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The Body30Try it!(02)

The Body30Try it!(02)



30分も走って郊外の洒落たビルの前にクルマは停まった。


駐車場に入れて来ると言って、あたしをビルの前で降ろすとビルの裏手にクルマを回した。暫くしてビルの正面玄関から出て来て、


「さぁ入ろうか」


問答無用でクルリと元来た方に戻っていく。遅れまいと付いてビルの中に入ると、スラっとした若い女性がにこやかに、こちらです、と案内する。


着いた先は、所謂、サーバールームというのだろう。セキュリティカードで何回かガラス扉を抜けた先に辿り着く。

見たことのある同種のスペースとはまるで雰囲気が違う。


まずガラスで部屋全体が囲まれている。サーバースペースを挟んで向こう側のオープンな応接スペースや執務スペースが丸見えだわ。ハーフミラーではないから、外からも中は丸見えの筈よね。次にありがちのケーブル類が見当たらず、整然としていて、キレイ、いや、美しいわね。


見せる為の……あっ、そうか、だから、ガラスで囲まれてるんだ。


そんなあたしを見ていた貴方は、


「有難うございました。こちらの見学はもう十分なようです」


「では社長にお会い頂けますか?」


「お手空きでしたら、是非、御礼も申し上げたいし」


だいぶ強く指示されていたらしくホッとした様子で、


「社長も喜びます」


と言って案内した。


社長室もガラス張りになっていた。ただ、下から1m、上から1m位で挟まれた中央部辺りは磨りガラスになっていて、中が丸見えという訳ではない。二重になっているし厚みも有るのだろう、事務所側の音はまるで聞こえない。

内装も凝ってる訳ではないが、シンプルモダンといった感じの程よい清潔さと機能性が感じられる。デスクの上も綺麗に片付けられていた。

カッシーナと思わしき、機能性と清潔感を感じさせる応接セットに腰掛けて待っていると、間も無くドアを開けて入って来たのは、まだ30前と思わしき、笑顔のチャーミングな女性だった。


「お久しぶりですねぇ!」


チョット馴れ馴れしい挨拶。


「ご無沙汰しています」


こっちはチョット硬いわ?


「吉見さんが、ウチのサーバールームを見学させたいと仰られたのは、こちらの……」


「済みません、ご紹介が遅れました。こちら、永年お世話になっている建築デザインがご専門の広田社長です」


「初めまして」


相手の自己紹介を受けながら、名刺を交わす。


「ウチのサーバールームはいかがでしたかぁ?」


甘えるような話し方は、この子の癖のようね。


「えぇ、美しいと思いました」


「うわぁ!自信はあるのだけれど、専門家にそう言って頂けるとやっぱり嬉しいなぁ。ねぇ、吉見さぁん!」


「えっ?!」


貴方を見ると照れ臭そうに笑ってた。


「ふーん。お話しされてないのねぇ」


怪訝な顔のあたしを見ていう。


「あのサーバールーム、吉見さんのアイデアなんですよぉ」


「アイデアだけなんだよ」


「彼女の前だからって、謙遜しちゃってぇ!」


「彼女だなんて……」


「あらぁ、違ったのかなぁ?この手の勘は外したことないんだけどぉ」


何も言わず黙って微笑む貴方。

分からないけど、乗っちゃえ。


「まぁ、そんな事よりもそのアイデアのお話を詳しくお聞かせ下さるかしら?この人、他での仕事の話はしないのよね」


嫣然と微笑み、さり気無く貴方の膝に手を置きながら、三村裕美を見詰める。ちょっとドキっとしたらしい三村社長の様子に溜飲を下げる。


「え、えぇっ。このビルを建てた時、デザイン事務所に隅々まで美しくって要求したんですよねぇ。当然あそこも。確かにプラン段階を見る限り、他所で見るよりはマシだったわぁ。


IT機器のセレクションとセキュリティ周りの整備は、無論、吉見さんにコンサルをお願いしてたんですよぉ。それで、チェックして頂いた時に伺ったら、どこも最初は似たようなもんだって。そのウチにメンテナンスや作業、それからぁ拡張とかぁ色々と他が優先されて、雑然とするようになってしまうんですって。そうでしたよねぇ?」


「あぁ」


「そこで、どうしたらいいか、何か良いアイデアが無いかと、改めてご相談したんですよぉ。そしたらぁ、ガラス張りにしたら?って即答されて、唖然としたわぁ。だってぇ、あの手のスペースってぇ、企業にとっては秘中の秘、隠したいという考えはあっても、オープンにするという発想はないものぉ。


で、訊かれたんですよねぇ。何の為に美しくしたいの?って。自己満足の為なら、一時的にであっても、整然とした美しさでいいじゃないか、そうではなく、見られる事を前提とした美しさを求めるのなら、ガラス張りであって何が悪いのか、ってぇ」


