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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第四章 有名税は払いたくないものです
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第一三一話 vsクズハ3

今回は三人称視点にしようかと思いましたが、クズハ視点にしました。

◆◆◆◆◆


 自分──クズハ・アサミヤは今、【黒疾風】の二つ名を持つリク・スギサキ殿との手合わせに臨んでおります。


 リク殿は師匠が作った八咫烏、ステータスシステムの完全運用を可能とする大太刀を振るい。

 自分も同じく師匠が作った熾焔、膨大な熱量を操ると共にMPそのもの(・・・・・・)を焼却する刀を振るい。

 互いの身体に切創を刻まんとしている次第であります。


 この手合わせの中で抱いたリク殿の剣に対する感想としては、意外な程に堅実であることが挙げられるでしょうか。

 速度は自分以上で、鋭さもある。けれど不用意に攻め込むことはせず、着実にこちらの隙を窺う。

 防戦というものは中々に神経を削るものでありますが、リク殿の剣からはおおよそ焦りというものを感じられず。これが実戦ではないということを加味しても、こうまで泰然としていられるものかと、疑問と感心の両方を抱きます。


 熾焔の特性によって風がその力の源を徐々に焼却されていることにも、既に気付かれていることでありましょう。その上で尚、堅実な剣は崩れず。

 単純な真正面からの打ち合いを全力で避けるこちらの精神的消耗に、間違いなく気付いていらっしゃる。


 紫電を三連続で使用することによって攻撃の瞬間とその位置を自在に変え、並の相手であれば何もさせずに仕留められる一撃。それを、あちらは一度の紫電で防ぐこの状況。

 熱を叩きつけることによって徐々に体力を奪ってはいるものの、こちらの集中がいつまで持つものか。


 そんな不安が迷いとなったか。僅かに甘さのある一撃を放ってしまった瞬間、両腕が爆ぜたかと思う程の衝撃がありました。


 重撃。

 一瞬にして五度程の衝撃を重ねられたようで、破壊不可属性を持つ熾焔が破壊されることこそ無いものの、打ち上げられた勢いは殺し切れず。


『狐火!』


 咄嗟に牽制のための狐火を放ち、後方へ下がります。されど、それを黙って見過ごしてくれるほど甘い相手では無く。

 リク殿を半包囲するように展開した狐火は、鋭峰のごとき風により貫かれ。その勢いのまま、こちらに八咫烏の切っ先が迫ります。


 そして自分の心臓を貫きました。


 ──否、自分の幻影の(・・・)心臓を。


 妖術により自分の目の前へ自分の幻影を展開し、同じ動きをさせることで本体の姿を隠しつつ、間合いを見誤らせる。妖術は未だ不得手なれど、一騎討ちならばただ一人を騙せればそれで良い。

 ……それで、良かったはずなのでありますが。


 一瞬たりとも速度を緩めず迫り続ける(・・・・・)切っ先を前に、反撃の用意をしていた自分の手が僅かに鈍りました。

 辛うじて合わせたこちらの熾焔は、八咫烏に触れただけで大きく弾かれ。やむを得ず自ら、けれどほとんど吹き飛ばされるように跳んで受身を取り。大急ぎで立ち上がるところで──背後から首筋に刃を添えられてしまいました。


「悪いね。幻と本物を見分ける手段を、俺は持っているんだ」


「然様でありましたか。……降参であります」


 首筋に添えられた刃が消えたため、立ち上がって振り返ります。

 そこには八咫烏を鞘に納めるリク殿の姿がありました。


「勝ちはしたけど、辛勝だな」


 全身から力を抜くように大きく息を吐いてから、疲れた様子のリク殿が額の汗を拭いながら言いました。


「何を仰いますか、自分の完敗でありますよ。リク殿は今回初めて使用する武具の性能を、現在発揮できる最大限で活かし、非常に堅実な戦いぶりで勝利を収めた。対してこちらは使い慣れた武装で、更に要所で小細工を挟みつつも敗北した。ええ、やはり完敗であります」


 心から思った言葉をただ口に出した次第ですが、リク殿には苦笑を浮かべられてしまいました。


「負けてここまで清々しい様子を見せてくれる手合いも、中々珍しいかな。それはさて置いて、今回はどうもありがとう。八咫烏の使い方もそうだけど、ここに来て学んだ技法を総ざらいできたよ」


