第一二話 与えられた能力5
「いやいや、ステータス編集を可能にさせといてそれは無いんじゃないかな。俺がその気になればフランをどうとでもできる状況になってるってこと、フラン自身が言ってたのに」
もっとも、その後の俺がどうなるかはお察しだけど。少なくとも色持ち二人に敵対されることが確定してるんだから。
まあ死ぬ。まあ殺される。
「なるほど、つまり口封じが容易な私になら重要な情報も開示できるということですね」
「何その悪辣すぎるけど現実味のある解釈の仕方!?」
現実味について肯定してしまってる辺り、我ながら何とも言えないけど!
「ふふ、冗談ですよ、リク。本気でそう考える私なら、そもそもステータス編集の条件を自ら満たしてはいません」
悪戯に成功して微笑を浮かべるフランは大変絵になる可愛らしさだけど、できれば違うシチュエーションで拝みたかったね。
それでも目の保養にはなると思うけど。そう思わないとやってられないのも多分にある。
「何でかなー……。俺って昔からそうなんだけど、ある程度仲良くなれる人からは短時間で雑に扱われ始めんの。何なら会話すらしたことが無い別クラスの同級生から、なんかいきなり呼び捨てにされんの」
ぐでーっと上半身をテーブルに乗せ、やってらんねぇと態度で示す。
「分かります。リクは何となく許してくれそうな雰囲気がありますから」
「いや俺自身が分かんないから。許すなんて一言も言ってないから」
「言わないだけで、結局許すのでしょう?」
ここで聖母もかくやと言わんばかりの微笑を浮かべるのは、表情の使い方が達者過ぎやしないだろうか。
「もし許してこなかったのなら、愚痴を溢す形での話にはならなかったでしょうから」
んで、俺の頭を撫でてくるのは何故かねフランさんや。
弱音を吐く彼氏を慰める彼女、みたいな構図になってるんだけど。しかも彼女の方は割と楽しげに。
と、ここでドアをノックする音が聞こえてきた。
「おーい、二人とも居るかい? ちょっと確認したいことがあるんだけど」
ベテラン受付嬢、フロランタンさんの声だ。一体何の確認だろうか。
「はい、どうぞ」
思案する俺を他所に、フランが返事をしてしまった。俺の頭を撫でているままに。
あ、と思うより先にドアが開かれ、その向こうからフロランタンさんが姿を見せる。
「ビギナーの挙げた戦果にしては報告書が凄いことになってるから、ギルドマスターが本人達に確認を取りたいって……──、どういう状況だいこれは」
まるで意味が分からない、とフロランタンさんの顔に書いてある。
自分の後輩が狭い部屋で新人ギルド員の頭を撫でてたら、そりゃそういう反応にもなるだろうなぁ。
「さあ。何となく頭を撫でたい気分になったんじゃないですか?」
「否定はしませんが、リクこそ私の頭を撫でたではありませんか。他人事のように言わないでください」
俺とフランの言葉はより一層混乱を招いたらしく、俺とフランを交互に見るフロランタンさんの表情が非常に面白い。
このギルドの受付嬢は一様に表情豊かなのだろうか。そういうことにしておこう。
十数秒ほど表情の変化を眺めていたら、重大な決断でもしたように真剣な表情のフロランタンさんが俺の方へと近付いて来た。
一体何だろうか。
「フランはアンタに任せるよ」
俺の肩に手を置きながらすげぇ良い顔で言ってきたんだけど、どうしてくれよう。