第一一話 与えられた能力4
所変わって、冒険者ギルドの関係者以外立ち入り禁止区域の中へと着いた。
最近頻繁に出入りをし始めた俺を見て、ギルド職員の人達の反応が早くも変わってきている。具体的には、ナチュラルに挨拶されるようになってきた。
フランが同伴しているとはいえ、本来俺の身分では入れない場所への立ち入りに、少しばかり寛容過ぎやしないだろうか。
そんな俺の心配を余所に、フランは至って普段通り……よりはやや上機嫌に、俺と向かい合ってソファーに座り話を再開させる。
「まずは貴重な体験をさせて頂いたこと、そして重要な事実を伝えてくださったことについて、重ねてお礼申し上げます」
「いやそんな改まってお礼を言わなくても。……あと、体験についての方を事実の公開より先に出した辺り、フランにとって──」
「……順番に、深い意味はありません」
視線を逸らしながら俺の言葉を遮るフランは、非常に優秀なピエロだった。
だって俺が何を言おうとしたのか、理解できたってことだし。
「意外と動揺してるのかな。今さっきの俺みたいな手合いには慣れてない?」
「……自分のコミュニケーション能力には、疑問を抱いています」
冒険者ギルドで受付をやってるからには、色んな人種とそれなりにやりとりをしてきたと思ったんだけど。
「それに、恐らくですが、リクは私が普段接している冒険者の方々とは毛色が違います。そうですね……、稀に接することのある、貴族の方々に近いでしょうか」
え、何それ。貴族の性格悪くない?
いやほら、自分の性格が悪いのは知ってるからさ。
「リクは元の世界で、上流階級の生まれだったのですか?」
「まさか。極々平凡な家庭に生まれた一般市民だよ。国が義務教育を徹底してたから、無知では無いだけで」
「つまり、リクのような方が、他にも大勢……? それは──いえ、何でもありません」
いっそ最後まで言ってくれよ、と。
「まあ良いや。追及はしないよ」
俺が引っ掛かりを覚えたことだけフランに知っていて貰えればそれで。
「ただ、俺みたいなのが大勢居た訳じゃないかな。俺だってそれは嫌だ」
同属嫌悪じゃないけど、なんとなく面倒そうなイメージはある。
なんだかんだで世の中は回っていきそうな気もするけど。
フランは苦虫を噛み潰す一歩手前みたいな表情で固まっている。
その苦虫、吐き出していいと思うよ。
「言いたいことがあるなら言っても良いけど」
「いえ、何もありません」
取り繕うように無表情になったフランだけど、タイミング的に下手としか言えない。
というか意外と表情豊かだな。これでコミュニケーション能力に疑問があるとか、周囲はどんな状況だよ。
「じゃあ、良い具合に場が暖まったところで本題に入ろうか」
仕切り直しのために茶を濁しつつ、俺は言葉を続ける。
「派生した調査クエストの期限は一週間。その間に目ぼしい成果が得られなければ、別のギルド員にお鉢が回ると」
「ええ、ですからできる限り私達で解決させたいところです。……何故、エルケンバルトさんと合流する前にこの話を?」
フランの中では既に白のラインハルトを戦力として数えているらしく、となればやはり、俺達二人しか居ない状況で作戦会議を始めそうな雰囲気を出している俺には疑問を感じたようだ。
俺は静かに、エディターを取り出して見せる。
「アナライズモードは、ステータスのアドレス参照だけが能じゃないんだよね。あらゆるデータの取得ができるって言えば、少しは伝わるかな」
刀身に走る溝を青く光らせるエディター。その切っ先を、足元の床に触れさせる。
すると俺の頭の中では、この建物の見取り図が完成した。
「街の外にある古井戸まで、地下には脱出経路があるのか」
そしてあっさりと、それと分からぬよう丁寧に隠蔽されている非常脱出経路を暴いて見せた。
「意志を持つものに対してだったらここまで簡単にはいかないけど、そうでなければこの通り。砦攻略戦や潜入作戦なんかがあった日には、俺の能力は単純な火力よりよっぽど性質の悪い力を発揮するだろうね」
先程から驚きで目を丸くしているフランに、淡々と俺の危険性を説明していく。
「もう少し健全な使い方をするとなると、索敵ができる。詳細なステータスまでは分からないけど、種族とレベルくらいなら直接触れなくても調べられる。索敵の有効範囲は──アナライズモードでサーチしたことのある全ての領域。ここアインバーグとその周辺は既に、そして常に、俺の索敵範囲内って訳だよ」
健全と言いつつ、それは一般的な健全とは一線を画すものだろうというのは俺も理解している。
あくまで比較的という話だ。
「という訳で、コマンドブルが逃げ出してきたと思われる元の住処さえ分かれば、調査は現地到着と同時に終わってもおかしくない。けどそんな出鱈目な能力、流石に一度挨拶を交わした程度の相手に開示するほどの勇気は無い訳で。どの程度の能力までなら使えるかフランに相談しようと思ったんだよ」
「一度クエストに同行しただけの私には、開示して良い情報だったのでしょうか……?」
困惑顔のフランは、やっぱり表情豊かだと思った。
そういうことにしておこう。