第一二五話 本気の引き出し方
戦闘が続きますね。
戦闘描写は苦手です……。
八百弱の鎧武者が、ダメージ無視で神風特攻を仕掛けてくる。
俺はそれを、後方に下がりながら風魔法を纏ったエディターで迎撃していく。
しかしながら、少数を俺に接近させるため多数を壁に使うという戦法を圧倒的物量によって取られ、ジ・ウィンドの二重結合起動を使用していても若干の火力不足が起きている。いや、これは手数不足だろうか。
頭おかしいんじゃねぇの?
鎧武者の自爆による爆風が頬を撫でてくる。それを何度も味わいながら、それでも軽傷で済ませている現状。
だがそれは、四神シリーズと黄龍が参戦していないからであって、余裕は全く無い。回避や呼吸を整えるために空を飛ぶ、という手段を封じられて持久戦をさせられるのは、初めての経験だ。以前より自覚していた持久力の低さはある程度改善しているけれども、俺にとって弱点であることに変わりは無い。
鬼畜過ぎじゃねぇの?
はいはいそして待機していた五体が動き出しましたよーっと!
鎧武者の残りが四百程になったところで、まずは紅い鳥──朱雀が火炎放射をお見舞いしてきた。大きく開いた嘴から勢い良く放たれたそれは、煌々と燃え盛りながら俺を焼却せんと迫り来る。
俺はエディターに纏わせた風を前方に向けて開放し、防御と同時に移動のための推進力にも利用する。生暖かい程度の熱が俺に届いたのみで、ほぼ完全に対処ができたといえるだろう。
ところで俺の近くまで接近していた鎧武者が巻き込まれて爆散したが、特に問題では無いようだ。
次にやってきたのは白い虎──白虎だった。風で加速した俺にそれでも追い付き、白銀に輝く凶悪な爪を振り上げ襲い来る。
先ほど風を使い果たしたエディターで受けるが、少々パワー不足だ。故に。
『ジ・ウィンド』
単一起動の風魔法を発動し、刀身に纏わせる。威力を増したその刃で押し切り、白虎をかち上げた。
今度は青い龍──青龍が、卵状のバリアを張った状態で突撃してくる。どこぞの金属生命体のライガーさんかな?
カウンターの刺突で一体くらい削っておこうと思った俺だけれど、俺と青龍の間に入ってきたのは黒い亀──玄武。青龍と同じくバリアを張っていて、仕方が無いので狙いをそちらに変更。
恐らく防がれるだろうなと思いつつ放った風の螺旋は、轟音を立てつつ玄武のバリアに衝突。ガリガリと何かを削るような音が風の音に紛れて聞こえてくるも、バリアが破れる様子は無い。
そうこうしている内に、青龍の方が玄武と俺の風を迂回してこちらに接近してくる。
『ジ・ウィンド』
並列起動の三枠目を使用し、青龍の斜め上から風を叩きつける。
地に落とされた青龍は、地面を派手に削りながら徐々に減速。俺の横を数メートル通過して停止した。
なお、玄武のバリアは未だに破れず。頑丈にも程がある。
真打は遅れてやって来る、とばかりに巨大な黄金の龍──黄龍が口を開き、その口腔から白い輝きを漏らした。
輝度が極めて高く、とても直視していられない。そして何より静観していられない。
アレは、拙い。
低い高度を維持して飛びつつ鎧武者軍団の残党を素早く迂回し、黄龍への接近を試みる。
立ちはだかるのはまず白虎。四神シリーズで最も速度に優れているようで、これ欲しい。いや違う。違わないけど今はそうじゃない。
先ほどは爪での攻撃だったが、今度は俺の喉元目掛けて凶悪な牙を晒してくる。
殺意が高過ぎではなかろうか。
アイテムボックスから片手剣を取り出し、白虎に噛ませる。一秒で噛み砕かれた。
『モノ・ウィンド』
けれどその一秒を稼げれば十分。身に纏う風とは別に、単発加速のための風魔法を発動できた。
俺が通った直後の空間を、朱雀の放った炎が舐める。
