The Body09settled(03)
The Body09settled(03)
宿に戻って暫くするとママが来た。
「愛、ゴメンね。ママ、彼に抱かれるわ、今夜」
「ウン。分かってる。愛ももう子供じゃないんだから、大丈夫よ。気にしないでも」
「ウン。ただね、最悪の状況もあるかもしれないわ。覚悟はしておいて欲しいの」
あたしは顔を強張らせながらも、頷いて言った。
「大丈夫よ。覚悟もしてる。何が起きてもキチンとして上げる」
ママは少しホッとしたようだ。
「ゴメンね、ムスメにこんな思いをさせるなんて酷いママよね」
「そんなことはないわ。ママ、あたしはママがダイスキよ。そしてそんなママが羨ましくもあり、でも誇らしい気持ちもあるのよ」
ママは、不思議そうな顔であたしを見たが、あたしは笑顔を見せた。
「ウン。分かった。じゃぁ、行って来るね」
「ウン。行ってらっしゃい!浴衣のママ、とてもステキよ」
ママは、立ち上がり浴衣の襟をしごくと部屋を出て行った。
あたしはそうは言ったものの、やるせない気持ちになり、ママの、あぁ……という深い吐息を潮に部屋を出て温泉に向かった。
湯船に浸かっているとおばあさんが入って来た。気を紛らわしたくて話しかけると、おばあさんも話しに載って来てくれた。
湯あたりする程の時間を過ごした後、部屋に帰る気になれず、休憩スペースでボンヤリとしてた。
気が付くとウトウトしかけてたみたい。部屋に戻り、既に敷いてある布団に潜り込む。隣室も静かになっていた。
夜中に気配で眼が覚めた。ママだった!
「どうしたのよ、ママ?」
「ただいま!」
他愛無いいたずらを見つかった子供のようにバツの悪そうな、だけどどこかしら無邪気な笑顔のママが横にいる。
「ただいまじゃないわ。何で一緒に過ごさないのよ?」
「ウーン。疲れちゃった」
「それは御馳走様だこと。全く……実のムスメに抜け抜けとまぁそこまで言えるわね」
肩をすくめるとママはあたしを抱きしめ言った。
「愛、アリガト」
「ウン。でもママ、おとこのヒトの匂いがするよ。ウゥウン。悪い気持ちじゃ無いの。まぁ、好い気持ちでもないけどぉ」
「愛のイジワルぅ!」
あたしは舌を出して肩を竦めてみせた。
ママの顔はしあわせそのものだよ。
そのまま二人共寝てしまった。
だけど起きたら、横にママは居なかった。
全くげんきんね!
ちょっと寂しい気がした。
仕切りの襖を軽く叩く音。返事をすると顔を覗かせたのは貴方だった。起き上がり布団の上に座る。
「やぁ、おはよう。そろそろ朝食をどうかなと思って誘いに来たんだけど。お母さんは?」
「えっ!?」
顔が青ざめるのが分かった。そんなあたしを見て貴方も顔色を変える。
「一緒だと思ってたんだが……」
「あたしもです」
「お風呂かもしれない。悪いが、覗いて来て貰えるかい?」
「えぇ、直ぐに」
立ち上がると、はだけ気味の浴衣前を掻き合わせ廊下に出た。
その時、ブラブラと向こうの方からやって来る人影……ママだ!
「ママ!」
ママは、呑気そうに鼻唄交じりで戻って来た。
「おはよう!ちょっと早くに眼が醒めちゃったから散歩してきちゃった」
幸せそうな貌のママを見てたら怒る気も失せてしまうわ。
「ダメじゃないか!それならそうと、書置きくらいしておきなさい」
安心したのね、貴方も。笑顔じゃ、それ通じないわ。
案の定、ママは舌をぺろっと出して肩を竦めると、
「はーい!」
って、少しも反省してない時のいつもの癖、あらぬ方を見ながらの返事だもん。
また三人で御飯を頂いた後、少しゆっくりしてから宿を出た。