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俺が神様から貰った魔法の剣はチートツールでした  作者: 御影しい
第四章 有名税は払いたくないものです
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第一〇四話 アサミヤのお屋敷

ゲイルは長距離飛行なのでご機嫌です。

 グリフォン( ゲイル )の力強い羽ばたきが俺の風魔法を受けて、その身体を加速させる。景色は瞬く間に後方へ流れ去り、地上から離れた空中にあってなお、眼下の景色は激流と見紛うばかりの様相となっていた。


 そう、俺は今、ゲイルに乗って空の旅をしていた。行き先は当然、武術都市オルデンである。

 ……オルデンなんだよなぁ。


「今更溜息など吐いたところで、行き先は変えられませんよ」


 鞍に跨り手綱を握る俺のすぐ後ろから、淡々と事実を語る声が聞こえてきた。誰あろう、今回も同行を決めたフランセット・シャリエその人の言葉だった。

 現在の彼女は俺の腰に手を回し、背中に密着している。俺は最初、少しばかり近過ぎやしないかと問い掛けてみたものの、「近いですよ?」と当たり前のように返された。それの何が問題なのかと、逆にこちらへ問い掛けてくるような言葉だった。俺は諦めた。


「行き先を変えられないとしても、気乗りしないという事実もまた変わらないからね。ゲイルの方は随分とご機嫌らしいけど」


 最高に機嫌が良いときに聞ける甲高い鳴き声を、ゲイルはこれでもかと響かせている。


「リクの風が心地良いのでしょう。何より羽ばたき一つでこの加速です。私達人間で例えるなら、ただの一歩で、二歩分も三歩分も進んでいるような感覚があるのではないでしょうか」


「そりゃあもう、訓練を積んだから。それなりの仕上がりにはしてあるし。短期集中で一気に訓練したってのに不満がある素振りすら見せなかったゲイルには、一種の感心すらしていたんだ。……飛行を心底楽しんでいただけだと後から発覚したときは、中々の驚きがあったよ。グリフォンの中でも飛び切りの飛行馬鹿がゲイルだと思う」


 俺は今、二つの魔法を起動している。どちらも風属性中級攻撃魔法のジ・ウィンドだが、一つは前述の通りゲイルの身体に纏わせ飛行の補助を、もう一つは進行方向に展開された風の障壁として。

 後者は騎乗している俺とフランが風で飛ばされないように、ついでに空気抵抗の軽減を目的としているものだ。空気抵抗というものは速度の上昇に伴って大きくなっていくので、こちらも消極的ながら無視できない程度に加速への貢献をしている。


「ああ、ゲイル。引き離し過ぎ(・・・・・・)だ。少し戻ろう」


 風魔法の制御をしつつマップを確認していた俺は、後方にあるマーカーとの距離が大きくなっていることに気付き、そう言った。

 勿論、クズハ・アサミヤさんのマーカーだ。






「全く速過ぎるのであります……。この青龍(・・)も相当に速い部類の移動手段であるはずなのですが、それでも追い付けないのであります……」


 少し戻った先に居たクズハさんは、頭の上にある三角形の耳をぺたんと(しお)れさせ、意気消沈した様子。

 そんな彼女は、実にユニークな乗り物に乗っていた。


 彼女の口から語られた青龍(・・)の名の通り、それは青い龍の形をしている。シルエットとしては、西洋の四肢がしっかりしたドラゴンと、東洋の細長い龍の中間といったところ。

 ただし、明らかに生物ではない見た目をしている。具体的には、機械の見た目をしている。


 サイズはこちらの騎獣であるゲイルとほぼ同等で、胴を細く、体長を長くした感じか。

 頭部はフルフェイスのヘルメットのようであり、目に相当する部分には黄色い光が二つ、まさに目のように存在している。胴体部分はバイクのサドル部分を髣髴とさせる形で、乗り心地が良さそうだ。左右に翼が展開されているが、見た目の印象を語るなら側面装甲といったところ。四肢はしっかりとした造りで、鋼鉄を易々と引き裂きそうに鋭利な爪を持つ。長い尾はその先端に、両刃の剣を備えていた。


