返すよ」


 しかし爽やかスマイルが似合う男になった。まあ、それも良い事だよな。


「俺はそろそろお暇しよう。アレックスはどうするつもりだ?」


 ある人物(・・・・)の接近に気が付きつつ、俺は白々しくも質問してみた。


「僕はまだここで訓練を続けるよ。今日得たこの感覚を、絶対に忘れないようにしなければならないからね」


「そうか、そいつは丁度良いな」


 今のは俺の言葉ではない。

 アレックスの言葉を聞いたある人物(・・・・)が、実に好戦的な笑みを浮かべつつ、その背後で言った。


「ちょっくら俺の訓練に付き合えよ。今のお前なら、相手として不満も無え」


 果たしてそれは誰かといえば、ドミニク・ベッテンドルフさん。【鋼刃】の二つ名を持つ五つ星冒険者だ。


 アレックスは勢い良く振り返り、慌てた様子で口を開く。


「いや、彼が僕の実力に合わせて加減してくれていたから、まともに戦えていただけだが!? 貴方と戦うのなら、僕の側に誰かしら味方が必要だ!」


 ドミニクさん、手加減はあまり得意じゃないからな。できなくはないけれど、調整が大雑把というか。


「そう心配すんなよ。俺はまだ縮地も紫電も使えやしねえんだ」


「僕とは地力が違うだろう!」


 いやー、大変そうだな。

 ああ、あくまで認識は他人事だよ。


 さて、エディターも回収したことだし、フランの所へ行こうか。






 フランはひたすら的に向かって魔法を放ち続けていた。

 使用しているのは中級攻撃魔法の二重結合起動ダブルユニオンキャストのようで、地・水・火・風・光の計五属性を順に発動させている。


 少し距離を取って人だかりができており、その威力と精度に驚いているようだ。いや訓練しろよ。


 俺はそのままフランの傍まで歩いていき、声を掛ける。


「フラン」


 名前を呼ぶと、フランは手を止めてこちらに振り返った。

 笑顔が眩しい。特に、振り返った瞬間までは真剣な表情だったのが大きい。


「リク。そろそろ訓練は終わりですか?」


「そうしようかな、と思ってる。まだフランが続けるつもりなら、それに付き合うけど」


 俺は結合起動の訓練をしてないし、と続けた。


「いえ、私も一通り使用感は確認しましたから、今日のところは終わりにしようかと。昼食もまだですし」


「それもそうか。じゃあ、昼飯はどうするかね」


 何処かに食べに行くか、それとも。


「折角ですので、お家で食べませんか? 立派なキッチンがありましたし、使ってみたいのです」


 ふむ、となるとフランの手料理? それは正直なところ食べたい。


「じゃあ……とりあえず汗を流してから、買い物かな」


「そうですね」


 ところでさっきから、周囲が騒がしい。理由に心当たりはあるけれど。


 ここでふと気になって、結界の方を確認してみる。

 するとそこではドミニクさんとアレックスが、やはり模擬戦をしていた。ただし参加者はその二人だけではない。

 エリックとステラさんまでもが、居た。


「あー……、エリックは純粋な後衛の立ち回りで、回復役のステラさんへは攻撃禁止とでもしてるのか」


 まだ連続では使えない縮地と紫電を要所で使って立ち回りを補助する、魔法剣士のアレックス。アレックスの隙を埋めるように強烈な火魔法を叩き込む、魔法使いのエリック。それでもかなりの頻度で負傷する二人を目まぐるしい早さで治癒していく、治癒術師(ヒーラー)のステラさん。

 エリックとステラさんのパーティーメンバーであるジャックとアンヌは、近くで見学しているようだ。二人してステラさんを心配そうに見ている。エリックの心配はしていないらしい。


「ドミニクさん……ほとんど加減をしていませんね」


 フランも俺と同じく結界の方を見て、そう呟いた。


「やっぱりフランもそう思う?」


「はい。ケンドールさんの実力が上がっているのは見て分かりますが、あれでは十分と持たないでしょう」


 逆に言うと、それでも十分近くは持つってことだけど。


「巻き込まれたエリックとステラさんが気の毒だし、少しだけ手伝ってくるよ」


 速度強化ができる風属性補助魔法の付与とか、単純に攻撃魔法で援護とか。


「今のドミニクさんは、少々頭を冷やす必要がありそうです。私も行きましょう。その方が短く済むとも思います」


 ほんのり悪戯っぽい笑みを浮かべたフランが、そう言った。

 今度はドミニクさんの方が大変そうだな。


 そういう訳で、俺とフランが結界内へと進入。

 まず俺がアレックスとエリックの二人にエアロⅡを付与する。それに驚き僅かな隙を生んでしまった二人だが、そこはフランが放った氷柱がドミニクさんの行動を妨害して問題とならず。何なら俺が風の刃を追加して、更に行動を妨害した。


「オオア!? 何だあ、いきなり!?」


 明確な焦りを見せるドミニクさんだが、こちらは気にしない。


「アレックス、エリック、今の内に押し切ると良い。今にも目を回して倒れそうなステラさんは、結界の外で紅茶でも飲みながら休憩を。支援はこのまま俺とフランで受け持つよ」


 アイテムボックスから取り出したティーカップに紅茶を注ぎ、ソーサーに乗せてステラさんに渡す。混乱しつつも受け取って貰えたので、そのまま結界の外へ誘導。即座にテーブルとイスも用意して、有無を言わさず。


「訓練を行うのは大変結構ですが、他者を巻き込む際には節度を守るべきです、ドミニクさん」


 俺が結界の中へ戻るところで、フランがドミニクさんに説教をしていた。


「焚き付けた俺が言うのも何ですが、フランと同意見です。加減くらいはきちんとしましょう」


 俺もそれに参加する。

 やっぱり、最低限の加減はしないとな。


 そんなことを思いつつ、俺はドミニクさんと相対する二人への全力補助を止めない。

 フランもまた、先程までの回復役であったステラさん以上の精度で回復魔法を飛ばし続ける。


 まあ、十分と持たない(・・・・・・・)んじゃないかな?


「……勝てる訳無えだろこの状況!」

上級冒険者カップルによる、手厚い後方支援。

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