The Body07settled(01)
The Body07settled(01)
ママはあたしをみると、驚いたように、
「な、愛、どうしたの?泣いてるの?」
涙を急いで拭い、ママに微笑んでみせる。
「ウゥウン、ママ、シアワセなの。あたしね、ママのムスメで良かったな。うん、シアワセだなって、そう思って嬉しいの」
「フーン、変なコね」
「変なコよ。変なママのコだもん」
戸惑い照れ隠しで思わずママの胸に顔を埋める。あの人の匂いがする。その匂いを独り占め?ママにばれないように?思い切り吸い込む。
顔を上げると貴女はシアワセそうに微笑んでいた。
「どうしたの?シアワセそうよ」
「ウン」
そういうと笑顔を浮かべた。
「今ね、ママ、夢を見てたの。何かあったかい空気に包まれてる、そんなスゴぉくシアワセな夢だったの」
「フーン」
どぎまぎしながら、今のママの答え方に、あの人が喫茶店で思わず笑った理由を知る。ホント、あたしは貴女のムスメだわ。 何故か悔しさがこみ上げ、思わず口走ってしまった。
「あのね、ママ!」
ダメ!
「ウン?」
「あのね、今さっきまで居たのよ」
言葉が止まらない。
「ウン?」
「ママのね、ママの好いヒト」
最後は呟くように。
「そう……」
ママは驚いたようにでも優しい声で言った。
でも悲しげな表情で続けた。
「そう、知っちゃたのね、愛、ゴメンね」
「何言ってるの!怒らないの?黙ってママの携帯見ちゃったのよ!あのヒトを連れて来てしまったのよ!謝らなきゃいけないのは、あたしの方だよ!」
「ウゥウン。だって、ママは貴女やパパを裏切ったの。許されてイイ筈がないもの……」
「ウン。そうよ。でも、ママ。今、シアワセよね?」
「ウン」
恥ずかし気に俯きながらママは言った。
「口惜しいなぁ。実のムスメとして、そんなママを見るのって、やっぱ口惜しいよ」
ママは見上げるあたしの髪を撫ぜながら。
「きれいな髪……。ね、愛、お願いよ。煙草は吸わないでね。おやつとかも市販の物は出来るだけ止めて欲しいの。ママみたいな思いをして欲しく無いの。癌は苦しいのよ。苦しいだけじゃぁないわ。辛いものなの。ね、お願い」
「ウン。でもさ、ママ。ママみたくシアワセになれるんなら、癌になっても後悔しなくて……」
ママは泣きそうな悲しい眼であたしを見た。
「ゴメン。約束する。ね、だから悲しい眼で見ないで!ね?」
ママは小指を出した。
「指切り」
「ウン」
指切りをするとママはやっと笑ってくれた。
ふと思い付く。
「ねぇママ。だったらあたしのお願いも聞いて欲しいな。ママにはシアワセなままでいて欲しいの。だから一日あの人と過ごして欲しいの。これはママへの、あたしからのプレゼント、そして罰よ。悪いけどあたしも一緒よ。でないとパパが納得しないもんね。あたしと二人だけでどこかに行くと言って旅行するの。場所は二人に任せるわ。良い!?」
「良いの?貴女は本当にそれでも良いの?」
「良いの!」
あたしはママに頬を寄せ、メールするよう促す。
ママは少しはにかむようにメールし始める。慣れた手つき。何度も何度もメールして来たのね。それなのに入院してからは、その日に打ったきり……。
そして送りたかったはずのメールを未送信のままにして。辛かったろうね、寂しかったろうね。
直ぐにメールの受信音が鳴るとそれを見て、嬉しそうに言う。
「イイって!」
「ウン。じゃぁ先生と話をして日を決めて来るわね」
予定は2日後に決まり、病院のある駅で待ち合わせることにした。
駅に向かうタクシーの中でママの携帯の着信音が鳴った。