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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第四章 有名税は払いたくないものです
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第一三〇話 vsクズハ1

鍛錬大好き狐娘。

「そ……っ、それは、大変心惹かれるお話ではありますが……! いえ、しかしリク殿は傷こそ治っているものの、体力の回復はまだまだ不十分でありましょう……?」


 見ていて面白いくらいにクズハさんが葛藤している。

 こちらを見て、様子を伺ってくる。

 三角の耳がひくひく動いている。ふさふさの尻尾が不規則に揺れている。


「どうだろう、リク君。八咫烏の能力を三年前とはいえ実際に戦って知っている上、実力的にも申し分ない練習相手がそこに居るのだが」


 仮面を被った悪魔が、耳障りの良い言葉を並べ立ててこちらを誘惑する。

 ……と、心中で罵倒してはみたものの、事実が述べられていることは認めなければならない。俺としても戦力アップを望んでいるし、強力な武器を入手してその使用感も確かめられる状況がある。ついでに言えばこの八咫烏、むしろ体力に不安があるときこそより一層の真価を発揮するのではなかろうか。


 俺はフランの方を見て、口を──開こうとして止めた。


「私は止めませんから、リクの思う通りに」


 昨晩の怪我を治してくれたフランからの承諾は必要だろうと思って、そちらを見た訳だけれど。ほんのり苦笑を浮かべつつも、至極あっさりとそう言って貰えた。


 それなら決まりだな。


「手合わせを、お願いしても良いかな?」


 再びクズハさんの方を見て、俺は言った。


「是非とも!」


 至近距離まで顔を寄せ、食い気味に言われた。

 割と予想はできていた。











 流石に体力の回復が不十分過ぎたため、昼間まではゆっくりと身体を休めて回復に努めた。実のところそれでも昨晩削られた体力は戻り切っていないけれど、丁度良いハンデだと思うことにする。


 ところで俺が受け取った八咫烏だが、とんでもないことが発覚した。

 借りている部屋に戻ってからエディターを使い調べてみたところ、なんと破壊不可属性が付いている。偽と付いていない、本物の破壊不可属性だ。それが鞘にまで、ということで更に驚かされた。

 破壊不可属性は神授兵装(アーティファクト)なら付与されているものだけれど、他の魔法具でそれが付いているものは見たことが無かった。


 鯉口を切り、少しだけ刀身を引き出して見てみたが、大方の予想通り色は黒。周囲から俺のパーソナルカラーとして認識されているのが黒なので、少しと言わず勘繰りたくなるものだけれど。三年前には既に存在した魔法具だと分かっているので、時系列的にそれは辻褄が合わない。思考を早々に打ち切った。


 さて。昼食も済ませた少し後、フランと共に訪れたのはやはり五重塔。

 中にサギリさんとクズハさんが居ることは分かっているので、迷わず入っていく。


 足を踏み入れた瞬間、景色が切り替わる。

 例の如く、そこは広大な草原だった。柔らかな風を受けて、新緑の絨毯が穏やかに波打っている。実に穏やかな光景だ。これからここが戦いの場になるとは思えない。


 真正面にはクズハさん。彼女は閉じていた目をゆっくりと開き、こちらを視界に捉える。


「お待ちしておりました、リク殿、フランセット殿」


 いつものように丁寧な挨拶だが、滾る戦意は隠そうともしていない。浮かべた笑みは誰の目にも明らかな程に好戦的で、三角の耳は張り詰めるようにぴんと立っている。

 ただし尻尾は、ぱたぱたと左右に振られていて。そこだけ場違いなほど可愛らしい。


「随分とやる気らしいね」


 俺は少しだけ苦笑しながら応えた。


 そこから左に視線を動かせば、サギリさんがクズハさんの後方で静かに佇んでいる。


「今回は結界と同様の機能を作動させておくから、幾らでも無茶ができるよ。四肢を切り落としても、首を刎ねても、心臓を穿っても、きっちり元通りさ」


 それはありがたいけれど。他に言い方だとか、昨晩も同じ措置を取っておいて欲しかったとか、言いたいことが脳内に溢れかえる。もっとも、後者についてはそれ(・・)も含めて昨晩必要なことだった可能性がある訳だが。


 なんだかんだでずっと俺を手のひらの上で転がし続けている相手なのだから、その真意を推し量ろうとするのは無謀か。

 不本意ながらもそう結論付けてから、更に左へ首を回す。


「じゃあ、行ってくるよ」


 気負い無く、俺はそう告げた。


「はい、頑張ってきてください」


 それに応じたフランも、俺と似たような様子で。


 エディターと八咫烏の両方をアイテムボックスから取り出す。

 なおエディターは右の肩鎧と手甲、そして左の手甲の形を取っている。大太刀の二刀流というのは威圧感こそあるだろうが、扱うための技量が伴わなければ虚仮威(こけおど)しにもならないのだから。