 そうでありました。結合起動(ユニオンキャスト)はもとより、縮地をはじめとしたクスキ流戦闘術も、リク殿はこの武術都市オルデンに来て初めて使用したのでありました。

 ほとんど完璧に近い形で使用されていたので、うっかり忘れそうになっていたのであります。


「そこはお互い様でありますよ。リク殿との手合わせは、実に学ぶ点が多いものでありましたので」


 武器の振りと移動、そして反応の速度が大変に高いため、結局まともに入ったといえるこちらの攻撃は、途中で熾焔を抜いた際の不意打ちのような一撃のみ。逆にこちらも有効打を受けていないとはいえ、それは恐らくリク殿が最初から一撃で終わらせるつもりだったからでありましょう。

 アサミヤ家でもこれほど速度に優れた剣士は居らず、八咫烏の使い手としてこれほど相応しい人物もそうは居ないと思われました。


「機会があれば、また手合わせをお願いしたいところであります」


 これもまた本心からの言葉ではありましたが、アサミヤ家に入る訳でもなく、ここオルデンに住む訳でもないリク殿と会う機会は、それなりに限られてくると思われました。

 そう、思われたのですが。


「多分、定期的にこっちに来るだろうから、この先何度も手合わせをすることになりそうだね」


 少しだけ考える素振りを見せたリク殿の口から、そんな言葉が出てきました。


「何故、不思議そうな顔をしているのかな。エミュレーター関連でサギリさんと話す必要があるじゃないか」


「それもそうでありますね。ただその、リク殿はエミュレーター関連の話にあまり積極的ではないのでは、と思っていたものでして」


 何処となく消極的な空気を感じていたのでありますが。自分の勘違いだったのでありましょうか。


「いや、それは全くその通りだけど」


 勘違いではなかったとのことです。即座に肯定されたのであります。


「必要に迫られて、話をすることになるかな、と。……心の底から不本意だけど」


 苦虫を噛み潰して、渋面が浮かぶのを必死に堪えているような表情であります。


「……理解したのでありますよ」


 下手な慰めの言葉は、傷に塩を塗る行為であります。ここはただ、理解のみを示すべきでしょう。


「アインバーグとオルデンの間の移動については、結合起動(ユニオンキャスト)を使えるようになった上にゲイルが居るお陰で、かなり気楽にできるから良いんだけど」


 そのゲイルも少しレベルが上がったし、と付け足されました。


 リク殿の騎獣は大変に優秀なので、少しばかり羨んでしまいます。

 主であるリク殿の力と合わせれば、アインバーグとオルデンで日帰りの往復すら可能でしょうし、戦闘においても高い機動性で敵を翻弄できるでしょう。


 そんなことを考えていたら、師匠とフランセット殿が近くにやって来ました。


「お疲れ様、クズハ。あんなゲテモノ武器を相手に、良くぞあれほど奮戦できたものだよ」


「自作の武器でありますよね……?」


 いえ、言わんとするところは痛いほど理解できるのですが、それを製作者本人が言ってしまうのは如何なものかと思うのであります。


 ところでフランセット殿は、リク殿と話をしているようでありますね。

 腹部の傷は師匠が結界の機能を使用して消えていますが、汗はそのままであるため濡らした布で甲斐甲斐しく拭いているのが自分の目に入りました。そこまでしなくて良いから、とリク殿は遠慮がちですが、フランセット殿の押しが強いようであります。

 仲睦まじい様子で、何よりでありますよ。


「君に持たせた熾焔やスミレさんに渡した氷雨とは違って、素直な性能ではないからね。ともすれば使用者の技量を著しく落としかねない、妖刀の類だよ、あれは」


 ほんの少しだけ視線と思考を横道へと逸らしていたのですが、師匠の発した言葉によって引き戻されてしまいました。


「渡された本人の前でそういった話をするのは止めて頂けませんか」


 好き勝手に言葉を紡ぐ師匠に対し、流石に見過ごせなくなったのかリク殿が口を挟みました。その声には、強い非難の色が見えます。


 けれど師匠は、やはりと言うべきか気にした素振りも見せず。


「君ならば性格的に問題も無いだろう? 武具の性能を自分自身の力と勘違いする、そういう手合いとは全く毛色が違う。妖刀だろうと魔剣だろうと、飼い慣らしてみせるはずだ」


 実に晴れやかな声で、そのように言い切ってみせました。かえって胡散臭さを爆発させているのであります。


「随分と高く評価して頂いているようで、光栄ですよ」


 全くこれっぽっちも光栄だとは思っていない無感動な声で、リク殿は言いました。その目は酷く淀んでいるのであります。


 今ばかりは、実に対照的な二人でありました。

敗因は情報の不足でした。

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