「ゲイル単体なら、同程度の速度なんだけど。それよりも、こちらのゲイルが我侭を言って申し訳無い。俺の風に乗って飛びたいと、どうしてもそこを譲らなくて」


 ひとまず俺はフォローの言葉を出しておいた。今は風魔法も消し、あちらと並んで飛んでいる。

 風を消されたゲイルがこちらに未練がましい視線を送ってくるけれど、黙殺する。


 俺のクズハさんへの言葉遣いが変わっているのは、あちらの希望に沿った形だ。できれば、さん付けも止めて欲しいと言われたけれども。そこはそのままにしている。

 あと、俺への呼び名も変わっていたりする。スギサキ殿から、リク殿へと。殿付けはそのままだ。


「いえいえ、何を仰いますかリク殿! 騎獣との信頼関係は大切にすべきであります! むしろそのように気遣ってくださり、感謝しているのであります!」


 本当に真っ直ぐで、素直な人だな……。エディターの判定も平常表示で、演技でないことは判明しているし。


 これは、城塞都市アインバーグを出発する際の話だけれど。

 クズハさんが懐から自信満々に黒い板状の何かを取り出し、宙に放るとそれが発光。光が収まると、そこにはこの青龍が存在していた。

 アイテムボックスの仕組みを解析して作成された魔法具だそうで、彼女の師匠であるサギリ・アサミヤさんの手によるものなのだとか。

 青龍はその見た目通り──青龍単体ですら──戦闘も行えるとのことで、一体どうやって作った魔法具なのか興味が尽きない。


 閑話休題。


「そもそも備えた機能から言えば、青龍はもっと速度を出せるのであります……。師匠からの借り物とはいえ、自分の鍛錬不足でありますよ」


 真面目な顔で語るクズハさんだけれど、乗り手によってそんなにも速度が変わるのだろうか。そんな疑問をぶつけてみれば、意外な答えが返ってくる。


「この青龍は、使用者のステータスと習熟度合いによって性能を向上させる代物でありまして」


 ……ステータスシステムを利用した魔法具、ということか。

 それはシステムに対する直接の干渉なのか、あるいは理解度の深さによる運用法の一種なのか。後者ならまだしも問題無いけれど、もし前者であるなら──作成者であるサギリさんに対し、更に警戒を強める必要がある。

 やるべきことが増えてしまった。もっとも、増えたそれを今回で片付けられるかは分からないけれど。


「アサミヤ家には、そのような魔法具を作成できる秘術があるのですか」


 俺のすぐ後ろから、感嘆の声が聞こえてきた。

 その際、俺の腰に回したフランの腕に力が入ったため、俺の背中に当たるモノ(・・)がより強く押し付けられる。──無心になれ、俺。


「ああいえ、その表現も完全に誤りという訳ではありませんが、より正確にいうならばサギリ・アサミヤ個人の研究成果であります」


 俺個人も上級冒険者として名が売れるようになったので、それなりに情報は入ってくるようになった。けれどクズハさんが言う青龍のような性能を持つ魔法具というのは、ちょっと聞かない。

 更に博識なフランも驚くということは、普通に考えれば個人の研究程度で得られる成果とは思えないのだけれど。


「特段に秘匿している技術でもないのですが、いかんせん、難解に過ぎまして。アサミヤ家でも魔法具作成に秀でた者が、辛うじて起動する機能限定版を模造できた程度なのでありますよ。そのような状態では、アサミヤ家の技術とは言い難いのであります」


 けれどクズハさんはあっさりとそう言って、あくまでサギリさん個人の研究成果であると強調した。


 ……魔法具作成において秀でているから、導師なんだろうか。






 オルデンへの移動は二日で終わった。俺とフランが乗っていたゲイルは勿論、クズハさんが乗っていた青龍も相当な速度が出せたため、随分と到着が早かった。


 移動二日目の朝、盗賊に襲われている商人の馬車と遭遇するトラブルはあったけれど。

 正義感に溢れているらしいクズハさんが先行して、フランもやる気だったので俺も戦闘に参加した。一瞬で終わったので、その戦闘に特筆すべき点は無い。むしろただの蹂躙だった。

 護衛に付いていた冒険者が俺達全員の顔を知っていたらしく、随分と興奮気味に感謝されたのは印象に残っている。

 商人が謝礼の金品を渡してきそうだったけれど、クズハさんが感嘆符多めの言葉で断っていた。曰く、正式な護衛依頼を受けた訳でも無く勝手に横槍を入れただけだと。俺とフランもそれに同意して、最終的に申し訳程度の謝礼を受け取った。

 いや、何も受け取らないのはそれはそれで、相手が気の毒だから。こういうのは、お返しをしたという事実が重要だと思う。


 さて。武術都市オルデンの様子はと言えば、元の世界の和のテイストと中国のテイストを混ぜて異世界アレンジしたような感じだ。

 瓦葺きの家屋が整然と軒を連ね、道幅は十分に広く、道行く人は実に健康的に鍛えられた肉体を持っている。うん、少しばかり暑苦しいビジュアルだ。これが武術都市か。

 エディターで確認した規模は、城塞都市アインバーグより若干小さい程度。つまり立派に大都市の部類であり、その大都市の土地の一割近くを保有していると発覚したアサミヤ家の力がどの程度なのか、考えたくない。


 アサミヤ家の人間って、使用人とかを含めてもどうやら二百人程度みたいなんだけどなぁ!? 人口十九万人の大都市の、千分の一くらいしか居ないんだけどなぁ!?