「専門家のア・ナ・タが言うのだから、心配はないのでしょうけど、セキュリティはどうやって担保できるの?」


わざと「アナタ」にアクセントを置き、彼を見て問い掛けたが、答えたのは三村裕美だ。


「そこなんですよぉ。私も勿論、最初は疑問に思ったんです。でも言われてみれば納得せざるを得なかったんですよねぇ……その理由は、吉見さん、御説明お願いしますねぇ」


「あ、あぁ。通常サーバールームというのは窓もなく、一般の部署からは隔離された場所にあるもんだが、理由は分かるかい?」


「まぁ、重要なものだし、隠したいからよね……」


「そういう事、加えて言えば、電源や通信の口やらという周辺資源に対して、まぁ一般の部署よりは、独立性や優先的な権限を持たせる必要もある。


でも、それが置かれてる場所なんて、その気になんかならなくたって特定は容易に出来る。という事は?隠すというのは、心理的なセキュリティ要因であって、絶対的な要件ではなくなる。とは思えないかな?」


「まぁそう言われれば、よね」


「そう。次にガラス張りにする事のメリットなんだが、何時でも見えちまうんだ。これって片付けなきゃって気にさせる、という理屈については、どちらかと言えば君の専門に近いんじゃないかな?」


「そうね、確かにそれは言えてるわ」


「だろ。つまり、デザイン上の仕上がりは並であっても、常に整頓されている事によって、当初の整然とした美しさが維持されるって事になる。デザインの独自性に拘る余りに、ムダなデザインワークに囚われる事から解放され、サーバーなんて単なる什器備品の一つに過ぎなくなるから、性能とかの縛りは残っても、選択するって行為に行き着く」


「そっちの専門家として、寂しくはないの?」


「いや、私の趣味領域での言い方をすればクルマの選定みたいなもんさ。性能、デザインのどっちを取る?ってね。


ただクルマもそうであるように余程のカスを掴まない限り、もしくは余程の高性能を望まない限り、基本性能でそこそこ要求をクリア出来るなら、デザイン優先でも問題はない。逆に性能を求めて、デザインが縛られても、幾らだって後から手を加える事は可能だ。

無論、途轍もなくとんでもないデザインでも無けりゃぁだけどね。


後は味付けという極めて曖昧な主観的領域の問題が残る位だろうが……ここまで来たら、選択の余地は限りなく狭まるかもしれない。ただそれでもやりようは幾らでもある。


その見本がここのって訳だ」


「苦労したって事なの?」


「結構ね、こちらの社長の要求レベルは高いからね」


「それって……ワガママって言ってるのかなぁ」


二人だけの会話にやきもきしていた様子の三村裕美が割り込んでくる。


「言葉って便利だね」


「まぁ!吉見さんたら、あんまりだわぁ」


「そうじゃないとでも?」


「まぁ……」


プイと膨れて見せる三村裕美を二人は無視する。


「そうね。考え方次第か……」


「そっ、やり方次第でもある」


なんとなく言いたい事が見えて来たかも……でも、それって……。何となく話の結末が見えて来た気がするけど……。


「分かったわ。戻って検討しましょう」


「そうだね」


膨れたままでは格好のつかない彼女は、拗ねる様に、


「えぇっ!折角こんな所までいらしたのにぃ、もう帰っちゃうんですかぁ!」


「えぇ、本当に有難うございました」


貴方が続ける。


「帰って至急話し合わないと期限が残り少ないもんでね。申し訳ない」


「申し訳ないなんて、これっぽちも思ってらっしゃらない癖にぃ……じゃぁメールしますから、今度お食事に連れて行って下さいねぇ」


アラッ、彼女を目の前にして、そこまで言うなんて、イイ度胸ね。


「分かりました」


了解済み?後でとっちめてやる!


クルマに乗り込むと、早速とっちめる。


「全く、あっちこっちに居るのね」


「知り合いの社長がね」


「とぼけないでイイわよ。オンナでしょ、オ・ン・ナ!」


「まさか」


苦笑しながら、


「そんなんだったら、君のような聡明なヒトを連れて行く訳がない」


「あら!じゃぁ連れて行かない所にいるってことかしら?褒め殺しは利かないわよ」


「おいおい、以前にも話ししたろ!」


「判ってるわ。冗談よ。でも、彼女の方は、どうなのかしらね」


「彼女は、……」


言葉の続きをじっと待った。


「キツイ言い方になるが、勲章が欲しいんだ。そして私は、そんな勲章の一つになる気は無い」


勲章を飾る側だもんねと茶化し掛け、いつになく硬い表情にオンナの勘が、やめておけと囁く。


「何が彼女をそうさせるのか知らない訳ではないんだ。だから余計にね。これは……苦行みたいなものさ。折れちゃぁいけないんだ」


最後は呟くように、そして自分に言い聞かせる様に言う。


「わかったわよ。でも愛ちゃんも……。いえ、そうね。貴方も、か」


「君なら分かってくれると思ってた」


「もう!都合のいい時だけなんだから!」


「俺が甘えちゃいけないか?」


何時になく不安気なオトコが、そこには居た。


「ズルいわよ。泣きたくなっちゃうじゃない」


「スマン」


そういうなりクルマを急に停め、私を抱くと唇が塞がれた。パッパーンと鳴らされる後続車のクラクションすらBGMに聞こえる。


貴方は私の髪をむちゃくちゃにした。思わず背中をぎゅっと抱き締めていた。

でもここまでよね。貴方は、何時もそうだったわ。ただ、不安よ、そして仄かな期待もさせる。いつもはあたしから求めてきた。今日は、貴方が求めてくれている。貴方が自分で自分のルールを破るなんて……ありえないわ。


