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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第四章 有名税は払いたくないものです
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第一二七話 今度は二人で

戦闘が終了します。

 叩きつけるような豪雨の雨粒を全て、巨大な槍に置き換えたもの。上下の向きに違いはあるが、概ね正しい表現だろう。無慈悲なほどに激しい攻撃だ。


 真っ直ぐに構えたエディターの切っ先は風を纏い、向かってくる槍の大群を削り砕いていく。

 しかしそれも完全とはいかず、五本に一本程度は俺の身体を容赦無く裂いていく。彼我の実力差を考えれば、拍手ものの大健闘ではあるだろうが。


 秒を跨ぐごとに、俺の全身は無事な部分を探すのも困難な状態になっていく。それでもエディターを構え続け、この大規模攻撃の中を突っ切っていく。


 根性というよりは執念でその大規模攻撃を抜けた俺は、速やかに回復ポーションを飲む。

 ズタボロになった身体は痛みの大合唱をしていたが、ひとまず出血だけは止められた。


 次に俺を迎えるのは、千を超える青い炎──狐火だった。

 一つ一つの大きさは人の頭部ほどか。空中に無造作に浮かべられたそれらは全て、サギリ・アサミヤの周囲をゆっくりと時計回りに循環している。


 おもむろに、狐火の一つが俺に向かって飛んでくる。それを皮切りに、微妙にタイミングをずらして他の狐火も追従する。


 俺は当然、前進する。小刻みな縮地により回避を優先しつつ、時折来る避け難い狐火は刀身に風を集めて打ち払う。

 先ほどの無理が祟ったか、俺の攻撃は精彩を欠く。それでも標的との距離は縮んでいき、幾らかの火傷を負いつつも、間合いに捉えた。


 ──電光石火、重撃。


 迷い無く繰り出した、突きの一撃。


 果たしてそれは、標的の右肩を軽く傷付けるに留まった。


 避けられた訳ではない。単純に狙いが定まっていなかっただけだ。

 これほどの無茶は、この世界に来て初めて行った。だからこの結果は、残念ながら当然のものだったんだろう。


「合格点かな」


 そんな声が聞こえた直後、俺の胸部にサギリ・アサミヤの手が添えられた。


「ひとまず、お休み」


 肺の中の空気全てを強制的に吐き出させるような、そんな衝撃が俺の身体を突き抜けた。

 既に限界を迎えていた俺に、それを耐えるような余力は無く。至極当然の結果として、俺の意識は暗転する。











 目が覚めると、そこは木造の家の中だった。

 前日も泊まった部屋で、恐らくフランも部屋に居るのだろうと当たりを付けて──自身の身体に掛かる(・・・・・・・・・)重み(・・)に気付いた。左肩付近に重みと熱を感じ、視界的にもその辺りに青みがかった銀髪(・・・・・・・・)がある。


 油切れのブリキ人形のようなぎこちなさで首を起こすと、ああ、見間違いようが無い。フランセット・シャリエその人だ。


 自身の鼓動が喧しい。左脇腹の感触が生々しい。聞こえてくる寝息が妙に色っぽく感じる。


 どうしてこうなっている?

 昨日はあの仮面野郎(サギリ・アサミヤ)に戦いを挑んで負けたけれど、殺されていないのは納得がいく。殺すつもりなら、非常に腹立たしいが、戦いにすらならなかっただろう。

 問題はその後だ。満身創痍になる経験など、それこそ【鋼刃】ドミニクさんとの訓練でくらいしかない。それも結界内でのことで、その外に出れば負傷は無かったことになる。

 仮面野郎がそれと同様の措置を施していても不思議は無いが、もしそうではなかったとしたら。つまり負傷は負傷のまま、だったとしたら。

 そう考えれば、フランが心配してこの状態に至る可能性は十分に有り得る。


 まあ仮にそうだとして、今の俺がどう行動すべきなのかはさっぱり分からない訳だけれど。

 ただ一応、身体の調子におかしなところは無さそうだ。まともに動かしていない段階での判断にはなってしまうが。






 数分後、フランがゆっくりと動いて上体を起こした。


 数秒間ぼんやりと虚空を見ていたが、はっとした様子で俺の方に視線を落とす。


「おはよう」


 とりあえず挨拶をしておく。


「おはようございます──ではなく!」


 反射的に挨拶を返してくれたフランだったけれど、直後に叫ばれてしまった。表情も相応に険しい。


「一体何を考えていたのですか、リクは!」


 はて、これはどの程度まで話を知られているのか。


 とりあえず俺も上体を起こす。


「あっ、起きて大丈夫なのですかっ? 傷は治したつもりですが、どこか痛むところがあったりなどはしませんかっ?」


 険しかった表情が一瞬で、こちらを心配するそれに変わった。


 俺は苦笑するしか無かった。


「大丈夫だよ。それより、フランが俺を治してくれたのか。ありがとう」


「……いえ、問題無いのであれば、それで」


 あからさまにほっとした表情を浮かべるフラン。けれどすぐに表情が沈む。

 先程から表情の変化が激しい。


「話は、サギリさんから聞きました。エミュレーター関連のこと、リクの力量を確かめる目的があったこと、それと……私を害する発言をしたサギリさんに、リクが激怒したことも」


