The Body32A thrilling night(01)
The Body32A thrilling night(01)
秋風が涼しさを増してくる頃、舞がやって来た。どうやら賢一さんの事のようだ。
貴方は、舞の沈んだ様子で察したらしく、
「出掛けて来るよ。食事は気にしないでイイから、舞君もゆっくりして行きなさい」
ってウチを出ていった。
二人になると舞は、案の定ボヤき始めた。
「最近さぁ、賢一とのメールがマンネリ化しちゃってさぁ、つまんないのよねぇ……」
「そうなんだぁ」
「なのよぉ……」
気落ちしたかのように舞は俯いた。と思った瞬間、眼を輝かせて、
「でさ!飲みに行こっ!ねっね、イイでしょ!」
「まったくぅ、もうっ!」
「ね!」
「分かったわ。支度して来るから、ちょっと待ってて!」
「ゆっくりでイイわよ。どうせ旦那さんにOK貰う電話するんでしょうから!?」
拗ねて見せる舞の背中に、べぇーをして二階へ上がる。
トコトコと付いて来たモミに、
「モミぃ、ゴメン。今夜はお留守番みたいよ」
ツンと澄ましてベッドに潜り込むモミ。ヒトの言葉解るのかなぁ?お詫びにスリスリ頬ズリをするけど、知らんぷりで眼をつぶるモミ。
銀座に向かい、軽くブランチを挟んで久々のウィンドウショッピングを楽しむ。夕暮れが深まった頃に舞の知ってると言うバーに向かう。
ドアを開けて入る時、初老のマスターの眼がきらっと光ったけれど、舞の顔を認めると直ぐに柔和な顔つきになり、
「おや?珍しいですね、そちらはご友人でしょうか?」
「えぇ、悪友の愛でぇす」
どっちがよぉ!の抗議の声を飲み込み、にこやかに、
「初めまして、吉見愛と申します」
あぁ、という顔付きでマスターは頷く。どうやら貴方を知っているという事みたいね。
「お母様は?」
「今日はあたし達二人だけなの!」
「そうですか」
「残念?」
ちょっと苦笑するマスター。
「マスターもママのファンなのよねぇ!」
「ファンという事はありませんが、素敵な女性でいらっしゃるのは確かですよ」
「ほらっ、ね!」
「まぁい!失礼よ」
「イイの!衆知の事実なんだからぁ!」
「衆知って、一人だけじゃない!」
「そんな事ないもーん!」
「もう」
「で、何になさいますか?」
「あたしは、いつものモスコミュールね。愛は?」
「私は……、うーん、わからないので何か軽めのモノをお願いできますか?」
「承知しました」
マスターは、手際良く何種類かのお酒?を注いだシェーカーを振り始める。
「でさぁ賢一ったら……」
話が一区切り付いた時、測ったように、目の前には其々のグラスとフルーツの載ったお皿が出された。
あたしの前には、琥珀色のカクテルの入ったグラスが置かれる。
「これは?」
「軽くはないのですが、サイドカーと言って、ブランディベースのカクテルです」
「あぁ!」
私の肘を突つく舞。
「そうです。舞さんは御存じのようですが、吉見さんのお好みのカクテルですよ」
「えぇっ!なんで……?」
「お噂は伺っておりますので」
「まぁ、どんな噂かしら……」
軽く舞を睨む。肩をすくめる舞。
「お噂通り、可愛らしい女性とお見受けしました」
「本当かしら?」
「えぇ」
にこやかに微笑むマスター。
「お言葉通りにお受け致します。有難うございます」
「どう致しまして」
にこやかに微笑むマスターの笑顔に免じてあげるわ。
「じゃぁ、乾杯しよっ!」
「何に?」
「うーん、そうねぇ。二人の若さと美貌に!」
「のりすぎよぉ!」
「うーん、じゃぁあ、プロジェクトの無事終了と成功に!どう?」
「イイわ!」
「よしっ、じゃぁ乾杯!」
グラスを合わせる。