間一髪、と。
ところが黄龍の準備が完了してしまったらしく、光を漏らす口を俺に向けて照準完了。
アイテムボックスからタワーシールドを取り出し、間髪いれずに縮地。全力で右へ回避。
焼き付く痛みが俺の左手を襲い、光に飲まれていくタワーシールドを確認した。
大地が爆ぜ、抉れ。熱気が辺りに充満する。
非常識なまでの熱量により膨張した空気が熱風を生み、俺を含めたあらゆるものを吹き飛ばす。
吹き飛ばされる最中に纏う風の制御が一度乱れたが、すぐさま取り戻して体勢を整える。急いで周囲の状況を確認しよう。
赤く熔けた地面が太い線を描いていて、何処までも先へと続いていた。
鎧武者軍団は未だ健在。十数体が光線の余波を受けてダメージを負っているようだが、行動不能ではなさそうだ。
四神シリーズは全機健在。先の光線によるダメージは無い模様。
そして光線を放った黄龍は、当然ながら健在。それどころか第二射の用意をしている。ふざけろテメェ。
アイテムボックスから回復ポーションを取り出し、一気に煽る。左手の痛みが和らいだ。
一度、纏った風を破棄する。こちらが遠回りをしていたとはいえ、白虎に追い付かれる程度の速度では色々と間に合わないからだ。
『ジ・ウィンド──二重結合起動』
今度の結合起動は、刀身ではなく自身に使用する。
四肢を締め付けるような感覚があった。強すぎるらしい。
だったら緩めれば良い。風を操ることに関しては、俺は間違いなくエキスパートだ。ましてやこれは自分自身の風。この場で今すぐ乗りこなしてみせる。
『ジ・ウィンド』
今度こそ刀身に風を纏わせる。準備は完了。
黄龍が再び俺に狙いを定めている。白い輝きは既に臨界で。
破壊という概念をそのまま出力したような、絶望的な威力の光線。そんなものを大した溜めも無く連射できるというのは、絶望の上塗りだ。
俺に当たるなら、な。
風属性中級攻撃魔法の二重結合起動に加えて、AGI極振り、そして縮地。現在の俺に可能なほぼ最大の速度で以って光線を回避し、そのまま黄龍に接近。
未だに光線を放っている頭部の後ろに回りこみ、STR極振りの一撃で首を落とす──というところで、標的が消えた。一番嫌なタイミングで引っ込まれた。
何が起きたか理解し内心で舌打ちする俺に、やはりというか白虎が真っ先に肉薄し爪を振るってくる。
迎撃のためにエディターを振るう。
そしてこの一撃に、纏わせた風の威力全てを込める。
カウンターマクロを使用しての迎撃。
エディターの刃に触れた白虎の右前肢が消し飛び、胴体にも罅を走らせながら、丸ごと吹き飛ぶ。
黄龍と同じように白虎の姿が消えたが、これは単に戦闘継続が厳しくなった機体を引いただけだろう。
と思ったら、四神シリーズ全機が姿を消した。ついでに鎧武者軍団も。
これで終わり、ということだろうか。もしくはそう油断させて、だろうか。
サギリさんの方を見れば、武器を持つ訳でもなくただ立っている。
「これで終わりですか?」
一応、確認してみる。終わりだと言われれば喜んで受け入れるが、果たして。
「ふむ……。いや、君の本気は全く引き出せていないな、と思ってね」
とても平坦な、何処か独り言のようにも思える声だった。
「これでも、かなり力を見せたつもりですが……」
困惑気味の内心をそのままに、俺は言葉を返した。
しかしサギリさんはそのまま黙り込んでしまい、何かを考えているようだ。
そのままたっぷり二十秒程が経過しただろうか。
沈黙は、唐突に破られる。
「よし、ではフランセットさんには悪いが──彼女の顔に傷でも付けてみようか。例えば火傷跡というものは、それはそれは醜いものだ」
あ?
次回、主人公キレる。