 全部聞いたのか。いやむしろ、全部話したのか。


「挑発の目的で放たれた言葉でしかなかったことは、リクにも分かったはずです。実際、そのような発言もリクの口から出ていたと聞いています。それなのにどうして、あんなに傷だらけになるまで……」


 どうして、と問われてもな。


「俺が殺されないのは分かっていたし、万が一(・・・)があっても困るから、かな」


 俺への挑発の目的で、フランを害する発言をした。それは確かに分かっていた。それでも、俺の力を見るという目的が達成されなければ、果たしてどう行動してくるか分からなかった。

 ということをフランに話すと、とても複雑そうな表情を向けられる。


「私を心配してくれたことは、嬉しく思います。ですがもう、こんな無茶は止めてください」


 釘を刺されてしまった。


「俺もやりたくないから、大丈夫だよ。……多分」


「確約してください」


 半分は(・・・)おどけてみせる目的で付け足した一言は、酷くお気に召さなかった様子だ。フランは真剣な目で俺を真っ直ぐ見てくる。


「いや、もうこんなことは起こらないって。今回は逃げられない状況に追い込まれたから戦ったけど、普通は俺を逃さない状況なんて作れないだろうし」


 これは本心だ。空間そのものを操作するような、神様じみた芸当を披露する敵なんて、そうは居ない。


「それはそうかも知れませんが、普通起こらないことが今回起こったのですよ?」


「今回は例外だって」


万が一(・・・)を警戒してボロボロになったのが、リクではありませんか」


 それを言われると、困るな。


「あー……」


 何も言葉が出てこない。

 もし仮に、今回のような状況がまた起こったとすれば。正直に言ってしまえば、俺は同じように行動するだろう。

 しかもその場しのぎでフランに嘘を吐いたとしても、即座にバレるという確信がある。


「全身血だらけのリクを見たとき、私は頭の中が真っ白になりました。何故昨晩、私はリクに同行しなかったのかと後悔しました。リク自身が殺されない確信を持っていたのだとしても、それでも、貴方のあんな姿を見たくはありません。もう、二度と」


 今にも泣きそうな表情で、ここまで言われてしまった。


 とはいえ、だ。そうまで言ってくれるフランを、もしまた害する可能性がある存在が現れたなら。

 ……無理だな、うん。俺が大人しくしていられる訳が無い。


「分かった。じゃあ、もし次の機会が訪れたら、その時は俺が勝つよ」


 だったら勝てば良い。無傷で、というのは無謀が過ぎるけれど、少々の怪我ならきっとフランも許してくれるだろう。


「不幸中の幸いとでも言おうか、昨晩で一気に強くなれたし。それこそ、六つ星クラスの実力には十分足を踏み入れたんじゃないかな」


 まずは結合起動(マルチキャスト)。あとは電光石火と重撃、そして攻撃自体はほぼ空振りに終わったとはいえ、その二つの組み合わせまで。

 その辺りの話を整理し、フランに対してプレゼンしてみる。むしろそれで負けるなら、多分逃げることもできないだろうし。


 フランからの反応はといえば、果たしてこれはどうなのだろうか。真顔である。

 少なくとも泣きそうだった表情からは脱したので、悪くはないと思いたい。


「だから、うん。次は勝つよ」


 最初に言った結論を最後にも言って、俺のプレゼンは終了。評定はフランに全てお任せする。


 フランは俺から視線を外し、しばし考え込む。

 その表情は真剣そのもので、俺の言葉を妄言として一蹴することは無いように思う。


「分かりました」


 それほど待たずして、フランが返答する。


「私も、今よりもっと力を付けます。ですから、今度は二人で(・・・)勝ちましょう」


 ……そう来たかー。


 フランの青い双眸は、真っ直ぐ俺に向けられて。そこには曖昧に笑う俺の姿が映っていた。

ヒロインの圧倒的ヒロイン力に敗北する主人公の図。

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