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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第四章 有名税は払いたくないものです
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第一三二話 告げる

アインバーグに帰ります。

◆◆◆◆◆


 俺──リク・スギサキは自身の騎獣であるグリフォン(ゲイル)の背に乗り、武術都市オルデンから城塞都市アインバーグへの帰路についている。

 背中にはピタリとくっつくフランの姿があり、俺に対して完全に身体を預けていた。もう何も言うまい。


 風属性中級攻撃魔法の三重結合起動トリプルユニオンキャストにより、俺達全員を覆う強固な風が存在する。

 少々距離のある地上の景色が目まぐるしく後方へ流れていく様は、これまでの最高速度を大幅に更新していて。ゲイルの機嫌も最高潮となっている。


 さて、オルデンに到着してからここまでの経緯を整理しよう。


 到着した直後に導師と対面して、アサミヤ家の所有する敷地内を回って、死ぬほどタイミング悪く発生した魔物騒動を片付けて、翌日フランと街中の観光をして、導師にズタボロにされて、更に翌日クズハさんと手合わせをして、また更に一晩アサミヤのお屋敷で過ごしてから。

 アサミヤ家の中でも接点を持った方々へ、アインバーグに帰るということで挨拶をして回った。導師とクズハさん、スミレさんは勿論のこと、宴の準備中に俺が手伝いをした女性や、宴の最中に話をした男性など。とりあえず会話した人には一通り。

 なお、剣道場で俺に剥き出しの敵意をぶつけてきた男はスルー。当たり前だが。


 ……密度たっか。何だコレ。


 それで終わればまだ良かったんだけど、残念なことに終わってくれなかった。


 ゲイルの手綱を引いて、フランと共にアサミヤ家の敷地から出ようとするタイミングのことだった。歴戦の古強者、といった風情を帯びた高年の男性──アサミヤ家当主、ソウイチロウ・アサミヤ様という方がわざわざあちらから出向いてくださったんだ。

 俺と目を合わせようとしないサギリさんも同行していて、珍しいことに困ったような雰囲気を出していたのを覚えている。


 そこで話したことは、とても少ない。アインバーグからここまで良く来てくれた、魔物騒動での助力に感謝している、気が向いたならいつでもアサミヤ家を訪れて欲しい。そんなところだ。

 ただ、時折意味深な視線をサギリさんに送っていたのは何故だったのだろうか。サギリさんもほとんど言葉を発していなかったし。

 まるで、サギリさんが当主に弱みでも握られているかのような光景だった。だとすると詳細が気になるけれど、聞いてしまえば後戻りできない気がして聞きたくはならなかった。毒沼に素足で踏み込むような真似はしたくない。


 ともあれオルデンでの用事を終えて、こうして無事に帰路についている。そう、今ようやく無事なんだ。


「激動の時間がやっと終わった……」


 だから、愚痴を吐くくらいは許してくれ。頼むから。


「お疲れ様でした。といっても、帰りをこうして任せている現状からすると、あまり適切ではないのでしょうか?」


 吐息の音が聞こえるほどの至近距離から、フランの声が届いた。


「ゲイルについては空を飛ぶことが至上の喜びだし、俺は俺で結合起動(ユニオンキャスト)の制御訓練を兼ねてるから、何一つとして気にしなくて良いよ。そもそも、適切な役割分担の結果でしかないんだから」


 こと移動において、この面子で役割を持つのはどう考えても俺とゲイルだろう。フランにはそれ以外の部分でお世話になっているのだから、今はゆっくりしていて欲しい。


「そう、ですね。では、お言葉に甘えておきます」


 フランはすんなり引き下がり、ほんのり嬉しそうに言った。


「ところでリク。行きたいと言いつつ行けていない、喫茶店巡りの旅行はいつ行きましょうか?」


 嬉しそうな声色を維持したまま続けられた言葉に、俺はどう返すべきか思案する。


「王都ゲゼルシャフトといい、武術都市オルデンといい、用事が終わったら喫茶店に行ってたけど。そろそろ純粋な休暇として、ゆっくり紅茶を楽しみたい気持ちはあるかな。移動速度も随分と上がったし、何なら国外にも結構気楽に行けるか」


 王都での仕事で護衛対象だったコルネール・ベットリヒ少将の国、ヴァナルガンド帝国に足を運んでみるのも良いかもしれない。冒険者の身分はこの世界共通で色々と融通が利くらしいし、上級冒険者なら問題も少ないだろう。


「移動にかかる時間が少ないのは助かりますね。もし国外に行くのであれば、やはりヴァナルガンドでしょうか。とはいえ国内も北の芸術都市フォルトや西の魔法都市クヴェレがありますから、そのどちらかでも良いですね」