でもどこまで行くの?どこまで連れて行くの?いえ、どこまでだってイイの、そこがどこであっても、貴方が下ろす所、停まる所で素直に降りるわ。そこが新しい二人の境界になるもの。


貴方は私を離すとクルマを出した。私は貴方の眼、そして顔に躊躇いの色が浮かぶのを認めた。

無理しなくてもイイわ。甘えたい、その言葉で充分だもの。


「有難う……」


「イイえ、どういたしまして」


貴方の顔に笑みが戻る。ここまで、か。安堵と寂寥が同時に襲う。

都内に向かったクルマはホテルの前で停まる。


「えっ?」


「とことん甘える……」


呟く貴方。無言で頷き、貴方と共に降り立つ。

ドアマンにキーを渡すと回転扉の中へ私達は吸い込まれて行った。


「いらっしゃいませ」


クロークの落ち着いた声。


「吉見だが、スウィートの空きが有れば一泊したい」


「畏まりました。お部屋へ直ぐにご案内致しますか?」


「まずはバーに」


「それでは」


ベルボーイが呼ばれる。


バーの前で貴方の手に渡ったルームキーは、そのままジャケットのポケットへと滑り落ちる。


貴方はサイドカーを、私はミモザを頼み、貴方の差し出すグラスにグラスを合わせる時貴方が囁く。


「初めての夜に」


微笑む私は、胸の内で悲しく呟く。


そして最後の夜に、かな……。



部屋に入ると直ぐに抱きすくめられ、長いキス。

ベッドにもつれる様に倒れ込み、貴方の手が私の顔、頭、そしてやがて身体中を彷徨い続ける。耐えきれず私の手も貴方のあらゆる箇所を確かめて行く。

ブラウスを脱がす事なく、ヴラが外され、シルクのブラウス越しに胸がまさぐられる。お腹の上を滑るように降りていく手が秘所の辺りに触れ始める。

期待と不安、羞恥と歓喜が心を突き抜ける。

やがてショーツが下ろされ、敏感な部分に指が触れ、軽くイク。

大事な部分を探られ、しがみつく。怖かった。

だが貴方は分身を入れようとはせず私は焦れながら何度も高みに登って行く。

やがてグッタリとした私の顔、髪の毛、そして肩から背中を優しく撫ぜながら見詰ているようだった。


「イジワルね」


眼を閉じたままそっと呟く。


「ここはよく来るの?」


「仕事で息詰まるとね」


「誰と?」


「誰とも、一人さ」


「本当に?」


「本当だ」


「えぇ」


私は身を起こすと服を脱ぎ、そして貴方の服も脱がし始める。

何か言おうとする唇を唇で塞ぐ。


「甘ったれの坊やはお姉さんに任せなさい!」


貴方は苦笑し、されるがままになった。キスをしながら貴方を裸にしていく。

ベッドサイドに膝間付き、落ち着き掛けていた貴方を含む。


口から出しては、キスをし、また含む。されるがままになっていた貴方も、やがて私の髪の毛や顎、項、肩を撫ぜ回し始める。貴方がイキ掛けようとすると動きを止め、唇や胸に舌を這わせる。

貴方は両手で私の顔を包み、上向かせると、掠れた声で訴える。


「君も相当にイジワルだな」


私は嫣然と微笑み返す。


「さっきのお返しよ」


そして彼を口に含むと強弱を付けながら、一気に動かした。

貴方はベッド上に横たわるように動き、私は釣られて身体をベッドの上に持ち上げた。

彼の指が私を弾き始める。

私は上り詰めながら、唇を、舌を動かし続けた。

ほぼ同時に、二人は声をあげ、イッテしまう。

私は喘ぎながら、貴方の放出を口に受けると、そのまま飲み込む。

大人しくなっていこうとする貴方にそっと触れ、頬擦りをする。やがて元気を取り戻していく貴方をまた含む。貴方も再び私を弾き始める。

何度も何度も繰り返し、疲れ果て、貴方は向きを変え後ろから抱き寄せると、キスをした。

そのまま手が下ろされ、胸を、そして大事な箇所を愛撫した。唇も上半身をゆっくりと這っていく。耳たぶが噛まれ、熱い吐息が耳に忍び込む。貴方の指を噛みながら、あたしも切ない吐息を洩らす。

夢に溺れていくように、ゆっくりと高まっていく。私の手が貴方を捜し出し、ゆっくりと動く。

イッタのかどうかも分からず、二人共寝入ってしまっていた。



ハッと気が付くと私の手は、柔らかくなった貴方を握り締めていた。

私は眠り続ける貴方の額にキスすると、そっと起き上がり、シャワーを浴びる。


このまま一緒に居たい。


その想いを振り払い、服を着る。化粧を整え終えると、一瞬迷ったけれど、メモを残し、まだ眠ったままの甘えん坊に口づけして一人でホテルを後にした。



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