第九話 与えられた能力2
ギルドの頂点の一つ、色持ち。七つ星冒険者には漏れなく一つの色が割り当てられ、それを指してそう呼称される。
この説明だけでも十分に伝わることだろう。たかが探索クエストごときに呼んで良い人材じゃない。冒険者の頂点の一角、最強の七人の内の一人だ。
「チュートリアルの雑魚敵相手に聖剣エクスカリバーを装備していこうとするくらいの暴挙……」
「今代のエクスカリバー所有者は六つ星の冒険者ですが」
「存在するのかよ! そんでもって七つ星の冒険者はそれ以上の実力者か!」
いや確かに、RPGに出てくるエクスカリバーもゲーム固有の最強武器には劣ることが多かったけれども!
「本格的にゲームやってるような気分になってきた……。いやいや、落ち着け俺。セーブもロードもできないんだから」
正体不明の理不尽さに追い詰められようとしていたけれど、何とか持ち直す。
「ともかく、幾ら何でも色持ちの人に頼む程の案件じゃないと思う。まずは調査を始めて、万が一俺達の手に負えない程の事実が隠れていたなら、それが発覚した段階でようやく協力を仰ぐべきだよ。その場合でももう少し控えめの実力者で良いと俺は思うけど」
そもそも雇う金は何処から捻出するのかと。ギルド側からしても無意味な出費は許容できないはずだ。もし許容するなんて言うなら、そのうち経営が破綻する。いや、経営陣の頭が既に破綻してるに違いない。
「……もしやリクは、エルケンバルトさんに依頼することそのものが非現実的だと、そう考えているのではありませんか?」
基本的に天然なのに、こういうところ鋭いなこの子。伊達に冒険者ギルドで受付やってないってことか。
「まあ率直に言えばそうなる。で、そういう切り返し方をするってことは、フランには何か裏技でもあるのかな?」
これでそんなものは無いって言われたら、俺は一周してフランを尊敬するね。自覚ある致命傷を放置するなんて上級者にも程がある。
とはいえ流石にそれは無いだろうけど。彼女は天然ではあっても、愚者ではないはずだ。
「はい。近い内、彼は私の義理の兄になるので」
そっかー、縁戚関係を結ぶくらいの人なら、結構な無茶でも通せそうだなー。
……いきなり衝撃の事実ぶっこんできたよこの子!
「クエストへの同行を依頼する程度なら、エルケンバルトさんの人となりを考えても簡単に承諾して頂けるかと」
フランがそう言うのなら、実際そうなんだろう。けどそれにしたってなぁ……。
「何より、色持ちの後ろ盾が得られるなら、多少の非常識には目を瞑っても良いのではないでしょうか」
後ろ盾、ねぇ。色持ちとの接点があるって周囲に認知されるだけでも、色んな意味で抑止力にはなるか? 逆に、妙な勘繰りをしてくる連中も一定数居そうだけど。
「難易度の高い損得勘定だなー……。けどまあ良いや。ここはフランを信じて任せるよ。場合によっては冒険者の頂点の実力……の一端くらいは見られるかも知れないし」
力を付けるにあたって、上を知っておくのは良いことだ。いきなり頂点を、なんて馬鹿げた話ではあるけど。
「ところで、エルさんが義理の兄になるってことはつまり、フランのお姉さんがエルさんと結婚するのかな」
兄弟姉妹の話なんてしてないからな。初耳だ。まだ出会って間も無いから当たり前だけど。
その割にディープな話をしてる自覚はあるよ。
「はい。姉はマリアベルと言います。青のシャリエと言った方が通りは良いのですが」
「……あっ、うん。もう深く考えないことにした」
最強な人が更にもう一人出てきたー。
もう本当に、女神様が言った言葉の信憑性が増してくるね。俺が平穏に過ごせる可能性は限りなく低いんだろう。だから本気でレベリングしないと。
安全マージンは十二分になんて思ってたけど、十分に程度でやらないと間に合わないかも知れない。そりゃあ死んだら元も子もないけど、どう足掻いても実力が足りない状況に追い込まれるくらいなら、多少の危険も受け入れた方が結果的に生存確率が上がりそうな気がする。
「そしてフランに下手に隠し事をするのも止めておこうと、俺は今決めた」
決心してから一秒後、俺の手には漆黒の刀身に青い溝を走らせるエディターが納まっていた。
「青のアナライズモード。機能はアドレスサーチ。エディターで触れた対象のアドレスを読み取り、それに干渉する権限を獲得する。つまり俺は、自分だけでなく他人のステータスも編集できる訳だよ」
それなりに強く触れないと読み取れないけど、と付け足しておく。
俺の言葉を聞いたフランはと言うと、流石に衝撃を受けた様子だった。目を大きく開き、微動だにしない視線でエディターを捉え放さない。
「具体的には剣として敵に切りつける程度には強くないと無理だね。弱くても少し長めに触れていれば可能になるけど」
ここまで話した次の瞬間、今度はフランの方が俺に衝撃を与える行動を取った。
「では私のステータスも、こうしてエディターに触れていれば編集可能になるのですね。非常に興味があります」
ぺたぺたと、白く綺麗な手で漆黒の刀身に触れている。何やってんだよフラン。
「え、ちょっと……ああ、アドレス取得が完了した……」
今の俺にはフランのステータスが把握できている。編集だってできる。
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Name:フランセット・シャリエ
Lv.75
EXP:27750
HP:2001
MP:3349
STR:546
VIT:680
DEX:1346
AGI:553
INT:2032
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めっちゃ強い。あとレベル補正って凄いな。レベル一で補正〇%、レベル二で補正一%って具合に補正されるから、フランなら補正七四%か。非力なはずの魔法使いでもそれなりのSTRになる訳だ。
とりわけ目を引くのはMPとINT。マジやべぇ、何コレ。今の俺の何倍かな。
「是非とも体感してみたいので、街の外へ出ませんか?」
妙に乗り気なフランに急かされる。
え、何で。え、マジで何で。
俺が嘘を吐いてるなら、これは非常に強力な手だ。「実は俺こんな危険な能力を持ってるんだぜ」ってハッタリかました相手には、一撃必殺級のダメージがあるだろう。
けど俺は、ただ事実を言っただけ。後になって「こんなにも凶悪な能力を隠していたのですか」なんて言われない為に。
能ある鷹は爪を隠すなんて言うけれど、そんなのは場合によりけりだ。ある程度信頼を得てからそんな凶悪能力が発覚した日には、優等生が非行に走った時と同じ現象が起こる。誰の目にも明らかなほど危険だろう。
で、特に嘘だと思われてなかった場合のフランの行動が、全く意図を読み取れないんだけど。