「なかなかイイものですねぇ」
「えっ?」
「いえ、若い女性がアルコールをお召しになられて、ホンノリと頬を染める光景もいいものだと思ったものですから」
「あらぁ、飲み過ぎるなという警告かなぁ?」
舞が突っ込む。
「ハハッ、それも無くは無いですが」
「有るんだぁ」
「そりゃぁ、でも、言葉通りにそう思ったのも本当ですよ」
「そうですか。でも二人とは言え、若い女性がバーでお酒というのはどうなのかしら?」
「そうですね。昔ならいざ知らず、とこの店では申し上げておきます」
「他では?」
「まぁ、その店の主次第、でしょうか」
「マスターはそれで納得してらっしゃるの?」
「えぇ、時がうつろえば、ルールも変わる、それでイイでしょう」
「As Time Goes By って古い歌があったわよね?」
「そう嘯きながら、自分は絶対変わらないヒトを一人だけ知ってるわ」
苦笑するマスター。
「吉見さんですね」
「えぇ……」
「そう言えば、まだ、あのおクルマに乗ってらっしゃるんでしょうか?」
「117ですか?」
「えぇ……」
「相変わらず、です」
「長いですねぇ……」
「マスターとのお付き合いも?」
「そうですねぇ。かれこれ10年程にはなるでしょうか」
マスターはテーブルを乾拭きしながら、懐かしむように空を見詰める。カランと音がして新しい客が入って来る。男性二人連れ。以前流行ったアルマーニ風のダブルのスーツ。顔もスタイルも悪くは無いけど、剣のありそうな感じが気になり、ちらっと見て視線を外す。マスターの眼が光る。こちらから離れた席に座った二人はボトルで飲み始めた。
「こちらをあちらの御客様からお二人にと……」
マスターがグラスを差し出す。舞と顔を見合わせる。
「やだなぁ」
「うーん。取り合えずお礼に掲げるだけしよう」
舞の言葉に渋々振り返って二人にグラスを掲げて見せる。
二人もグラスを掲げて笑う。暫くするとグラスを手に近づいて来る。
「こんばんはぁ、美人さんが二人っきりで、なんて勿体無い事してるんですかぁ?」
「混ぜてくださいよ、ね!」
強引に私達を挟む様に腰掛けようとする。
「あら。私達久しぶりに会って旧交を温めているんです。放っておいて下さらないかしら!」
「イヤイヤ、それなら僕等も一緒に暖めて下さいよぉ!なぁ?」
「あぁ、そうですよ」
「ゴメンなさいね。二人とも主婦で、時間がなかなか合わないのよ。だから邪魔しないで頂けるかしら」
「そんな硬い事いわないでもイイじゃ無いですかぁ。グラスを受け取ったって事はOKってぇ事でしょぉ?」
「そうですよ。今更、硬い事言いっこなしだぜ!」
「他所でそういう柔らかい方を探されたらイイんじゃ無いかしら?」
「ッツ!」
イキナリ腕を掴まれた。
「オイオイ、充分柔らかいぜぇ!」
「いてっ!」
マスターがその腕を掴んで捻り上げていた。
「オイッ!この店では客にこんな事するのかよ!」
「時と場合によりますがね」
「イテェじやねぇか!離せよ!」
「お代をお支払いになられたら、お帰り下さい」
「分かったよ……」
と、もう一人の方が、カウンター近くにあったアイスピックを振り上げ、マスターに突き刺す!マスターは寸前でそれを躱す。と、アイスピックはマスターの手に移り、その男の手がカウンターに張り付いていた。
あたしが悲鳴を上げる間も無かった。
「金は払うから勘弁してくれよぉ……」
真っ青になった男が哀訴する。
「どうあれ、刃傷沙汰になってしまったんで警察を呼びますよ」
直ぐに警官が来た。マスターが顔見知りらしい警官に耳打ちした。
「こちらのお二人にはお手柔らかにお願いします」