「この国も広いしな。大都市だけでも巡っておく、ってのは悪くないか。紅茶とは無関係に、魔法都市ってのは少し興味もある」


 先に導師(バグキャラ)に会ってしまったせいで、驚きが薄れてしまう可能性は否めないけれど。

 魔法都市とまで呼ばれる場所の魔法技術がどのレベルか把握しておくのは、悪くない。面白い魔法具もあるかも知れないし。


「目的地は、魔法都市クヴェレに決定でしょうか?」


「フランがそれで良いのなら」


「では決定ですね」


 場所はさっくり決まった。あとはいつ行くか。


「日程だけど、俺は大体いつでも大丈夫。フランの都合に合わせるよ」


 遠出の必要がある一部の例外は除いて、現在の俺は基本的に日帰りのクエストばかり受けている。

 移動時間が極端に短いため、日帰りになっているだけの場合もあるけれど。今はゲイルが居るので、その状況は更に多くなるだろう。


「では、そうですね……一週間後くらいで大丈夫でしょうか? 急過ぎるのも何ですが、あまり先の日付にしてしまうと別の外せない案件が発生しそうな気がしますから」


「否定できないのが怖いところだな……。うん、それでいこう」


 この世界に来てからというもの、厄ネタに愛されているとしか思えない日々を送ってるからな。何も無いときは数ヶ月間何も無いんだけど。

 ……数ヶ月程度しか平和が維持されない? そんな馬鹿な。


「リク」


 ゲイルに乗っているため、フランの両腕が回されている俺の腰。そこに、少しだけ強く力が加えられた。先程から密着していたが、それがより一層。


「うん? どうかしたかな?」


 何故か改めて名を呼ばれたので、俺はただ何事かと問いかけた。


「エミュレーターの件、私も一緒に対処します」


 ────ッ!


 ああ、これは少しばかり失敗した。いや、大失敗か。


 表情こそ普段通りを維持できたと思うが、それはフランの位置的に何の意味も無い。元々見える角度ではなかった。

 そして、隠すべき身体全体の緊張、強張りは。当然ながら、密着された状態では全く隠せていなかった。


「明らかな動揺が見られましたね。……やはり、一人で対処するつもりでしたか」


(とぼ)けるだけ、無駄か」


 俺は素直に白状する。


「意図して普段通りに振舞ったのが拙かったかな」


「かも知れません。ただ、そうでなくとも私は気付けた自信がありますよ」


 おお、大した自信だ。きっとそれは過剰でもない。


「この一年ほど、ずっと貴方を見てきましたから」


 告白されてるのかと勘違いしそうな台詞来たんだけど。


「……これまでは、さ。あくまで不運が重なった結果だと、そう思ってたんだ。けど、少なくともこれからは絶対に違う。俺が持つエディターが狙われていると発覚した以上、エミュレーター関連の出来事は俺が対処すべきだ」


 紛れもない本心からの言葉、そのはずなんだけどな。だというのに無駄なことをしている自覚が、嫌というほど強くある。


「ええ、その通りです。ですが私も(・・)対処に加わることに、問題はありません。むしろ戦力は多い方が良いに決まっています」


 大体分かっていた、フランからの返答だった。


 まあそうなるよな。そう、なるよなぁ。


「できればフランには、安全圏に居て欲しいんだけど」


 それでもまだ悪足掻きを。俺が抱くこの気持ちは、きっと無駄ではあっても、決して軽くは無いから。


「できればリクには、怪我をしても私が治せる場所にいて欲しいです」


 頑固だな、お互いに。


「じゃあ、全力で逃げよう。一緒に」


「そんな嘘に私が騙されると思いますか? リクが敵を前にして、逃げ続ける選択をするはずがありません。一時的な撤退ならばまだしも」


 どうしようもなく俺の性格を把握されていた。

 本当に、どうしようもなく。


「諦めてください。私は時折酷く強引(・・・・・・)なのですから」


 いつぞや、タイミングは違えどお互いに対して言った言葉だった。


「……どうしてそこまで、俺にしてくれようとするのかね」


 結局、俺が折れる結果だ。元より悪足掻きなのは承知の上だったしな。


 すぐに次の言葉が来るかと思ったけれど、その予想に反してフランは中々言葉を発さなかった。


 俺の腰に回されたフランの腕が緩んだり絞めたりを緩慢に繰り返しながら、一分間ほどが経過したか。深呼吸するような音が俺の耳に入ってから、ようやくフランの声が聞こえる。


「自覚のようなものは、実は以前からあったのです」


 はて、いきなり何の話だろう。もしかすると(・・・・・・)という思いとまさかそんな(・・・・・・)という思いが半々で、俺の心中を渦巻く。


「紅紫のエクスナー、クラリッサ様のお屋敷の外で、リクと侍女の方が楽しげに会話していたとき。私は恐らく嫉妬心を抱いていました」


 フランの声色は至って真面目で、そこに少なくない緊張の色を帯びている。


「それ以前にも、私の抱く感情はそうなのではないかと思うことはあったのですが……。今回、サギリさんによって満身創痍となり地に倒れ伏したリクを見て、欠片も感情を制御できなくなるという初めての経験をして、ようやく確信に至りました」


 俺の背中に伝わる駆け足の鼓動が、実際以上に熱を帯び、強く感じられる。


 フランはここでもう一度、深呼吸をしたらしい。そして──






「私は貴方に、恋をしています」






 ──微かに震える声で、けれどどう誤解しようもなくはっきりと。

 リク・スギサキは、フランセット・シャリエからの告白をされた。

彼は難聴系主人公ではありません。

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