 内心で荒れに荒れつつ、普段通りの表情を維持する。頑張る。


「大丈夫ですか、リク?」


 即座にバレてるー。

 いや、結構上手い具合にポーカーフェイスを維持できているつもりだったんだけど。甘かったか。


 隣を歩くフランから、顔を覗き込まれている。

 なお、ゲイルは首輪に繋いだリードを引いて、俺達の後ろを歩かせていた。


「む、どうかしたのでありますか?」


 先行してアサミヤ家への案内をしてくれているクズハさんが、こちらに振り返って様子を窺ってくる。


「いや、何でもないよ。それより、今は真っ直ぐアサミヤのお屋敷に向かっているのかな?」


 知っていることをわざわざ訊くのは心苦しいけれど、咄嗟の誤魔化しとして出たのはそんな言葉だった。


「はい、そうであります。まずは師匠に会って貰うのでありますよ」


 クズハさんは特に疑問に思うことも無かったようで、再び前を向いて進んでいく。


≪何でバレた? 表情に出てた?≫


 久しぶりの筆談。どうやら頭の上にある二つの狐耳は、伊達ではないらしいし。


≪いえ。ですが何となく≫


 マジかよ、すげぇなフラン。


≪アサミヤ家の規模に驚いてただけだよ≫


 ともあれ返答をしておいた。実のところ、その後に受けた衝撃の方が驚きの度合いは大きかったけれど。






 桧皮葺(ひわだぶ)きの屋根が見える。いや、ここが異世界(エクサフィス)である以上、(ひのき)の皮と言えるのか不明だけれど。

 桧皮葺きとは、文字通り桧の皮を葺いたものだ。元の世界での有名どころとしては、東寺(とうじ)の五重塔、清水寺の本堂などが挙げられる。つまり今俺の目の前にある建造物もそれら寺院の雰囲気と似通っており、ご丁寧にも広大な敷地をお堀で囲っていたりする。

 金剛力士像に見えて仕方がない二体の仏像らしき代物がこちらを見下ろし、大きな門の前に立っていて。門の奥には、雅な和の庭園が広がっているようだ。


 お堀に渡された跳ね橋を渡り、前述の門をくぐって。俺とフラン、クズハさんの三人は、アサミヤの敷地に足を踏み入れた。


 白い砂利の敷かれた庭に、丁度人の歩幅に合わせた間隔で平たく切られた石が配置され、道を示している。壁際には曲がりくねった松のような木や苔むした岩が配置され、何処からか水の音も聞こえてくるので池もあるのだろう。

 適当な位置に椅子でも置いて腰掛けて、渋い緑茶を啜りたい気分になってくる。


「アサミヤの屋敷へようこそ。我らはお二人を、歓迎するのであります!」


 気付けば立ち止まって周囲を見渡していた俺とフランに、クズハさんは振り返って笑みを向けた。


 その後、やはりクズハさんの先導に従い、和装の幾人かと擦れ違い注目されながら奥へ進んでいく。黒、という単語が話し声から聞こえてきたので、どうやら俺の髪や目の色に注目していたらしい。二つ名である【黒疾風】の方ではないだろう。ないよな?

 ともあれ歩いた先には、五重塔があった。


 嘘だろ……本当に五重だと……。アサミヤ家の人達の、日本に対する熱意が凄い。正直なところ、現代日本よりずっと()という感じがする。


 流石にゲイルは外で待たせることにして、それ以外は件の五重塔へ入る。


 一歩足を踏み入れただけで、別世界に来たような感覚があった。まるで、日の光が届かない深海のような。そんな静寂があった。

 実のところ日の光は窓から取り入れられており、やや薄暗くはあるものの、十分に視界は確保されているのだけれど。何故そんな感覚を覚えたのだろうかと、不思議に思う。


 内装としては御堂というのが比較的適切であると思われるものの、肝心の仏像は存在しない。そこ(・・)に仏像があったなら御堂と言い切って良かっただろう場所には、仄かに輝く虹色の同心円が六つ、無秩序に回転しながら浮遊していた。

 元の世界でビジュアル的に近いものを強いて挙げるなら、無重力を疑似体験できる回転装置だろうか。今俺が見ているものに、人が乗る場所など備わってはいないけれど。


 そんな謎のオブジェクトの手前には、座禅を組んだ人物の背中が見える。薄墨色の着流しと、墨を流したような黒髪には見覚えがあった。

 そもそもクズハさんから言われていた上に、エディターのマップ表示もある。サギリ・アサミヤさんだ。


 彼はゆっくりと立ち上がってこちらに振り返り、猫のような白い面の奥にある黒い目でこちらを見てくる。


「ようこそおいでくださった、お客人。アサミヤ家を代表して、このサギリ・アサミヤが歓迎しよう」


 非常に落ち着いた声色だ。

 しかし歓迎すると言うのなら、その怪しさ満載のお面は取って欲しい。

お面被って怪しさ爆発させてるキャラなんて、実は初めて書きます。

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