The Body03meets again
The Body03meets again
思いあまって、心定まらず、街に出る。
ボンヤリと街を歩くの。ただボンヤリと。失った心に誘われているかのように。
そんな私に声を掛けて来るのは、ティッシュを配るバイトかアンケートにかこつけた宗教勧誘……私は振り向きもせずブラブラと彷徨う。
人に突き当たりそうになって、思わず
「ゴメンなさい」
「相変わらずだね」
懐かしい響き!その声……、顔を上げると、貴方!
「こんな所で何してんのよ!」
思わず声を荒げてしまう。
「ご挨拶だなぁー」
「ご挨拶じゃぁないわよ。戻ってきたの!?奥さんと縒りを戻したの!?」
「ホント、変わらない人だな。この分だと、君に会いに来たって言っても信じちゃぁくんないんだろうな」
「ウソばっかし。信じる訳ないでしょ」
信じたいの。貴方は微笑みながら私を見てる。でも私の口からは憎まれ口しか出てこない。
貴方の目を見るのが怖くて、胸の辺りを見てた。
「まったく、君って人は……」
呆れるように溜息をつく貴方。
「だって……だって」
「珈琲、付き合わないか?」
釣られて貴方の目を見てしまう。いたずらっ子の目。ちょっと小馬鹿にしつつ、試すような、挑むような、からかうような目。その目、キライ!そしてやっぱり……好き!
「ウン」
貴方は頷きながら微笑み、更に誘う。
「ちょっと離れてもイイかい?1駅か2駅」
「ウン」
もうダメ。どこでも良いの。連れてってよ。二人きりになりたいの。
そんな気持ちを知ってか知らずか、電車に乗ると、さりげなく腰に手を回す貴方。その腕に手を重ねる私。
「あのね、あのね、一杯あるのよ!」
「何がだい?」
「話したいことも!聞きたいことも!」
「分かったから、順番にね」
貴方は笑い、私を見つめながら回した腕に力を込める。私は貴方の肩に頭を預ける。
あぁ戻って来ちゃった。何だろ?安心してしまうこの心地よさ。
珈琲を飲みながら取り留めもない話をした。だけど私が聞きたかったのは、そして話したかったのも、貴方の腕の中に居たいの!ってこと。居てイイの?ってことよ。そうすればいいの?そうしていいの?このままでいたいの……いつ迄も。
喫茶店を出て、手を繋ぐ。
「ねぇ……」
「なぁに?」
見上げるように貴方を見ると、またあの目。
「今度は何よ。聞いて上げるから、言って」
「あのさ、一緒に居たいんだ。いつも、いつでも、いつまでもね」
「ウン」
「でもさ、ムリだよね?」
「……ウン」
「だったらさ、せめてホントに一緒に居たいときには、君と一緒に居たいんだ」
「ウン」
「小さい頃さ、クラスのアイドルみたいな娘に恋心を抱いたとき、打ち明けたりとかが気恥ずかしくて、それに独占すると言うのも難しい。それで机が隣だったり、一緒に帰ったりするだけでも嬉しかったりしたもんだけど、そんなことなかった?」
「ウン。アイドルみたいな娘じゃなかったけどぉ」
「そこに反応しない」
「ハァイ」
「これからさ、そんな幼い恋をしないか?まぁ仮にも大人だから、sex抜きってぇ訳にはいかないけど、でも一緒にいるだけっていう、ただそれだけの時間を大切にすることで満たされるのも事実なんだと思うんだよ」
「何よ。もうダメになったの!?」
苦笑い。
「お望みとあれば、いつでも証明したげるさ。違うんだよ。君が欲しいんだけど、体が君の総て?違うだろ。俺の総て?違うさ!
なんて言ったらいいんだろ。そう。クサイ言い方しか出てこないんだけど、アイシテルんだ。結局、俺が辿り着いた結論はそれが総てなんだよ」
「ウン」
「ウンだけかい?」
「ウン」
そう言いながら、私の腕は貴方の体に巻き付く。私は顔をその胸に埋める。
「ウンだけよ」
「ウン」
貴方の答えに私は顔を上げる。貴方の唇が重なる。煙草の香り。
あぁ、ずっと夢みていた光景。
懐かしい香り。深く刻まれた独特の仕草。馴染みあった二人の身体が絡み合う。
クッ。
抱き合ってるだけなのにイってしまいそう……シアワセ。
オンナだもの。抱かれたい。
でも一緒にいるだけでもイイよね。
そしてその日を待つわ。待てるものね。
あの時、貴方を信じられなかった。
だってあなたは離婚したとは言え、元の奥様が居る。独身だし、私なんかよりも若い子に惹かれたって不思議じゃぁないわ。そして私は唯の主婦だもの。好奇心で一時的に私を抱いただけかも……。貴方の優しさも、一時的なもの……。
いろんな疑いが心に渦巻いていた。
だから貴方が忘れると言った時、やっぱりね、って。正解って自分を褒めてた、ウゥウン、慰めて諦めようとした。
でも会ってしまったの。変わらない貴方と変えられなかった私が。
『今から信じて良い?』
声にならない声を呟く。
「信じるよ。君を。そして二度目の出会いをね」
貴方も同じだったのね。同じように信じ切ることが出来ず、でも信じたかった。そして今一度信じようとしている。今なら信じることができる。
「ウン」
「さっきからそればっかりだ」
「ウン」
貴方は微笑み、また唇を重ねる。それは紛れもなく罪を重ねる事だけど、でも心の中で何度も呟く。
『ウン』
離れていた二人の魂が行き交うような長い口付けの後、唇を離す。
「Mailするよ」
「ウン」
そっと手を重ね、肩に頭を寄せながら駅に向かう。
貴方が耳に唇を寄せて囁く。
「アイシテル」
「ウン」
貴方はギュッと手を握り締め言う。
「じゃ」
以前は、離れられなかった。離したくなかった。不安で怖くて切なくて。
でももう違う。これからは違う。
「ウン」
私は下りホームに、貴方は上りホームに立つ。
心の中で呟く。
『またね』
小さく手を振る。
貴方は微笑みで応える。
それからひと月。
メールは毎日のようにきた。
私からも。
『以前は、貴方からメールがなければ、私から送ることはしなかった。
負けてしまうって、多分そう思ってたんだね。バカだったね』
そう書いて送った私のメールに、
『いや、そうだったんだよ。
あの頃は、二人とも身体だけ。
思いだけで愛しあってたんだよ。
今だから、時をおいたから、こうなれたんだ。
だからさ、アリガト。そう言える。
君が別れを言い出してくれなかったら、傷つけ合って、恨みあって、きっと憎みあってすらいたと思う。大事な人だと気付く事ができた』
『ウン』
だからだね、前は口に出せたのは。
『ダイスキ!』
だった。今は心から言える。
『アイシテル!』
偶々一人になる日が出きて、一緒に夜を過ごした。怖がることなくイケた。
何度も何度も何度でも。
死んじゃう。死んでもイイ……。
次に会う日を待つ。また会うことができる。
そんな期待に朝別れる時が寂しくなかった。
虚だった心が埋まっていく。