 俺は離れていたクズハさんとの距離を詰め、およそ五メートル程度のところで立ち止まる。そして鞘に収まっている八咫烏の鯉口を切り、ほとんど音も無く抜刀。艶の無い、真っ黒な刀身が現れた。鞘の方は再びアイテムボックスに入れておく。


 八咫烏は反りの浅い大太刀だ。峰の部分も切っ先付近だけは刃が付けられており、切先両刃造(きっさきもろはづくり)という突きにも対応した仕様となっている。

 エディターの大太刀形態とは細部こそ異なるものの、かなり似通っていると言えるだろう。お陰でほとんど違和感も無く、これを振るえそうだ。


 ──静かに、正眼に構える。


 クズハさんもまた腰に差した刀を抜き、正眼に構えた。炎のように真っ赤な目は、爛々と輝いてこちらを見ている。


「楽しみであります。三年前から、自分がどれほど成長できたのか。所詮は中級の剣士相当でしかない鎧武者ではなく、リク殿程の剣士(・・)によって振るわれる八咫烏を相手にして確かめられるのでありますから」


 剣士冥利に尽きるというものであります、と。随分と評価されてしまっているらしい言葉を贈られた。

 それなら俺は、恐らくフェアではないので俺の新しい情報を伝えておこうと思う。


「先に一つ、こちらの情報を伝えておくよ。俺は昨晩で電光石火と重撃、それとその組み合わせを会得した」


「んなっ!? それは本当のことでありますか!?」


 景気良く驚いてくれたクズハさんに対し、俺は首肯で答える。


「いやはや、才はあると分かっていたことではありますが、まさかそれほどとは」


 ……ぶっ殺すぞテメェ、くらいの気持ちで異常な集中力を発揮していたときのことなので、()というよりは()といった感じだけど。

 まあ、それは良いか。


「そろそろ始めようか。ここからは言葉ではなく──」


「──剣で、語ると致しましょう!」


 清々しくも激しい戦意を滾らせて、クズハさんが向かってきた。






『ジ・ウィンド』


 まずは様子見。単一起動(シングルキャスト)の風魔法を発動させて、身に纏う。


 あちらはあちらで、刀身に青い炎を纏わせている。


 不意に、クズハさんの姿がブレた。

 一瞬だけ俺の視界の向かって右に、次の瞬間左に──至近距離で。


 咄嗟に八咫烏を防御に回すも、待った衝撃は来ず。マップ上の反応は俺の背後に。

 これは拙いと思い縮地で前進すると、風切り音が背後から聞こえてきた。


 振り返る前に、右へ縮地。青い閃きが視界の左端に見え、再び風切り音も聞こえる。

 もし悠長に振り返っていたら、確実に斬られていたな。


 次はこちらから攻める。


 ──電光石火。


 こちらはあえてフェイント無しの、最速の踏み込み斬り。

 しかし元々警戒されていたのか、間合いに捉えたと思った瞬間に遠くへ逃げられてしまった。


 けれど、そんなに遠く離れてしまって良かったのかな?


『ジ・ウィンド』


 今度は刀身に風を纏わせる。これの目的の大半は、攻撃範囲の拡大にある。


 風を纏った大振りの横一閃。この一撃に刀身の風を全て込める。

 ──そこに重撃を乗せた。


 魔法剣士の攻撃が強力なのは、一撃に対してSTRとINTの両方を乗せることができるからだ。ただしそれには条件があり、物理攻撃となる行動をトリガーとして、そこに魔法を絡ませる必要がある。

 この場合は薙ぎ払いがトリガー、絡ませる魔法が風という訳だ。


 重撃を乗せた暴風は扇状に広がり、生えた草ごと地面を深く抉り取っていく。攻撃範囲は時間を追うごとに拡大し、取り返しが(・・・・・)付かなくなっていく(・・・・・・・・・)


 土砂を巻き込みながら拡大していく風の壁があるため、クズハさんを視認はできない。けれど俺にはマップ表示があり、位置を把握できる。


 クズハさんは対処に悩んだか、一瞬立ち止まってしまった。しかし、すぐさまこちらに向かって接近してくるようだ。


 俺は八咫烏の切っ先を前方に向け、刺突の構えを取った。


『ジ・ウィンド』


 刀身に風を纏わせる。轟音が鳴り響き、それはこれから放つ一撃の威力を物語る。

 マップ表示に従い、標的目掛けて──突く。俺自身が生み出した風の壁を突き抜けて、その先へ螺旋を描きながら進んでいく。


 風の螺旋がクズハさんに届く瞬間、縦に奔る青い煌めきが見えた。


 俺が咄嗟に右へ避けると、三日月状の青い刃が風の螺旋と風の壁の両方を切り裂いてこちらに飛んできた。はっきりと熱を感じたので、狐火を斬撃と共に飛ばしたのだろう。

 僅かでも回避が遅れていたなら、手痛い反撃を受けていた。


 それにしても、単一起動(シングルキャスト)二発分程度は一太刀で斬り伏せてしまうか。甘く見ていたつもりは無いものの、様子見をしている場合ではなさそうだ。

導師の弟子の狐娘。

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